気付けば錆落としも二か月が経過して雄英高校の受験開始日となっていた。流石この日ばっかりは雄英高校の施設を使う訳にもいかずに自宅での筋トレやランニングをメインにする事にしている。今日も今日とて当然のように身体の上に乗っているレゼをウェイト代わりにしつつも、身体に負荷を掛けて追い込んでいくのであった。
「なんか考え事してる?」
「なんで分かんの?」
「微妙にスピード落ちてるし、こういう時は大抵何か考えてる。私の事だったら嬉しいけどな」
「まあそんな感じだよ」
適当に受け流しながらも考えているのは以前出会った緑谷の事、受験は上手くいったのだろうか、肩入れする訳ではない。雄英高校はヒーロー科最難関校で偏差率は全国的に見ても高い上に受験率は平均で250%越え、そんな所を目指す者たちは須らく努力している者たちだ。そんな中の一人を贔屓する訳ではないが……彼の精神性はヒーローとして高い適性がある、と言ったら聞こえが悪いかもしれないが紛れもなく人々を絶望を払い、安心を与えるヒーローとしての器を有していた。
「私のこと、考えないよね。別の事考えてるね、ねぇなに考えてるの」
「……今度入ってくる後輩兼同輩の事です」
「なんで嘘ついたの、ねぇ」
「……今日、一緒に寝ようか」
「うん♪」
そのような事もありながらも、時間は経っていく。そして新学期の当日、レゼは予定通りに2年生になった、それ以外のクラスメイトは一度除籍処分になったとか聞いたが……相澤先生、本当に大丈夫か、と思ったがあの人の事だから何か考えがあったのだろう。
「という訳だ、お前は俺のサポートをしろ」
「要りますサポート」
「名目上だ」
「うっす」
寝袋に入ったままの相澤を担ぎ上げながらも去年も通っていた教室へと向かっていく、合理的に考えてとか言ってるけどこれ完全な怠惰ですよね、とか言ったら怒られるので心の中だけにとどめておく。
「しかしサポートって何やるんです?」
「お前は分からんだろうが、去年も同じ事をした、個性把握テストだ。そこで見込みのない奴が居るかどうかの篩に掛ける」
「300倍の入試を潜り抜けた直後にそれですか」
「雄英は常に試練を与え続ける、そして校風で基本的に自由が許されている。これも合法だ」
「合法っつうか豪放……」
そんな事を言いながらも1年A組の教室へ到着すると、何やら教室の入り口辺りで生徒達が屯して何やらワイワイと話している。まあ雄英とはいえ華の高校生活に浮足立つのも分かる、300倍のあれこれを乗り越えて友達が出来るかどうかと緊張していた子もいる事を踏まえると当然の事だろう。
「……」
「舌打ちしないであげてくださいよ、どうせこれからどう足掻いても貴方によって地獄に突き落とされるんですから」
「人聞きの悪い事を言うな」
何か間違った事を言ったかな、と思いつつも相澤を運搬する。そして入り口付近で屯しているのは緑谷だと分かった所で相澤が声を出した。
「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け、此処はヒーロー科だぞ」
「此処はヒーロー科最難関校だぞ、もうちとそれに見合う恰好しませんか」
「合理的に考えて無駄だ」
「ダメだこりゃ」
「あっ……!!」
抱えられている相澤が困惑と疑惑、そしてなんだこいつと言わんばかりの視線を集められている中でそれを抱えているのが鋼流だという事に気づいた緑谷は声を出してしまった。それにウィンクで返してみた、だが男が男にウィンクしてもキモいだけだった……あとで謝ってこれはレゼにやろう、多分需要はあるだろう。
「担任の相澤 消太だ、宜しく。早速だが、こいつが持ってる袋からそれぞれの番号が振られてるからその中身を着て校庭に出ろ、んじゃ後頼むわ」
「えっあっちょっと、おい担任仕事しなさいよ」
「合理的」
「あ~はいはい聞き飽きたよそれ」
合理的という言葉を免罪符か便利な言葉かと勘違いしているんじゃないかあの人、と思いつつも担ぎ上げた時についでに持たされた袋にはそれが入っていたのか……中身は体操着でそれを自分に配れという事か……。
「あ~はいという訳で目と耳を拝借いたします、先程担任の相澤先生が言ったようにこの袋にはそれぞれの出席番号が振られてますので荷物は席においてこれに着替えてね」
「あ、あのっ副担任の人ですか!!?い、いきなり何なんですかこれ!?」
と何やら緑谷と話していた少女が戸惑いながらも問いかけて来るが副担任に見えるのかと思ったら今日は前以て相澤の助手をしろと言われたので制服で来ずに私服で来たんだった。そりゃそう見えても可笑しくはない。
「まあ言いたい事は分かるよ、あの人は合理的とか抜かして怠惰を平然とする人だ。だけどこれだけは言っとくぜ新入生―――既に雄英ヒーロー科はスタートしている」
『っ!!!』
その言葉で全員の目の色が変わって直ぐに体操着を手に取った。伊達にここまで来ているメンバーではないという事だろう。皆へと更衣室の場所を教えて皆が慌ただしく出ていく中で、最後に緑谷が声を掛けて来た。
「あ、あの鋼流さん!!?2年生なのに何でここに!?」
「いやぁ色々あってね、しっかし予告通りに来るとは中々にやるな、300倍をよくぞ超えてきた」
「いやその、レスキューポイントで入ったと言いますか、身体が動いた末の結果と言いますか……!?」
別にやましい事でもない筈なのに慌ただしく、まるで悪い事がバレた子供のように取り繕うとする彼の姿が如何しても可笑しくて笑ってしまった。
「まあ兎に角入学おめでとう、敢えて言おう。此処が君のヒーローアカデミアだ」
「はい!!!」
「それじゃあ取り敢えず直ぐ着替えて外に出ようか、相澤怒らせると怖いぜ?」
「そ、そんなに怖い人なんですか!?」
「怖いっていうか面倒臭い」
「面倒臭い!!?」
そんな事もありながらも外に出ると緑谷も何とか間に合ったのか、相澤が締め切りを言い出す前にやって来た。そこで相澤が告げたのは―――個性把握テストを行うという事だった。自分が入学時もやったと言ってたが……やっぱりやんのか……。
「入学式は!?ガイダンスは!!?」
「まあそっちに意識が向くのも分かるけど、君達が入学したのは雄英高校ヒーロー科、日本屈指のヒーローを育てる学校。そこに来たって事は常に災害に備える位の気位で居た方が楽だよ、特にこの人は割と容赦なく試練与えて来るから」
「代わりに色々と言ってくれてあんがとさん、雄英高校の校風は自由でそれは教師もしかりだ」
「それならば、一つ質問をお許し頂きたい!!」
「はいじゃあそこの眼鏡君」
自由が校風だからいいんですよね?と相澤を見ると手短にするならな、と目で言って来るので手を上げつつ大きくはっきりした声で質問があると言って来た彼のそれを受け付ける事にした。
「其方が担任の先生なのは理解しました、では貴方は副担任という認識で宜しいのでしょうか!?是非お名前をお聞かせいただきたい!!」
「あっ俺?副担任じゃないよ」
『違うの!!?』
完全に副担任だと思われてたらしい、レゼセレクトの私服が大人っぽいと思っていたがその影響だろうか……つくづくレゼ好みにコーディネートされている気がしてしょうがない。
「端的に言えば俺は留年してもう一度の1年生をする羽目になった雄英生だよ、今回は相澤先生の補佐をする事になってる鋼流 心だ、ヒーローネームはハルドメルグ、知ってる人もおるかもしれんけど宜しくね」
『ええええええええええええええっ!!!?』
自己紹介を終えると生徒達の大きな声が響き渡った。副担任だと思ったら留年生!?だけどその正体はあのニュースにもなっていたハルドメルグ!?情報量が多すぎたかもしれない。
「手短に、と言っただろ……こいつへと質問は後にしろ。個性把握テストを始めるぞ」