「(ホークスの予感は大正解、だったって事か……)」
流石は速過ぎる男、今度リンゴの差し入れでもしよう、アップルパイにしたら喜んでくれるかな?と思いながらも相手を見ながらも、さりげなく胸ポケットに入れていたスマホで相手の姿を録画しておく。しかし、改めても珍妙な……顔を覆うようにまるでアイアンクローでもするかのように付けられている手首、それらが腕や二の腕、足にもある。一方服こそ着ているが顔や手がぼやけているというよりも身体自体が黒い霧のようになっている。
「ハルドメルグ、ああっあの入院してたっつうヒーローか、なんだ学生だったのかよ」
「テメェらヴィランのお陰で留年してるけどな」
「ははっなんだ落ちこぼれかよ、ざまぁねぇな」
「うるせぇ社会からドロップアウトしてる奴らに言われたくねぇやい」
此方を見下し笑い物にしている乾いた肌で血色の悪い男、だがそこまで口が堅い感じではない。上手くやれば情報を引き出せるかもしれない。
「一応聞いとくぜお兄さん、何しに雄英の此処にいるんだい、入ってみたかったってだけじゃ通らねぇぞ。ステルスを楽しみたいんだったら目的は達成してんだろ」
「あ”~……そうだな、目的は既に達成してるからランク的には最高評価点は取ってんだろうな、お前にさえ見つからなきゃな」
「イレギュラーがあるからこそ楽しんだぜ人生は、チートなんて流行らねぇよ」
「まあいい、おい黒霧退散すんぞ」
「悪いが―――そのまま行かせる訳が、無いんだよねぇ!!!」
体内の鉄分を金属に変えて、先端を鋭利に仕上げた銀色の槍を思いっきり伸ばして突き刺しに掛かる。それは軽い口を叩いてくれた男の肩を掠めた直後に、黒霧と呼ばれた者が展開した黒い霧へと飲み込まれていく。同時に妙な感覚を覚える、飲まれたのに伸び続けている感覚がある、これは、つまり―――咄嗟に身を屈めると先程まであった心臓の辺りまで来ていた。
「っぶねぇ!!?」
「おい黒霧!!テメェもっと早くやれ!‼当たったじゃねぇか!!!」
「申し訳ありません死柄木弔、ですが想像以上に早い上に反射神経も見事です。目的は先程貴方が言ったように果しました。退きましょう」
「ちっ―――おいお前、次会った時は殺してやるから楽しみにしてろ」
そう言って黒い霧が幅広く展開されていくと死柄木弔と言われていた男はその中へと入り、最後に黒霧自身がそこに入り込んでいくように消えていく……そして職員室の中には鋼流一人だけ、という状況へとなった。
「……行った、な……逃がした、いや情報は簡単にだけ引き出せたし及第点って事にならねぇかなぁ……」
ヴィランであったであろう二人が居なくなった後、先程まで二人がいた地点を軽く見ていると机の上に一枚の紙がある事に気づいた、しかも紙の一部何故かボロボロになっている。
「なんだこれ……って机もじゃねぇか」
紙を拾ってみると机の一部もボロボロと崩れている、これはもしかして死柄木弔の個性のヒント……手に触れた物を風化させるとか、そういう感じの個性だとすれば納得がいく。そうなると対策も取りやすくなる。そう思って相澤に連絡を取る。
『なんだ今こっちはマスコミの対応で忙しい、雑事なら後にしろ』
「率直に言います、職員室に人を寄こしてください。出来るだけ早く」
『……分かった今対処可能な人はミッドナイトさんが行ける筈だ、話を通す』
マスコミ対応中というのであればあくまで内容は詳しく話さない方が良いだろう、そしてそのまま職員室で待っていると二つの影が入って来た。
「待たせたわね鋼流君」
「やぁっ鋼流君、怪我はなかったかい?」
一人は本当にこれがヒーローの見た目としていいのかと言いたくなる女性ヒーロー№1のミッドナイトと校長の根津であった。鋼流は事情を説明すると二人は直ぐに神妙な顔付きになり、警察が到着次第、対応を其方に任せると緊急の会議が開かれる事となった。そこには鋼流の姿もあった。
「という訳です。緊急事態とはいえ無許可で校内で個性を使って職員室に突入してしまった事に関しては申し訳ありませんでした」
「いやいや、君は既に仮免を取得しているし緊急性の高い今回の事で君を責めるつもりはないから安心してほしいのさ。ホークスには此方から感謝の連絡をしておくね、それにこの映像もよく撮ってくれたと言わざるを得ない」
会議の中央部、球状の投映ディスプレイに映し出される自分がスマホで撮影した映像には自分の軽口も含めて相手の言動、個性なども確りと映し出されている。
「情報の引き出しを行おうとしたんですけど、流石あれ以上の引き出しは難しいですし、捕縛も同様だと思って逃がしました」
「妥当な判断だ、この黒霧の個性はワープなどの座標移動転移型の個性だ。それが座標を指定するのか、それとも接触したあるいは見た事がある人間にマーキングする方式なのかは知らんが、盾として生徒やマスコミを引き寄せてきた可能性も否定出来ない」
ヴィランの拘束を諦めていた自分をフォローするように相澤がそう言って来た。それ自体には他の教師も賛成であり、当人も怪我をしていないし寧ろ情報を引き出すだけ引き出しただけでも上々の成果だと言わざるを得ない。
「後ですけど、机と紙が一部ボロくなってたので死柄木弔って奴の個性は対象を壊す系の物の可能性があると思います」
「ケケッその机の方はこっちの方で調べておくさ、と言っても大したもんは出ないかもしれないが調べてみれば個性が発動して効力を示すまでの時間の推測やらもできるさ」
「パワーローダー先生の言う通りだけど、鋼流君の活躍で今回マスコミを引き入れた主犯であると思われるヴィランの見た目や体格、個性などが明らかになって、そこから性格なんかの細かな部分を絞り込んでいく事だって可能なんだ」
教師陣からすれば生徒が危険な事をしたと咎めなければいけない部分も無い事も無いが、ほぼ最善手に近い選択を取れていた鋼流を叱る権利は余りない。仮免取得者でインターンも経験済みなので扱い的にはほぼプロヒーローとしても問題ない。
「今回の事でヴィランが何かを企んでいる事が明らかになった、唯の悪意か宣戦布告かは雄英のセキュリティ突破だけでは判断しきれなかったけどこれではっきりした、これは明確な敵対意志だ。可能性としては雄英のスケジュールやカリキュラムの情報が抜かれたかもしれない。各学年の担当は気を引き締めておいて、それと可能な限り実働を伴うヒーロー基礎学などの授業では複数人での指導を、必要であれば他所からプロヒーローの応援要請を出す事も許可するよ」
鋼流はホークスからの助言で動いた事が想像以上の事に繋がっている事を理解してやや顔色が青くなり始めた、もしかして自分とんでもない事をしたのでは……そんな自分の肩を相澤が叩いた。
「何も分からずにてんやわんやするよりも、何かあると想定して準備するてんやわんやの方がマシだ。無駄な努力も行動も俺は嫌いだが、無駄になる努力ならば次の機会に回せる、合理的に考えておけ、お前は間違った事はしていない」
「はい」
「まあ新学期早々に忙しくなることについては恨むけどな」
「それ俺じゃなくてこのヴィランに言って貰えますぅ!?」
「くそ何がハルドメルグだ、ふざけた名前で調子に乗りやがってあいつ!!!」
『―――弔、今ハルドメルグと言ったのかな?』
「ああっ!?ああ、言ったけどなんだよって黒霧もう少し丁寧にやれ!!」
「すいません死柄木弔」
『いやいや……これは嬉しいねぇ―――弔、次は彼の後輩を連れて行くといい』