[刀剣乱夢]本を読むにもほどがある   作:himausa

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二冊目、「鶴と主と読めない本」

主は食事中に本を読まない。それだけならいいのだが、問題は別のところにある。

「主、野菜を食え」

「もぐ」

主が箸で野菜を口に放り込み、秒で飲み込む。

「ちゃんと噛め」

「噛んでます」

「一回じゃないぞ」

言いながらも御飯を口に入れては、秒で飲み込んでいく主。

「噛め!」

「噛んでます。ごちそうさま」

皿を空にした主は、さっさと食器を片付ける。

この主、読書時間のために、食事を飲んでいる。気づいたのは近侍に就任して、わりとすぐのことだ。

最初は、食事中は読書をしないんだなと安堵した。だが、やけに食べるのが早い。そこから、ほとんど噛まずに飲み込んでいることに気づいてしまった。

「主!」

「はいはい、日課終わらせますー」

「そうじゃないっ」

追いかけて、主の細い手首を捕まえ、引き留める。主は怪訝そうに、鶴丸を見上げてくる。

「食事をちゃんとしないと、人間はすぐに風邪を引くだろう」

「風邪を引いたら、読書できなくなるぞ」

主はしっかりと頷く。

「はい、なので食べてます」

「あれは食べるじゃなく、飲む、だろう」

「ご飯は飲みものじゃありませんよ?」

何を言っているんだという主に、ため息もつきたくなるというものだ。

だというのに、主の方が呆れたようにため息をつく。

「鶴さん」

「なんだ」

「鶴さんこそ、ちゃんと食事してください。私ばっかり見て、食べてなかったの知ってますからね」

「は?」

呆気に取られ、力が緩んだ隙をついて、掴んだ手を外された。

「人間の身体は、食事で栄養を取らないと病気になる。そう説明したでしょう」

「だから、ちゃんと食べ終わってから来てくださいね」

正論を突き付けて去っていく主を、鶴丸は追いかけることができなかった。

「……て、君がきちんと食事をしていないからだろうが!!」

鶴丸の叫びを聞いた主は、立ち止まって軽く振り返り、にやりと笑って手を振った。

その肩にぽん、と手が置かれる。

「鶴さん」

「光坊、なんなんだ、あの主はっ」

「……まあ、あれでも食事してくれているだけマシなんだ」

「ん?」

「むしろ、よくここまで連れてきてくれたよ。流石、鶴さんだよね」

称賛はいいから、という鶴丸は、食事中だったテーブルに戻された。

「今は早く食べた方がいい。主くん、たぶん戻って読書してる」

「は!?」

「……やる気はあっても、目の前に好きなものがあったら無理だよね……」

遠い目をする燭台切に、これまでの苦労が忍ばれる。

仕方なく、鶴丸も食事を再開した。

「……食事のスピードに関しては、鶴さんも同じだと思うけど……」

(失礼な。これでも、ちゃんと噛んで食べている)

鶴丸が睨みつけると、燭台切は肩をすくめて、去っていった。

 

 

午前中に日課を終わらせ、午後に鶴丸が少し目を離したすきだった。

ばさりと本の落ちる音が聞こえた。

「は?」

落ちた本の上に、一羽の鶴がいる。普通ならどこから入ったと疑うべきだろうが。

「……は?」

鶴は、足元の本にくちばしを伸ばし、必死にページを開こうとしている。

嘘だろ、と鶴丸は小さく呟いた。

近侍になってすぐにあった、呪いの事件は忘れていない。あれから、すべての荷物は鶴丸が確認して、問題のないものだけを主に渡していた。

なのに、なぜ。

「主?」

顔を上げた鶴が、じっと鶴丸を見つめた。墨色の目を。

鶴丸は慌てて、鶴と本を抱えて、石切丸の部屋へと駆け込む。だが、今は遠征中だという。

「おぃぃぃぃっ!?」

「鶴丸、そういうときは太郎太刀ですよ」

冷静に今剣が指摘しなければ、気づけなかったかもしれない。

「まったく、あわてんぼうですね。こんどはつるですか」

「慌てるに決まってるだろうっ?」

「ぼくもつきあいますから、いっしょにいきましょう」

今剣のその様子は完全に楽しんでいた。

「遊びじゃないんだぞ」

「わかってますって。あるじさま、あとでそのほんをかしてくださいね。ぼくもよんでみたいです」

主らしき鶴は、楽し気に鳴き声を上げた。

どちらも暢気が過ぎる。

主を太郎太刀のところへ連れて行くと、既にどこかで噂でも聞いたのか、次郎太刀とともに解呪の準備がされていた。

「主をこちらへ」

そして、あっさりと解呪されたのはいいんだが。

「……流石に、本を持てないのは困りますね」

主が苦笑いし、次郎太刀は部屋の隅で大爆笑している。解呪の儀式が終わったとたんだ。

今剣は主に近寄り、何故か頭を撫でられている。

「それで、どんなほんなんですか。そのあるじさまをのろったほんは?」

主は困ったように言う。

「それがですね、まだ読めない文字だったんですよ。かろうじて読めたのが」

――鶴の恩返し。

「なん、だと……」

確かに装丁にそう書いてあるのを見た。が、ただの御伽草子だったし、呪いの気配はなかったというのに。

「あぁ、これは主を狙ったものでしたか」

「な!?」

「時々あるよねー、そういうの。くくくっ」

太郎太刀の言に、笑いながら次郎太刀も同意する。

「……なんだよ、それは……」

「まあ、あるじさまはにんきものなので、しかたないです」

うんうんと今剣が腕を組んで呟く。

「仕方ないですよね。私を単体で狙う酔狂な遡行軍なんて、気づけるわけないですから」

主は酔狂と言っているが、鶴丸としては初耳が過ぎる。

「君、政府から依頼されて、本の調査をしているだけじゃなかったのか」

「それが都合の悪い方もいる、ということでしょう」

主が太郎太刀に手を差し出す。

「解呪終わったなら、いいですよね、それ」

「まだ読むのか!?」

「え、だって、まだ読み終わってませんし」

「……ただの御伽草子だったよな? 読んだことあるんだよな?」

「タイトルは同じですけど、装丁が違って、読めない文字が使われているので、ちゃんと調査しないと!」

「読めないのに、読むのか」

「……鶴さん」

主がぱっと返されたばかりの本を開いて、こちらに示した。

「これ、読めますか?」

「……ああ、まあ、読めるが」

「じゃあ、一緒に読んでください! それで、読み方も教えてください!!」

まったくめげない主に、鶴丸は笑いだしそうになる。

ついさっきまで、本が読めない呪いは困ると言っていたのに、解呪したとたんにこれだ。

「太郎太刀、これはもう解呪済みで、主に呪いはかからないんだよな?」

「はい」

「わかった」

主がぱっと顔を輝かせる。

「鶴さん!」

「ただし、読み終わったら、今日は風呂に入って、夕飯食べて、さっさと寝ろ」

「なんで!?」

「……あのな、主はさっきまで呪われてただろ。体調に不安がある時に読むんじゃない」

「えぇぇ」

酷く残念そうな主に鶴丸は吹き出した。

「そうだな、言うとおりにするなら、鶴さんが寝物語を聞かせてやろう」

完全に幼子扱いだが、主は嬉しそうに笑った。

「本当ですか! じゃあ、本は選んでおきますね!!」

「なんでそうなる!?」

鶴丸としては、ただ話をしてやるだけのつもりだった。だが、主には寝ながら聴けるチャンスと受け取られたらしい。

「何がいいですかねー。鶴さんは推理ものはお好きですか?」

「サスペンスを寝物語にするな」

鶴丸と主のかけあいを、三振は微笑ましく眺めていた。

「あるじさま、たのしそうです」

「そうですね」

「……いい近侍がついたもんだよ」

そうして、三振で顔を見合わせ、安堵の顔で笑うのだった。

 

 

 

 

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