勇者カリナ/ソルスター世界、魔王城最終決戦録 ―少女勇者、異世界転移前の最後の足跡― 作:美風慶伍
魔王城周辺領域は無人だった――
斥候兵をまとめるミリアの報告が入る。
「城外の敵守備兵、姿見えません。討伐可能な手勢は城内に撤退したものと想われます」
ケラブノスも配下から上がってきた戦闘結果報告をカリナに届ける。
「巫女様、討伐可能な敵城外警備兵、すべて掌握。城外領域は支城攻略戦を除き、ほぼ陥落状態とのことです」
「重畳です」
「ですが――」
ケラブノスの報告はまだ続く。
「魔王城周辺には戦闘力の高い魔獣が放逐が今だに確認されます。制御を失い、暴走状態にあるとのこと」
その言葉にカリナは即座に判断した。
「ソフィア、ドラゴン種族統括のマルセウス卿に連絡を」
「わかったわ。どのように?」
「ドラゴン種族を率いて、自由暴走状態の魔獣の討伐、もしくは撃退を伝えてください」
「えぇ、速やかに」
魔族には、魔界の生物である〝魔獣〟が戦力として確保されている。その対処は困難なものだが、ドラゴン種族ならまさに好敵手である。
そして、カリナは魔王城ダークフォージを睨む。
「私たちはこの城の陥落に専念します」
刻々と変遷する戦況に対して適時回答を示すのもカリナの必要な役目だ。
カリナは更に続けた。
「各国軍団と諸種族兵団は着実に魔王城周辺を討伐しつつあります。残るはこの本城のみ」
今、ダークフォージ本城の城壁には銃眼があり、そこから弓矢や火器による威嚇が行われている。
城の外観を見ていたカリナは司令を下す。
「リザードマン兵団! 城周辺の水堀を渡水して、敵攻撃を沈黙させてください」
城外の守備部隊を壊滅させたリザードマンの長たるケラブノスがすぐに従う。
「城の弓兵を沈黙させます。我ら鱗の眷属にお任せあれ」
「お願いいたします!」
「ミリアとソフィアは、弓兵・魔導士兵を率いて、牽制攻撃を」
「わかったわ」とソフィア、
「了解」とミリアも動く。
アルカナヴァンガードの弓兵、銃器兵、魔導士兵が周囲展開して城を牽制攻撃する。
その隙に乗じてリザードマン兵たちは周囲の水堀を通じてやすやすと城壁に張り付くと容易によじ登り、敵が矢を放つ銃眼から直接攻撃を仕掛けた。
敵の弓攻撃の隙をつき、銃眼の隙間から手投げ弾を投げ込む。魔法剣士騎士団が独自に開発した防水構造の特製の手投げ弾だ。水中を得意とするリザードマンの特性に合わせて奇襲攻撃時に有効に使えるように開発し与えてあったものである。
――ドォオオン!――
絶妙に手投げ弾が敵城内に押し込まれて炸裂する。うまい具合に城の壁を越えて投げ込む者もいた。リザードマンたちは手投げ弾の扱いには完全に習熟していた。
「お見事!」
カリナが褒め称えればエルリックも評価する。
「リザードマンたちの奇襲攻撃はこれまでにも多大な戦果をあげている」
「ええ! でも安心してはだめよ。次が来るわ」
カリナは皆の気持ちを引き締めるように告げた。そして、その警戒は本物となる。
城壁からの外部攻撃が封じられたことを悟ると次の集団を繰り出してきた。城門が開き中から重武装の守備部隊が現れたのだ。
敵からの新たな攻撃にカリナは即座に指示を出す。
「出てきた! ミリアとソフィア、迎撃してください! エルリックと牙狼騎士団は突撃攻撃の準備!!」
「心得た!」とエルリック、
「待ってたぜ!」と牙狼騎士団団長のゲオルグ、
そして、カリナの言葉に救世の魔女と呼ばれたソフィアが語る。
妖艶な容姿を持つ極めて鋭敏な知性を宿した稀代の女性魔導士だ。清楚なチュニックドレスを纏い、両肩から高位魔導士の証の紫のローブマントを羽織っていた。
「任せてカリナ。魔法と言う魔族ならではの力においては人間側の不利は避けられなかった。数の上では人間が勝りつつも、魔族の魔法の前の苦渋をなめてきた。でも今は違う!」
その傍らでカリナの仲間で弓の名手のミリアが戦陣の後方から弓隊を率いて展開する。男性風のチュニックにホーズズボンに革ブーツを付け肩からハーフマントをなびかせた男装の麗しい女性斥候戦士だ。
「長弓隊! 前へ!
弓は機動性重視の短弓と、飛距離と威力重視の長弓とに分かれる。弓隊が先端に赤く光り輝く水晶の鏃を付けた弓をつがえた。
「撃て!」
一斉に弓が放たれ、それと同時に戦陣の後方で待機していたソフィア率いる魔導士部隊による魔法詠唱隊がマジックスペルを唱えた。
「
それは魔法と弓術の連携だった。弓矢程度では魔力に優れ強い生命力に満ちた魔族を倒すことは不可能だ。しかし魔法の詠唱では射程に難があり、また精密な目標指定は技量を必要とする。ならば、この2つの利点を合わせれば良いと人間は気づいたのだ。そして――
「がっ!?」
「ぐああぁっ!」
圧倒的な魔力で優るはずの魔族が、一本の矢によって次々に打たれていく。敵魔族の城塞防衛兵が次々に姿を消していった。