チートっぽい能力より、運動神経が欲しい。   作:蓮聴人

16 / 20
幕間

とある小島から密かに出発した船の上。

その上に載っているのは、ハスールたちの国では高額取引されるような()()たち。

 

だが、この船にはその、いわば札束の山のような()()が乱雑に置かれている。

こんなことをするのは、価値のわからぬ愚か者か、あるいは──

 

「ったく……何で俺までこんな取引に駆り出されてんだか…。なあ?そうは思わねぇか、赤猫の嬢ちゃん。俺、ただの酒場のバイトだぜ?」

 

そう愚痴をこぼすのは、いかにも好青年風の黒髪の青年だった。

船のへりに体を預け、頭をガシガシと掻いている。

 

「白々しく言うね。交渉係が」

 

そう返す、『赤猫』と呼ばれた若々しい風貌の女性。

呼ばれた名の通り、頭上にはわかりやすく猫のような耳がついている。

船の中央に、所在なさげに立ち、髪の毛をいじっていた。

 

「くく、でも今回は俺だけじゃねぇだろ。なぁ、マスター、とやら?」

 

「その名前で呼ばないでくれるとうれしい。気恥ずかしいものだから」

 

商材の入った箱に腰掛ける老人が、ふわりと返事をする。

杖をつき、起きているかわからない体勢でいたが、長くのばされたその前髪から除くその眼光は鋭い光を持っている。

 

船に乗っているのはこの三人だけだった。

そのほかに、船員の一人もいない。もちろん、運転手すら。

 

先程までは()()()の声がしていたが、すでに()()が食べたらしい。

 

「おいおい、じゃあなんて呼べばいいんだ?本名も呼ばれたくないっていうじゃねぇか。なぁ?」

 

「爺でも老人でもご老体でも。皆にはこう呼ばせてる」

 

「……ふぅん。じゃあ、ご老体。この取引に乗った意味、わかってるだろうね?」

 

いきなり、女性が老人を睨みつける。

剣も、杖も、銃も。何も持っていないというのに、威圧感が船の中に満ちる。

 

ザバン、と波が一段船に当たり、船が揺れる。

それでも一人もピクリとも動かない。

 

彼らは一枚岩でもなんでもなかった。

むしろ、この老人が乗っているのは異常事態ですらある。

 

「ああ。君たちのコネ作りに一枚、噛ませてもらう。そして、そうなれば…うちも裏と関わり合うことになる。これで十分?」

 

「……あたしの威圧に抉られないとはね。いいよ。その度胸は飲んでやる」

 

「おいおい、嬢ちゃん?そっちの役割は俺とトップたちだぜ?こうも言いたくねぇが、傭兵がでしゃばんないでくれよ。新規財閥様とのコネ。トップは待ち望んでるんだぜ?」

 

「こいつ、どうも信じられなくてね。なんでいきなりこっちに繋がってきたのか……まあ、過ぎた心配だったね」

 

その一言で、全員が殺気を抑える。

否、老人に関しては殺気すら出していなかった。

 

依然、ふわっとした笑みを浮かべ、機嫌よさげに杖を指でたたく。

リズムは何かの歌を模しているらしかった。

 

「要らぬ心配をさせた。と言っても、僕にも理由はない。言われたからさ。師匠からね」

 

「……なんて?」

 

「「()()()()()()()()()()()()()()()」」

 

声が重なる。元々の老人のしがれた声に、もう一つ老人の声が。

自身のものではないその声に、老人はさらに笑みを深めた。

 

「おいおい……まさか、あんたが来るとはな。なんだ?密航の通報かい?」

 

突如現れた老人に対する青年の疑問には、返事はなかった。

沈黙は肯定か?

 

この場では、否である。

 

「ここの()()を売ってほしくてね。無論、金とコネは渡そう。この商材を渡せるだけもらう代わりに、中央のコネを持てるだけ。等価交換だろう?」

 

その一言に、青年と女性の肩の力が抜ける。

無駄が、無駄ではなくなった。

 

乗らない手はない。脚もない。

だって、きっと切り落とされてしまうから。

 

「冗談って具合にちょうどいいぜ。それは。だが…どうするんだ?俺らはどうすればいい。コネと言ったが……今この場でもらえるものじゃないだろ」

 

「焦らない。僕が案内する場所に行ってもらえばいい。護衛をつける」

 

「……あたしじゃ、不満?」

 

女性が不満を漏らした、ように見えて、純粋な疑問だ。

実力は十分なはずだ。明確に。

それとも、不十分なほどの何かがある、とでもいうのだろうか。

 

──()の世界に?

 

「十分だよ。こっちの戦力増強さ。気にしなくていい」

 

「ああそう。ボス戦でも始まるのかと思った」

 

「はっはー、ないない。向こう数年はないさ。会ったとしても、君たちには()がない。……それは、()()だけどね」

 

三人が首をひねる。だが、意味はないだろう。

そんなことは、全員がわかっていた。

 

「そういうわけだ。それで、最終的にその商材は僕がもらう。それでいいね?」

 

話しは、まとまった。

 

それじゃあ、よろしく頼むよ、()()()()

僕たちに参加できない縁の物語を。

うまく彼らが、彼らたちが。

結んで開いて、くれますように。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。