とある小島から密かに出発した船の上。
その上に載っているのは、ハスールたちの国では高額取引されるような
だが、この船にはその、いわば札束の山のような
こんなことをするのは、価値のわからぬ愚か者か、あるいは──
「ったく……何で俺までこんな取引に駆り出されてんだか…。なあ?そうは思わねぇか、赤猫の嬢ちゃん。俺、ただの酒場のバイトだぜ?」
そう愚痴をこぼすのは、いかにも好青年風の黒髪の青年だった。
船のへりに体を預け、頭をガシガシと掻いている。
「白々しく言うね。交渉係が」
そう返す、『赤猫』と呼ばれた若々しい風貌の女性。
呼ばれた名の通り、頭上にはわかりやすく猫のような耳がついている。
船の中央に、所在なさげに立ち、髪の毛をいじっていた。
「くく、でも今回は俺だけじゃねぇだろ。なぁ、マスター、とやら?」
「その名前で呼ばないでくれるとうれしい。気恥ずかしいものだから」
商材の入った箱に腰掛ける老人が、ふわりと返事をする。
杖をつき、起きているかわからない体勢でいたが、長くのばされたその前髪から除くその眼光は鋭い光を持っている。
船に乗っているのはこの三人だけだった。
そのほかに、船員の一人もいない。もちろん、運転手すら。
先程までは
「おいおい、じゃあなんて呼べばいいんだ?本名も呼ばれたくないっていうじゃねぇか。なぁ?」
「爺でも老人でもご老体でも。皆にはこう呼ばせてる」
「……ふぅん。じゃあ、ご老体。この取引に乗った意味、わかってるだろうね?」
いきなり、女性が老人を睨みつける。
剣も、杖も、銃も。何も持っていないというのに、威圧感が船の中に満ちる。
ザバン、と波が一段船に当たり、船が揺れる。
それでも一人もピクリとも動かない。
彼らは一枚岩でもなんでもなかった。
むしろ、この老人が乗っているのは異常事態ですらある。
「ああ。君たちのコネ作りに一枚、噛ませてもらう。そして、そうなれば…うちも裏と関わり合うことになる。これで十分?」
「……あたしの威圧に抉られないとはね。いいよ。その度胸は飲んでやる」
「おいおい、嬢ちゃん?そっちの役割は俺とトップたちだぜ?こうも言いたくねぇが、傭兵がでしゃばんないでくれよ。新規財閥様とのコネ。トップは待ち望んでるんだぜ?」
「こいつ、どうも信じられなくてね。なんでいきなりこっちに繋がってきたのか……まあ、過ぎた心配だったね」
その一言で、全員が殺気を抑える。
否、老人に関しては殺気すら出していなかった。
依然、ふわっとした笑みを浮かべ、機嫌よさげに杖を指でたたく。
リズムは何かの歌を模しているらしかった。
「要らぬ心配をさせた。と言っても、僕にも理由はない。言われたからさ。師匠からね」
「……なんて?」
「「
声が重なる。元々の老人のしがれた声に、もう一つ老人の声が。
自身のものではないその声に、老人はさらに笑みを深めた。
「おいおい……まさか、あんたが来るとはな。なんだ?密航の通報かい?」
突如現れた老人に対する青年の疑問には、返事はなかった。
沈黙は肯定か?
この場では、否である。
「ここの
その一言に、青年と女性の肩の力が抜ける。
無駄が、無駄ではなくなった。
乗らない手はない。脚もない。
だって、きっと切り落とされてしまうから。
「冗談って具合にちょうどいいぜ。それは。だが…どうするんだ?俺らはどうすればいい。コネと言ったが……今この場でもらえるものじゃないだろ」
「焦らない。僕が案内する場所に行ってもらえばいい。護衛をつける」
「……あたしじゃ、不満?」
女性が不満を漏らした、ように見えて、純粋な疑問だ。
実力は十分なはずだ。明確に。
それとも、不十分なほどの何かがある、とでもいうのだろうか。
──
「十分だよ。こっちの戦力増強さ。気にしなくていい」
「ああそう。ボス戦でも始まるのかと思った」
「はっはー、ないない。向こう数年はないさ。会ったとしても、君たちには
三人が首をひねる。だが、意味はないだろう。
そんなことは、全員がわかっていた。
「そういうわけだ。それで、最終的にその商材は僕がもらう。それでいいね?」
話しは、まとまった。
それじゃあ、よろしく頼むよ、
僕たちに参加できない縁の物語を。
うまく彼らが、彼らたちが。
結んで開いて、くれますように。