【TS転生】僕はプロデューサー志望なんですが   作:あいどりゅ

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エピソード8「アイドル」

 

「じゃあね、イオ君! 楽しかった!」

「みんな、来てくれてありがとう」

 

 祭りの終わりは、哀愁が漂う。

 

 空が夕焼けに染まる頃、最高の誕生日はお開きになった。

 

「ありがとう父さん。すごく、楽しい誕生日会だった」

「なら、俺も頑張った甲斐があった」

 

 友達を見送った後、僕は父さんに向き直った。

 

 この素晴らしい時間をくれた父さんに、感謝を込めて。

 

「じゃあ後片付け、していくか」

「うん、父さん」

 

 そして夢のような時間は、もう終わり。

 

 明日からまた、日常が戻ってくる。

 

 ─────はずだったのだが。

 

「…………」

「どうした、母さん。さっきから黙り込んで」

 

 僕の新曲がアップロードされてから、母さんの口数が減っていた。

 

 みんなが帰ってからは、ずっと無言だった。

 

「い、いやだってこれ」

「ああ、イオの新曲か?」

 

 スマホを見つめる母さんは、興奮しているというより……。

 

 混乱と動揺で、青ざめているようにも見える。

 

「どれどれ? ふむ」

「わ、もう一万再生に届きそう」

 

 どうやらMother(マザー) sunlight(サンライト)のMVは、投稿してから伸び続けているようで。

 

 まだ一時間ほどしか経っていないのに、一万再生を達成していた。

 

「ちょっとこれ、伸びすぎじゃない……?」

「わ、もう前曲のコメント数を越えてる」

 

 素人目にも、この伸び方が異常なのは分かる。

 

 三日で一万再生という、前作『虹のスムージー』の百倍近い速度だ。

 

「む、そんなことか」

「そんなことって」

 

 この凄まじい数字を見て、父さんはすまし顔だった。

 

 驚いている様子はまったくない。むしろ、

 

「そっちの手続きもやらないとな。イオ、この曲を音楽配信代行サービスにも登録していいか?」

「え、あ、うん」

「歌手は奏、作詞作曲はイオ、編曲は木村さんだ」

 

 彼は淡々とした口調で、PC画面の契約書らしきものを見せた。

 

 僕が頷くと、そのままカタカタと高速で何かを打ち込んでいく。

 

「もう、木村さんの了解は得ている。申請用のファイルも、もう作ってて……」

「あの、パパ。まさかとは思うんだけどぉ」

「お、予測より再生数が5%上振れてる。無事、トレンドにも載りそうだ」

 

 仕事人の顔で、書類の作成を続けていく父さん。

 

 そんな彼に、ニッコリと微笑みを向ける母さん。

 

「最初から、めっちゃ伸びる前提で動いてた?」

「当たり前だ。このMV見て伸びないと予測する奴は、プロデューサー失格だ」

「だったら教えておいてよォ!!!」

 

 母さんはそう叫ぶと、頬を膨らませて父に抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

『神曲です。鼻の奥がツンと暖かくなりました』

『元気を貰えました。気づけば、何度もリピートしています』

『なんちゅう曲を聞かせたんや。母と過ごした少年時代を思い出し、涙が止まらん』

 

 新曲のMVについた、コメントを見ると。

 

 大半が曲に対する、好意的な応援コメントだった。

 

『さりげなく歌詞が韻を踏んでいて、覚えやすい』

『歌いやすいよう、歌詞がコンパクトに洗練されてる』

『すぐ歌えそう。カラオケで母さんに聞かせたい』

 

 僕がこだわった、歌いやすさについても言及があった。

 

 令和チックではない、思わず口ずさめる曲に仕上げた。

 

 それを分かってくれるコメントがあって、うれしかった。

 

『なんだこの素人!? こんな逸材がどこに眠ってた!?』

『歌沖(かおき)奏(かなで)さんの歌唱力が、曲の良さを引き出してる』

『商業デビューはまだですか?』

 

 一方で変わらず、母さんへの応援コメントもたくさん来ていた。

 

 今回も、母さんの歌唱力が素晴らしかったからしょうがない。

 

『素人の歌で感動したのは久しぶり』

『作詞作曲のイオって誰? 検索しても過去曲が出てこない』

『イオって何者だよ、素人じゃねーだろ』

 

 このコメント欄を見て、僕は大変に満足である。

 

 Mother(マザー) sunlight(サンライト)は、望郷狂詩曲(ラプソティ)を書いて以来の手応えだった。

 

 それが受けたということは、僕のクリエイター性が時代を超えて受け入れられたということ。

 

「……イオちゃん、すっごく嬉しそう」

「笑っている姿は、年相応の娘なんだがな」

 

 それが、嬉しくないはずがない。

 

 両親は何とも言えぬ顔で、コメント欄を見てニマニマする僕を見ていた。

 

「それで、イオ。お前の才能は示されたわけだが」

「父さん?」

「改めて、どうするか聞きたい」

 

 僕が、大量の応援コメントに浸っていると。

 

 やがて父さんが、真剣な顔で話しかけてきた。

 

「どうするか、って?」

「イオが、音楽家(ミュージシャン)として生きていくかどうかだ」

 

 父さんのその言葉に、僕は少しだけ考え込んだ。

 

 今世も音楽家として、生きるかどうか。

 

「イオの才能はすさまじい」

「そんな、言いすぎだよ」

「そして父さんなら、お前を輝かせられ(プロデュースでき)る」

 

 瞳は、真剣そのものだ。今の言葉は、父親としてじゃない。

 

 一人のプロとして、僕の作品(しごと)を評価してくれた。

 

「その才能を、もっと輝かせてみないか」

「……」

 

 そんな父さんの言葉は、とても嬉しかった。

 

 前世で培った作曲家としての技能を、令和のプロに認められたのだから。

 

 だけど、

 

「いや、いい」

「そうか」

 

 僕は父さんの誘いを、首を振って断った。

 

「え、イオちゃん。音楽の道に進まないの?」

「僕が、音楽好きなことは認めるよ母さん」

「だったらどうして」

 

 確かに僕は音楽が好きだ。僕の曲が、誰かの心を揺さぶれたら嬉しい。

 

 今回のMVの成功も、大きな自信になった。

 

 ─────だけど、

 

「母さん、ごめん。今日の誕生日会で、父さんをかっこいいと思っちゃった」

「……パパが?」

「地味な仕事をこなし、輝きを演出してくれた父さんに、敬意を覚えた」

 

 父さんの仕事を見て、僕は改めて自覚した。

 

 僕は影で働き、誰かを輝かせることに喜びを感じる人間だ。

 

「確かにMVに映る母さんは、とても魅力的だった」

「イオちゃん……」

「画面越しに、母さんの輝きに見惚れたよ」

 

 どこかから依頼を受けて、曲を作るスタイルじゃない。

 

 僕が惚れ込んだ誰かのために、曲を作れる立場でありたい。

 

「だけどあのMVを制作したのは父さんで、編曲したのは木村さんだ」

 

 ただ、曲作りだけじゃ物足りない。

 

 衣装もイベントも演出も何もかも、僕の手で演出したい。

 

「父さん。僕、やっぱりプロデューサーになりたい」

「……そうか」

「誰かを輝かせる瞬間に、立ち合いたいんだ」

 

 僕は音楽家(しゅやく)になりたいんじゃない。

 

 主役のために土台となって、輝きを際立たせる立場でありたい。

 

 それが何も取り繕っていない、僕の本音だった。

 

「イオの気持ちは分かった」

「ごめんね、母さん。ここまでしてもらったのに」

「……いや、いいの」

 

 僕の答えを聞いて、父さんは柔和な笑みを浮かべた。

 

 まるで僕が、そう答えると分かっていたかのような表情だ。

 

「音楽家を目指すなら、音楽教室に申し込むつもりだったが」

「ははは、音楽は趣味でやっていくつもり」

 

 それに、音楽教室など冗談じゃない。これでも前世でプロだったんだぞ。

 

 その辺の音楽家よりは、知識があるつもりだ。

 

「勿体ない……勿体ないけど。イオちゃんがそう言うなら仕方ないぃぃぃ」

「か、母さん」

「この才能が……、いや才能で縛られる人生なんて……うぅぅぅ」

 

 一方で母さんは、苦渋に満ちた顔をしていた。

 

 僕を音楽の道に進ませたかったのは伝わっていたけど……。

 

「イオ、先に言っておく。プロデューサーの道は険しいぞ」

「うん、覚悟はできてる」

「音楽家になるほうが、ずっと楽だった。そう思う日が来るかもしれない」

「そ、そんなにキツいんだ?」

 

 父さんは真顔で、そんな怖いことを言った。

 

 まぁ確かに、父さん滅多に家にいないもんな。

 

 プロデュース業がものすごく過酷だと、想像がつく。

 

「地獄を見る覚悟があるなら、俺がイオをプロデューサーにしてやる」

「覚悟はある、つもりだ。父さん」

「いい返事だ、イオ」

 

 だけど、現役プロデューサーたる父さんが僕を鍛えてくれるというのだ。

 

 こんなに都合の良い話は、めったにない。

 

「分かった。じゃあイオのレッスンの手続きも進めておこう」

「はい、父さん!」

 

 どうすれば人を輝かせられるのか、学びたい。

 

 どうすればアイドルをプロデュースする立場になれるのか、聞きたい。

 

 そのためなら、どんなレッスンでも受けてやる。

 

「パパ、レッスンって……。イオちゃんに何させるの?」

「そうだな。ダンスとボーカル、演技指導から始めるか」

「分かりました!」

 

 僕の父さんがプロデューサーだという幸運を、最大限に生かすんだ。

 

 そして僕は、誰かの輝きを演出するプロデューサーに……!!!

 

「って、ダンスと、ボーカル?」

「おう。それと演技指導、週三回の習いごとだな」

 

 父さんは表情を変えないまま、カレンダーに僕の予定を書き加えた。

 

 来年から週に三回、ダンス・ボーカル・演技指導のレッスンと。

 

「どこで、そんなの習わせるの?」

「芸能事務所Carol(キャロル)と提携してる、小学生向けのアイドル養成ジュニアスクールがあるんだ」

「……アイドル養成ジュニアスクール?」

 

 父さんの言葉が、よく理解できない。

 

 え、何で僕がアイドル養成スクールに入らないといけないの?

 

 プロデューサーにしてくれるって話じゃ、なかったの?

 

「そうだ。イオ、まずお前はアイドルになれ」

「え、いやいやいや! 僕がアイドルとか無理!」

「何だ? もう夢を諦めるのか?」

「そうじゃなくて、僕はプロデューサー志望で、アイドルになる必要は……!」

 

 どこからアイドルなんて話が出てきた。冗談ではない。

 

 ぼくはアイドルになる気はない。父さんに、慌ててそう言い返すと。

 

「イオ。お前はプロデューサーがどんな仕事をしているか知りたくないのか」

「え? その、知りたい……けど」

「じゃあ、プロデューサーが働いているところを見学しないとな?」

 

 そう、プロデューサーの仕事内容を僕は知りたいんだ。

 

 アイドルなんてやっている暇は……。

 

「うん、だから父さんの仕事を見学をしたいんだけど」

「芸能事務所Carol(キャロル)は、部外者立ち入り禁止だ。家族でも無理」

 

 ま、まぁそうだよな。アイドルが所属する事務所だもんな。

 

 セキュリティ的に、社員の家族であっても入れてもらえるわけがない。

 

「じゃあお前がプロデューサーの仕事を見学するには、どうすればいい?」

「そ、それで僕がアイドルになるってこと?」

「ああ、絶対に損はしない」

 

 なので父さんは、僕をアイドルにするつもりらしい。

 

 それがプロデューサーになるための、第一歩だそうだ。

 

「お前の歳から、レッスンしてるアイドル候補生はたくさんいる」

「……」

「どんな気持ちでオーディションを受けるのか。どんな気分で仕事に行くのか。プロデューサーになる気なら、アイドル側の気持ちを知っとけ」

 

 ……なるほど。それは確かにその通りだ。

 

 アイドル業を経験をしておくことが、将来のプロデュースに生きるのか。

 

「それともう一つ、アイドルを経由するのはプロデューサーになる最短ルートだ」

「え、そうなの?」

「芸能事務所は、業界に詳しい人手を欲しがるからな。元アイドルの事務員もゴロゴロいるぞ」

 

 そう言われてみれば、確かに業界人を優遇するイメージがある。

 

 一般人よりかは、元アイドルの方が雇ってもらいやすいのかも。

 

「納得したか?」

「う、うん。じゃあ僕、養成スクールに入る」

 

 そうだ、何を疑う必要があったんだ。父さんは敏腕のプロデューサーだ。

 

 僕を、素晴らしいプロデューサーに教育(プロデュース)してくれるはず。

 

 今は素直に信じて、父さんが敷いたレールに乗っかろう。

 

「それともう一つ、俺の娘であることは隠しておけ」

「え、どうして?」

「俺はCarol(キャロル)のチーフプロデューサーだからな」

 

 最後に父さんは、僕に『父さんとの関係を隠す』よう助言した。

 

 その理由は、

 

「Carol(キャロル)が運営するスクールだ。俺との関係がバレるとロクなことにならん」

「……」

「くだらん輩がお前にすり寄ってくるし、実力で仕事を勝ち取ってもコネ扱いされる」

 

 確かにチーフプロデューサーの娘となれば、邪推は避けられないな。

 

 父さんのことは黙っておいた方がよさそうだ。

 

「俺はイオを優遇する気はない。コネも忖度もなしだ」

「うん」

「ろくに評価されず、引退するかもしれない」

 

 僕にそう告げる父さんの顔は、冷徹そのもの。

 

 父さんはプロとして、私情を挟まず話をしている。

 

「イオ、お前に音楽の才能があるのは分かった。だが、アイドルの素質があるとは限らない」

「……」

「辛くなったら言いなさい。その時はやめていい」

「うん」

「ただ、プロデュースされる側の気持ちも知っておいてほしい」

 

 父さんに抱きしめられる僕を、母さんは何とも言えない目で見つめていた。

 

 あれはどういう顔だろう。ちょっと、表情が読めない。

 

「アイドルの気持ちが分かっていないヤツは、プロデューサー失格だ」

「わ、わかったよ父さん」

 

 だけど、父さんの言葉には有無を言わせぬ迫力があった。

 

 なのでコクコクと、僕は素直にうなずいた。

 

「いい子だ、イオ。母さんも、それでいいな?」

「いいと思うわ。イオちゃんがレッスンに通うのかぁ」

 

 優しい笑みを浮かべる父さんと対照的に、母さんは複雑そうな顔だ。

 

 母さんの性格なら、アイドルと聞いて喜びそうな気がしたけど。

 

「……うん。応援するわ、イオちゃん!」

「ありがと、母さん」

「分からないことがあれば母さんに聞きなさい!」

 

 だけど結局、母さんも僕を応援してくれて。

 

 僕は、アイドル養成スクールに通うことになった。

 

「あ、それと趣味で作曲は続けなさい。プロデューサー自身が作曲できるのは強い」

「うん、そのつもり」

 

 正直なところ、戸惑いの気持ちの方が大きい。

 

 だけど父さんの言う通り、『輝かせる側』の気持ちを知るのは大事だ。

 

 それに何より、

 

「しっかり、御友達を作るんだよ」

「うん!」

 

 未来のアイドル候補生とお友達になれるかもしれない。

 

 そのことには少しだけ、ワクワクした。

 

 

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