チートっぽい能力より、運動神経が欲しい。   作:用務員級学徒

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この話面白いか…?
書いてては楽しかったけど……


研究風景は本人たちだけが面白いのでは?

結局、学園長には会うことのないままに、最後の案内──ハスールの特別室、とやらにたどり着いてしまった。

さっきはどうにかなるとも思ったが…しかし、ちょっとばかし心にいやーな気持ちが残る。

 

「ま、案内するならこれぐらい。あとは自分で慣れてって」

 

だが、ハスールのその一言で、思考が現実に戻ってきた。

まあ、考えてもしょうがないか。

 

「ん、了解。…で、これからどうするんだ?」

 

俺がこっちの世界に来た時が、大体昼飯過ぎ。

突然の決闘とか案内をしてもらったとはいえ、まだまだ夜には程遠かった。

 

「研究。お前の能力を理解するに越したことはないから」

 

「またかよ……決闘で似たようなことはもうしただろ……?」

 

俺だって理解したくないわけでもない。

そりゃ初めて見つけたチート…まあ、ハスールに言わせるとそうでもないらしいけど……いや、そんなことはどうでもいいんだよ。とにかく、俺の異能について知りたくないわけじゃねぇ。でも、一日目ぐらいは休ませてもらってもいいだろ……?

 

「かはは、これに関しちゃあ、俺はハスールに賛成だな。わけのわからない力ってのはそれだけで危険だし、なぁ」

 

「確かにそれはそうだよねー。まあでも?休憩大切なのはそうでしょー」

 

「そうですよね…あ、でも最悪カゴキさんは座ってるだけでも研究は成り立つんじゃないですか?」

 

三者三様に俺の異能研究に乗り気らしい。

なんなら俺のことを気遣ってる風のリサさんでさえ、好奇心のせいか、目がキラキラしている。

……この学園の生徒はみんなこんな感じなのか?

それとも、この四人が特に好奇心が強いのか。

 

多分、俺の休憩と研究を両立させようと、新たな提案をしてくれたハルジートさんだけど、一番俺的につらいのはそれなんだよなぁ……あの魔法撃たれるの、少なくとも俺の異能のおかげで肉体的には疲れないんだが……ふっつうに怖いし、精神がつかれる。

 

「ふん…多数決で研究に──っていうか、なんでお前らもやるみたいな雰囲気で進んでるんだ?」

 

「えー?いいじゃんいいじゃん。最初に言ったっしょー?カゴキの異能について知りたいのはー、ハスールだけじゃないんだってー」

 

ハスールは分かりやすくしかめっ面をした。

 

「別に、参加する必要はない」

 

「えー?でも、気になるじゃん」

 

「そうそう。独占するもんじゃねぇだろ?カゴキの異能も。…つーか、ハスール一人に任せといたら、カゴキが何されるか分かったもんじゃねぇし」

 

「どういう意味」

 

「そのまんまだよ」

 

ベックスが悪びれもせず言うと、ハスールの眉間の皺がさらに深くなった。

 

「無意味なことはしない」

 

「その()()()の基準がお前の場合おっかねぇんだよ」

 

「失礼な奴」

 

「決闘で初対面の相手に本気で魔法ぶつけた奴が言うか?」

 

思わずツッコんだ俺の言葉に、ハスールが黙った。

 

どうやらそこは反論しにくいらしい。

別にハスールは俺を傷つけようとしたわけでもないだろう。

あの決闘だって最初は学園に侵入したも同然の俺の言い分は聞いてくれたし、その上で立ち位置を理解させる、とかいうハスールからすれば真っ当な理由があった。

つまり、俺のことを必要以上に脅したいわけじゃなかったわけだ。

 

「……まあ、いいぜ。俺も異能については知りたいところだ」

 

休みたいけど…まあ、もうそれはあきらめよう。

どうしようもねぇ。

 

「さっさとそう言っとけばいいのに。……じゃあ…まあ、入って。部屋の奥に個人用の訓練場があるから、そこでやろう」

 

「やったー!一回首席専用室とか入ってみたかったんだよねー!」

 

「もう…はしゃぎすぎだよ、リサ。気持ちは分かるけど……」

 

二人はそんな会話をしながら、ハスールの後についていく。

ハルジートさんも、リサさんのことを静止しつつも、少し喜んでいるように見えた。

そんな二人に続き、俺とベックスも入っていった。

 

 

◇◇◇

 

 

首席の──ハスールの特別室。そう聞くと、なんとなく豪華な部屋を想像していた。

実際に、豪華だった。まるでホテルの一室みたいな感じで。

少なくとも、俺が今まで暮らしてきた日本の高校生の部屋と比べれば、明らかに広い。

 

玄関から入ってすぐに小さな居間があり、その奥には机が二つ。窓際には本棚が並び、その本棚は天井近くまで伸びている。壁には何かの魔法道具らしきものまで取り付けられていて、部屋の隅には簡素なキッチンまであった。

部屋の広さに対して簡素な感じはあったが、それでもやはり豪華だ。

 

「おお……すげぇな。やっぱ、寮だとこうもいかないのか?」

 

「流石にこうはいかねぇよ。もっとちっせぇし、キッチンなんかもねぇ。普通の部屋っつうか……机とベッドが置いてあるだけって感じだな」

 

ベックスの返答に相槌を打つ。

そりゃそうか。寮の部屋の全部がこうだったら流石にやばい。

 

「部屋のことはどうでもいいから。早く訓練場に行くよ」

 

ハスールは俺等の興奮を他所に、さっさと部屋の奥に進んでいく。

奥に見える扉が、訓練場への入り口らしかった。

 

 

◇◇◇

 

 

訓練場は特段派手というわけでもなかった。

なんなら、さっきの案内で見た訓練場の小さい版、といった感じだ。

 

様々な大きさの的が、近、中、遠、みたいに乱雑に置かれている。

いや、実際は乱雑にみえるだけで、実はうまいこと考えられているんだろうさ。たぶん。

 

「それじゃ、やるよ」

 

ハスールが杖を構える。

いつの間にやら四人に四方から囲まれる形となっていた。

いろんな方向から見るためだろう。

 

ハスールの声に、いいぜ、と答えようとして、思い出す。

 

「……なあ、研究って言ってもよ、実際なにするんだよ。俺、一切聞かされてないんだけど?」

 

「別に、聞かなくても研究はできる」

 

相変わらずの自分勝手さだった。

 

「いや……あれだろ。俺の意見も大事なんじゃねぇの?研究ならよ」

 

「……確かに」

 

ぶっちゃけ、口から出まかせだったんだが…ハスールはそれに納得したらしい。

こういう、研究関係のことを言うと、大体の場合はハスールは納得する。

ベックスが今の様子に、声を殺しつつ笑ってることから、多分合ってるはずだ。

 

「じゃあ、言うよ。…まずは条件を一つずつ変えて魔法を打つ」

 

「ああ、そういう感じね…」

 

「属性も、型も、距離も変える。まずは本質より可能性だ。対照実験で、効果のあるなしを測る」

 

「了解了解……つまり、死ぬほど魔法を打たれるわけだ」

 

結局、こうなるらしい。

まあ?最初から分かってたよ。どうせこうなるって。

 

「じゃあ、まずは光属性」

 

「光?」

 

「うん。最も扱いやすい属性だから」

 

ハスールの杖の先端が、ほんのりと光った。

眩しい…でも、直視できないほどじゃない。

 

というか、一番扱いやすいのが光なのかよ。

漫画とかだと聖なる魔法感あるけど──

 

「ルミ」

 

そんなことを考えてるうちに、短い言葉とともに、杖の先から小さな光が飛んできた。

ゆっくりとした光。

決闘の時とは全く違う、手加減された魔法。

 

だが、俺は反射的に身構える。

そして数秒の後に、光が胸に触れた。

 

瞬間。

消えた。

なにも、なかったかのように。

 

「予想通り」

 

「面白みもねぇな」

 

「属性で変わらないのかなぁ?」

 

「たぶん。属性は関係ない、はず」

 

四者四様の反応だが、結論としてはつまらない、だろう。

決闘で光は確かに使われなかったが…それ以外の魔法は、無効化していたし。

 

「もう一度」

 

「え?」

 

だが、ハスールには何かしら考えがあったらしい。

 

「同じものを使う」

 

「……分かった」

 

杖が光る。

 

「ルミ」

 

また光が飛んでくる。

俺に当たる。

消える。

 

「もう一度」

 

「おい」

 

「もう一度」

 

「ハスール」

 

「もう一度」

 

「分かったって!」

 

三度。

 

四度。

 

五度。

 

同じ光が俺に当たり、そのたびに消えていく。

痛くはないし、熱くもない。

何かが体の中に入ってくるような感覚もない。

 

ただ、当たった瞬間に、最初から存在しなかったみたいに消えるだけ。

 

「……なるほど」

 

ハスールが呟いた。

 

「どう?」

 

「まだ分からない」

 

「分からないのかよ」

 

「これだけではね」

 

「そりゃそうか」

 

ハスールは杖を下ろした。

その目は俺から離れない。

 

「後は磁ぐらいか……」

 

そうつぶやき、ハスールは他の三人に呼び掛けた。

 

「金属のモノ、持ってない?」

 

「金属?」

 

俺が聞き返すと、三人がそれぞれ自分の持ち物を確認し始めた。

 

「金属なら、これとか?」

 

最初に手を挙げたのはリサさんだった。

 

取り出したのは、髪をまとめるための小さな飾りだった。細い金属の輪に、よく分からない装飾がついている。

 

「それでいい」

 

「ほんと? じゃ、はい」

 

リサさんが投げる。

ハスールは片手で受け取った。

 

「…軽い」

 

「髪飾りだからねー。そりゃそうっしょ」

 

「まあいい。実験には使える」

 

ハスールは髪飾りを机の上に置いた。

そして杖を構える。

 

「磁属性は、対象そのものを動かす」

 

「ほう」

 

「ただし、金属なら何でも自由に動かせるわけじゃない。対象の質量や距離、形状によって必要な魔素量は変わる」

 

「へえ……」

 

「お前の異能が、魔法そのものだけを無効にするのか、それとも魔法によって生じた現象まで無効にするのか。磁属性なら、それを確認できる可能性がある」

 

「なるほど」

 

言われてみれば確かにそうだ。

光や風なら、俺に当たった時点で消える。

多分、霧散してるかなんかだろう。

 

火も消える。水も消えた。

でも磁属性の場合、魔法で金属を動かして、その金属自体が俺にぶつかったら?

 

魔法が消えるのか?

それとも、動き出した金属の慣性はそのまま残るのか。

 

ハスールが知りたいのは、たぶんそこだ。

 

「……じゃあ、やってみよう」

 

ハスールが杖を髪飾りへ向ける。

 

「ジャル」

 

机の上に置かれていた髪飾りが、すっと浮いた。

 

「おお」

 

思わず声が出た。

さっきまでの光とは違う。

目に見えない何かが、確かにそこにある。

 

髪飾りはハスールの杖の先端へ引き寄せられるように動き、空中で静止した。

 

「これが磁属性」

 

「すげえな……」

 

「磁属性は光や風に比べると難しい。操作対象そのものが存在するからね」

 

「じゃあ、それを俺に飛ばしたら……?」

 

「試す?」

 

「……」

 

俺は少し黙った。

 

「いや、やっぱいい。痛そうだし」

 

「そう」

 

ハスールはあっさりと髪飾りを机へ戻した。

 

「なら、まずはお前の近くまで動かす」

 

「近く?」

 

「異能の範囲を確認する。たぶん、これが一番わかりやすいし」

 

そう言って、ハスールは髪飾りを再び浮かせた。

今度は俺の方へ。

 

ゆっくり。本当にゆっくりと。

 

髪飾りが空中を移動してくる。

俺の顔の横を通り過ぎる。

 

そして、肩のすぐ横で止まった。

 

「……どう?」

 

「何が?」

 

「異変は?」

 

「いや、特に……」

 

俺が答えた、その瞬間だった。

髪飾りが落ちた。

床に当たって、小さな音を立てる。

 

「……」

 

ハスールの目が細くなった。

 

「やっぱり」

 

「何が?」

 

「今、異能が働いたな」

 

「え?」

 

「魔法そのものが消えたわけじゃない。魔素の操作が、お前の近くで途切れている」

 

「……つまり?」

 

「お前の異能は、魔法に触れた時だけ発動するわけじゃない可能性がある」

 

部屋の空気が、少しだけ変わった。

 

「決闘のときは、お前に魔法が触れた瞬間に消えた。だからボクは、触れたものだけを無効化する能力だと思っていた」

 

「違うのか?」

 

「分からない」

 

ハスールは床に落ちた髪飾りを拾った。

 

「だから調べている」

 

「……なるほどな」

 

俺自身ですら分かっていなかった能力のことを、こいつは一つずつ調べている。

それが妙に新鮮だった。

 

異世界に来て。

突然変な能力を持っていて。

自分でも何なのか分からないような。

 

そんな俺にとって、こうやって一緒に答えを探してくれる人間がいるというのは、思った以上に心強いことなのかもしれない。

 

「なるほどな……仮説言ってもいいか?」

 

ベックスが口を開いた。

何かを思いついたらしい。

 

「構わない」

 

「ん、センキュ。じゃあ言うけどよ、カゴキの周りになにかしら、魔素の動きを遮断する物質でも流れてるんじゃないか?それなら、今の現象も、設置型に反応しないのも説明つくだろ?」

 

「ふむ……」

 

四人は考え込む。

俺としては、なるほどといった感じだった。

俺自身の体質じゃなく、俺の周りに何かがある。

確かに、説明は付く。

 

「……いや」

 

 最初に口を開いたのはハスールだった。

 

「説明は付くけど、問題がある」

 

「問題?」

 

「そう。もしお前の周囲に、魔素の動きを遮断する何かがあるなら、それは常に存在しているはずだ」

 

「まあ、そうなるよな」

 

「なら、お前自身は魔法を使えないのか?」

 

「……え?」

 

思わず間の抜けた声が出た。

ハスールは俺を指差す。

 

「お前は魔法を使えないと言っていたね」

 

「ああ。そもそも使い方を知らないし」

 

「それだけ?」

 

「いや……」

 

俺は自分の手を見る。

 

「異世界に来たばっかりだから、魔法なんて使ったことないんだよ。だから、使えないっていうより、使い方を知らないっていう方が正しいかもな」

 

「そこだよ」

 

「どこ?」

 

「お前が魔法を使える可能性はある」

 

「……」

 

言われてみれば、確かにそうだった。

この世界では、人間なら誰でも魔法を使える、っていう話だ。

俺だけ使えない、なんて話はまだしていない。

 

「もしお前の周囲に魔素を遮断する何かがあるなら、お前が魔法を使おうとした時にも同じことが起きるはずだ。ところがお前は、そもそも魔法を使った経験がない」

 

「つまり?」

 

「実際に試さないと分からない」

 

「……」

 

嫌な予感がした。

 

「ハスール」

 

「何?」

 

「まさか」

 

「やってみよう」

 

「やっぱりかよ!」

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