【TS転生】僕はプロデューサー志望なんですが 作:あいどりゅ
「タスケテ、父さん」
『……』
僕がボーカルの発展クラスで鮮烈なデビューした、その晩。
父さんから僕に、重々しい口調で『話をしたい』と電話がかかってきた。
『イオ。お前が
「どうして……どうして……」
『それを聞きたいのは俺の方だ』
注目株だった
これがトレーナーの間で大変な問題になったようで、緊急会議が開かれたらしい。
『月壁瑠偉には近づくなと、警告をしたよな』
「その、とても複雑な事情があって」
『なら、経緯を報告してくれ』
歌沖イオは新たな問題児候補という、誤解すら広がりかけているという。
冗談ではない、僕は問題児などではない。
僕は疲れた声で、今日の発展クラスでの出来事を報告した。
『なるほど、三浦と木村がそんな言動をしていたのか』
「うん」
僕は父さんに今日あったことを、包み隠さず正直に伝えた。
発展クラスで、三浦と木村の二人組がイヤな絡み方をしてきたこと。
月壁瑠偉が煽ったのは、その二人へのけん制だったこと。
『月壁瑠偉の挑発的言動は、彼女らへの牽制だった。……なるほど?』
「僕には、そんな風に見えたよ」
『トレーナーからの報告と違うな、その二人は品行方正と聞いていたが』
父さんが言うには、三浦木村コンビは明るいクラスのムードメーカーで。
人当たりも良く礼儀正しい、『優等生』なのだという。
『イオ、お前はその二人が葛城君をバカにする場面を確かに見たんだな?』
「うん」
だが僕はちゃんと、その場面を見た。
あの二人が嫌みったらしく葛城君に絡んでいた、そのシーンを。
「トレーナーが教室からいなくなったら、態度を豹変させて葛城君に絡んでいたよ」
『そんなに態度が悪かったのか?』
「僕の目には、イジメにしか見えなかった」
二人は、竹田トレーナーがいなくなったのを見計らってやっていたな。
トレーナーが帰ってきたら、月壁さんの嫌味だけを報告していた。
……そんなことをしてどうして、あの二人は糾弾されないんだ?
「父さんは、三浦さんたちのそういう報告は受けてないの?」
『ああ、届いていない。彼女らは、月壁瑠偉の被害者だと報告されている』
実に妙な話だ。あの二人組の言動は、僕以外の候補生も見ていた。
誰か一人くらい、チクりに行っても不思議じゃなさそうだが。
「あの言動を、誰も相談しないとは思えないんだけど……」
『ふむ、一つ思い当たる節がある』
少なくとも僕が発展クラスにいたら、トレーナーにすぐ報告するだろう。
あの二人が、誰からも糾弾されていない理由とは……。
『もしかしたら、誰も相談出来なかったのかも』
「相談できなかった?」
『三浦の父親は、
その父さんの言葉を聞いて、僕は驚きで声を詰まらせた。
僕以外にも、プロデューサーの娘がジュニアスクールに通っていたのか。
「父親のプロデューサーが、娘の悪事を握りつぶしているってこと?」
『いや、それはない。三浦は不正を嫌う、生真面目な男だ』
「生真面目……?」
「彼は娘を入学させる際、『もしデビューが決まったら、私を担当から外してください。身内びいきをしない自信がありません』と宣言し、仕事で娘に関わらないように徹底している」
なるほど、それだけ聞くと信用できる人っぽいが……。
電話口の父さんの口ぶりは、どこか困ったような声色で。
『だが三浦は、盲目的な親馬鹿でもあってな』
「親馬鹿」
『プロデューサーとしては関わらない。だが娘が何か被害を受けると、すぐに会議で取り上げるんだ』
父さんはそう言って、ため息を吐いた。
親馬鹿そうなプロデューサーの娘か、それは……。
『とくに、月壁からのイジメには過敏なくらい介入するんだ。教室に乗り込んで、注意したこともある』
「……つまり三浦さんを敵に回すと、現役プロデューサーが叱りに乗り込んでくる?」
『そんなものを見せられたら、もし三浦がイジメっ子だったとしても泣き寝入りする可能性がある』
それなら他の生徒が、三浦さんの言動を相談できなかったのは頷ける。
アイドルとしてデビューするには、プロデューサーに気に入られる必要がある。
三浦さんを敵に回すことで、プロデューサーまで敵に回す可能性があるのだ。
『三浦の素行が事実なら、月壁の悪事も誇張されてる可能性があるな』
「というと?」
『月壁瑠偉の素行問題を提起してきたのは三浦だからな……。娘に、あることないこと吹き込まれているかも』
聞けば三浦のお父さんは娘が虐められていると思って、月壁瑠偉を敵視しているらしい。
「父さんは、月壁瑠偉の素行の裏は取ったの」
『もちろん取ったさ。月壁本人に事実を確認したが、あっさり罪を認めた』
「……認めちゃうんだ」
『それに月壁が教室内で、三浦の胸ぐらを掴みあげているところは俺も見た。だから俺も、三浦が被害者だと思っていたんだが』
月壁さんは罪を認めたそうだが、果たしてどこまで信用できるだろうか。
彼女の言葉は常に、皮肉たっぷりの嘘が混ざっていた。
やってなくても、『私がやったと思うなら、そうなんちゃいます?』とか言いそうな気はする。
「因みに月壁さんはその時、何て言ってたの?」
『胸ぐらを掴んだ理由を聞いたら、『じゃれあいや』の一点張りだった』
「……月壁さんの言う『じゃれあい』って、『激おこ』って意味な気がする」
やっぱり月壁さんは事情聴取の際も、皮肉で返したっぽいな。
他人に興味がなさそうな彼女が三浦さんの胸ぐらを掴んだなら、怒っていた可能性が高い。
『なんだそれは』
「そういう娘なんだよ」
月壁さんの言動が捻くれてるせいで、誤解されているのだ。
孤高の問題児
本当に面倒くさいクラスだな。
『良くも悪くも月壁は抜きんでているから、嫉妬の対象にはなりやすかろう』
「三浦さんや木村さんの方は、アイドル候補生としての実力はどうなの?」
『ビデオを見る限り、その二人はまだデビュー出来る域に達していないな』
先月のボーカルランキングで二位三位を取っていた三浦・木村ペアだけど……。
父さんから見ても、二人はデビューできるレベルに達していないらしい。
「それなりに上手な歌だとは思ったけど」
『普通の子よりは上手いだろうな。だが金が取れるパフォーマンスではない、それだけだ』
……それはまぁ、確かに。
金を払って彼女たちの歌が聞きたいかと言えば違う。
今日の候補生で、お金を払えるレベルだったのは……。
『現状
「僕もそう思う。月壁瑠偉さんのパフォーマンスは群を抜いていた」
『あれは別格だよ、
やはり父さんから見ても、月壁さんのパフォーマンスは断トツらしい。
彼女は既に磨き上げられた、完成品の宝石。
今すぐデビューして、人気者になれる素養はありそうだが……。
『一方で月壁瑠偉は入学して以来、トラブルが起きなかった月がない』
「……あー」
『三浦の話がどこまで事実か分からんが、トラブルメイカーなのは事実だ』
確かに彼女がトラブルメイカー気質なのは、疑いようがない。
しかも自分から喧嘩を売ってくるし、事情を確認しようにも意思疎通が難しいタイプだ。
『ただ月壁の素行、もう一度よく洗ってみるよ』
「うん、しっかり調べて欲しい」
『被害者と思われていた三浦と木村の言葉も、こうなっては信頼できんな』
ただ、月壁さんは無意味に喧嘩を売っているようには見えない。
何かしら意志を持って、敵対しているような気がする。
「だったら、父さんも証拠がないと動けないでしょ。僕が一度、休み時間の様子を録音してみるよ」
『あまり無茶をするなよ、イオ』
その為には、まず僕が先陣を切る必要がある。
プロデューサーの娘という権力を盾に、三浦さんが好き放題しているのであれば……。
「大丈夫。うまくやるから、見てて」
『……ああ』
それを正せる人間は、僕しかない。
発展クラスの歪みを正し、葛城君たちが過ごしやすいクラスを作るんだ。
それが僕の、プロデューサー志望としての第一歩。
「それで父さん。腕時計型とか、ペンライト型の探偵道具的な盗聴器とかそういうのない?」
『お前、ちょっと楽しんでないか』
結局、盗聴器は用意して貰えず、普通にスマホで録音することになった。
申し訳ありませんが、リアル多忙につき更新ペースを落とします。
最低でも週に1回の更新は続ける所存です。
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