[刀剣乱夢]本を読むにもほどがある   作:himausa

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四冊目、「顕現するのは本のため」

本を読んでいる主を、鶴丸はじっと観察する。

こうしてみると普通の娘にしか見えないのに、あの本に対する情熱は一体どこから来るのだろうか。

「うーん」

だん、と廊下で大きな音がして、鶴丸が目を向けると、今剣が飛び込んできたところだった。そのままズカズカと主の前に進み、本の上に小さな両手を広げる。

「あるじさま、岩融がみつかりましたっ」

「読めません、今剣さん」

「けんげんしてくださいっ」

珍しく、本当に珍しく。主が読みかけの本を言われるままに閉じた。しかも、立ち上がり、今剣に手を引かれて歩き出す。読書中の主を動かすのは、不可能だと思っていた鶴丸もついて行く。

「勝手にやっていただいて、私は一向にかまわないのですが……」

「あるじさまにしかできませんから」

「……面倒なシステムですね……」

うんざりと顔にしっかりと張り付けながら、主は手を引かれるままに歩き出す。

そして、辿りついたのが今剣と石切丸が使っている部屋だ。部屋の本棚の半分が源義経関係の本で、半分が加持祈祷と解呪に関する本だ。

その部屋の中央に、大きな薙刀が置かれている。

「……今剣さん、義経さんの本が増えてます」

「あとです」

「あれ、私読んでない」

「あ、と、で、す!」

ざっとみただけでわかるのか。鶴丸は驚きに目を瞠る。本当に、本に関しては異次元だ。

そして、それを止める今剣。こんなことができるなら、鶴丸が近侍でなくてもよかったのでは。

「ああ、主、連れてこれた?」

加州清光が苦笑しつつ、こちらに向かってくる。

「もちろん、つれてきますよ! だって、岩融ですよ!?」

「うん、じゃあ、ちゃちゃっと、やっちゃいな」

「いいですけどね」

主は今剣の頭に軽く手を置いて、薙刀の前に進み出た。

「あ」

「なんですか?」

主の一音に、即座に今剣が反応する。

「……今剣さんと岩融さんは同じ時代、ですよね」

「そうです!」

「……弁慶と言えば、僧侶……」

「あとにしてください」

「……えぇぇ……」

主が言い負かされている姿なんて、初めて見た。

(……なんか、面白くねぇな……)

この後はたぶん、主は岩融を顕現して、また読書に戻るだけだ。

いつもどおりに。

鶴丸はそっと踵を返し、主と二振を置いて、席を外した。

主のいつも座っている椅子のあたりで、摘みあがっている本の背表紙を眺めていく。探している一冊はすぐに見つかった。

「よし」

急いで、主の元へ戻る。ちょうど、岩融の顕現の口上が終わったところのようだ。

「岩融!」

「おお、今剣よ。久しいなっ」

「またいっしょにあばれられますねっ」

「そうだな」

主は少し不満そうにそれを見ている。理由はわかっている。

「主、これだろ」

鶴丸が後ろから近づいて、本を出すと、わかりやすく表情が輝いた。

「ありがとうございます、鶴さんっ」

同じ時代で、主が岩融に聞きたいなら、当時の僧関係の資料の読み方だろう。その思ったら大当たりだ。

思わず、口の両端が吊り上がる。この笑顔が見たかったんだ、と。

「鶴丸、よくわかったね」

「まあな」

目の前で楽しそうな主と二振を見ながら、加州と小さく話す。

「主はさ、俺たちに興味ないんだ」

「興味があるのは本のことだけ」

「でもね、俺らが必要だって言ったら、ちゃんと新しい男士を顕現してくれる」

「そういうところ、俺は悪くないって思うんだ」

加州は楽しそうに笑って、鶴丸に背を向ける。

「新しい男士の案内は、顕現を願った男士がすることになってるから。あとはよろしくー」

ひらひらと片手をあげて、加州は去っていった。

加州清光はこの本丸の始まりの一振。普段は主の元に来ることはないが、こういう時はちゃんと見守りに来るあたり、律儀な一振のようだ。

「おう、主の世話は任せとけ」

それが半刻前のことなんだが。

「で、そんときに沖田くんがさぁ」

「……やっぱりあの本の箇所は創作ですか」

「実際はもっと激しかったし、大変だったんだ」

なんで、主の傍で加州と大和守が侍っているんだ。主も大人しく本も読まずに、二振の話を聞いてるし。

鶴丸の視線に気づいた加州が、にやりと口元をゆがめる。

主は刀剣が存在した時の本を知りたがる。そして、話したがりの男士は多い。その筆頭が、初期刀――加州清光。

「ねえねえ主、他に何が聞きたい? 俺、なんでも話すよ」

「じゃあ、この本の頃の話の続きを!」

主の手元には古そうな新選組の物語の本。

「おっけー、じゃあ、今日はたーっぷり話してあげる」

実に嬉しそうな加州清光に、主も嬉しそうだ。

(……初期刀様には敵わない、か)

鶴丸は主の確認した本を電子データにするために、主と二振に背を向けるのだった。

 

 

 

 

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