勇者カリナ/ソルスター世界、魔王城最終決戦録 ―少女勇者、異世界転移前の最後の足跡― 作:美風慶伍
【――魔王城ダークフォージ、最奥部、魔王玉座の間――】
カリナとその3人の仲間、魔法剣士騎士団アルカナヴァンガードの始まりとなる〝最初の4人〟
勇者カリナ・ウィングス、
戦士エルリック・ファイヤブレード
魔導士ソフィア・ホーリーウィンド、
斥候兵ミリア・シルバーアイ、
彼らは、カリナが勇者として歩みだしたその時に集い、ともに歩み始めた。はじめは小さな歩みだったが、彼らの歩むその後ろに同士が現れ集まり、そして一つの集団となり、それは魔法剣士騎士団として実を結ぶこととなる。
一つの果実からは更に種が芽吹いて、やがてさらに大きな絆となり、長い戦いの末にそれはソルスター自由連合軍として大輪の花を咲かせた。
数千年に及ぶ、人間と魔族の対立、最後の覇王と呼ばれた魔王と様々な地上種族の戦乱――、
果てるとも知れぬ戦いの歩みのその道程のその〝本当の到着点〟それこそが今、カリナたちが駆ける先に待ち構えているのだ。
魔王の巨大な居城、ダークフォージ城、
シャドウクレスト山脈の最奥部に位置する山麓の麓に築かれたそれは8つの尖塔を持つ漆黒の巨大な城だった。かつてはそこに到達するのは不可能だとされてきたが今は違う。まさに魔王の玉座に〝
「ソフィア! 方角はこちらでいいのか?」
エルリックの言葉にソフィアは答える。指先で空中に〝結印〟を描くとそれをコールサインとして魔法が自動起動する。呼び出したのは知識記録書庫からの情報検索の呼び出し魔法だ。事前調査で得られた魔王城の構造図が空中に光の線で描かれた。
「こっちよ! このままこの大階段を登りきれば、魔王謁見の間! そこに魔王ヴァルガリアスが居る!」
ソフィアの言葉を入れ替わりに勘の鋭いミリアが叫ぶ。
「避けろ!」
頭上から対人用の罠の棘付き鉄球が落とされる。それに対抗したのはエルリックだった。
「
エルリックはその左手に持った巨大なタワーシールドを鉄球が落ちてくる方向に向けて構えた。そもそも、エルリックのタワーシールドは魔導武器の一種だ。物理障壁を強化する魔導呪が組み込まれており、エルリックの固有魔法力によって駆動する。
今も淡く輝く光の盾を半球状に生み出して鉄球を完璧にはじき返してみせた、
「お見事!」
気色ばんでカリナが褒めればエルリックは謙遜する。
「なんの、まだまだこれからです!」
そしてソフィアが叫んだ。
「見えた! あれよ!」
4人の眼前に巨大な両開きの鉄扉がそびえていた。衛兵はおらず独特の冷えた空気が不気味だった。
大階段を上がり切り、踊り場で鉄扉の前に佇むと、全員警戒しながらもエルリックとカリナで両開きの扉に手をかけた。
「行きます!」
――ゴッ、ゴゴゴゴゴゴゴ――
重苦しい音を響かせて鉄扉は開いた。慎重を喫しながら、中に足を踏み入れればそれはまさに玉座の間、広い空間のその向こう側に数段高くなっている場所がありその中央に金色に輝く玉座が置かれてそこに腰かけている人物がいた。
気だるげに肘をつきながら謁見の間に駆け込んできた者たちを眺めている。カリナたちはその人物の名を知っている。
「魔王ヴァルガリアス!」
名を呼ばれて魔王はカリナたちの方に視線を向けた。
そこはまさに魔の支配者の玉座の空間、黒と紫と赤が支配する命無き空間だった。その一番奥に玉座が据えられている。そしてそこに座していたのはまさに魔王ヴァルガリアスその人だった。
肌の色は漆黒であり、どす暗いオーラを放っている。王族というよりは、常在戦場を意識したかのような黄金色のフルプレートアーマーを身につけている。
頭部には右の角は根元から折れ、代わりに左の角が極端に大きく、さらに長く伸びて頭上を一周している。褐色の髪は乱雑に腰の辺りまで伸びている。眼光も鋭く赤い光を放っている。
剣は下げておらず、その持てる魔力そのものが彼の武器だ。その鋭く伸びた両手の爪からは有り余る魔力が火花を散らすようにほとばしっていた。
「よくぞここまで来た。勇者カリナよ」
その声は力強く玉座の間の空間の中にどこまでも響いた。カリナはその右手に聖剣レギオンブレイドを抜剣しながら降伏を勧告する。
「潔く諦めなさい! もはや魔王軍は壊滅しました! あなたにはもう万に一つの一縷の望みもありません!」
「そうはいかん。これでも魔族を率いる一族の長なのでな」
そう告げると魔王は玉座から立ち上がりカリナの方へと向かう。
「お前を倒すことで魔族再興の大義名分がつく」
「愚かな、私を倒しても無意味です!」
カリナは聖剣を構え、魔王は右手を掲げて魔法を発動させる。
「次の勇者が現れ新たな戦いを始める。それが人間というものです!」
「くだらん! 潰しても湧いてくるウジ虫の生き様だ」
「ウジ虫ではない! 人間と言う価値ある命のあり方だ!」
「戯言を! 吠えるだけなら駄犬にもできる! それでも自分が正しいというのなら俺を倒してみせろ」
「望むところ!」
カリナのその言葉と同時に背後に控える3人の仲間たちもそれぞれに戦いの準備を始めた。
エルリックはタワーシールドを構えつつバスタードソードを抜く、
ソフィアとミリアはともに魔法の高速詠唱用の魔法水晶板を取り出した。
「カリナ! いつでもいいぞ」とエルリック、
「準備いいわよ」とソフィア、
「こちらも」とミリア、
今まさに最後の戦いの始まり。魔王も両手の拳を握りしめた。
「では参ろうか!」
魔王は真っ向から迎え撃つ矜持だった。
それを前にしてカリナたちは互いに目配せした。こと、ここに至っては余計な言葉は不要だ。それほどまでに4人はお互いの気心を通じ合っていたのだから。