【TS転生】僕はプロデューサー志望なんですが 作:あいどりゅ
「聞いたわよ。クラス全員に宣戦布告するとは、やるじゃない歌沖」
日付は代わって土曜日、演技レッスンの日。
演技はまだ基礎クラスなので、僕はアンナと一緒にレッスンを受けていた。
「私のライバルなら、それくらいやってくれないと面白くないわ」
「僕は面白くないんだけど」
発展クラスでの僕の宣戦布告事件を、アンナも聞いていたらしい。
彼女は『それでこそ私のライバルだ』と、誉めてくれた。
「それで
「うん、格が違った」
「どれほどの実力なのか、楽しみだわ」
発展クラスの出来事を話してみたが、アンナは怖がる様子がなかった。
むしろ
「アンナは、怖がらないんだね」
「競争上等よ。むしろ、やる気が出るわ」
アンナが昇格したらきっと、月壁さんとトップ争いをするのだろう。
置いて行かれないよう、僕も頑張らないと。
「ただ別の意味で、注意すべき二人組もいてね」
「別の意味、って何よ」
「三浦さんと、木村さんって子なんだけどさ」
僕はアンナに、三浦・木村コンビについても話しておいた。
ちょっとイジメっ子気質な二人組がいて、睨まれる可能性があること。
三浦さんの父親がプロデューサーで、権力を盾にしていることなど。
「ふん、私は父親がプロデューサーだろうと関係ないわ」
「強気だね」
「
アンナはそう言うと、少しだけ得意げな顔をした。
確かに父さんが、アンネさんの元担当プロデューサーだっけ。
「その三浦ってやつがちょっかいかけてきたら、殻吹さんに言いつけてやるんだから」
「……」
「こちとら二世タレントよ、コネなら負けないわ」
そんな、カッコいいんだか悪いんだかよくわからないことを言った。
どうやらアンナは、僕がその殻吹プロデューサーの娘だと聞いてないらしい。
「アンナが戦う必要はないよ。僕が、何とかしておくから」
「ふーん? ま、そういうなら男の子に任せてみようかな」
出来るなら、アンナが嫌な思いをする前にカタを付けておきたい。
先に僕がイジメの証拠を録音して、父さんに渡せば解決する話だ。
一人のプロデューサー志望として、アンナを守ってやりたい。
「安心なさい、歌沖を一人にはさせないわ」
「アンナ?」
そんな、独りよがりの決意を固めていると。
アンナはニッコリと不敵な笑みを浮かべ、
「私も発展クラスに上がって、一緒に戦ってあげる」
そんな男前な言葉を言ってのけた。
……思わず惚れそうになった。
「はい、では演技はじめ」
「「よろしくお願いします」」
演技のレッスンは先週と同じく、即興劇という名の『おままごと大会』だった。
各ペアがテーマを発表し、皆の前で劇を披露する。
「アンナ! 僕は君が好きだ。真っ赤に咲く一輪のバラのような、君の佇まいに惚れた!」
「そ、そんなこと、急に言われたって困るわ」
今回は僕から、アンナを即興劇に誘った。
お題は『告白する僕と、拒絶するアンナ』。前回のお題を、そのまま入れ替えた形だ。
「僕の胸に飛び込んできてくれ。もう僕の目には君しか映らない」
「嘘よ、信じられない。貴方はいつも、大事な時に嘘を吐くじゃない」
この日のために僕は特訓した。父さんの提案に従って、ミュージカルを歌った。
国語の教科書を台本に、母さんと演技の練習もした。
「どうかこの愛に気付いて、恋人になってくれ!」
「調子の良いことばっかり言って、信じられるはずがないわ」
その成果だろうか。今日の僕は、アンナの演技についていけていたと思う。
感情の表現や身振り手振りは、まだアンナには敵わないけど……。
「どうせ最後は、私を裏切るくせに!」
……彼女もどこか、先週より演技をしやすそうに見える。
「僕はこんなにも君に焦がれ、愛しているのに」
「その言葉だって、嘘なんでしょう」
先週の大根役者とは違う、確かな手ごたえを感じる。
我ながら一週間で、よくここまで仕上げたものである。
「嘘なものか。僕は君を、愛してぇ~るぅ~↑!」
「って、告白で歌うなぁ!」
なのでうっかり、最後に歌ってしまったのはご愛敬としておこう。
「
「ありがとうございます!」
即興劇の後の総括で、僕はトレーナーさんから褒められた。
かなり頑張ったので、褒められる喜びもひとしおだ。
「照れが消えて、台詞に感情が乗っていた。台詞に夢中で体の動きが少なかったけど、先週と比べたら別人ね」
「どうも、恐縮です」
それも父さんに教わった『ミュージカルを練習に取り入れる』方法が、うまく行ったからだろう。
歌を利用することで、演技に没入することができるようになった。
「次にフランソワさんは、実にいいツッコミだったわ。歌沖さんがボケてから、突っ込むまでの間の取り方が素晴らしかった」
「それ、演技の批評ですか」
「フランソワさんはバラエティ適性も高そうね。トークが出来るアイドルは強いわよ」
「本当にそれ、演技の批評ですか」
一方でアンナは、演技トレーナーさんからツッコミの才能を見出されていた。
僕もトレーナーさんと同意見で、アンナはバラエティ適性も高いと思う。
「今日の演技のレッスンはここまで。みんな、とっても上手だったよ!」
「「ありがとーございます!」」
トレーナーさんが何も言わないのは、アンナの演技力は既に高いからだと思う。
今日も演技が上手すぎて、本当にアンナにフラれている気分だった。
アンナは表情の作り方や声の出しかた、所作の一つにいたるまでが本当に上手い。
「さて、帰りましょ歌沖」
「うん、アンナ」
この実力で、アンナはまだ八歳。まだまだ伸びしろがたっぷりある。
一年もしないうちに、
きっとアンナと月壁さんは、
「歌沖は明日、ちゃんと予定は空けてるでしょうね」
「うん、もちろん」
アンナは太陽のように暖かく、燃える炎のような情熱の輝きで。
月壁さんは月夜に佇む
「よろしい。じゃあ今週も、一緒に自主練するわよ」
「僕も楽しみにしてるよ、アンナ」
相反する属性ではあるが、その輝きの質はどちらも劣らない。
今から二人が成長し、切磋琢磨する日が楽しみである……。
「─────フフフ、こんばんはぁ」
「ひぁあ!?」
そんなことを考えていると、背後から京都弁が聴こえてきた。
同時に後ろから、誰かに強く抱きしめられる。
「え、何!? アンタ誰!?」
突然の抱擁に、アンナは驚いて僕の背後を指さした。
一方で僕は絶句し、目を白黒することしかできない。
「やっほぉ、イオ君」
「つ、
振り返ると楽し気に笑う
発展クラスの彼女が、どうしてここにいるんだろうか。
「私もレッスン帰りでなぁ。基礎クラスにイオ君おるやんって、覗いてたんやけど……」
「は、離しなさいよ! 歌沖を抱きしめて何のつもり……」
「君、フランソワちゃんやっけ?」
彼女は機嫌よさそうに、僕の頬まで手を回した。
耳元で囁かれる鈴のような声に、思わずドキりとしてしまった。
「……だったら何よ!」
「フランソワちゃんの演技、
「はぁあ!? 何よ、喧嘩売ってるの!?」
月壁さん煽るような発言に、アンナは激怒した。
アンナ。多分ソレ、彼女なりの誉め言葉だと思う。
「歌沖に聞いたわよ! アンタが
「どうやろねぇ? せやったら、どうするん?」
アンナは鋭い目で、僕に抱きつく月壁さんを睨みつける。
いきなり煽られ、相当に怒っているようだ。
「アンタが主席ってのは、私が発展クラスに上がるまでの話よ」
「ふーん?」
「首を洗って待ってなさい!」
アンナは堂々と、
すぐに昇格して、お前を倒すと意気込むアンナ。
「イオ君以外にも、威勢が良いのがおるやんかぁ」
「ニタニタすんな!」
「ほんま、
そんな言葉を聞いた
どこか、嬉しそうでもある。
「でもなぁ。フランソワちゃんが昇格するまで首洗ってたら、首が擦り切れてなくなってまうわぁ」
「何なのコイツ!! 何なのコイツ!!!!」
「お、落ち着いてアンナ」
おそらく月壁さんは、アンナがお気に召したんだと思う。
あんなに楽しそうに話をする彼女を、僕は見たことがない。
問題はその好意が、一切アンナに伝わっていないことである。
「あー、怖い怖い。イオ君、行こ?」
「歌沖は私と帰るのよ! アンタは引っ込んでなさい!」
「いややわぁ。私はこれから、イオ君とカラオケで盛り上がるんや」
月壁さんの言葉に、僕はエッと言葉が詰まる。
何それ、聞いていない。
「ほら課題曲を練習せんと。レッスン帰りに、ペアとカラオケ自主練は皆やってるで?」
「もう遅じゃない、子供だけじゃカラオケに入れないわ」
「大丈夫やで、顔見知りの店があるから」
なるほど、確かにカラオケで自主練習をする子は多そうだな。
月末に彼女とペアで歌うなら、練習をするに越したことはない。
だけど、
「ごめん、月壁さん。母さんが迎えに来てるんだ。また今度にしてくれないかな」
「えぇ~、しゃあないなぁ」
もう外で、母さんが迎えに来ている。
こんな時間からカラオケに行く余裕はないし、そもそも未成年は入れなかろう。
「じゃあ明日はどうやろ、歌沖君。ウチなら、無料でカラオケし放題やで」
「明日もダメよ。歌沖は明日、『私と』自主レッスンする約束なの」
「……ふぅん? アンナちゃんと自主練するんや」
「ごめんね月壁さん、アンナが先約なんだ」
それならばと明日カラオケに誘われたが、残念ながらそれも断った。
日曜日は、アンナの家で一緒にレッスンしようという約束なのだ。
「ぶぅぅ……、イケズやで」
「ご、ごめんってば」
月壁さんは、頬を膨らませて怒った。
だが変顔をしても可愛い、美人は何をやっても絵になる。
「でも、どっかで付き合ってもらいたいんやけど」
「分かった。空いてる日に付き合うよ」
「ほな、連絡先を交換してな~」
月壁さんはそう言うとスマホを開いて、僕にQRコードを差し出した。
連絡先の交換には異存がないので、素直に応じると……。
「ん? 月壁さん、この店って?」
「フフフ、好きなタイミングで寄ってってな」
彼女のプロフィールに『カラオケパブ・月の宿』という店が記されていた。
カラオケパブって、小学生が立ち入っちゃいけない場所なんじゃ?
「私が居候してる親戚のお店で、カラオケとステージがあるんよ」
「そ、そうなんだ」
「私もよう、お客の前で歌わせてもらうんや」
いや、カラオケで歌うだけなら大丈夫なのか。
親戚の店に、遊びに行ってるだけだもんな。
「お客さんの機嫌が良ければ、お捻りも貰えるで」
「そ、それは貰って大丈夫なの?」
「お捻りのおかげで、私はレッスン通えてるんや」
聞けば月壁さんは毎月のレッスン代を、お客さんのお捻りから捻出しているらしい。
確かに彼女のパフォーマンスなら、お捻りは飛んできても不思議じゃない。
「夢ってのはな、追うにはお金がかかるんよ」
「月壁さん?」
「お金ってやつが、空から降ってきたらええのになぁ」
そう言う月壁さんは、どこか遠い目をしていた。
今の言葉は嘘や皮肉じゃない、
……少しだけ、彼女の心の奥に触れられたような気がする。
「ほんなら今度、ウチに来てな」
「う、うん」
「ステージに立つ、いい練習になるで」
月壁さんはそう言うと、寂しそうに僕から離れた。
そして、
「あ、フランソワちゃんも良ければ遊びに来てや。首を洗っとくで」
「誰が行くか!」
からかうようにアンナにそう言って、颯爽と背を向けた。
そこで気づく。彼女のセーラー服は、ずいぶん着古されて汚れていたことに。
「……ったく。なんなのよ、あの女」
月壁さんにはアイドルとしての実力に、圧倒されていたが……。
裕福な僕やアンナの家とは違い、月壁さんは苦労人なのかもしれない。