目を覚ました時、飛び込んできた景色は……丁度中心にライトがある天井だった。上を向いてる、それだけが分かる。首を動かしてみると窓と何やら果物が入っているバスケットがあった。好物のリンゴがこれでもかと積まれていた。そして反対側には窓、気持ちの良さそうな青空が広がっていて、そこを何やら飛び立っている巨大な龍のような何かが見えた。
「……えっ龍!?」
思わず身体を起こして窓を開けて身を乗り出してそれを見た、背中に翼があって四本の手足がある……ドラゴンだ……しかもなんかコスチューム的な何かを着てる……なんなんだあれは……
「っ……~♪」
「あっ……お~い……」
自分の視線に気づいたのか、ドラゴンは笑いながら手を振ってくれた。いかつい顔なのに笑っているのが分かるとは……不思議なものだ。手を振り返していると、いつの間にか空の彼方へと飛んで行ってしまったそれを見送ってから腰を落ち着けた。如何やらベッドに横になっていたらしいが……自分が着ているのも所謂患者衣、入院服であることに気づく。
「入院、してるのか俺……?」
お見舞いと思われるリンゴを一個手に取る、食べて、良いんだろうか……なんか小腹も空いているので食べたいのだが……取り敢えずこういう時ってどういう風にするべきなのだろうか……ナースコールという奴を押すべきなのだろうか……入院した事なんてないし……
「これか、ぽちっとな」
押してしまった。よく分からないけど状況を把握する為には必要な物である筈……手の中でリンゴを転がしながらもどうして自分はこんな所にいるかを考える、が、全く思い出せない、というよりも……直近の記憶という物がない。それより前の記憶はあるのだが……
「転生後の世界がこれか……ヒロアカやん……」
僕のヒーローアカデミア、ジャンプの人気作品だったが……生憎自分はそこまで読んでなかった。アニメのOPの曲良いなぁと思ってそっからはいると思ったら米津の方に流れてたし……。
「……いや記憶があるって認識はあるけど……読み込めない……?」
この体の記憶のメモリーの中にあるフォルダがあるのは分かる、だがそれを読みこんで記憶として引き出す事が出来なくなっている。これは俗にいう―――
「これが噂の記憶喪失!!?」
「なんでお前はそんなに元気そうなのかが理解出来ん」
振り返ってみると、そこには無精髭にボサボサの頭に如何にも疲れてますと言いたげな細い目をした男がいた。端的に言って……なんだこいつ、と言いたくなるような感じの雰囲気なのだが……妙に親しみを覚えるというか……何故なのだろうか。
「貴方は、誰なんですか……?」
「……今説明する、いいか、合理的に解釈しろ、以前のお前は出来ていた、今のお前が出来ない道理はない……まあまずは医者の診察からか」
「あっナースコール押してたの忘れてました」
この後医者と看護師による驚きの声、検査やらなんやらで結局話が始まったのは……夕方頃になってしまった訳だが……結論から言うと、自分は数か月の間意識不明の重体にあった。何故そうなったかと言われると、ヒーロー資格の仮免を用いたヒーローインターン中に指名手配中のヴィランと遭遇し戦闘、市民を庇った結果として頭部を強打しそのまま意識不明となった……との事。
「……つまり、俺って……成績優秀なヒーロー候補生?」
「端的に言えば入試も首席で雄英体育祭でも準優勝だったぞ」
「マジか」
「まあ俺が担任ではなかったけどな、俺から見ても除籍する必要性のない優秀な奴だった」
雄英生で首席で体育祭でも準優勝……普通に優秀だぞこの身体……そんな事を顔に出さないようにしながらも、目の前の相澤先生からの言葉に耳を傾ける。
「さて、合理的に行こう。鋼流 心」
「あっはい!!」
「お前は留年だ」
「……なんでぇ!!?俺優秀な生徒だった―――も、もしかして出席日数とかその辺り……」
「合理的で結構」
優秀な生徒と言われたのに留年と言われてしまって焦るが、直ぐに理解する。入院している間に授業に出る事が出来なかったが為に出席日数が足りなくなってしまっている、これは確かに成績優秀とか全然関係ない。
「ち、因みに俺どの位寝てました……?」
「約3か月だ。因みに今は12月の中旬で」
「……確か年間授業の三分の一ぐらいで危険が危ないらしいし90日も出てなけりゃそうかぁ……留年とか創作の世界の事だとばっかり思ってたぁ……(いやある意味その通りだけどぉ……)」
「それとお前、奨学金で雄英通ってるからそっちの方面も色々あるだろうな」
「俺奨学金生!?」
「……それも覚えていないか」
仮免取得者でインターン中に入院して3ヶ月意識不明で記憶喪失になりました、端的に自分の状況を表すとこうなる、極めて濃密である。そして奨学金生、最後だけやたらリアルな事情……と思いながらも頭を抱えてしまう。自分はかなり困窮しているという訳だ、この入院費だって馬鹿にならないだろうしどうするべきか……と悩ませていると相澤は心配無用とその不安を切り捨てた。
「安心しろ、入院費に関してはお前を受け入れたヒーローが出してくれているし奨学金云々についてもうちの校長が既に交渉済みだ」
「マジっすか……一生徒にどんだけお熱なんすか」
「ヴィランとの戦いを見ていた一般人を身を挺して守った、なんてヒーロー的な行動なんだと世間は盛り上がった。そんなお前へのサポートを怠るのはマズいんだと」
「そもそもヴィランとの戦いを観戦してる人たちに問題があると思うんですが……」
「全く以て同意見だな」
俺と同じ意見で何よりだと言わんばかりに笑う相澤、極めて不合理的だと相澤は言う。ヴィランがそちらを狙えばヒーローは守りに入らざるを得ないし人質に捕らえれる可能性だってある、それらの危険があると分かっているのに応援と称して避難を行わない馬鹿共がいる。そんな奴らの為に、生徒が意識不明になった……そう思うと腹が立ってしょうがない。
「……すまん、いらん事まで喋った」
「あっいえお気になさらず……えっと、先生、俺何時まで入院してるんでしょうか……?」
「まだ詳しい事は分からんが……今月までには明らかになると思うぞ、それと留年の件だが―――プラスに捉えろ」
「プラス、ですか?」
唐突に、相澤は留年を良い事に考えろと言い始めた。留年はどう考えても良い事ではないのでは……という顔をしているのか、相澤は言った。
「お前は同級生に比べて3ヶ月のブランクがある、それを埋めながら同時進行であいつらと同じ立場で走るのは困難になるだろう。来年の1年と共に自分を一から鍛え直せると思え、そう思えば割とプラスだろう」
「……でも、留年って世間的には……あっそうか、俺の事情」
「そう言う事だ」
一般市民を守って意識不明の生徒、というお題目があるので世間的にも同情を買えるし状況を理解して貰える事だろう。ならばそれを最大限に活用する事を考えるべきだと相澤は言っている、留年は確かに厳しいかもしれない、ドロップアウトと言っても過言ではないがお前はそうではない。だから気にせずに自分を高める時間が増えたと前向きに捉えろと、励ましてくれている。
「……有難う御座います先生、俺、来年も先生のクラスが良いですね」
「当たり前だろ、お前は問題児だからな」
「優等生じゃなくて!?」
「意識不明の重体になった奴が優等生な訳ねぇだろ、退院したら扱いてやるから覚悟しとけ」
「ひ、ひぇぇぇぇ……」
これは、この世界にやって来た俺が、鋼流 心として、ヒーローを目指す物語だ。その始まりは厳しい物になりそうだけど……頑張ってみようと思う。
「それとだ、お前の彼女にはタイミングを見て起きた事を言っておく」
「―――……えっ俺彼女いるんすか!!?」
「それも忘れてたか……俺からしたら何であんなのと付き合えるのか分からん、お前の趣味は理解不能だ」
「ちょっと待って怖いんですけど俺!?どんな彼女なの!!?」
「キレるとお前の顔面を爆発させる奴」
「アイエエエエ……実際、スゴイコワイ!!?」