[刀剣乱夢]本を読むにもほどがある   作:himausa

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六冊目、「主と外つ国の猫の本」

その日の朝は、珍しく主が朝から本を読んでいなかった。

「主ー? お、今日は本を読んでないのか」

鶴丸を見た主は、不思議そうな顔をしている。まるで初対面の人間を見る幼子のようだ。

「……主?」

何か嫌な予感がする。

主の前にしゃがんで、鶴丸はもう一度呼ぶ。

「主?」

「あう」

意味をなさない言葉を発して、どこかに指を向ける。布団の傍に置かれた一冊の古びた絵本。表面にあるのは、鶴丸の知る文字ではない。

鶴丸が持っている本に気づいた主が、手を伸ばし。驚くほどに優しく触れた。大切なものに触れる手つきで、慈しむ仕草で。文字の上に指を滑らせ。

一度、鶴丸を見上げて、にぱっと笑う。幼い仕草で。

鶴丸もつられて、笑い返す。

「っう、よむ」

「先に朝飯だ」

「……?」

「ほら、着替えていくぞ」

抱き上げようとしたその時だ。ぐにゃりと主の輪郭が解けた。

「っ!?」

それは黒い猫の姿になって、外へと走り出て行った。

「……は?」

鶴丸は自分の頭を押さえる。

(いやいや)

(待て待て)

(主が猫に)

(あり得る)

だが、新手の呪いとは、どこか違う気がする。

「……猫になる話、猫になる話? だが、あれは外つ国の文字……」

いくら鶴丸でも、外国の物語までは把握していない。

とりあえず、猫を追いかけるか、と鶴丸は部屋を出た。

そこは一面の砂漠で――。

 

目を覚ました鶴丸を、心配そうに石切丸、燭台切が覗きこんでいた。

「大丈夫かい、鶴丸さん?」

「痛いところとかある、鶴さん?」

布団から身体を起こすと、部屋の中に大倶利伽羅もいたことがわかった。一瞬安堵の表情が見えた。

「……何が、起きたんだ」

「主の読んでいた本に、鶴さんが取り込まれたんだ」

「…………はぁ」

読んでる本人ではなく、周囲に影響する呪い、だと。

ちなみに、部屋を見回しても主の姿はない。

「で、その主は」

全員で黙らないでほしい。

「様子がおかしいんだ」

「一人で食事をして、仕事をしてる」

「臨時で薬研くんがついてくれてるけど」

一切、本を開かない。

立ち上がり、急いで主の元へ駆け込む。

主は鶴丸を見て、一瞬だけ泣きそうな安堵の顔をした。

「読み終わらなくても、呪いって解けるんですね」

直ぐに、残念そうに呟くが。一瞬を見てしまった鶴丸は何も言えず、主に近づき、その頭を軽く叩いた。

「いつ読んだ」

「……夜中に目が覚めてしまったので……」

鶴丸はそのまま、主の頭に手を置いて、全力で力を入れる。

「いたたたた」

「布団に入ったら、朝まで本を読むなと、あれほど!!」

「す、すみま、いたたたた」

「そのうち、そばで見張るぞ!?」

「いたたたた」

痛がる主を文字通り締め上げる鶴丸の傍で、薬研が小さく笑った。

「で、どんな話だったんだ、鶴丸?」

「猫を追いかけて、旅をする冒険譚だよ! なんで、俺が主以外の面倒をみなきゃならねぇっ」

「つまり、主ならいいと」

ぴたりと力を入れるのを止めた鶴丸は、ぎぎぎと音の出そうな様子で、薬研を振り返る。

「ちが、う。違うぞ?」

「わかってるって」

「違うからな!?」

主は痛みから解放されて、さっそく本を開いて読み始めている。

「違うからな!!}

「はいはい」

鶴丸と薬研のやりとりには、まったく興味がないらしい。

だが、あの一瞬の主の表情が瞼の裏にちらついて、鶴丸はしばらく落ち着かない心地だった。

 

 

 

 

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