チートっぽい能力より、運動神経が欲しい。   作:用務員級学徒

1 / 5
個人的な趣味嗜好によって作られています。
できれば褒めてほしい。


叫んでたら不審者になる。当たり前です。

人生には、いくつか「これ絶対フラグだろ」と思う瞬間がある。

例えば、学校へ向かう途中に猫が二本足で歩いていたとか。

例えば、コンビニで当たり付きアイスを二本連続で引いたとか。

例えば、ネットで読んでいた異世界転移漫画を閉じた直後に、空が紫色に光ったとか。

 

「……いや、これはフラグじゃなくて事故だろ」

 

そう呟いた瞬間だった。

世界が、ひっくり返った。

 

◇◇◇

 

「……いてぇ」

 

背中に柔らかい感触が感じられる。

目を向けるでもなく、芝生だとわかった。

家の中とは到底思えない土の匂いに、頬を撫でる風。

目を開くと、真っ青な空が広がっていた。

 

「……」

 

しばらく考える。

考えても分からない。そりゃそうか。

 

「…………夢?」

 

頬をつねる。

痛い。

夢じゃない。

じゃあ現実だ。

 

「いや、現実だったら困るんだけど」

 

勢いよく起き上がる。

困るんだよなぁ……何が起きてるんだか。

 

何もわからないままでは、頭をひねってもねじっても何も出てこない。

とりあえず、何かしら行動しなければどうしようもないだろ。

 

そう考えてふと辺りを見回して、固まった。

 

「でかすぎんだろ……」

 

石造りの巨大な校舎。

まるで城だ。

いや、城というより要塞。

 

尖塔がいくつも立ち、窓には色鮮やかなステンドグラス。

広い庭園には噴水まである。

芝は丁寧に刈られ、花壇は芸術作品のように整えられていた。

 

そして──

 

「……ローブ?」

 

歩いている人たちが全員、杖を持っている。

黒や紺を基調とした服装に、腰には細長い杖。

何人かは空中に光を浮かべながら歩いていた。

 

誰も驚いていない。

 

「……」

 

 郁目籠喜は空を見上げた。

 

「異世界だ」

 

叫ぼうか?

 

「異世界だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

叫ぼうか。

 

「やったぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ガッツポーズも。

 

「来た! 来た来た来た! ついに俺にも来た!」

 

その場で飛び跳ねる。

こんな状況になって喜ばねぇ奴いる!?いねぇよなぁ!?

 

「最強チート! 魔法! 冒険! ハーレム!」

 

少し考える。

そんな強欲でいいのか?

強欲で強欲な日本人でいいのか?

 

「いや、ハーレムはいらねぇな」

 

また考える。

 

「……いや、あるなら考える」

 

あるならしょうがないね。

しょうがないから考えなきゃだもんね。

 

…誰も聞いていない独り言である。

 

「とりあえずステータス!」

 

右手を前に出す。

 

「ステータス!」

 

何も起きない。

 

「……」

 

じゃあもう一回。

 

「ステータス!」

 

起きない。

 

「ウィンドウ!」

 

起きない。

 

「オープン!」

 

起きない。

 

「メニュー!」

 

起きない。

 

「ヘルプ!」

 

起きない。

 

「運営ぁ!」

 

もちろん起きない。

くそったれの運営がよ…

 

「自由度高すぎるだろこの世界」

 

しょうがないだろ?こういうことしたくなるの。

ステータスオープンな異世界漫画を見たことがない奴だけが石を投げなさい。

 

馬鹿みたいなことを考えていた、その時だった。

 

「ねぇねぇ。」

 

「うおっ!?」

 

後ろから声を掛けられ、俺は飛び上がる。

振り返ると、一人の女子生徒が立っていた。

背中まである金髪と、赤いメッシュ。

おそらく制服だろうものを少し着崩していて、いかにも明るそうな笑顔。

 

「あたしさっきから見てたんだけどさ。」

 

「は、はい。」

 

「何してんの?」

 

「……」

 

説明が難しい。

ギャルとの会話は陰キャには厳しすぎます。

…というか、もはや不審者だったし。

 

「その……異世界転移?」

 

「……」

 

「……」

 

沈黙。

終わりだよ終わり。

ニドトヤランハコンナクソゲー

 

絶対変人だと思われた。

それは元からか。

ステータスって叫んでる人間が変人じゃないわけない。

 

ところが、ギャルは寛容だった。

オタクに優しいギャルだった。

 

「え、マジ?」

 

「……え?」

 

「異世界人?」

 

「え?」

 

「ホントに?」

 

「え?」

 

「やば!」

 

目が輝いた。

 

「ねぇねぇねぇ! 異世界ってどんな感じ!?」

 

「そこ食いつくの!?」

 

「え? だって異世界じゃん!」

 

「いやまあ異世界だけど!」

 

異世界転生って異世界にも広まってんの!?

そしてギャルにも知れ渡ってんの!?

スゲェ!(小並感)

 

「名前は?」

 

意外とフレンドリーだった。

こっち、不審者なのに。

ステータスとか叫んでるやばいやつなのに。

 

郁目籠喜(いくめかごき)、です。」

 

「カゴキ、ね?あたしはリサ!」

 

勢いよく握手を求められる。

 

「よろしく!」

 

「あ、よろしく……」

 

なんというか、距離感がおかしい。

ギャルってこんな感じなんだろうか。本当に?

陰キャにこれは厳しいですよちょっと……

 

「異世界人なんでしょ?じゃあさじゃあさ、異世界にドラゴンって存在してる?」

 

「えーっと…いない。」

 

「使い魔は?」

 

「いない。」

 

「じゃあ何があるの?」

 

うーん、困った。何を言えばいいんだ?

そもそも女子との話に慣れていないというのに…異世界になくて、現代にあるもの?

パッと言えんぞ。

 

えーっと、えーっと……

 

「スマホ…とか。」

 

「すまほ?」

 

「便利な板。」

 

「へぇ!」

 

全然伝わっていない。

そりゃそう…というか、俺のコミュ力が終わってる。

スマホ=便利、じゃねえんだわ……

いかに俺が女子と話してなかったかわかる問答すぎる。

 

「じゃあじゃあ!」

 

リサはさらに身を乗り出してきた。

この子、無防備すぎる。

バルンバルン。

これは色々な意味でよくない。俺がガチの不審者だったらどうしてたんだ、この子。

 

「空飛ぶ乗り物ってあるの?」

 

「えーっと…飛行機?とか。そういうのはあるけど…」

 

「そうなんだ!」

 

「まあ…魔法は使わないけど。」

 

「…………え?」

 

初めて固まった。

そんなに魔法を使わないのが不思議だったのだろうか。

…そう言えば、魔法はあるかどうか聞かれていなかった気がする。

 

「魔法使わないの?」

 

「うん。使わない。」

 

「じゃあどうやって飛ぶの?」

 

「それは……」

 

説明しようとして、口が止まった。

 

(揚力って…何だっけ?)

 

そんなもん、理系でもないんだから知らない。

飛行機は知っている。でも飛ぶ理由は知らない。

大体の現代人ってそういうもんだろ?……そういうもんだよな?

 

「……頑張る」

 

「頑張る?」

 

「うん」

 

「へぇ!」

 

納得した。それでいいのか?頑張れば飛べると?

魔法が存在するなら、そういうもんなのかも知れないけどさ……

頑張れば飛べるわけなくない…?無理じゃない…?

 

リサさん…さん?ちゃん?

ちゃんはキモいか。

とにかく、リサの陽気な雰囲気からか、あるいは俺がさっき変なことをしていたせいか、周りの人もこちらを見るようになってきた。

なんなら、リサさん以外にも近寄ってくる人もいた。

 

「何はしゃいでんだ?リサ。」

 

そう言って近づいてきたのは、筋骨隆々っつう言葉がぴったり、って感じの巨体の男だった。

真っ黒な髪を短く切り揃え、異世界でも目立つ赤色の目をしていた。

あと巨乳。別に実は女とかじゃない。筋肉で巨乳。この世界には巨乳しかおらんのか。

 

「あ、ベッグラじゃん。見てよ―、この人、異世界人なんだって!」

 

「ども……郁目籠喜(いくめかごき)、です。」

 

ペコリとお辞儀をすると、ベッグラの方は、豪快に笑った。

礼儀正しさがおかしかったらしい。

 

「そんな礼儀正しくなくていいぜ?あ、俺はベックス。ベックス=グラニックな。皆、こいつみてぇにベッグラって呼ぶ。お前も呼んでいいぜ。」

 

見た目通りというべきか、豪快な人間だ。

だが、次の句を継ごうとベックスが口を開いた、その時だった。

遠くからざわめきが聞こえ始めた。

 

「何だ?」

 

「ん?」

 

リサもベックスも振り向く。

 

生徒たちが一方向を見ていたと思えば、道を空け始めた。

誰かが歩いてくる。

 

「……あ」

 

リサが小さく声を漏らした。

ベックスは肩をすくめた。

二人に共通しているのは──

 

「来ちゃった。」

 

「えっと…知り合いか?」

 

「知り合いっつうかなぁ……」

 

──苦笑しているところ、だろう。

 

「学園一、面倒くさい人。」

 

「気をつけろよ。」

 

「え?」

 

人混みの向こうから、一人の少年が姿を現した。

腰には一本の杖。

黒髪の、その先端だけが、深い緑に染まっている。

整いすぎた顔立ちに翠玉(エメラルドグリーン)の瞳。

そして、女子と見紛うほど小柄な体格。

 

だが、それ以上に。

歩くだけで周囲の空気が張り詰めるような存在感。

誰にも意を介していないと言わんばかりの無表情。

 

ああ、なるほど。

これは、ヤバいな。

 

 

少年は立ち止まり、俺のことを見た。

その視線は珍しい動物を見るようでもなく。

敵を見るようでもなく。

ただ。

キャンバスについた染みを見るみたいな、そんな目だった。

 

「……お前。」

 

静かな声。

 

「さっきから見ていた。」

 

「…そりゃ、光栄だな。」

 

それだけ言って、一歩近付く。

周囲がざわつく。

 

「おい……」

 

「まさか……」

 

「首席が……?」

 

リサは額を押さえた。

ベックスは点を見上げている。

やばこいつ。超迷惑扱いされてるじゃん。

 

そう思っていたら、リサが口を開いた。

 

「あーあ。」

 

「……大丈夫か?」

 

「終わった。」

 

「…本人目の前でそれはひどかねぇか。」

 

リサは確かにと苦笑しながら、小さく囁いた。

 

「その子、ハスール=セルライン。──この学園の首席。」

 

ハスールとかいう少年は俺のことを真っ直ぐ見据えたまま、淡々と言った。

 

「お前に、一つ確認したいことがある。」

 

「なんだよ、主席さん。」

 

「魔法は使える?」

 

どう答えるべきだ?

使えない?それとも、嘘をつくか?

……はは、冗談きついぜ。

 

「いや、全然。魔法なんて初めて聞いたぜ?なんだ、それ。」

 

その返答を聞いたハスールの口元が、ごくわずかに動いた。

笑ったのか、呆れたのか…それとも──

 

「なら、ちょうどいい。」

 

彼は杖を静かに抜いた。

 

「ボクと決闘して。」

 

異世界に来て最初の歓迎は、どうやら、穏やかなものでは済まないらしい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。