【TS転生】僕はプロデューサー志望なんですが   作:あいどりゅ

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エピソード22「浮気者」

 

「って感じで、録音してきたよ」

『証拠が取れたのか』

 

 その夜、21時を過ぎたころ、僕は父さんに電話をかけた。

 

 要件は、三浦木村ペアのイジメの証拠を渡すことだ。

 

「録音した音声、送っとくね」

『分かった。まさかこんなに早く、なぁ』

 

 チャットアプリを通じて、僕は父さんにファイルを送った。

 

 これで、事実が握りつぶされることはないだろう。

 

『……これ、声をかけられてるのはイオか?』

「うん。幸か不幸か、二人の標的(ターゲット)が僕に移ったみたい」

『なるほど』

 

 父さんは向こうで、音声ファイルを聞いているのだろう。

 

 しばらくの間、重苦しい沈黙が流れた後……

 

『これは……いかんな』

 

 小さく、唸り声が聞こえて来て。

 

 電話口から聞こえる父さんの声は、険しくなっていた。

 

『大丈夫だったかイオ。泣いたりはしていないか』

「うん、月壁さんが割って入ってくれたし」

『そうか』

 

 実際、僕はたいして気にしていない。

 

 英語が下手なのは事実だし、実力の伴わないパフォーマンスは笑われて当然だ。

 

 前世で出来の悪い曲を作った際には、もっと激しい罵倒を受けたし。

 

『ありがとう、イオ。俺も時間を絞り出し、木村と三浦、月壁から聞き取りをしよう』

「あ、それだったらさ。来週のボーカルレッスンの後で、竹田さんが全員集めるって話だったよ」

『む、そうなのか。来週のイオのボーカルレッスンの後……、ふむ』

 

 電話の向こうから、ペラペラと手帳を捲る音がした。

 

 そして数秒ほどペンが走る音が聞こえて来て。

 

『ギリギリ行けそうだ。俺も参加させてもらおう』

「お、ホント?」

 

 やがて父さんから、頼もしい返事が返ってきた。

 

 来週の話し合い、父さんも参加してくれるようだ。

 

『来週、決着をつけようか』

「うん」

 

 そこで、電話は切れた。父さんが参加してくれるなら安心だ。

 

 僕は肩の荷が下りたような気分で、布団に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「歌沖! 今日も私と即興劇、組みましょ」

「うん」

 

 ─────実際のところ。アイドル研修施設でのイジメ問題は珍しくない。

 

 むしろ候補生同士、陰口を叩き合っている状態こそ『正常』ですらある。

 

 同級生は、デビューの席を奪い合う敵。仲良しごっこでいられるハズがない。

 

 だから中立な立場の大人に、監視してもらう必要がある。

 

「じゃあ、お題はどうする?」

「うーんと、そうねぇ」

 

 本来であれば、竹田トレーナーがその役目を負うべきだった。

 

 しかし彼女は、三浦と木村に完全に騙されている状況だ。

 

 月壁さんが誤解されやすい性格だったのも一因だっただろう。

 

「告白はもう飽きちゃったしね。また、私がお題を決めていい?」

「うん。どんなお題で大丈夫だ、ばっちこい」

 

 それに三浦も木村も、嘘をつくことは天才的に上手かった。

 

 アイドルとして学んだ演技スキルを、上手に悪用しているらしい。

 

「私がイジメっ子をやるわ! 歌沖は、私の嫌味に毅然と言い返しなさい!」

「お、おお」

 

 三浦さんたちは歌も演技も、他人より上手にできるのだろう。

 

 決してアイドルとしての才能が、ないわけではない。

 

 だけど僕は二人から、月壁瑠偉のような輝きは感じなかった。

 

「えーっと、えふん、えふん。おーっほっほっほ! 私がフランソワ・アンナ様よ!」

「うわ、悪そうな顔」

「私のママは有名アイドルなんだから! ひれ伏しなさい、おーっほほほほ!」

 

 月壁瑠偉とは比べるべくもない、圧倒的な実力差がある。

 

 きっと二人はそれに気が付いているから、イジめているのだ。

 

「貴方のような無作法者が、本気でアイドルになれると思ってるのかしら! 思い上がりも甚だしいわ!」

「……」

 

 群れから『脅威となる相手』を追い出そうとするのは、生物の本能。

 

 二人は実力で月壁瑠偉に勝つことを諦め、排斥する道を選んだ。

 

「なれるさ、なってみせるとも」

「まあ!」

「努力をしない君よりは、きっと輝く自信がある」

 

 もしあの二人がイジメに割く時間を、真っ当な努力に当てていたら……。

 

 あの二人はもう少し、僕の目にも輝いて見えたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 フランソワ・アンナとの演技レッスンは、楽しい。

 

「うん、歌沖の演技もだいぶ見れるようになったわ」

「ありがと」

 

 彼女は一生懸命で、自分を高めようと努力している。

 

 その在り方も含めて、彼女は輝いて見える。

 

「ただ、決め台詞はもう少し溜めたほうが良いかもね」

「なるほど」

「それと、表情の作り方だけど……」

 

 アンナは僕に、ズケズケと忌憚のない意見を言ってくれるのもありがたい。

 

 トレーナーさんの言葉は誉めてばかりで、少し物足りない。

 

「コツは『ちょっとだけオーバーに』よ」

「ふむふむ」

「役に入り込むのは良いけど、ちゃんと表情を作るのも大事」

 

 この三週間、アンナは基礎クラスでメキメキと頭角を現した。

 

 トレーナーさんも『すぐ発展クラスに上がれるだろう』と太鼓判を押している。

 

「人間って思ったより、感情が顔に出ないもんなの」

「うん」

「だから、少しオーバーに顔を……」

 

 そんなアンナとの自主練のおかげか、僕もダンスも演技もそれなりにできる。

 

 恐らくダンスも演技も、アンナと一緒に発展クラスに上がれるんじゃなかろうか。

 

「じゃ、今日はこれで解散」

「うん、ありがとうアンナ」

 

 アンナのお陰で、僕のアイドル生活は何もかもうまく回っている。

 

 彼女と巡り会えた幸運に対し、神様に感謝をしたい。

 

「今週も、私の家で自主練を─────」

「ほな、ここからは私がイオ君貰うなぁ」

 

 だからこそ『イジメ問題』を、彼女が発展クラスに上がるまでにカタを付けておきたい。

 

 そんなことを考えながら、僕がアンナと別れを告げたその瞬間。

 

 背後からヌっと現れた『誰か』に、僕はいきなり抱きしめられた。

 

 

 

 

「……なな、なあっ! アンタ、確か」

「アンナちゃん、こんばんはぁ~」

 

 半ばのしかかられるような形で、僕を抱きしめたのは月壁瑠偉だ。

 

 既に小学校高学年の彼女は、僕より身長が一回り大きい。

 

「出たわね! 月壁瑠偉!」

「はいはい、出たらどしたん?」

「帰って欲しいわ!!」

 

 先週と同じく、月壁さんは僕を待ち構えていたらしい。

 

 頭髪ごしに乳房の膨らみを感じてしまい、僕は黙り込んでしまった。

 

「悲しいわぁ。イオ君は、そんなこと言わへんよなぁ?」

「あ、あの。重いんだけど、月壁さん」

「あらま。イオ君、女の子のそんなこと言うたら嫌われるで?」

 

 僕の『重い』という言葉が、気に障ったのだろうか。

 

 月壁さんは僕の胸に手を回すと、そのままギュっと抱き上げた。

 

「これで重くないやろ? すりすりー」

「わ、わぁ……」

「何してんのよ!」

 

 身体が軽い僕は、抵抗できず月壁さんの頬ずりを受けた。

 

 完全に人形扱いである。

 

 彼女は僕を、テディベア人形と勘違いしているのかもしれない。

 

「イオ君を可愛がっとるんやけど?」

「やめなさいよ! 歌沖、イヤがってるじゃない!」

 

 どうやら月壁さんに、気に入られてしまったらしい。

 

 先週のレッスンの後から、ボディタッチが増えた気がする。

 

「ダメ~。イオ君は、私のや~」

「何なの、コイツ!」

「僕、誰かの所有物になった記憶はないよ……」

 

 今まで、月壁さんはあの二人と孤立無援で戦っていたわけだ。

 

 共に戦う仲間が出来て、うれしかったのだろうか。

 

「それでな、イオ君。今日こそ、私と課題曲の練習をしてほしいんやけど」

「あ、その。ごめん、相談したんだけど……。勝手にそういう店に行ったらだめって」

「そうよ、歌沖はアンタなんかと練習しないわ」

 

 そんな月壁さんの事情を知らないアンナは、大声で食って掛かった。

 

 ふしゅるるる、とアンナは鼻息荒く睨みつける。

 

「歌沖は私の家で! 私と二人で! レッスンするの!」

「えー?」

 

 縄張りを犯された猫みたいである。

 

 僕は月壁さんに抱き上げられ、プラプラ足を揺らせていると。

 

「それやったら大丈夫やで。なぁ、イオ君のお母さん?」

「えっ」

 

 背後から、聞きなれた母さんの声がして。

 

 振り返ってみると、迎えに来た母さんが僕に手を振っていた。

 

「お疲れ、イオ」

「母さん、もう来てたんだ」

 

 母さんが、レッスン室まで迎えに来るなんて珍しい。

 

 いつもは、車で待っているのに。

 

「うん。さっきまで、月壁さんの店で待ってたの」

「え、それって例のカラオケパブ?」

「そうよ」

 

 聞けば母さんは、月壁さんのカラオケパブを偵察に行っていたらしい。

 

 そこで月壁さんと話をつけていたようで、

 

「じゃあ、イオ君のお母さん。帰りに店で練習してもエエんよね?」

「私がいる時だけにしてね」

「は~い」

 

 月壁さんは、どんな魔法を使ったのだろうか。

 

 なんと帰りに、カラオケパブに寄って練習をする許可が下りてしまった。

 

「え、えええええ!!」

 

 その言葉に、素っ頓狂な声をあげたのがアンナである。

 

 彼女は僕の母さんを驚いた眼で見つめる。

 

「な、なんで!」

「発展クラスだと、課題曲をペアと練習するのは普通だしね」

 

 母さんも、かつてはCarol(キャロル)でアイドルをやっていた身だ。

 

 自主練で、ペアの子と歌い合わせる必要性は理解しているらしい。

 

「じゃ、じゃあ! 私もその店、寄って帰りたい!!」

「……え、えっと」

「歌沖のママさん、連れて行ってくれませんか!」

 

 それを聞いたアンナは悔しそうな顔をした後、そう母さんにせがんだ。

 

 しかし母さんは、アンナに困り顔で返す。

 

「それは、アンネに確認してからじゃないと」

「ママは、多分ダメって言うし……」

「じゃ、ダメでしょ。親の言うことは聞きなさい、アンナちゃん」

 

 母さんに諭されて、ガーンとショックを受けるアンナ。

 

 そりゃ母親(アンネさん)の許可なく、アンナをカラオケパブに連れていけないでしょ。

 

「じゃあ、なんで歌沖は……」

「イオは、ママの許可があるからね」

「え、えええ……」

 

 むしろ僕が連れて行ってもらえることの方が驚きだ。

 

 その母さんの判断を、意外に思っていたら……。

 

「─────見といたほうが良いわ、イオは」

 

 母さんは 歌沖奏(アイドル)の顔で、僕を見つめていた。

 

 おそらく月壁さんの店で、何かを教えようとしているらしい。

 

「でもアンナちゃんは見る必要はないの。前に見た時は『出来ていた』し」

「出来ていた……?」

「ええ。ウチの子にだけ必要なモノ」

 

 母さんは僕の『足りないもの』を、何かを感じたのだろう。

 

 なら、ここは母さんを信じてみよう。

 

「じゃ、あんまり遅くなっても良くないから……行きましょうか」

「はーい。イオ君、ご入店おおきに~♪」

「え、あ、うん」

 

 そんなわけで僕は、月壁さんに手を引かれ。

 

 日が落ちたビル街を、歩いていくことになった。

 

 

「……浮気者」

「えっ」

 

 アンナはそんな僕を……。

 

 唇を曲げて、冷たい目で睨みつけていた。

 

 

 

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