翌日、医師からは全く以て健康体であるが、検査の為に数日は安静にしているように通告されたので大人しく寝ている事だけをしている。暇と言えば暇だが、模範的な入院者と言えるような健全な入院生活を送っている。考えるのはこれからの事である。
「二度目の1年生生活かぁ……周囲との話題作りとか考えてた方が良いかなぁ……」
自分は現在雄英高校の1年A組、相澤の受け持つクラスの生徒の一人ではあるのだが、留年するという事は2年生に元同級生がいるという事になる。新1年も留年した先輩が同じ教室にいます、とか普通に気まずくなりそうだ……明るい子が多い事を祈っておこう。そして同時に思うのは自分の個性の事。
「使えるん、だよな……?」
一応先生から自分の情報を資料として貰った、入院中の間は大人しくする事と以前の自分を知っておけと言われたのでそれに努めているのだが……自分は1年の身で仮免取得者、本来であれば2年生の段階で行うはずのそれを取得する事が出来たという事は身体的にも優れているという事、そしてそれは……この世界の人々の大半が有している特殊体質である個性を持っている。しかもインターンが許可される程度には鍛えられている筈。
「……!!」
試しに近くに置かれてあるバスケットへと手を差し向けてみる、そしてそのまま……リンゴを掴むイメージを作ると、腕から光沢のある銀色の液体が一気に伸びてリンゴを掴んで引き寄せた。
「で、出来た……」
自分の個性は液体金属。自分の身体や周囲の金属を液体金属と化してそれらを操る事が出来る、今のは自分の体内になる鉄分を液体金属として操作、そして体外に放出。そして使い終わったら再度吸収した……という流れだと思われる。これを見て素直な一言は
「ハルドメルグかな?」
モンスターハンターフロンティアに登場する古龍が一体、司銀龍と呼ばれるモンスター。そのモンスターの能力もこういう感じの物だった、しかし何というか極めて殺意の高い個性だ……ハルドメルグはフロンティアでも屈指の攻撃力を持っていた古龍種でもある。これは、制御を確りしないとヴィランを逆に殺しかねない……。
だが同時に汎用性と拡張性にも優れているという印象を持った。金属としての硬度と液体としての柔軟性に富んでいる、という事は様々な事が出来るという事でもある。身を守る盾から相手を貫く槍、それらを自力で作り出せることになる。
「……これは、相澤先生に色々教えて貰わないと駄目だな」
「やる気があるようで結構だ」
「あっ先生」
リンゴを握っているとそこへ相澤がやって来た、手にはまたバスケットがありリンゴが入っている。自分ってそんなにリンゴ大好きマンだったのだろうか……。
「あの、そんなに俺ってリンゴ大好きだったんですかね」
「リンゴと言えばお前、って言われる位には。何処の死神だお前」
「俺が思ったけど敢えて言わなかった事を……」
再び増えたリンゴ、そんな事よりも相澤の背後にいる影が気になった。それを察したのか相澤が記憶がないから分からないだろうからと、紹介をした。
「お前も良く世話になってる人だ」
「YES!!ネズミなのか犬なのか熊なのか、その実態は―――君も通う雄英高校校長さ!!」
「えっ校長先生!?」
影の正体は雄英高校の校長を務めている根津、ぱっと見は白いネズミがスーツを着ている感じなのだが、人間以上の頭脳を持ち合わせている超ハイスペックを誇っている人物でもある。
「やぁ鋼流君、元気そうで何よりだね!!そのリンゴは僕からの贈り物さ、江刺りんご。是非とも味わった欲しいのさ!!」
「江刺のリンゴ……!?10キロ一箱28個入りで140万円した事もあるという日本国内最高級リンゴぉ!!?」
「なんでお前記憶ないのにそういう知識はあるんだ」
知らん、勝手に頭の中に湧いて来たんだ……どんだけリンゴ好きだったんだ……自分は。
「さてと、まずは色んな話をするべきだろうけどこれだけは言っておこう。君は本当に素晴らしい事をしてくれた、市民を守る為に何の躊躇もなく身を擲って誰かを守った……これを称えない人はいなかったと言ってもいい。君は意識が無くなる直前まで個性を使ってヴィランの攻撃を防ぎ続けていたんだからね」
「……と言われましてもその記憶も」
「無い事も承知しているよ、それでも君の行いのお陰で尊い命が守られた、という事実を理解して受けて止めて欲しい。そして君がこれからもヒーローを目指す事を応援させてほしいんだ」
これまでの自分はヒーローを目指して努力していた事は察する、今の自分にそれが出来るかと言われたら分からない、分からないけど……今の自分の心は叫んでいる。誰かの為になりたいと。
「校長先生、俺は……記憶を失う前の俺より強くなれますか。強くなれば……もっと多くの人を救えますか、今度は―――俺が満足出来るままに、やれますかね」
「出来るさ、僕達大人の役目は将来ある子供のサポートだからね」
その言葉を聞きながらも個性を使い、液体金属を伸ばしてリンゴを掴み取る。
「なら、やります。きっと、前の俺もそれを望むはずですから」
「その意気なのさ!!」
「やる気があるのは良いが、勝手に個性を使うな。病院内での不必要な個性使用は禁止されてる」
「あっすいません」
確かにこういう個性が自由に発動されたら大変だもんな……と思いながら反省。だが根津はうんうんと頷きながらもベッド近くに椅子を持って来て腰かけた。
「留年についてだけど、君は入院によって複数の単位を落としてしまっている。それらについて配慮すべきだという声もあるのも事実だけど、免除したとしてもこの差は大きい、2年生はかなり慌ただしくも厳しい物になってしまうかもしれないというのは相澤君から聞いているね。そこで、君は1週間後の退院と共にリハビリを兼ねた特別メニューを用意したのさ!!」
「と、特別メニュー!?」
「簡単に言えば、3か月間使わなかった身体と個性を叩き直す。安心しろ、死ぬ気でやりゃぁ死ぬ事はないだろう」
「それ、実質的に死なないように気を付けろって勧告ですよね……?」
如何やら自分は退院後にはリハビリという名の地獄が待っているらしい……まあ何とかするしかあるまい。死ぬ気でやれば死なないらしいし……。
「その場には君の彼女さんも呼んでるから、その時に再会の挨拶をすると良いのさ」
「えっと……彼女は、どんな様子で……」
「その子も今年の1年では仮免を君と共に取得した優秀な子だよ、君の目覚めを誰よりも熱望していた程さ。今はインターンで離れちゃってるけど……訓練開始日には此方に戻れるらしいよ」
「そうですか……そ、そのどんな子ですかね、相澤先生にはキレると顔面爆破されるって……」
根津は相澤を見て、君なんて事を……と言いたげだが、事実な上に本当に趣味が理解出来ないという相澤に根津は訂正するように言葉を紡ぐ。
「彼女は聡明で優しい子だよ、滅多に怒る事はなかった筈さ。個性は爆破……というよりも爆弾だね、寧ろ君じゃなくて君を馬鹿にした生徒の顔を爆破しようとしてたような気もするけど……」
「何それ怖い」
益々会うのが怖くなってきたのだが……一体どんな子なんだろうか。
「兎も角、君は三ヶ月の間自分を見つめ直す時間が出来たと思っていいんだ。奨学金云々とかは気にせずに過ごして欲しい、何か必要なものがあれば言ってくれれば用意するさ」
「それは有難いですけど……如何してそこまで、一生徒に肩入れみたいな……」
「単純さ、君はヒーローになれる、からさ!!」
「期待に沿えるように、します」
「だったら覚悟して置け、その期待に応えられるようにしてやる」
「お、お手柔らかに……」