【TS転生】僕はプロデューサー志望なんですが   作:あいどりゅ

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エピソード20「カラオケパブ」

 

「聞いたわよ。クラス全員に宣戦布告するとは、やるじゃない歌沖」

 

 日付は代わって土曜日、演技レッスンの日。

 

 演技はまだ基礎クラスなので、僕はアンナと一緒にレッスンを受けていた。

 

「私のライバルなら、それくらいやってくれないと面白くないわ」

「僕は面白くないんだけど」

 

 発展クラスでの僕の宣戦布告事件を、アンナも聞いていたらしい。

 

 彼女は『それでこそ私のライバルだ』と、誉めてくれた。

 

「それで月壁(つきかべ)瑠偉(るい)ってやつが凄いんだっけ?」

「うん、格が違った」

「どれほどの実力なのか、楽しみだわ」

 

 発展クラスの出来事を話してみたが、アンナは怖がる様子がなかった。

 

 むしろ月壁(つきかべ)瑠偉(るい)と戦うことを、楽しみにしていた。

 

「アンナは、怖がらないんだね」

「競争上等よ。むしろ、やる気が出るわ」

 

 アンナが昇格したらきっと、月壁さんとトップ争いをするのだろう。

 

 置いて行かれないよう、僕も頑張らないと。

 

「ただ別の意味で、注意すべき二人組もいてね」

「別の意味、って何よ」

「三浦さんと、木村さんって子なんだけどさ」

 

 僕はアンナに、三浦・木村コンビについても話しておいた。

 

 ちょっとイジメっ子気質な二人組がいて、睨まれる可能性があること。

 

 三浦さんの父親がプロデューサーで、権力を盾にしていることなど。

 

「ふん、私は父親がプロデューサーだろうと関係ないわ」

「強気だね」

「Carol(キャロル)のチーフプロデューサー殻吹さん、私のママの元担当だし」

 

 アンナはそう言うと、少しだけ得意げな顔をした。

 

 確かに父さんが、アンネさんの元担当プロデューサーだっけ。

 

「その三浦ってやつがちょっかいかけてきたら、殻吹さんに言いつけてやるんだから」

「……」

「こちとら二世タレントよ、コネなら負けないわ」

 

 そんな、カッコいいんだか悪いんだかよくわからないことを言った。

 

 どうやらアンナは、僕がその殻吹プロデューサーの娘だと聞いてないらしい。

 

「アンナが戦う必要はないよ。僕が、何とかしておくから」

「ふーん? ま、そういうなら男の子に任せてみようかな」 

 

 出来るなら、アンナが嫌な思いをする前にカタを付けておきたい。

 

 先に僕がイジメの証拠を録音して、父さんに渡せば解決する話だ。

 

 一人のプロデューサー志望として、アンナを守ってやりたい。

 

「安心なさい、歌沖を一人にはさせないわ」

「アンナ?」

 

 そんな、独りよがりの決意を固めていると。

 

 アンナはニッコリと不敵な笑みを浮かべ、

 

「私も発展クラスに上がって、一緒に戦ってあげる」

 

 そんな男前な言葉を言ってのけた。

 

 ……思わず惚れそうになった。

 

 

 

 

 

 

「はい、では演技はじめ」

「「よろしくお願いします」」

 

 演技のレッスンは先週と同じく、即興劇という名の『おままごと大会』だった。

 

 各ペアがテーマを発表し、皆の前で劇を披露する。

 

「アンナ! 僕は君が好きだ。真っ赤に咲く一輪のバラのような、君の佇まいに惚れた!」

「そ、そんなこと、急に言われたって困るわ」

 

 今回は僕から、アンナを即興劇に誘った。

 

 お題は『告白する僕と、拒絶するアンナ』。前回のお題を、そのまま入れ替えた形だ。

 

「僕の胸に飛び込んできてくれ。もう僕の目には君しか映らない」

「嘘よ、信じられない。貴方はいつも、大事な時に嘘を吐くじゃない」

 

 この日のために僕は特訓した。父さんの提案に従って、ミュージカルを歌った。

 

 国語の教科書を台本に、母さんと演技の練習もした。

 

「どうかこの愛に気付いて、恋人になってくれ!」

「調子の良いことばっかり言って、信じられるはずがないわ」

 

 その成果だろうか。今日の僕は、アンナの演技についていけていたと思う。

 

 感情の表現や身振り手振りは、まだアンナには敵わないけど……。

 

「どうせ最後は、私を裏切るくせに!」

 

 ……彼女もどこか、先週より演技をしやすそうに見える。

 

「僕はこんなにも君に焦がれ、愛しているのに」

「その言葉だって、嘘なんでしょう」

 

 先週の大根役者とは違う、確かな手ごたえを感じる。

 

 我ながら一週間で、よくここまで仕上げたものである。

 

「嘘なものか。僕は君を、愛してぇ~るぅ~↑!」

「って、告白で歌うなぁ!」

 

 なのでうっかり、最後に歌ってしまったのはご愛敬としておこう。

 

 

「歌沖(かおき)さんは、物凄い進歩を感じたわ。よく頑張ったのね」

「ありがとうございます!」

 

 即興劇の後の総括で、僕はトレーナーさんから褒められた。

 

 かなり頑張ったので、褒められる喜びもひとしおだ。

 

「照れが消えて、台詞に感情が乗っていた。台詞に夢中で体の動きが少なかったけど、先週と比べたら別人ね」

「どうも、恐縮です」

 

 それも父さんに教わった『ミュージカルを練習に取り入れる』方法が、うまく行ったからだろう。

 

 歌を利用することで、演技に没入することができるようになった。

 

「次にフランソワさんは、実にいいツッコミだったわ。歌沖さんがボケてから、突っ込むまでの間の取り方が素晴らしかった」

「それ、演技の批評ですか」

「フランソワさんはバラエティ適性も高そうね。トークが出来るアイドルは強いわよ」

「本当にそれ、演技の批評ですか」

 

 一方でアンナは、演技トレーナーさんからツッコミの才能を見出されていた。

 

 僕もトレーナーさんと同意見で、アンナはバラエティ適性も高いと思う。

 

「今日の演技のレッスンはここまで。みんな、とっても上手だったよ!」

「「ありがとーございます!」」

 

 トレーナーさんが何も言わないのは、アンナの演技力は既に高いからだと思う。

 

 今日も演技が上手すぎて、本当にアンナにフラれている気分だった。

 

 アンナは表情の作り方や声の出しかた、所作の一つにいたるまでが本当に上手い。

 

「さて、帰りましょ歌沖」

「うん、アンナ」

 

 この実力で、アンナはまだ八歳。まだまだ伸びしろがたっぷりある。

 

 一年もしないうちに、月壁(つきかべ)瑠偉(るい)一強の状況が崩れるだろう。

 

 きっとアンナと月壁さんは、carol(キャロル)の未来を背負って立つアイドルになる。

 

「歌沖は明日、ちゃんと予定は空けてるでしょうね」

「うん、もちろん」

 

 アンナは太陽のように暖かく、燃える炎のような情熱の輝きで。

 

 月壁さんは月夜に佇む雛罌粟(ひなげし)のような、凍り付いた刃のような輝き。

 

「よろしい。じゃあ今週も、一緒に自主練するわよ」

「僕も楽しみにしてるよ、アンナ」

 

 相反する属性ではあるが、その輝きの質はどちらも劣らない。

 

 今から二人が成長し、切磋琢磨する日が楽しみである……。

 

 

「─────フフフ、こんばんはぁ」

「ひぁあ!?」

 

 そんなことを考えていると、背後から京都弁が聴こえてきた。

 

 同時に後ろから、誰かに強く抱きしめられる。

 

「え、何!? アンタ誰!?」

 

 突然の抱擁に、アンナは驚いて僕の背後を指さした。

 

 一方で僕は絶句し、目を白黒することしかできない。

 

「やっほぉ、イオ君」

「つ、月壁(つきかべ)さん? どうしてここに」

 

 振り返ると楽し気に笑う月壁(つきかべ)瑠偉(るい)が、僕に抱きついていた。

 

 発展クラスの彼女が、どうしてここにいるんだろうか。

 

「私もレッスン帰りでなぁ。基礎クラスにイオ君おるやんって、覗いてたんやけど……」

「は、離しなさいよ! 歌沖を抱きしめて何のつもり……」

「君、フランソワちゃんやっけ?」

 

 彼女は機嫌よさそうに、僕の頬まで手を回した。

 

 耳元で囁かれる鈴のような声に、思わずドキりとしてしまった。

 

「……だったら何よ!」

「フランソワちゃんの演技、まだまだ(・・・・)やなぁ」

「はぁあ!? 何よ、喧嘩売ってるの!?」

 

 月壁さん煽るような発言に、アンナは激怒した。

 

 アンナ。多分ソレ、彼女なりの誉め言葉だと思う。

 

「歌沖に聞いたわよ! アンタが月壁(つきかべ)瑠偉(るい)ね」

「どうやろねぇ? せやったら、どうするん?」

 

 アンナは鋭い目で、僕に抱きつく月壁さんを睨みつける。

 

 いきなり煽られ、相当に怒っているようだ。

 

「アンタが主席ってのは、私が発展クラスに上がるまでの話よ」

「ふーん?」

「首を洗って待ってなさい!」

 

 アンナは堂々と、月壁(つきかべ)さんに宣戦布告した。

 

 すぐに昇格して、お前を倒すと意気込むアンナ。

 

「イオ君以外にも、威勢が良いのがおるやんかぁ」

「ニタニタすんな!」

「ほんま、面白(オモロ)いこと言いはるなぁ」

 

 そんな言葉を聞いた月壁(つきかべ)さんは、にんまり微笑んだ。

 

 どこか、嬉しそうでもある。

 

「でもなぁ。フランソワちゃんが昇格するまで首洗ってたら、首が擦り切れてなくなってまうわぁ」

「何なのコイツ!! 何なのコイツ!!!!」

「お、落ち着いてアンナ」

 

 おそらく月壁さんは、アンナがお気に召したんだと思う。

 

 あんなに楽しそうに話をする彼女を、僕は見たことがない。

 

 問題はその好意が、一切アンナに伝わっていないことである。

 

「あー、怖い怖い。イオ君、行こ?」

「歌沖は私と帰るのよ! アンタは引っ込んでなさい!」

「いややわぁ。私はこれから、イオ君とカラオケで盛り上がるんや」

 

 月壁さんの言葉に、僕はエッと言葉が詰まる。

 

 何それ、聞いていない。

 

「ほら課題曲を練習せんと。レッスン帰りに、ペアとカラオケ自主練は皆やってるで?」

「もう遅じゃない、子供だけじゃカラオケに入れないわ」

「大丈夫やで、顔見知りの店があるから」

 

 なるほど、確かにカラオケで自主練習をする子は多そうだな。

 

 月末に彼女とペアで歌うなら、練習をするに越したことはない。

 

 だけど、

 

「ごめん、月壁さん。母さんが迎えに来てるんだ。また今度にしてくれないかな」

「えぇ~、しゃあないなぁ」

 

 もう外で、母さんが迎えに来ている。

 

 こんな時間からカラオケに行く余裕はないし、そもそも未成年は入れなかろう。

 

「じゃあ明日はどうやろ、歌沖君。ウチなら、無料でカラオケし放題やで」

「明日もダメよ。歌沖は明日、『私と』自主レッスンする約束なの」

「……ふぅん? アンナちゃんと自主練するんや」

「ごめんね月壁さん、アンナが先約なんだ」

 

 それならばと明日カラオケに誘われたが、残念ながらそれも断った。

 

 日曜日は、アンナの家で一緒にレッスンしようという約束なのだ。

 

「ぶぅぅ……、イケズやで」

「ご、ごめんってば」

 

 月壁さんは、頬を膨らませて怒った。

 

 だが変顔をしても可愛い、美人は何をやっても絵になる。

 

「でも、どっかで付き合ってもらいたいんやけど」

「分かった。空いてる日に付き合うよ」

「ほな、連絡先を交換してな~」

 

 月壁さんはそう言うとスマホを開いて、僕にQRコードを差し出した。

 

 連絡先の交換には異存がないので、素直に応じると……。

 

「ん? 月壁さん、この店って?」

「フフフ、好きなタイミングで寄ってってな」

 

 彼女のプロフィールに『カラオケパブ・月の宿』という店が記されていた。

 

 カラオケパブって、小学生が立ち入っちゃいけない場所なんじゃ?

 

「私が居候してる親戚のお店で、カラオケとステージがあるんよ」

「そ、そうなんだ」

「私もよう、お客の前で歌わせてもらうんや」

 

 いや、カラオケで歌うだけなら大丈夫なのか。

 

 親戚の店に、遊びに行ってるだけだもんな。

 

「お客さんの機嫌が良ければ、お捻りも貰えるで」

「そ、それは貰って大丈夫なの?」

「お捻りのおかげで、私はレッスン通えてるんや」

 

 聞けば月壁さんは毎月のレッスン代を、お客さんのお捻りから捻出しているらしい。

 

 確かに彼女のパフォーマンスなら、お捻りは飛んできても不思議じゃない。

 

「夢ってのはな、追うにはお金がかかるんよ」

「月壁さん?」

「お金ってやつが、空から降ってきたらええのになぁ」

 

 そう言う月壁さんは、どこか遠い目をしていた。

 

 今の言葉は嘘や皮肉じゃない、月壁(つきかべ)瑠偉(るい)の曇りなき本心。

 

 ……少しだけ、彼女の心の奥に触れられたような気がする。

 

「ほんなら今度、ウチに来てな」

「う、うん」

「ステージに立つ、いい練習になるで」

 

 月壁さんはそう言うと、寂しそうに僕から離れた。

 

 そして、

 

「あ、フランソワちゃんも良ければ遊びに来てや。首を洗っとくで」

「誰が行くか!」

 

 からかうようにアンナにそう言って、颯爽と背を向けた。

 

 そこで気づく。彼女のセーラー服は、ずいぶん着古されて汚れていたことに。

 

「……ったく。なんなのよ、あの女」

 

 月壁さんにはアイドルとしての実力に、圧倒されていたが……。

 

 裕福な僕やアンナの家とは違い、月壁さんは苦労人なのかもしれない。

 

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