勇者カリナ/ソルスター世界、魔王城最終決戦録 ―少女勇者、異世界転移前の最後の足跡― 作:美風慶伍
聖剣レギオンブレイドに宿る精霊エリュシオにカリナは語りかけた。
「エリュシオ! 英霊召喚!」
『了解、英霊召喚いたします』
「
『双風の剣舞士〝エアリス・レオンハート〟召喚いたします』
英霊召喚――、それは聖剣レギオンブレイドを所持する者にのみ許された極めて特別な偉大なる魔法だ。聖剣レギオンブレイドと、それに宿る精霊エリュシオは、これまでの長き戦いの中で出会った数多の数え切れぬほどの〝英霊たち〟の存在を記憶し続ける。
レギオンブレイドを所持することを許された〝勇者〟は、英霊たちの魂を天界から地上へと召喚し、英霊たちが持つその魔法や様々な力を借りることができるのだ。
そして今、勇者カリナはかつての偉大なる魔法剣士の存在を呼び出そうとしていた。
カリナが詠唱し、エリュシオが選んだ英霊が呼び出される。天と地上が光で繋がれ、カリナの背後に光の扉が開かれた。そしてそこから現れたのは二人の英霊だった。
『現世の勇者様から声がかけられたってことは仕事だな、なぁエアリス』
『そうだねブレイズ、かなり重要な局面だと思うけどね』
『さて今宵の戦場は』
『果たしてどこだろうね?』
その口ぶりからしてカリナからは度々に召喚を受けているらしかった。
「1つの召喚で、2人の英霊――お久しぶりですね!」
カリナはその2人の存在を知っていた。英霊の二人がカリナに答える。
『久しぶりだな勇者カリナ!』
『以前にもまして美しくなったんじゃないか』
『そんなことよりやることやらないとな。エアリス!』
『ああ、最高の大舞台だからね、ブレイズ』
そう語りながら二人はカリナをかばうように進み出た。まずはカリナの左側に立つ黒い剣士装束の魔導剣士が抜剣しながら名乗る。
『俺は、切り札の黒い剣士〝ブレイズ・レオンハート〟』
対してカリナの右側に立ったのは薄緑色のキャソックを纏った風魔導士だ。
『僕が、知恵の
『俺たちが〝エアリス・レオンハート〟だ!』
『2人で1人の英霊だ!』
すると魔王は2人に声をかけた。
「エアリス・レオンハートだと!? 150年前の伝説の勇者か!」
『覚えていてくれたのは嬉しいぜ、俺たちが生きている間にはお前にとどめは刺すことはできなかったが』
『今日はどうやら君の最後の日のようだね』
『カリナがお前を追い詰めているようだからな』
『この魔王城でね』
ブレイズとエアリスの2人の英霊はたくみに息を合わせて軽妙に語る。その話術もまだ敵の集中を撹乱する巧みな技の一つだった。
まずはブレイズが挑発して語る。
『魔王ヴァルガリアス、すぐそばに側近を置かないのは相変わらずのようだな』
『こいつが他人を信用するわけないだろ? 何しろ最下層の奴隷からの成り上がりだからね。劣等感の塊ってやつさ』
『仲間も居ねぇ、部下も居ねぇ、自分以外は全部敵ってやろうだ』
『だからこそ伴侶もいない孤独な玉座』
『そんなの楽しいとはもう思えないがな』
『楽しいとかそんなのわかるわけないでしょ? 引きこもりの陰険魔王様が』
『違いない!』
ブレイズとエアリスは魔王相手に怯むことなく揚げ足を取りからかい続けた。カリナは聖剣をかまえつつも恐れ知らずの2人に呆れていた。
「相変わらずですね、お2人とも」
一方で魔王は憤怒の表情だった。
「おのれ、我を愚弄しおって!」
怒りのボルテージが魔王の力を引き出す。ソフィアの仕込んだ2つの魔法陣の効果を魔王は凌駕しつつあった。
ソフィアがやんちゃなブレイズたちを叱りつける。
「ちょっとやめてよ! なに敵の力引き出してんのよ! 抑えるの大変なのよ!?」
『おっとこれは失礼』
『それじゃさっさと済ませるとしよう』
「はい!」
カリナは剣を正眼に構えて高らかに唱えた。
「魔導剣技!招来! 風魔法!疾駆! 来たれ! 伏魔の〝切り札の風〟よ!」
そして、二人で一人の英霊はカリナの体へと重なる。そして、その時の魔法詠唱を二人同時に高らかに告げた。
『
カリナの肉体にブレイズとエアリスが重なる。ブレイズがカリナの肉体の基本能力を強化し、その卓越した剣技を与える。そして、エアリスは風魔法で移動や攻撃を強力に補助した。
彼らの体の周囲を黒いオーラが鎧のように浮かび上がり、さらにその周囲を緑色に光る風のイメージがつむじ風を描くように飛び交っていた。カリナはひときわ大きく叫ぶ。
「行きます!」
そこからカリナの猛攻が始まった。
エルリックたちが魔王の攻撃と行動を封じる中、カリナは風をまとって華麗に舞うとレギオンブレイドで魔王に風の刃を繰り出しながら幾度も幾度も斬りつけていく。
「風斬波!」
緑色に輝く風の刃、それが空中を飛び交う中、巨大な魔力を持つ魔王を確実にその生命力と魔力を削っていった。
「おのれ! こんな、こんな戒めごときで!」
魔王は必死になってこの包囲網を突破し攻撃を繰り出そうとするが、エルリックの近接攻撃と、ソフィアの魔法と、ミリアの銃撃、その三段構えで魔導の発動すらできない状況になっている。ただいたずらにダメージを蓄える状況が彼には我慢ならなかった。
苛立ちをさらに貯める魔王に対してカリナが告げる。
「魔王ヴァルガリアス! 100年程度しか生きられない人間種族を散々侮ってきた貴様だ、この状況はさぞやお前にとって苦しいものだろう。だが忘れるな! 弱いからこそともに手を取り合い! 助け合い! 1人1人が小さくともその小さなものが集まることでお前を超えるより巨大な力となるのだ!」
「黙れ! こんな戒めなど引きちぎってくれる!」
そう叫んだ時、魔王の右腕が降り上がった。膨大な魔力を右腕の手のひらの中に溜め込み圧縮している。それを放出して魔力の塊による遠距離攻撃を繰り出そうというのだ。だが、魔王のその動きをカリナは見逃さなかった。
「させません!」
全身から猛烈な風を発生させながらカリナは魔王の右腕脇の下を素早く通り過ぎる。その際に左の腰だめに構えたレギオンブレイドを瞬時に抜き放つ。
――ビュオゥッ!――
レギオンブレイドから最大級の出力の風斬波を生み出して魔王の右腕を肩の付け根の根元から一刀両断に切り裂いた。そして――
「がぁあああああっ!」
魔王の悲鳴が上がるなか、その右腕は落下して床へと落ちる。さらに右の手のひらの中に溜め込んだ巨大な魔力が制御を失って暴発した。
――ボゥオオオオオンッ!――
「ぐあああああっ?!」
皮肉にも魔王は、自らの魔力で自らを吹き飛ばす形となったのだ。後方へと弾き飛ばされる形で魔王は床の上を転げ回る。ソルスター世界の大地を恐怖のどん底へと叩き起こした魔王その人と思えないほども無様な姿だ。
風魔法士のエアリスが皮肉る。
『さすがの魔王も今や地に落ちたものだね』
ソフィアがその言葉に追従する。
「ええ、時代の流れ、時代の変化についていけず、日々進歩発展する科学や技術や魔法といったものに取り残されるばかりですもの」
黒き剣士ブレイズが言い放つ。
『こんな山奥の城でひたすら引きこもってるんだ、陳腐な古臭い魔法しか身につけてないってものさ』
生真面目なエルリックが語る。
「日々精進、強くなるのはそれしかない。そこには人間も魔族も関係ない」
その言葉を受けてカリナは魔王の前に立ちはだかった。
「時代に取り残された哀れな魔王よ、お前が今までに奪った命の数はあまりにも多い。お前のその命を持って今こそ償う時!」
カリナは魔王にとどめを刺すべく動いたのだった。