終末の《巨神闘争=ビッグファイト》   作:羽佐間総一郎

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第一話

 人類の歴史は、およそ七百万年以上にも及ぶとされている。

 

 広大な海や大自然が司る地球上に生まれてきた人々は、長い年月と共に進化という名の成長をし続けていき、感情・言語・文明・価値観などの様々な力を手に入れていくようになるだけでなく、何時しか地上界において最も優れた生き物だと謳われるようになる。

 

 だが、その一方で欲を抱いた者たちによる争いや破壊、はたまた殺戮といった穢れた一面に関しても次々と世に晒すようになっていってしまい、次第にこれを見かねた天界に住む神々たちが人類の愚かさに対し、もはや我慢の限界だと言わんばかりの憤りを抱く事となってしまう。

 

 

「こ………これが全世界の神揃い踏みっすか………ヒルデ姉さま」

 

「………」

 

 

 千年に一度、全世界の神々が一堂に会し、開催されるという人類存亡会議。

 既にヴァルハラ評議会議事堂と称される場所には大多数の神が集結しており、挙って出席者全員が神妙な顔立ちを浮かべながら席に座っていた。

 加えて円形状に建造されている中央の台座には、議長となる白髭を生やした細身で小柄の老人が玉座に腰を掛けていた。

 

 

「や~れやれ………全く腰にくるわぃ………」

 

 

 ギリシャ神話の最高神で屈指の権力を持っているほか、“全宇宙の父”という異名を持つ人物……ゼウス。

 見た目に反し、恐ろしい威圧感を放っているその年老いた男は、早速とばかりに決議を行う。

 

 人類に次の千年の存続を許すか、それとも終末を与えるか。

 ひとり一人の意思を示せと発言し、多数決を取り始める。

 

「うわわっ………こ、これまずいっすよ………!」

 

 出席している面々の中で、固唾を飲みながら見守っている少女が一人。

 天界の危機に備え、地上にいる人類を神兵候補として天に召す“魂の運び手”を担う戦乙女13姉妹の末っ子にあたるゲルという名の彼女は、嫌な予感を募らせていく度に冷や汗をかく。

 

 それもそのはず、現在進行形で行われている会議の決議が非常にまずい方向へと傾いていたからだ。

 次々と聞こえてくる意見が明らかに人間を滅ぼすといったものが殆どで、なかには一度全て壊して、別の動物を導くのが筋だと述べる者もいた。

 

「ヒルデ姉さまが予想していた通りの展開に………なってきたっすね………」

 

 隣に居る麗しい髪を靡かせている長姉に眼をやる。

 腕を組みながら冷静に事の様子を見届けているだけで、大した反応は特に見せてはいない。

 

 無表情かつ無言のまま、黙々と静観を決め込んでいる。

 その間にも、神々による罵詈雑言の嵐が絶え間なく続いていた。

 

 海はゴミと油まみれで森林は消滅し、生物は次々に絶滅。

 言うなれば、最早人類こそが世界を滅ぼす災害だと誰かが言った途端、賛同する声が上がりだす。

 

(創造主の意思に、異論など許されない……!もし、この人類存亡会議において全会一致で“終末”という結論になった場合………!)

 

 たちまち人は容赦なく滅亡されてしまう。

 創り上げてきた物と共に滅びていき、肉体が朽ち果て、やがて魂だけが残る。

 

 正に哀しき運命へと辿り着くのだが、そうこうしている内に話がまとまったらしく、恐る恐る耳を傾ける。

 でもって結論から述べると………人類は、みな死ぬ定めとなってしまった。

 

(そんな………)

 

 愕然とするような態度をとるも、異論は絶対にあってはならない。

 心苦しいが、素直に従うしか他にない。

 そう思いながら、高ぶる気持ちを押し殺しながら受け止める……。

 

 

「では決まりじゃな………人類に終末を決定――――」

 

 

はずだった。

 

 

「お待ちください!!」

 

 

 突如として、はっきりとした口調で待ったをかけた者が現れる。

 

(えっ?……ひ、ヒルデ姉さま?)

 

 まさかの展開に度肝を抜かれたのか。

 驚くようにして眼を見開きながら隣に居る実姉に視線を送る。

 一方の彼女はというと末妹のそれに気づかなかったのか、堂々とした立ち振る舞いで目の前にある階段を数歩ほど降りるなり、自らの主張を口にする。

 

「恐れながら皆様に申し上げたき儀がございます」

「控えろ、ブリュンヒルデ!!」

「そうだぞ!!半人半神の分際で生意気な!!」

 

 自分達よりも地位が低い半人半神が、唐突に口を挟むとは何事かとの怒声が響き渡る。

 けれども、当人は一切臆することなく、寧ろこの場にいる全員に聞こえるような声量でこう言い放った。

 

 

 “人類に終末を与える決議は、あまりにも芸がない”と。

 

 

「………どういうことかのぅ?」

 

 

 意味深な言葉に興味を示したのか。

 判決を下す際に使用する槌を置くなり、軽く首を傾げながら訊ねる。

 

「ゼウス様。一つ提案なのですが、彼ら人類が次の千年間を存続する価値があるのかどうかを神々の慈悲と神意をみせつけつつ、試してみるのは如何でしょうか」

「ほぅ………試すとな?それは………例えば、津波を起こして地上を水没させるとかかのぅ?」

「いえ、もっと効果的な方法がございます」

 

 その効果的な方法とは、いったい何なのか。

 同席している者達が勿体ぶらずに早く言えと催促をかける中、凛とした声で高らかに提唱する。

 

 

 “神VS人類最終闘争《ラグナロク》”と。

 

 

「「「…………」」」

 

 

 その提唱に言葉を失ってしまったのか、先程までの喧騒が一気に静まり返る。

 

 ヴァルハラ拳法第62条15項に定められた超特別条項。

 内容としては、神と人類による一対一のタイマン勝負かつ、それぞれ選抜された13名の闘士が生死をかけた試合を行うというもの。

 また人類が七敗を期した際は終末が決定され、逆に万が一勝利を果たした暁には、千年の生存が認可される。

 

 しかしながら、その法は人類が誕生して以来、まだ一度も適用されたことはない。

 何故なら人が神に勝つことなど絶対にあり得ないからだ。

 

「戦いだと?話にならん」

「わざわざ人間如きに相手をするなど馬鹿げている!」

「そもそも結論から言わせてもらうが力の差は歴然だ。単なるお遊びにしか過ぎんよ」

 

 さも当然のように嘲笑い、貶し、そして呆れるように溜息を吐く。

 無駄な時間を費やすのは止せと馬鹿にするような発言が後を絶たない。

 

「………そうですか。では、皆様の意思は『人類の滅亡』そして『人間との直接対決は避けたい』ということでしょうか?」

 

 対するブリュンヒルデはというと、そんな彼らの言葉に対し、毅然とした振る舞いで返す。

 そればかりか、何やら挑発めいたことを言い始め、徐々に不穏な空気を漂わせる。

 無論、少し離れた所で傾聴していたゲルもそれを感じ取るや否や、肩身を狭くさせるかの如く微かに震え始める。

 

 

「『戦わずして人類を滅ぼしたい』『同じリングに立ちたくない』………それって、もしかして………」

 

 

“ビビってるんですか?”

 

 

 耳に残るであろうその一言は、一瞬にして居心地の悪さを生み出してしまった。

 

「……もしそうであれば差し出がましいことを致しました。どうぞ私が言ったことはお気になさらず、とっとと忘れてくださっても結構です」

 

(いやいやいや!!なにを言ってるんすか、お姉さま!?)

 

 歯に衣着せぬ暴言ぶりに開いた口が塞がらなくなってしまう。

 否、そうなるのも無理もないだろう。

 

 何せ相手は、自分達よりも格段と位が高いとされる神々たち。

 そんな彼らに苦言を呈するなど誰が許されようか。

 

 ましてや身内が侮辱したとなれば尚更であり、居ても立ってもいられなくなったのか、藁にも縋るような勢いで駆け出そうとする。

 

 

「ふっ……ふふっ………」

 

「くくっ………」

 

 

 が、その矢先。

 微かであったが、確かに含み笑いが聞こえてきた。

 思いのほか怒っていないのか。

 ひょっとすると、案外何とかなるかもしれないという淡い期待を抱いた瞬間―――

 

 

「っ!?」

 

 

 途轍もない悪寒を抱く。

 否、というよりも実姉に対する怒りの視線が感じ取れたというべきであろう。

 

 そう……彼らはキレていたのだ。

 脆弱な人間相手に恐れをなしているなど彼らからすれば、この上の無い屈辱も同然なのだ。

 

「ほっほっほっ………なるほどのぅ………神VS人類最終闘争か………面白い提案ではないか」

 

 だからであろうか。

 老いぼれの議長の右腕が異様なまでに膨れ上がり————

 

 

「のぅ………よくぞ………言ってくれたのぅ………」

 

 

 巨大な岩石のような四肢の一部が高らかに掲げられ————

 

 

「面白い!!!!」

 

 

 頑丈な石畳に巨大なクレーターを生み出す程の勢いで拳を振り下ろしたのは。

 その光景に参加者の殆どが息をのみ、神VS人類最終闘争を提唱した淑女もまた、僅かに身を強張らせながら立ち尽くしていた。

 全宇宙の父となる彼の強大なる力を改めて目の当たりにしたものの、やはり恐怖はあるようだ。

 

 

「それに皆ものぅ………久しぶりに見たいじゃろう?神々のぉ………力ぉおおおおお!!」

 

「………」

 

「どうじゃああ?皆の者ぉお?我らと人類で勝負してやろうではないかぁ!!」

 

 

 こうして神VS人類の最終闘争の幕が切って落とされる事となった。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 議会終了後。

 

 天界にある数多くの神殿の中で、最も高貴な造りとなっている建造物の廊下を歩く二人の姉妹の姿が其処には在った。

 ただ両者の間に会話は無く、ひたすら己の足を動かし続けていたが、さすが家族の仲というべきか、お互いに手を繋ぎながら歩を進めていた。

 

「はぁ………」

「ゲル?どうしたのですか?」

 

 それでもって、漸く肩の荷が下りたというべきか。

 あるいは緊張から抜け出すことができたことに対する安堵からなのかは定かではないが、兎にも角にも自然と足腰の力が無くなり、思わず石畳に膝をついてしまった妹に対し、ブリュンヒルデが声をかける。

 

「どうしたのかって………もぅ駄目かと思ったっすよ!お姉様、どうしてあんなことを神々の前で言ったんっすか!!」

「……あんなこと?」

「“ビビってるんですか?”って、あんな挑発をよく言えたっすね!?もぅ私………お姉様が殺されちゃうと思って………心配で………」

 

 末妹であるがゆえに、姉の存在は大きい。

 下手したら殺されていたかもしれないという不安から何とか逃れたことに対し、心の底から安堵したのか、再び泣き崩れてしまう。

 

「……顔をあげなさい、ゲル」

 

 そんな彼女に対し、ブリュンヒルデが頭を優しく撫でながら片膝をつくなり、指でそっと涙を拭き取ってから妹の両頬に自身の手を添える。

 

「見習いの戦乙女のあなたにはまだ分からないかもしれませんが、人と我らワルキューレの関係は他の神々よりもずっと濃いのです。だから人類を見捨てることなどできないのです」

「お姉様………」

 

 真摯な思いを告げたおかげか、次第に彼女の心情が落ち着くようになっていく。

 それ故に、軽く微笑みながら引き続き語り出す。

 

「私は、かつてこの体を人間にまで落とされたことがあります。ですが………それがあったからこそ、私は人類を愛するようになったのです」

 

 己の胸に手を当ててから慈愛とも言うべき振る舞いをとる。

 そんな彼女の姿を目の当たりにしたからなのか。

 ゲルが先程まで零していた涙を引っ込めたのちに徐に立ち上がる。

 無論、ブリュンヒルデもまた同様に腰を上げるなり、再び妹の手を取る。

 

「でも………神々に勝てるんすかね?人間たちは………」

「だからこそ、急いで神々に対抗しうる最強の13人を選ばなければならないのです。700万年の人類の歴史から、最も相応しい戦士を」

 

 時間が惜しいこともあり、今一度歩き出そうとした……その時だった。

 

 

「やれやれ……あらかじめ知っていたとはいえ、かなり大胆な形で提唱したものだな?」

 

「「ッ!」」

 

 

 回廊の奥から、ゆっくりと何者かが歩み寄ってくる。

 後ろに一本束ねている黒髪に、クールな印象が窺える顔立ちの女性。

 また紫色の着物や黒色の袴の他、白色の上衣などを身に纏っているその人物を目にするなり、姉妹揃ってその人物の名を口にする。

 

「し……紫苑お姉さま!?」

 

「紫苑様……」

 

 かつて神でありながら人として地上界に降り立った経験を持つほか、戦乙女たちとは親しい間柄の由縁から姉と慕われている現人神の一人。

 口角を上げながら立ち塞がる形で登場した彼女に対し、彼女たちは挙って驚くような反応を示す。

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