【TS転生】僕はプロデューサー志望なんですが 作:あいどりゅ
『テンパッリリ! リリリリリ! ルリリのテリリでハンバーガー!』
「……」
『音符が昆布でハートの最大限、パリッパパリパリの大☆逆☆襲!』
令和の曲はよくわからん。音やリズムが前衛的すぎる。
僕はテレビのヒットソング番組を見ながら、そう独り愚痴た。
『現在ミルミムバーガーのCMで御馴染み『ルリリのハンバーガー』を歌って頂きました。アレクシャスガールズさんありがとうございました』
『いえーぃ! これからも応援ヨロシクぅ!』
『では続きまして今週の第三位─────』
この時代の音楽は電子的で明るく、刺激的な曲調が多い。
歌詞は情景描写を控え、思考をダイレクトに描くのが流行しているようだ。
ロックとも何かが違う。反抗ではなく、自己主張という印象が強い。
こんな音楽の形があるのかと、衝撃を受けた。
「令和の曲は、歌いにくい……」
僕が作曲家だったころ、口を酸っぱくして教えられた鉄則があった。
それは『聞き手が口ずさめる、覚えやすい歌』にすることだ。
コマーシャルなどで使う場合は特にそうだ。
耳に残るだけでなく、容易に歌えるような曲にしてくれと言われた。
「て、ぱっりいい? りりりりり……。うーん、歌えるか!」
だが令和の音楽は、聞き手が歌うことを想定していない。
歌詞も意味不明で転調も多く、耳には残るが歌えない。
練習しないとカラオケで歌えない曲が溢れている。
……これも、時代の変化と言うやつなのだろうか。
「こりゃ、令和で作曲家になるのは無理だな」
最近のヒットソングを聞いて、僕は音楽の道を諦めた。
考え方から流行まで何もかも違い過ぎる。
「ネットが普及して、次々に新曲が発表される令和では、目立つ曲が正義。寂しいような、楽しみなような」
昭和の時代は、すり減るまで一枚のレコードを聞き続けたものだ。
しかし今は次々に新曲が世に出て、スマホでどこでも聞ける。
だから歌いやすいメロディより、刺激的な曲が生き残りやすいのだろう。
バラードが好きな僕としては、ちょっと寂しい気持ちもある。
だけど僕は、この時代の変化を肯定的に受け止めてはいた。
流行が移ろうのは昭和でもそうだった。ロックバンドが台頭し、社会や政府への不満を吟じる『若者文化』として花開いていった。
僕もロックバンドは大好きだったし、当時の熱狂ぶりは記憶に新しい。
そんな時代の最先端だったロックが、今は古典的という扱いを受けている。
これが、未来に生まれるということなのか。
「なあ、イオ」
「何、父さん?」
そんなこんなで僕は、スマホで音楽漬けの日々を送っていた。
古い昭和のヒットソングから、最新の楽曲ダウンロードランキングまでを網羅した。
僕が死んでから数十年の間に、日本の音楽史が積み重ねた名曲の数々を堪能し続けた。
「イオは、音楽が好きなのかい」
「うん」
気に入った曲を何度も再生し、アレンジして小声で歌う。
父さんはそんな僕を見て、こんな提案をしてきた。
「音楽教室とか通ってみるか?」
「んー……」
「楽器でも良いぞ。ピアノとか」
音楽教室か。確かに、僕は音楽好きだと思う。
文学よりも、映像よりも、メロディに身を任せることが幸福だった。
それは今世も変わらない。前世から筋金入りの
だけど、
「いや、いらない」
「どうしてだい」
だが、それはそれとして。
僕は今世で、音楽家を目指すつもりはない。
それは単に、今の時代で作曲家になるのが難しいからというだけでなく。
「ぼくは歌いたいんじゃなくて、歌ってる人が見たいんだ」
「……そ、そうか」
日本を熱狂させるヒットソングを作る夢。
その夢を僕はもう、十和田ヒカリに叶えてもらっていたからだ。
「それよりも、芸能界がいい」
「ああ、なるほど。イオはアイドルになりたいのか」
「あ、そうじゃなくって」
ならば新しい人生は、新しい目標に挑戦したい。
思い出すのは、事故死する前の最期の一週間のこと。
十和田ヒカリの魅力に脳を焼かれ、曲作りに没頭した七日間。
「─────アイドルを輝かせる、プロデュースをしてみたい」
「えぇ……」
十和田ヒカリのことだけを考えていたあの一週間は、至福だった。
音楽家としてじゃない。一人の男として、至福だった。
僕が本当にやりたかった仕事は、きっとアレだ。
「輝いている人を、より輝かせたい」
「そ、そうか」
「だからぼくの夢は、プロデューサーだ」
僕は主役になりたいわけじゃない、控える脇役で十分。
ただ、本物の輝きを近くで見てみたい。
「プロデューサーは大変だよ、アイドルにならなくていいのかい?」
「何言ってるの」
眼を輝かせてそう言う僕を、父さんは困ったような目で見ていた。
確かに、アイドルを志さない女の子は珍しいかもしれない。
「それじゃ、仮にぼくが世界最高のアイドルになっても輝きを見れないじゃないか」
だけど、僕は譲らない。
僕がアイドルになっても、つまらない。
「変わった子だなぁ」
「まぁね」
前世の目標『ヒットソングを作ること』は叶えられていた。
だったら今世は、もっと近くでアイドルを支えて……。
「見ててね父さん。ぼくが、誰もが知ってるようなアイドルをプロデュースするから」
「……」
世界最高のアイドルを、僕の手で
この夢のために僕は生涯を捧げよう。
「そうか、じゃあ父さんは楽しみにしているよ」
「うん!」
そんな僕の他愛ない夢を聞き、父さんは苦笑していた。
我ながら、大それた夢を語ったと思う。
だけど僕は、まだ幼稚園児。途方もない夢を語るのは、子供の特権。
「じゃあぼく、動画でアイドルの研究をするから」
「スマホはほどほどにしなさいよ」
今から教養を身に着けて、芸能事務所に入る。
そこで才能を示して、プロデューサーの立場を手に入れる。
きっと途方もない道のりだろう。
だけどどうせ追うなら、夢はでかいほうが良い。
それに僕は一度、ちゃんと叶えているのだ。
誰でも知っているヒットソングを作るという、デカい夢を。
「じゃあ早速、十和田ヒカリの望郷狂騒曲から……」
そんな僕の、壮大な夢は……。
掌サイズのスマートフォンで見る、動画サイトから始まるのだ。
─────深夜。
「イオちゃん、プロデューサー志望だって?」
「聞いていたのか、母さん」
父親はカタカタと、ノートパソコンで仕事を片付けながら……。
五歳の娘が寝静まったあと、電子タバコを片手に母親の言葉を聞く。
「十和田ヒカリの動画ばかり見ていたから、アイドル志望と思ったんだがな」
「音楽教室を調べてたのに、残念だったわね」
娘に、どんな習い事をさせるか。将来、どんな職業に進ませるか。
自分で未来を選べる年齢まで、レールを敷くのが親の仕事だ。
「プロデューサーなんて辛いだけなんだがな」
「あら。アイドル稼業だって、プロデューサーと同じくらい面倒よ?」
イオは不思議な子供だった。
おとなしくてお利巧、幼児なのによく空気を読む。
口調ははきはきとしており、大人と会話しているように錯覚する。
かと思えばスマホを与えると、意地でも離さない。
休日は動画を見ながら寝っ転がって過ごすなど、子供らしい一面もある。
「パパの目から見て、イオの
「今すぐ子役としてやっていけるさ」
「お、高評価じゃない」
「イオはおとなしくて利口だからね。現場が求めるのは『そういう子』だ」
愛娘イオを、父親はそう評価した。それは親バカからリップサービスなどではない。
─────商売人特有の、氷のように冷徹な目でそう言った。
「親の贔屓目じゃなくて、プロ目線でそうなの?」
「ああ。君の娘だぞ、アイドルくらいなれるだろう」
ズズズ、と父親はブラックコーヒーを飲み干す。
ノートパソコンに映る、無数の『商材写真』を前にして。
「イオには、アイドルの才能はある」
「なのにイオちゃんはプロデューサー志望、か」
仕事の打診。あるいはこちらからの営業、売り込み。
送られてくる企画書に目を通し、提案と修正を重ね、ブラッシュアップしていく。
この作業のせいで、日付が変わる前に寝られる日はない。
「私じゃなく、パパに似ちゃったんだ」
「まったく運のない子だ」
前世の記憶を持つ少女イオは、気づかない。
彼女が掲げた夢を、叶えている大人が身近にいることに。
「じゃあ私はもう寝るね。お休み、プロデューサーさん」
「もうお前のプロデュースはしてないだろ……」
彼は既に、トップアイドルを何人も世に送り出した敏腕プロデューサーであり。
数十人のアイドルが在籍する芸能事務所