何!?ズァークとは「もう1人のボク!」ではないのか!? 作:辛味噌の人
全体の大まかな流れだけ考えてそれ以外の全てが未定の状態で小説を書いている時が1番生を実感する……
「入塾希望者ぁ?」
「遊矢ー!なんだその怪訝そうな顔は〜!」
「いやだって……ねぇ?」
まだこんな塾に入塾希望者がいるとは……流石に修造さんに失礼か。
親父が失踪してから3年。14歳になった俺は幼なじみである柊柚子の父親、柊修造が経営している遊勝塾のお世話になっていた。……お世話になっているって言っていいのかなこれ。俺がお世話してる気も……。
それはさておき、遊勝塾という名前からも分かるように、この塾は親父との縁が深い。修造さんがうちの親父の後輩で、親父もよくこの塾で指導していたのだ。俺と柚子が幼なじみなのも、2人が先輩後輩の仲だからである。
だがつまりそれは、臆病者というレッテルを貼られた親父の風評を遊勝塾もモロに受けるということで……今は塾生もほんのわずかの弱小塾となってしまっている。
それにこの世界においてはEXデッキを使った召喚法は高等テクニック。修造さんは元プロデュエリストではあるのだが……EXデッキを使った召喚法は身につけておらず、指導はもっぱら通常召喚及びアドバンス召喚についてばかり。なので親父が失踪して以降は俺が講師役をやることが多くなった。俺は普通に融合もシンクロもエクシーズも使えるからね。リンク召喚が恋しい……
「んで?マジなのか柚子」
「本当よ?別室で男の子とそのお母さんが待ってらっしゃるわ。まあ入塾希望というより入塾検討の段階だけど」
うーん柚子は今日も可憐だ。……ではなく。それならばなんとしてでも入塾してもらわなければならない。柊家の家系は苦しい……修造さんがプロ時代に稼いだ貯金も底を尽きかねないのだ。
「ってことは何かしら見せた方が良さそうだな……。柚子、デュエルいけるか?」
「そのデュエル!この男権現坂が引き受けよう!」
「うわっびっくりした!いたのか権現坂……」
いきなり部屋の扉が開き、権現坂が姿を表した。権現坂は良い奴なんだが、たまにうるさいんだよな……。彼の数少ない欠点である。
「むぅ、驚かせてすまん!そして柚子、出番を奪う形となってすまない」
「ううん、いいのよ。私今日ちょっと調子悪かったし」
「何?大丈夫なのか柚子」
「ああいやそんな大したことじゃないのよ。別に熱とかある訳じゃないし……。心配してくれてありがと遊矢」
「ならいいが」
柚子が風邪でも引いたら俺の心が心配で張り裂けるからな、柚子には元気でいて欲しいものだ。
そんなわけで、俺と権現坂は連れ立ってデュエルルームに向かう。ふと窓から外を見ると、修造さんに案内されて男の子とその母親らしき女性がやってくるのが見えた。あれが入塾希望者の子か……。
「よっしゃ権現坂!気合い入れていくぞ!」
「応!」
『2人とも準備はいい?いくわよ!アクションフィールドオン!』
別室でリアルソリッドビジョンシステムの操作をしている柚子の声が聞こえる。と同時に、リアルソリッドビジョンが展開されらアクションフィールドが広がっていく。……っと、これは。
現れたのは五条大橋を彷彿とさせるフィールド。権現坂の使うテーマにピッタリだな。……かなり画質悪いけど。うちのリアルソリッドビジョンシステムはオンボロだからなぁ。
それはさておき。
「行くぞ遊矢!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」
「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ!これぞデュエルの最強進化系!」
『アクショーン!』
「「デュエル!!」」
〈権現坂昇 LP4000〉
〈榊遊矢 LP4000〉
「先攻は俺だ!俺は手札から超重武者ワカ-
〈超重武者ワカ-
先攻をとった権現坂はワカオニを召喚して守りを固める。権現坂の超重武者はフルモンの曲者デッキ……さてどう攻めるか。
「俺はこれでターンエンド!さあこい遊矢!どんな攻撃も受け止めてやる!」
「なら遠慮なく行かせてもらうぜ!俺のターン!」
おっ……これは!
「いくぜ!俺は手札の
〈
別に岩石族デッキって訳じゃないけどな!後攻なら雑に特殊召喚できるチューナーってことで使ってるぜ。シンクロンが欲しい……
「むう、チューナーモンスターということは……」
「ああそうさ!俺は手札から
〈
「そしてレベル4の
〈スクラップ・ドラゴン Lv8 ATK2800〉
けたたましい金属音を鳴らしながらスクラップ・ドラゴンがフィールドに着地する。コナミくんのエースカードだ!俺はタッグフォースエアプなんだけどな!
「攻撃力2800!?」
「驚くにはまだ早いぜ!俺はカードを1枚伏せ、スクラップ・ドラゴンの効果発動!1ターンに1度、自分フィールドと相手フィールドのカード1枚ずつを対象とし、破壊する!スクラップショット!」
俺はたった今伏せた伏せカード……サイクロンとワカオニを破壊する。そしてこのまま攻めるぜ!
「バトルだ!スクラップ・ドラゴンでダイレクトアタック!黒鉄のスクラップ・バースト!」
スクラップ・ドラゴンが金属音をかき鳴らしながらエネルギーを貯め……そのまま霧散した。同時にアクションフィールドも消えていく。
「あれ?」
「なに?」
こうして、俺と権現坂のエキシビションマッチはあまりにも消化不良のまま終わることになったのだった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まさかリアルソリッドビジョンシステムが壊れるとは……」
「うちのシステム、もう随分と古かったから……ごめんね?」
「いやいや、柚子が気にすることないって。大変なのはむしろ柚子の方なんだし」
不完全燃焼でぼんやりとした顔の遊矢を励まそうと思ったら、逆に心配されてしまった。……遊矢と話すといつもこうだ。
私、柊柚子の幼なじみである榊遊矢は、どうにも私や他の同年代の子供に比べて大人びている。そこが頼りになって……でも、遊矢が困っている時でもあまり助けさせてくれないことが不満。もっと私を頼ってくれてもいいのに……。
とはいえ、確かに遊矢の心配をしている場合では無いのは事実……うちの塾の、アクションデュエルの要であるリアルソリッドビジョンシステムが壊れてしまっては、どうにもならない。買い直すお金も無いし、どうしたら……。
「おやおやぁ?何やらお困りのご様子で」
「あなた誰……?」
そんな私たちのところに、1人の男が尋ねてきた。そんな予定は無かったはずなのだけど。
「アンタ確か、ストロング石島のプロモーターの……」
「なんと!榊遊勝の息子である榊遊矢くん、あなたに覚えていただいているとは!光栄です……。そう、わたくしストロング石島のプロモーターをさせていただいております、ニコ・スマイリーと申します。以後お見知り置きを……」
「ストロング石島のプロモーター!?」
なんでそんな人がここに?というか遊矢、よく知ってたわね。確かに遊矢はいつもプロデュエリストについて熱心に調べてはいたけど……。
「ストロング石島は俺がこの世界で尊敬してる数少ないデュエリストの1人だからな。まあ、ファンの民度はちょっと頂けないが……」
怪訝そうな顔を向けると、遊矢は私の内心を読み取ったのか、そう答えてくれた。なるほどね……。
「でも何故あなたがここに?ニコ・スマイリーさん。元プロの修造さんに何か用でも?」
「いえいえ、わたくしが用があるのは貴方ですよ遊矢くん!LDSのイメージキャラクターを務めるストロング石島、そのファン感謝デーに是非遊矢くんをお招きしたいのです!そしてストロング石島と戦っていただきたい!」
遊矢が?どうして?確かに遊矢はとっても強いけど、別にプロデュエリストでもストロング石島のファンクラブに入ってたりする訳でもないのに……。
「あーなるほどね、理解したぜニコ・スマイリーさん。要するに3年前のリベンジマッチを親父に代わって受けて欲しいと。確かにそりゃ盛り上がるよなぁ」
「おっと……流石遊矢くん、飲み込みが早い!遊矢くんはその歳で既にとても腕のいいデュエリストであると話題であることですしね!……ということは受けていただけると言うことで?」
「うーん、まあ「ダメだ!」
「修造さん?」「お父さん……?」
遊矢が頷きかけたところで、お父さんが止めに入った。私としては別に、遊矢が乗り気ならいいと思うのだけど。
「遊矢を見世物にはできん!この子はまだ14歳なんだぞ!この3年間、遊矢がどんな思いをしてきたか……!」
そんなお父さんの言葉にはっとさせられた。そうだ、このニコ・スマイリーという男は遊矢をストロング石島の興行に巻き込もうとしているのだ。まだ私と同い年の遊矢を。榊遊勝……おじさんが失踪して3年、酷い風評に耐えてきた遊矢を。
私の認識が甘かったわ。そんなの私も反対よ!
「そんなのダメよ!遊矢、この話断って……!」
「まあ落ち着けって柚子、修造さんも」
私も声をあげたが、すぐに優しい目をした遊矢に宥められてしまう。なんで、また……。どうして遊矢が辛い目に遭わなきゃいけないの?
「2人が俺のために怒ってくれるのは嬉しいけどさ、俺としてはこれは千載一遇のチャンスなんだ。見世物にされることくらいわかってるけど、逆に言えばこれは名を売るチャンスって事だ。なんせ俺がストロング石島に勝てばそりゃもうとんでもない名声と賞金が……だろ?ニコ・スマイリーさん」
「ええもちろん!この話を受けてくださるなら勝敗に関わらずレオコーポレーション製の最新式リアルソリッドビジョンシステムをプレゼント!さらにもし!もし勝てた場合にはこれくらいの賞金を……」
パパっと電卓を弾いて2人に見せるニコ・スマイリー。すると2人の目が一気に輝いた。
「マジすか!よーし遊矢やってこい!」
「いやー太っ腹!さすがあのストロング石島のプロモーターやってるだけある!」
「ちょっとお父さん!?遊矢も!」
思わずお父さんをハリセンで引っぱたく。せっかく立派なこと言ってたのに!
「あはは……まあ心配すんなって柚子、たしかにこれは見世物としての出番かもしれないけど……俺は笑いものにはならないよ」
まただ。この遊矢の優しい表情で窘められると、いつも納得させられてしまう。
「でも……もし大勢の人の前で負けたりしたら……」
また遊矢は皆の嘲笑の的だ。そんなの遊矢が許せても私が耐えきれない。大切な幼なじみがそんな目にあって許せるわけがない。
「おいおい、そこは俺を信用してくれよ。大丈夫だって、俺は勝つからさ」
慢心でも、楽観でもない。確かな決意を秘めた目で遊矢はそう言った。……ズルい。
「……絶対勝って、遊矢。絶対だからね!」
「ああ、約束する」
「あ、あの……ここまで悲壮な雰囲気を出されると、私としても良心が……」
「あっはっは、柚子はロマンチストなとこあるからなぁ。俺は別にそんな重く捉えてないから気にしなくていいよ、ニコ・スマイリーさん」
「んなっ!?〜〜〜!!!遊矢ーッ!!!」
「いだっ!ちょ、ハリセンはやめて!痛い!」
内心描写がないと転生トマトがちょっとキザすぎるな……
そのせいで柚子がチョロインみたいになってしまった。そしてズァークさんはいずこに……