「記憶喪失かぁ……じゃあ私とあんな事やこんな事、こにゃららな事とか、ドヤラララ!!な事とか、全部忘れちゃってるのか……」
「何というか、申し訳ございません……」
「ううんいいのいいの、つまりまた新鮮な気持ちで出来るって事でしょ?美味しくない?ほら、面白いゲームとか記憶消してやりたいって奴と一緒だよ」
「いやその理屈は可笑しい」
隣に座りながらもニコニコと笑い続けている女性、レゼ。自分の彼女……という事らしいのだが……なんだろう、既に色んな意味で勝てない気がしてならない。
「それで、あ~……俺、留年する事になってその……」
「うん、それについては大丈夫全部相澤先生から聞いたから。私の方が先輩になるんだね~」
留年する事についてはそこまで気にしていない模様、彼氏が留年して後輩になるというのは色々問題が起きそうな感じがしなくもないのだが……
「新学期になったら私が教室に顔出して色々サポートしてあげるね」
「絶対同級生から色々言われる事解っていってますよね貴方」
「あっ流石よく分かるね」
「絶対不和の元かからかいの元になりますからやめてください」
「つまんな~いな~」
と言いながらも笑っている為かいまいち説得力という物がない。あと、手を重ねて来てワザとらしく動かしてみても追いかけるように手を重ね続けて来る。こういう距離感だったのだろうか……。
「そう言えばインターンに行ってるって聞きましたけど」
「うん、私は福岡のホークスっていうヒーローさんの所にね。知ってる?」
「皆目」
「う~ん記憶喪失も結構虫食いな感じなんだね、常識とかはある感じだけど個性関係とか全然だし変な感じだね。えっと私のインターン先は―――」
レゼ曰く、速過ぎる男と言われるヒーローで18でデビューしたのにも拘らず、現役のヒーロー番付でトップ10に入り、現在は№3ヒーローとして国内外から高い評価をされているとの事。そんなヒーローの下でインターンをしているレゼもとんでもないのでは……と思ったのだが、レゼは少々う~ん……と言いたげな顔を作ってしまった。
「どったの」
「いやね、なんて言えばいいのかな……う~ん、いいや言っちゃおうかな、ヒーロー公安委員会に目を付けられてるっぽいんだよね」
「えっ公安……警察以外にもあるんだ」
「うんあるよ~」
各地にあるヒーロー科の存在する学校の管理やプロヒーローの管理を行う組織、というお題目を掲げてこそいるが、実際はかなり闇深い組織だから気を付けた方が良いとホークスから直々に注目を貰っている。現代の社会秩序という物はヒーローが必要不可欠であり、それへの信頼を脅かしかねない存在を秘密裏に消す事もやってきて来たという。ヒーロー側ではあるが実質的にはヴィランと同義な事をやっている。
「ンでまあ私の個性ってね、基本的に爆発なんだけど静穏性特化のサイレントボムみたいなのも出来るし、精密爆撃可能だから目を付けられたんだと思うって言われたね。ホークスさんにはそういうつもりでインターンに誘った訳じゃないのに謝られたけどね……そっちは僕が何とかしとくから彼氏と宜しくやってきなって送り出してくれたんだよね」
「ホークスが良い人なのはなんとなくわかったんだけどさ……絶対にそれ俺が聞いちゃったらマズい話ですよね」
「うん、他言無用って言われたね」
「他言しちゃってるんですけど!!?」
絶対これ聞いちゃいけない類の情報であるはずだ、今の社会の根幹と言ってもいい組織の闇の部分……下手に公言したら絶対に葬られる系の奴……と色々と考えていると抱き寄せられていた。優しく甘く、頭を撫でる手は愛撫のように、理性を蕩けさせる声が耳元で囁かれる。
「気にする事なんて何もないから大丈夫、全部私に任せてくれればいいから……あんな奴らを貴方に近づかせたりしたりはしない……近づいていいのは私だけだから、だから私を捨てないでね」
「ひゃ、ひゃい……」
その言葉の羅列は明確に黒くどろどろとした物であった筈だが、今の彼にそれを確認する術はなかった。頭を胸に抱き寄せられ、視線を固定させられた上に柔らかな感触と鼻を刺激する香りが脳髄を蕩けさせようとしてくる……必死に抵抗する理性が固形化できずに液体のまま揺蕩っている。
「君が入院した時、私の世界は灰色になったの、何も出来なくてそれを兎に角ヴィランにぶつけてた。せめて君が起きた時に褒めて欲しくて、君の見る世界が優しくあって欲しかったから。だから公安に目を付けられたのかもしれないけど……それでも良かったと思ったんだその時は、君の為ならどんなヴィランとも戦ってやるって気分だったから……君が目覚めたって聞いた時にまた私の世界に色彩が戻ったの」
深い瞳で見降ろされながらも放たれる言葉を少しずつだが拾い上げられるようになってきたが、なんだか凄い重い物を向けられている気がしてしょうがなくなって来た……これは冗談でも浮気は出来ねぇな……いやするつもりはないんだけど……。
「そ、そのレ、レゼさん……」
「レゼって呼んでよ、さん付けなんてこそばゆいから」
「え、えっとじゃあレゼ……」
「んっなぁに♪」
名前を呼ぶと先程の声色にはなかった跳ね上がる様な物があった。
「守られるだけってのは……なんか嫌だな、俺も君を守れるように努力する。ほら、液体金属なんて盾にも使えるだろう」
「―――」
『ほら、液体金属なら君を守る盾に使えるだろうし』
「……うん、それじゃあその為に頑張ろうっか。頑張ったらご褒美上げちゃおうかな」
「ご褒美かぁ……それ目的になると駄目な気もするんだけどなァ……」
「あげるっていうんだから受け取ってくれたらいいのにさ~そういう所も変わらないね」
漸く離れる機会が訪れたので離れる事に成功、柔らかな感触がまだ体に残っているようでドキドキする。レゼはなんで離れるのよ、と言いたげな顔をしているがこれ以上は色んな意味でやばい、ショートしちゃうから……。
「それじゃあまずは防御の練習からしよっか、私が連続で攻撃するから盾で防いでね」
「了解、ヌウウウウウッ……ムンッ!!!」
拳から液体金属を放出して身を隠せる程の盾を作り出し、地面に突き刺すようにして構えを取る。十分に距離を取ったレゼは準備良い~?と可愛らしい声を出して確認を取る、いいよ~と返すとそれじゃあ行くよ~と軽い感じの言葉が飛んで来る。まあまずは手始め的な軽い物だろうと思っていたのだが―――そんな自分を殴りたくなったのは直後の事だった。
「―――ボンッ」
「アバアアアアアアッッッ!!!?」
そんな軽く、ハンドサインを開きながら爆発を意味するような音が聞こえてきた直後、盾ごとぶっ飛ばされてTDLの壁に叩きつけられていた。何が起きたと理解する前に吹き飛ばされて咄嗟に身体を液体金属で包み込んでガードが間に合っていた。
「な、何今の……?」
「大丈夫~?大丈夫なら次の奴行くよ~?」
「全然大丈夫じゃないので待って貰えませんかレゼ様!!?」
「様付けって好きじゃないから嫌で~す、じゃあ連続で行きま~す♪」
「お願いだから待っ―――わああああああっっっ!!?」
直後、連続の爆発が襲い掛かって来た。背中から金属を放出して埋まっていた壁から抜け出しながらも爆発を回避しながらも迫ってくる新たなそれに向けて改めて盾を向けながらも足の各部からアンカーのように金属を打ち込んで身体を固定する。
「もうこうなりゃヤケだ!!幾らでも来いやぁぁ!!」
「―――あはっ可愛いなぁ心ちゃん……♡じゃあ、どんどん行くからね―――強くなってね♪」
「声は可愛いのに全然可愛くねぇええええええ!!!?」
それからTDL使用時間の限界まで、TDLからは無数の爆発音が響き続けていたという。使用後、TDLの状態を確認しに来た教員は余りの惨状に何があったんだ……と言いたくなる程にTDLはボロボロの状態になっていたので徹夜で修復作業に取り掛かったとか……。
「こ、殺されるかと思った……」
「でも死ななかったし、相澤先生も死ぬ気でやれば死ぬ事はないって言ってたし」
「だからってここまでやりますか……」
「だって私達の訓練って大体こんな感じだったよ?」
「マジかよ……」
改めて自分って色んな意味で高みにいた事を理解させられてしまった、相澤に鍵を返しに行った時には確かに
「生きてたか、死ぬ気でやれば問題はなかっただろ」
と言われたが……これから先が不安になって来た……。
「あっそうだ、俺の家ってどこなのか聞いてなかった……相澤先生に聞きに行かなきゃ」
「ああ大丈夫だよ」
「あっそうか彼女さんなら俺の家知ってても―――」
「私達同棲してるし」
「