「という訳で、俺がお前の面倒を見る、可能な限りな。俺にも通常時の授業はある、面倒を掛けさせ過ぎるなよ」
「は、はい……すっげぇあっという間に連れて来られたな……」
退院までの時間は本当に問題がないかの診察やら脳波やらの検査ばかり、漸く退院だと思ったら迎えに来た相澤の手によって雄英高校へと直行させられる始末。入院中も結局体を休められたのか?と思わなくもないが、不自由な生活からは解放される事となった。
「さて……まずは個性の状態を確認する。鋼流、お前は自分の個性を理解しているか」
「液体金属の操作……だと思ってます」
「合っている。個性届上は液体金属となっているが、実際は液体金属を操る物になっている。まずはどの程度できるかを改めて測る」
グラウンドで何をやるのかと思っていたのだが……如何やら1年の序盤でやる個性把握テスト、なる物をやるとの事。小学校や中学校でもやる身体計測の個性アリ版との事で、まずは50メートル走から、計測用のロボットを用意して準備を行う。
『位置にツイテ』
機械的な音声が聞こえて来る、スタートを告げるアナウンスだ。液体金属でどうやってスピードを補強する……どうすれば良いのか、攻撃やら防御は思いつくが……移動は思いつかな―――いや、答えは既に自分の中にあった!!
『用意、スタート!!』
合図と同時に地面を蹴ると同時に脚から地面を押し出すようにして金属を放出、それを何度も繰り返しながらもゴール地点に腕から放ち、地面を掴むと一気に自分を引き寄せる。まるで周囲が無数の線のような景色になりながらもゴールを過ぎる。
『3秒18』
「よっしゃあっ悪くなああああああっ!!!?」
いい結果が出たので嬉しそうにしながらも着地しようとしたが、そのスピードを制御しきれずにそのまま墜落するように地面に激突し、ゴロゴロと転げまわるようにしながらも停止した。
「……痛い」
「個性自体は最大出力時代は落ちてないが、使い方を忘れてるから実質的な弱体化だな。想定通りだな、立て」
「先生、アンタ人の心あるって言われた事ない?」
「年に何回かはある」
「やっぱしね……」
「担任に死ねとは良い度胸だな」
「違うからね?!やっぱし、ね……って事だから!?」
【第2種目】 立ち幅跳び
「これもさっきみたいに……跳べえええええっ!!?」
「4m72㎝、着地やらを優先した方が良いみたいだな」
「お、お願いします……」
【第3種目】 反復横跳び
「う、うおおおおっ気持ちわりぃぃぃ……」
「67回……左右に液体金属を伸ばして反復するか……悪くないが、お前なら100は超えてたぞ、努力しろ」
「う、うっす……」
【第4種目】 ボール投げ
「液体金属を活かして、鞭みたいにしつつボールを掴んで……遠心力を付けて、ドオオオオリャアアアアア!!!!」
「692mか……入学時よりかは伸びてるな、あの時も同じ活用法だったが」
「あら、既存ネタでしたか」
【第5種目】 握力
「ふんにゅうううううっ!!!!……86キロです」
「割と普通だな」
「まだ細かな操作が不安で……」
「メニューに加えてある、心配無用だ」
【第6種目】 上体起こし
「56回、入学時より落ちてるな」
「まあ入院してましたし……ってどうしました?」
「これこそあいつにやらせりゃ良かったと思っただけだ、気にするな」
【第7種目】 長座体前屈
「ぐ、ぐぐぐっ……」
「液体金属なのにお前身体は硬いな」
【第8種目】 持久走
「こ、こんなに走れるとか感動もんだな……」
「以前の2倍か……まあ3ヶ月で取れる程度の錆なのは理解した」
そんなこんなで終了した個性把握テスト、結果としては一部は入学時に行った物よりも上回っているが、それは個性の最大出力自体が向上している為であり、基本的な肉体能力は入院の影響もあって衰えが出ている事が判明した。
「一先ず、お前の状況は理解した。このデータを基にメニューには修正を加えた物を明日からこなして貰う」
「それじゃあ、今日は?」
「今日は……TDLで個性を使って慣れておけ」
「えっ東京―――」
「そっちじゃない」
TDLというのは略称で、正式名称をトレーニングの台所ランド……いやアウトだろ、と思うのは自分だけなのだろうか……一先ずそこで個性を自由に使い、個性の扱いに慣れておくという事になった。相澤曰く、こっちも仕事があるので此方ばかりを優先出来ないと言われた。
「まあその代わりの人材が来るだろうから自主練してろ」
「分かりました」
「んじゃ」
TDLの鍵を渡され、帰る時は戸締りを頼むとだけ言われて相澤は去っていく。その背中を見送りながらもTDLへと入っていく、中はかなり広くこれならば存分に個性を扱っても問題ないだろう。
「んじゃ、思いつく限りの事をやってみるか……」
液体金属で出来る事を手当たり次第に試していく。全身に鎧として纏う、盾や剣などと言った武具を生成する、移動に活用するなどの事を一つ一つ検証しながら試してみてそれが何処まで出来るのかを試す。
「こ、これ以上は……キッツいなぁ……これっ……!!?」
膝を付きながらもそれ以上の液体金属の展開を中断する、体内の鉄分などを活用している関係で余り過度に体外への放出は危険だと思ったが……激しい動機や眩暈、呼吸困難なども引き起こしかけながらもそのギリギリの範囲を見極めた。
「だとしても、結構な量だぞこれ……」
視界にはTDLの床に液体金属の水溜まりが出来ている、流石に床全面を埋め尽くせる程の量ではないが……それでもかなりの量だ。そしてそこへあるイメージを注ぎ込んでみる、液体金属は独りでにそのイメージに沿った形へと収束していく。金属質な輝きを放つ人間サイズのマネキンが二体……と余りのような液体金属の玉がそこにある。
「……魔術工房爆破された魔術師の魔術みたいだ……よし戻れ」
そういうとそれらは一気に身体へと集って吸収されていく、吸収する毎に感じていた苦しさや痛みが消えていって酷く楽な状態になっていくのが分かる。吸収し終えると寝っ転がりながらも天井を見上げる。
「……俺はどんな風にこの個性使ってたのかな」
記憶を失う前はどんな風に使っていたのだろうか、どんな活用方法があって、どんな風に使っていたのか……いや、それらを知る前に自分で試行錯誤してみるべきなのだろうか。前の自分と今の自分は明確な別人であるのだから、発想も違って来る筈、だったら二人分の知識を活用できるのだから、まずは自分でやれるだけやってみるべきなのではないか?
「と、なると試せるだけ試してみるしかないのかなぁ……」
「うんそれが良いと思うよ、それが
「そりゃどうも……ってしんじゃなくてこころなんすけど……」
「うん知ってるよ、だから呼んでるんだもん」
「いやそれもう半分ぐらい唯の弄りってどなた!?」
自然な流れで入って来た言葉に一瞬普通に会話しそうになったが、最後の最後でツッコミを入れた辺りで気付く事が出来た。真横を向いてみると、その人はいた。暗めの紫色をした髪を靡かせながら、此方を覗き込むように向けられた瞳はまるで、深淵を覗き込むような気分になる深い瞳。何処か悪戯成功と、微笑みながらも心の底から安心したと言わんばかりの表情をする彼女に、なんて言葉を掛けたらいいのか分からなかったが―――開いた唇が、彼女の人差し指で止められる。
「―――初めての言葉は私から言わせて……お帰り、待ってたよずっと、ずっと……」
瞳から零れる涙が、その言葉の重みと中にあった感情を思わせた。3ヶ月、短いと言えば短いが長いと言えば長い時間、自分は昏睡状態にあって、彼女は如何する事も出来なかった。そう思うと、申し訳ない、今の自分は彼女の知っている自分ではない……そんな自分の内面を察したのか、笑っていった。
「気にしないで、心ちゃんのせいじゃないっていうのは分かってるから、だから今度は私が守るね、貴方を絶対に……守るから」
そう語る彼女の瞳は、僅かに暗い物が宿っていた。ギラギラとしながらも何処かドロついた粘液のような……もしかして相澤が言ってたのはこういう事を指しているのでは……と思い始める。
「改めて自己紹介ね、私は貴方の運命の人で恋人のレゼ。気軽にレゼって呼んでね。恋人なのに自己紹介って変な気分だね」
「そ、そうだね……えっと、宜しく、でいいのかな……」
「うん、宜しく」
そう言って差し出すか迷っていた手を取って握手をしてくれた事に思わずホッとしてしまった自分がいた、直後に握手が崩れて恋人繋ぎになった事に硬直した。
「こういう事いっぱいしてたのに初心になってるね心ちゃん……これってもしかして、私にとっては初心な姿をいっぱい見れる凄い美味しいチャンスなのでは?」
「不穏な事を言うのやめて下さい」