勇者カリナ/ソルスター世界、魔王城最終決戦録 ―少女勇者、異世界転移前の最後の足跡― 作:美風慶伍
魔王城を瞬く間に駆け上がる。途中要所要所に防衛部隊が配置されているがカリナたちの敵ではない。
装備の充実した上位魔族の戦闘兵を重装歩兵のエルリックや、牙狼騎士団の狼獣人たちは次々に撫で斬りにするように倒していく。
エルリックはその右手に握りしめた頑丈なバスタードソードで真っ向から切りつける。
「えぇええいっ!」
気合い一閃、バスタードソードを振るえば、内部に衝撃波を放つ魔導機構が組み込まれており使用者であるエルリックの魔力や精神力を源として強力な残撃破を放つことができる。
――ズァッ!――
斜め袈裟斬りに遮る魔族を真っ二つにする。
ゲオルグはその右手に握りしめたスクラマサクス刀を勢いよく振り上げた。
「相棒! 出番だぜ!」
『心得た、我が主人!』
ゲオルグが手にしている武器は、カリナ率いる魔導剣士騎士団から与えられたものだ。国際魔法アカデミー機関が生み出した魔導武器だ。そしてそれは自らの意志を持つ高度な魔導武器だったのである。
「よし! 俺の遠吠えに合わせろ! 行くぞ!」
『心得た、雷鳴魔導発動、雷撃高速疾駆陣!』
「うがああああっ!」
――ザンッ!――
スクラマサクス刀を城の石畳に力強く突き立てる。同時に猛々しい雄叫びをあげる。
「ウゥゥォォオオオオオオンッ!」
腹の底から響かせて雄叫びの遠吠えを轟かせる。それはゲオルグにとって最大級の全力で放つ覇者の遠吠えだ。そして彼ら狼獣人の雄叫びはただの雄叫びではないのだ。
周囲の空気そのものがビリビリと震えている。対する魔族は気にも止めていなかった。
「こんな遠吠えが我らに効くと思うか!」
だがその瞬間、
――キュゥィイイイインッ――
奇妙な甲高い音が響いたかと思うと、
――ヴヴヴヴヴヴ、ガカァアアアッ!――
昼間であるとも関わらず周囲の全ての者から視界を奪うほどの凄まじい稲光、そしてそれは地面の上を幾重にもほとばしり狙い定めたかのように魔族の戦闘兵の体に即座にたどり着き鎧の内部へと即座に浸透する。
「ぐっ!? ぐぁああっ?!」
「な、なんだこの稲妻は? か、体が!?」
「ま、まさか? 〝破邪の遠吠え?〟」
「やめろぉお!」
稲光を発し続けながらゲオルグは叫んだ。
「破邪の遠吠えと、雷の光のもとに滅せよ!」
狼獣人が放つ〝遠吠え〟の響きは強力な抗魔効果を有している。そこに魔導性の雷撃が加わったのだ。ひとたまりもなかった。抗しきれずに次々にその肉体を灰に変えていった。
「くっ、おのれぇ!」
「魔王様ぁ!」
――ザァアアアアッ――
抵抗虚しく数体の上級魔族が骨も残さずに崩れ去った。
さらに斥候部隊指揮官であるミリアが叫ぶ。
「進め! 我らが編み出した魔導装備を駆使し敵防衛陣を打ち崩せ!」
弓兵が魔導矢を撃ち、軽歩兵がフリントロック式のライフルで魔導文字の刻まれた聖銀弾丸を撃ちまくる。人間は自らの科学技術と魔法学を組み合わせることに成功した。その成果が今こそ現れているのだ。
そこからは怒涛の勢いでひたすら先を進んだ。
「カリナ、ここが最上階だ」
「一気に叩こう!」
「いいえ待ってください、エルリック、ミリア!」
「姉御! 誰か来ますぜ!」
ゲオルグの言葉に全員に緊張が走る。カリナは城の奥から現れた魔族の名を呼んだ。
「あれは! 魔王親衛部隊指揮官ヴァルター・ダークハート!」
漆黒のサーコート衣装に黒光りする胸部鎧、左腰にショートソードを下げ、両手に籠手をはめている。両肩から背後に黒いマントもたなびかせていた。ヴァルターの背後には、さらなる
漆黒の衣装に身を包むその闇の貴公子ヴァルターはニヤリと笑う。
「よくぞここまで戦った。勇者たる少女カリナとその仲間たちよ、だがお前たちさえ倒せば我が魔王軍は再起可能だ。魔王様のお膝元で死ぬがいい!」
「そうは行きません!」
魔法の発動準備に入るヴァルターにカリナは剣を抜こうとした。だが、それを意外な者たちが制した。
「お待ちください! ここは我々が引き受けます、皆様方は先を急いでください!」
声の主はカリナたちが率いる魔法剣士騎士団アルカナヴァンガードの隊員たちだった。アルカナヴァンガードの魔導師の女性たちも告げる。
「ソフィア様もミリア様も先へお進みください。ここは私たちが引き受けます! そのための〝私たち〟なのですから」
そしてゲオルグも武器をふるってヴァルターに立ち向かった。
「ここは俺がまとめます! 姐御たちは魔王を討ってください!」
――ガキィイッ!――
ゲオルグが振るうスクラマサクス刀をヴァルターは腰に下げたショートソードを抜いてとっさに受け止めた。