属性 語幹
光 ルミ
風 ヴァン
火 フェル
磁 ジャ
雷 ジル
水 ネア
強化……語幹+ル / リム / ラド
とりあえず、これだけ覚えてもらえば行けるかな、と。
感じとしては、ドラクエとかの法則に近いかな…?
属性の話とかは、将来的にやります。
いろいろ考えてたり、考えてなかったり。
ハスールの杖先を見ながら、俺はゆっくりと息を吐いた。
さっきまでは、魔法を避けようとしていた。
……まあ、一回も避けれたわけでもないし、最終的に実験みたいになってたけど…
とにかく、それじゃ駄目なわけだ。
なんせ、俺にはハスールの魔法を避けられるだけの身体能力がない。
実際、初手の魔法には全く対応できなかったわけだし、実験的に撃たれた魔法も、効かないだけ。全く目では追えてない。
だったら。
避けるんじゃなくて、当たりに行く。
俺の身体に触れれば、魔法は消える。
たぶん、それは確定している。だから、何も恐れず、突っ込めば話は早い。
理屈だけなら簡単だ。
ただし、問題が一つ。デカい問題が、一つ。
「……怖えんだよなあ」
「何が?」
「お前の魔法が」
「なら降参すれば?」
「ごめんだね。…というか、決闘を続行したの、お前じゃねぇか」
「そうだっけ?忘れちゃった。」
「お前よぉ…!」
俺が一歩踏み出す。
策略2割、怒り8割で。
ハスールは動かない。
ただ杖だけが、俺の動きを追っている。
ハスールの方に向かいながらも、その先端から目を離せない。
何が来る?
風か?火か?雷か?水か?
漫画なら、この辺りで主人公が敵の魔力の流れを見抜いたりするだろうさ。
あるいは、そんな必要もなく圧倒するか。
でも、俺にはそんな能力はない。
魔素なんて見えない。
魔法の理論だって知らない。
だから、できることは一つだけ。
ハスールの身体を見る。
杖を見る。
次に何をするのか予測する。
単純明快。馬鹿でもできる。
「……」
ハスールの右手が少し動いた。
来る。
俺は前へ出る。
簡単だ…ただ、受けてやればいいだけ、だから。
「ヴァンリム」
俺の右肩を狙って、風が、空気が一直線に押し寄せる。
「っ!」
避けない。
そのまま突っ込む。
風が肩に触れた。その瞬間に、消える。
さっきまで身体を押し流そうとしていた力が、嘘みたいに消える。
だったら、俺はそのまま走るだけだ。それだけで、いい。
「うおおっ!」
距離が縮まる。
ハスールの顔が近づく。
杖の先端がこちらへ向く。
俺は右手を伸ばした。
ハスールが後ろへ跳ぶ。
「逃げんな!」
「逃げているんじゃない。距離を取っているだけだ」
「それを逃げてるって言うんじゃねぇかなぁ!?」
ハスールが着地する。
俺も止まった。
距離はまた開いている。
…息が上がった。
……きつい。
想像以上にきつい。
俺は運動が得意じゃない。
体育の授業でも、走るのはどちらかといえば嫌いだった。
長距離なんて特に嫌いだ。
そんな俺が、魔法使い相手に走り回っている。
しかも、こいつは全然疲れていない。
走ってる俺より、魔法の操作なんかもしてるはずなのに。
「……お前さ」
「何?」
「疲れないの?」
「この程度で?」
「…その言い方、すげえ腹立つだけど」
「事実だろ」
「あー…はいはい。わかりましたよ」
俺は膝に手をついた。
呼吸を整える。
すると、ハスールが不思議そうに俺を見てきた。
「……何だ?」
「いや」
ハスールは俺の足元を見た。
「お前、遅いね」
「……」
「さっきから思っていたけど、身体能力が低すぎる」
「言い方を優しくしろ!」
「事実だよ」
「もうちょっとオブラートに包め!」
「オブラートって何?」
「そこからかよ!」
俺は思わず頭を抱えた。
異世界人との会話において、漫画でも何でもまず引っ掛かるところは?
文化の違い。言葉の違い。
いろいろある。
けれど、たぶん一番の問題は。
こいつの性格だ。
「でも」
ハスールが言った。
「お前は今の攻撃を避けなかった」
「避けられなかっただけですよ。身体能力が低いからなぁ?」
「違う。最初のときは避けようとした」
ハスールが杖を下ろした。
「今は違った。自分から魔法に触れに行った」
「……」
「理解したんだね」
俺は少しだけ顔を上げた。
「……上からだなぁ、おい」
「上からだよ。お前の方が弱いし、理解も浅い」
ハスールは俺を見る。
その目が、また変わっている。
戦闘の目ではないのは、さっきからだった。
だが、さらに移り変わった。
完全に見下してるわけでもない。
もっと深い、何かを理解しようとしている目。
「お前の異能は、魔法を消しているわけじゃない…な。」
「……あぁん?どういうことだ?」
「分からない」
「分からないのかよ!」
「だが、一つ分かった」
ハスールは杖の先端を俺へ向ける。
「少なくとも現時点では、お前の身体に触れた魔法が成立しなくなっている。もし、魔法そのものを消滅させる能力なら、離れた場所の魔法も消えるはずだ。でも、お前は違う」
「……」
「だから、無効化…だろうな」
「無効化?」
「そう。仮に名前をつけるなら」
ハスールが少し考える。
「魔法無効」
「そのまんまだな」
「分かりやすくていいだろ」
「いや、まあ……」
俺は自分の手を見た。
決闘の前に見たように。でも、感情は違う。
同じ高揚感でも、違う。
魔法無効。
おいおい……やっぱり、いかにも異世界チート能力という感じじゃねぇか。
「……俺、これなら強いんじゃね?」
思わず口に出した。
ハスールは、わざとらしく溜息を吐いた。
「勘違いするなと言っただろ」
「分かってるって」
「いや、分かってない顔だ」
「どんな顔だよ」
「調子に乗っている顔」
「お前、人の顔を何だと思ってんだ」
「見れば分かる」
「分かるわけねえだろ!」
俺が言い返した瞬間。
ハスールが動いた。
「え?」
杖が振られる。
今までとは違う動きだった。
魔法が飛んでくるんじゃない。ハスール自身が動いている。
気づいたときには、目の前にいた。
「うわっ!」
俺は慌てて横へ飛ぶ。
だが──遅い。
ハスールの杖が俺の脇腹へ向かってくる。
俺は腕で受けようとした。
杖が当たる。単純な、物理的な杖が。
「──っ~~~!いってえ!」
魔法じゃない。
ただの杖だ。
当然、無効化できない。
「お前!」
思わず叫ぶ。
痛みを分散させるように。
あるいは、単純に怒ったから。
「杖で殴るのは反則じゃねえのか!」
「どこが?」
「魔法で戦えよ!」
「決闘だよ」
「屁理屈じゃねぇのか!」
ハスールがもう一度踏み込む。
俺は慌てて下がった。
足がもつれる。
運動不足が露呈している。なんせ、陰キャ高校生だ。
部活もやっていないし、筋トレなんかもさっぱり。
何とか踏みとどまる。
それだけで精いっぱい。
こけなかっただけ、褒めてほしいぐらいだ。
ハスールの杖が目の前を通り過ぎる。
俺はその隙に距離を取った。
「はぁ……はぁ……」
「やっぱり遅い」
「うるせえ……!」
「身体を鍛えた方がいいね」
「……」
それは自分でも分かっていた。
今だけじゃない。ずっと考えて、面倒だからやめていただけ。
俺は魔法が効かない。
それは凄い。
でも、それだけ。
俺自身の身体は普通……いや、それどころか、たぶん普通より、ちょっと運動神経が悪い。
ハスールの攻撃を避けるには、もっと速く動けなければならない。
魔法を無効化できても、触れられなければ意味がない。
転生したら、運動ができるようになる。そんなわけがなかった。
「……なるほどな…」
俺は呟いた。
「何が?」
「俺の異能、結構面倒くさいな」
「ようやく理解した?」
「お前、いちいち言い方が腹立つだよ」
俺は立ち上がった。
膝についた砂を払う。
そして、ハスールを見る。
「でもよ。結局、おんなじ結論じゃねぇか。」
至極真っ当で何も変なことは言ってない。
百人に聞いたら、百人に同じ答えが返ってくる。
「身体も鍛える。魔法も覚える。お前が言ったこと全部やってやるよ」
「……」
「俺、こう見えて努力が真っ新滅法、徹頭徹尾に嫌いってわけじゃないんだぜ?」
異世界で無双できる。そんな素敵な夢があるんなら──
「だから」
俺は拳を握った。
「今は勝てなくても、いつか勝てるようになればいい」
ハスールはしばらく俺を見ていた。
「……あははっ」
ハスールが、初めて声を上げて笑った。
「何だよ」
「お前、本当に面白いね」
「褒めてる?」
「さあ?」
「そこは褒めろよ!」
今度は声を抑えて笑った。
ほんの少しだけ。
楽しそうに。
こいつ、こんな風に笑うのか。
そして次の瞬間。
「じゃあ、最後に一つ」
杖が上がる。
「まだやんのか!?」
「これで終わりだよ」
「絶対嘘だろ!」
「本当」
「信用できねえ!」
「うるさいな…」
ハスールの杖の先端に、魔素が集まっていく。
俺には見えない。だけれど、空気が変わった。
今までとは違う。
何かが来る。
ハスール自身も、さっきまでより少しだけ真剣な顔をしていた。
「お前の異能が、どこまで通用するのか確認する」
「……何する気だ?」
「試す」
「だから何を!」
「見れば分かる」
「その台詞禁止にしろや!」
ハスールが杖を振った次の瞬間だった。
俺の足元に、巨大な水の塊が現れた。
「は?」
水?…いや、違う。ただの水じゃない。
円形に渦を巻きながら、地面すれすれを滑るようにこちらへ迫ってくる。
俺は慌てて横へ跳んだ。
水が俺の身体を掠める。
冷たいし、濡れる。
「……え?」
水が地面へ落ちる。
魔法として操作されていた水が、ただの水になっていく。
俺は呆然と自分の腕を見る。
濡れている。
ちゃんと濡れている。
「……これは」
ハスールが呟いた。
「やっぱり。そういうことか」
「何が?」
ハスールが俺を見る。
「設置型」
「……?」
「さっきまでの魔法は放出型。ボクが魔素を操り続けていたから、お前に触れた瞬間に無効化された」
「じゃあ今のは?」
「魔素の操作を打ち切った」
ハスールは水溜まりを見る。
「魔法だった水が、普通の水になった」
「……」
「だから、お前の異能は効かない。そういうこと」
ようやく理解した。
俺の能力は万能じゃない。
魔法そのものを消すわけではない。
魔法が魔法として動いている間なら、それを無効にできる。
魔法が物理現象になったなら。
それはただの水に、ただの風に、ただの炎に、ただの雷に。
俺の異能が無効にできるのは、あくまで「魔法」なのだ。
──そりゃ、そうだろう。
風呂にだって入れたし、火を触ろうとして軽いやけどになったこともある。
風にだって吹かれるに決まってる。……まだ、雷は経験してないけど。
「……面白い」
ハスールが言った。
「お前の能力は、かなり限定的だ」
「はぁ…お前、楽しそうだな」
「当然だろ」
「マッドサイエンティスト、っつう感じだな……」
「何?」
「いや」
俺は笑った。
「何でもねえよ」
ハスールは不満そうに眉を寄せた。
そのときだった。
「はい、そこまでー」
聞き覚えのない声が、決闘場に響いた。
観客席の奥から、誰かが歩いてくる。
白髪に長い顎髭。
穏やかな笑顔。
どう見ても、ただの優しそうなお爺さんだった。
……いや。
どう見ても、というのは撤回しよう。
目だけが笑っていなかった。
遠くからでもわかる。笑いの気色が、一切見れない。
「学園長……」
ハスールが呟く。
俺は思わず背筋を伸ばした。
学園長?つまりはこの人が、この魔法学園の一番偉い人。
「二人とも、ご苦労様」
学園長はにこにこと笑いながら、俺たちの間まで歩いてきた。
「いやあ、面白かったねえ」
「学園長」
ハスールが口を開いた。
「まだ終わっていません」
「終わりだよ」
「しかし」
「ハスール」
学園長が名前を呼ぶ。
それだけだった。
なのに、ハスールが口を閉じた。
俺はその様子を見て、少し驚いた。
ハスールが誰かの言葉に素直に従う。
それが珍しいことなのかどうかは、まだ俺には分からない。
でも─少なくとも、この爺さんがただ者じゃないことだけは、何となく分かった。
「さて」
学園長は俺を見る。
「君が籠喜くん、そうだね?」
「……はい」
「日本から来た」
「そうです」
「魔法が効かない」
「……たぶん」
「身体能力は普通以下」
「あんまり、そこは言わないでくれると……」
「はっはー。ごめんごめん」
全然悪びれていない。
俺が睨むと、学園長は楽しそうに笑った。
「いやあ、久しぶりに面白いものを見たよ」
「面白いものって……さっきの決闘、ですか?」
「それもあるけどねー」
「……けど?」
「それもあるってだけだよ?」
この爺さん。
たぶん相当クセが強い。
少なくとも、俺がうまいことリアクションできるとは思えない。
そんなことを思っていると、学園長はハスールへ向き直った。
「それで、ハスール」
「何ですか」
「君、突然決闘を申し込んだんだって?」
「……」
「校則上、まあ、色々あるんだよねえ」
「……」
「しかも相手は転移してきたばかりの異世界人」
「……」
「君が首席だからって、何をしてもいいわけじゃないんだよ?」
「……はい」
ハスールが珍しく小さくなった。
俺は思わず目を丸くする。
こいつ、怒られるんだ。
首席でも怒られるんだ。
「まあ、罰は必要かな」
「……」
「そうだねえ」
学園長が顎髭を撫でる。
その顔が、ものすごく楽しそうだった。
嫌な予感がした。
俺はそういう顔を知っている。
大人が何か面白いことを思いついたときの顔だ。
俺の父さんとか、叔父さんが、子供たちへのいたずらを思いついたときみたいな。
子供をからかってやろうという、そんな顔。
「ハスール」
「はい」
「君、今日から籠喜くんの面倒を見てあげて」
「……」
「……」
「「……は?」」
声が重なった。
俺とハスール。
学園長はにっこり笑った。
「同室で」
「はあ!?」
今度は俺だけだった。
「ちょっと待ってください!」
「何かな?」
「何でですか!?」
「罰だから」
「罰の内容がおかしくないですか!?」
「そう?」
「そうですよ!」
俺はハスールを見る。
ハスールも俺を見ていた。
さっきまでの決闘中よりも、なんなら、最初に合った時よりも、明らかに嫌そうな顔をしている。
「学園長」
「何?」
「ボクは反対です」
「却下だよ」
学園長は楽しそうに笑っていた。
「それにねぇ、ハスール」
学園長の声が少しだけ変わった。
「君が一番適任だと思うよ?」
「……何故」
「君が一番、この子に興味を持っているから。そうだろう?」
ハスールが黙った。
俺も黙った。
学園長は、俺たち二人を交互に見る。
「君はこの子の異能を調べたい」
「……」
「そして籠喜くんは、魔法を覚えたい」
「……まあ」
「だったら、ちょうどいいじゃない」
確かに。
言われてみればそれはそうなんだ。
俺は魔法を教えてほしい。
ハスールは俺の異能を調べたい。
目的は一致している。
……一致しているけど。
「でも同室って」
「仲良くなれるよ」
「いや、別にそこまで」
「お前」
ハスールが口を挟んだ。
「何だよ」
「ボクも嫌だ」
「なんで俺に言うんだよ!」
「お前が嫌そうな顔をしているから」
「そりゃ嫌だよ!」
学園長が笑う。
「決まりだね」
「決まりなんですか!?」
これで!?こんな不仲な感じで!?
俺の抗議は、老人の笑い声にあっさり飲み込まれた。
こうして、 俺は異世界に転移してから数時間も経たないうちに、魔法学園の首席と決闘をして。魔法が効かないという謎の異能を発見して。その首席に勝負を挑まれて。その首席と同室で暮らすことになった。
人生、何が起こるか分からない。
でも多分、こういうのを塞翁が馬、というのは違う気がする。
だが、このときの俺はまだ知らなかった。
このハスキストン学園という場所が。
俺が元の世界へ帰れるかどうかを考えるより先に、俺自身がこの世界で何をするのかを考えなければならなくなる場所だということを。
そして、ハスール=セルラインという、面倒くさくて、口が悪くて、やたら魔法が上手い首席が。
これから先、俺の異世界生活において。
思っていた以上に長く付き合う相手になることも。