『ここまで来たぜ!準決勝第1試合!』
…試合前に自分の顔を見た時は酷いなと思ったが、彼の顔も大概酷い。
「…さて、轟君。実はさっきエンデヴァーに出会ってね。少し話をしたんだ。」
「…何を話した?」
「いや何、ただの激励だ。珍しいものではない。」
「…そうか。」
「まぁそこはそんなに大事じゃない。まぁその言葉に舞い上がってとんでもない大言壮語を吐いてしまってね、少し困っている訳だ。」
「…さっきから何が言いたい?」
「まぁ待って欲しい。その時自分はこう言ったんだ。
“全力”の君に勝つ、とね。」
「…そうか、それは悪かったな。
アイツの所為で“まだ”それは難しくてな。」
「…そうか。」
『コイツ等ここまで活躍しまくったんだから多くを語る必要は無ぇよな!?轟 焦凍VS不知火 炎星!
スタートォォォ!!』
真正面から突っ込んで彼の腕を掴んでハンマースロー。背に出された氷で場外への一投は叶わなかったが、かなり痛いだろう。
「悪く思わないで欲しい。自分は君が全力を出さない原因らしい
「…チッ…!」
そのまま近づこうとしたら頭以外の全身を凍らされる。身体と頭が冷えて丁度良い。
『おおっと不知火!いきなり轟をブン投げたと思ったら全身凍らされる!これは流石に痛いか!?』
『いや、恐らくアイツには殆どダメージが無い。多分あの位ならすぐに溶かす。何ならアイシングの手間が省けて嬉しい程度は思ってんだろ。』
『おっと、イレイザーがここまで手放しに褒めるのは珍しい!そんなに入れ込んでんのかアイツに!』
『事実を言ってるだけだ。それよりも、動くぞ。』
「随分と期待されてしまった…な!」
身体の氷を溶かし突進、勢いそのまま右脚を振り抜く。が、またしても氷の壁を背に出され、カウンターももらってしまう。良いパンチだ、脇腹が痛む。
その流れを三度程繰り返せば、周囲全てが氷で覆われ、外の見えない特設リングになる。
だがそれが狙いだ。
『オイオイ、セメントス特製リングが轟特製リングに変わっちまったじゃねーか!これじゃ実況も出来ねぇしアイツ等の声も聞こえねぇ!』
『…これで轟は逃げ場を無くした。アイツ、これを狙ってたのか?』
「そろそろ使った方が良いと思うんだけど、左。それとも使いたくないのかな?」
轟君の動きが少し遅い。恐らく身体が冷えているんだろう。氷結系の個性に良くあるデメリットだ。
「…さっき緑谷に色々言われたが、まだ心の整理がついて無ぇんだ。」
「…成程。大方、憎きエンデヴァーの炎等使いたくもない、とでも言ったのかな?そして緑谷君に諭されたと。」
「…」
図星か。…かなり根深いな、何したんだエンデヴァー。
…ふむ。
「…緑谷君は優しく諭したんだろう。エンデヴァー関係無く君の力だろう的な事を言われたかな。だけど踏ん切りがつかない。合っているかな?」
「…あぁ。」
「成程…さて、ここまで知った風に話して来たが、実を言うと自分は君の家庭環境なんて殆ど知らない。だが、1つだけ言いたい事がある。
2度と後悔するなよ。」
「―っ!!」
途端、轟君の顔が歪む。そして氷結の波。明らかに勢いが弱いな。火炎放射の一薙ぎで消えていく。
「俺は!後悔なんてしねぇ!!」
力強いが、氷結の威力は反比例するかのように弱まる。
「俺は、勝つ、右だけで!アイツを!!」
「アイツを超える!右だけで!母さんの力で!俺は!
ヒーローに――!!」
弱い冷気、その弱々しい全力に最大火力の火炎放射をぶつける。瞬間、爆発が1つ。踏ん張る事は出来たが、彼は吹き飛ばされているだろう。
「…負けねぇ…!俺は、勝って…ヒーローに!!」
「なれない。」
…伏せていた彼の顔が持ち上がる。酷く顔色が悪い。
…言わなければ良かったとは思う。再び感情に任せて動いた事への反省もある。
だが今は言い切ってあげるべきだろう。
「…と言うより、なる事を自分が全力で止める。自分は友達が破滅の道を歩む姿をただ見るだけの傍観者にはなりたくないんだ。」
「…お前に…何が分かる…」
「分からない。そして何も知らない。だが君は今、“ヒーローになる”という事を馬鹿にした。そんな君をここで勝たせる訳にはいかない。それだけは分かる。」
…緑谷君には悪い事をしたな。せっかくの彼の説得を全て無駄にしてしまった。多分今轟君は怒りにでも呑まれているのだろう。
だが止めるつもりも、止まる気配も無い。
「良いか轟君。
もし将来君が炎を使っていれば助けれたかもしれない命を、君は今見捨てようとした。それだけは忘れるな。」
「…違っ…そんな事…」
「そんな事無いと言うなら使ってくれ。君はそこまで馬鹿じゃないだろう?」
「今、君は何の為に立とうとしているのか考えろ。」
「本気で来てくれ、轟君。」
「…俺も、お前も、本当に馬鹿だな。」
突如、轟君の左から炎が噴き上がる。
「緑谷にも、お前にも迷惑かけて…」
初めて見るか、彼の全力は。
「だがお前も大概だ。あのまま行ってたら、お前が勝ってただろうに。
後悔するなよ?」
「…随分と良い笑顔じゃないか。」
「当たり前だ…俺もオールマイトに憧れたからな。」
「そうか…もう体力は殆ど無いだろう?一発で決めようか。」
炎が2つ、氷が1つ。轟君の方が1つ多いから不利か?
…そう言えばこれ準決勝か。凄く決勝っぽい雰囲気なのに。
まぁ温存等最初から考えていないが。
加速。
爆発。
『…なんだ、氷が砕けて中から轟が急に吹っ飛んで来たぞ!?不知火の方は何処行った!?』
『中だろ。まぁ中で何があったか知らんが…
不知火の決勝進出だ。』
『おいマジかよ!!準決勝が殆どテレビに写らなかったんだが!?まぁ嘆いても進出は確定だ、皆様クラップユアハンズ!!次の試合は氷を除去する為少し後になるぜ!』
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