ニコとのカップリングが少ないのって、ニコの母性が強いからですか?
「リョウジくん、明日の小テいけそう?」
「いけなさそ...補習ダリー」
「いやまだ始まってないから」
学校終わりの正面玄関
下駄箱の前に立って話し合う3人の学生を夕陽が照らしている
「そうだ、この後ス◯バで勉強会しない?」
「おお、いいねそれ。リョウジもいくよな?てか来い、お前のための勉強会だから」
「え、ファミレスで良くね...?」
「わかってねぇなお前は、これがセーシュンなんだよ!」
「セーシュンって...」
そこに突然、リョウジのスマホが鳴った
ノックノックからの通知だ。チャットの上には『ニコ』と表示されている
『アンタにしか頼めないことがあるのよ!』
『今アンタの学校の前にいるから、今すぐきてちょうだい!』
(またか...)
これが初めてでないリョウジにはどんな要件なのかが予想できた
「リョウジくん、どうしたの?」
「ちょっと急用、ごめん今日はパス」
「えぇ...まさかまた?」
「うん、そのまさか」
リョウジの友達ももちろんこれが初めてではないので大体予想がついたようだ
落ち着いて靴を下駄箱から出しそれを履く
「じゃあね、リョウジくん」
「おう」
「今日の夜通話で勉強会なー!」
「はいはい!」
友達へ返事をかえし、小走りで正門の方へと近づく
そこには大きなバックを持っている女性が立っていた
ピンク色の髪の毛を小さい鏡を見ながらセコセコとセットしなおしている
最初は待っていたリョウジも痺れを切らして話しかけた
「...来てやったぞ、ニコ」
「お、思ったより早かったわね!じゃあ本題に入るんだけど...」
髪の毛をいじっていた手を離して後ろで組み、いつもより大きな声で話し出す
リョウジはいつもより挙動不審だなぁと思った
「ツケのジャンプならもうしてあげないけど」
「...!どうしてわかったの!?」
「いや...これで8回目だから」
時たまニコはこうしてリョウジの元へツケのジャンプの交渉をしにくる
最初はアキラとリンに交渉しに行っていたようだが、幾度となく繰り返すうちに信用が地の底に落ち、ジャンプさせてもらえなくなってしまった
その次の標的になったのがリョウジである
「兄ちゃんたちに言われたんだ、もうジャンプさせちゃダメだって」
「そ、そこをなんとか...!今月はシンの治療費でカツカツなのよ!」
「ダメだって、こっちだって俺の治療費とfairyの電気代でギリギリだし」
汗をダラダラとかき始めたニコを心配しながらもジト目で見つめるリョウジの視線に気がついたニコはニヤッと悪い笑みを浮かべた
「リョウジ、欲しいものとかないの?」
「欲しいもの?...なんで急に...」
「あ、あるでしょ?ほら、ビリーにこの前話してなかった?」
ビリーに話していたやつ
それは『三Z』と有名ブランドが手を組んでプロデュースしたクッソほど高くてクッソほど入手が困難なジャケットである
「いやぁ、アレは自分で買うし...」
「子供が遠慮してんじゃないわよ、買ってあげるわ!そうと決まれば早くいきましょ!」
「え、ちょっ──」
リョウジが忠告をしようと口を開くも、強く腕を引かれて車に乗せられ、もう言える空気ではなくなってしまった
そうこうしているうちにニコの車はルミナスクエアにある三Zスタジオへ近づいていく
『いらっしゃいませ、三Zスタジオへようこそ!』
三Zスタジオに足を踏み入れると、数々のユニークな作品と共に店主である『乙』さんが出迎えた
「あのジャケットはある?今すぐ用意して欲しいんだけど」
『ジャケット...あぁ、あのコラボ商品の──ございますよ、今持ってきますね』
そう言って『乙』さんは店の奥へと入っていった
「ほんとに大丈夫なのか?結構高いけど」
「え、そんなの聞いてないわよ!」
「...忠告しようとはしたんだけど」
それを聞いて目を丸くするニコに呆れたような視線を送る
それを見たニコは居心地が悪そうに肩をすくめた
「ち、ちなみにいくらくらいするのかしら...?」
「まぁ、10万ちょいくらい?」
「...回ぶん」
「え?」
「これを買ってあげたら、10回分くらいのジャンプは見逃しなさいよね!」
涙をポロポロと流しながらニコが赤色のクレジットカードを取り出し、それを悲しそうに眺めた
そうしているうちに『乙』さんは裏から二種類のジャケットを持ってきた
一方は白いジャケットで、黒色の『融解を待ちながら...』というボンプの作品を中心にした数々の作品がプリントされたもの
もう一方は黒いジャケットに、緑色の『呼び出し中』という公衆電話のようなボンプの作品を中心にした数々の作品がプリントされている
そこそこ値段が張るだけのことはあってかなりオシャレである
「リョウジ、どっちにするの...?」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらニコが聞いてきた
「まぁ『呼び出し中』の方かな、家にその作品あるし」
『なんと、買っていただいていたんですね!これはこれはありがとうございます!』
「いや、兄ちゃんに貰ったやつなんで俺は買ってないんす」
「アキラってこういうとこ来るのね」
「結構こういうの好きだよ?」
『ちょっと待ってください、今アキラとおっしゃいましたか?』
2人はきょとんとしながら『乙』さんの言葉を聞く
『それならそうと早く言ってください!アキラ様はうちのお得意様なんです。そうですね...このジャケットは半額でいいですよ!』
「本当!?」
ニコのテンションが明らかに上がった
「ほんとにいいんすか?」
『ええ、アキラ様には多くのインスピレーションを貰っていますから』
「じゃあ早速会計を...」
とクレジットカードを差し出すニコを『乙』さんが止めた
『ちょっと待ってください、うちの商品はディニーでは売っていないんです』
「え?じゃあどうやって買うのよ」
『うちではディニーの代わりに作品のインスピレーションをいただいているんです。昔話でも、作り話でも、どんなことでも構いませんよ』
そう、ここ『三Zスタジオ』ではディニーは受け取らないのだ
それでどうやって成り立っているのかは謎だが、それはそういうものである
「そんなの、すぐには思いつかないわね...」
『リョウジさんの方では何かありませんか?』
「そうだな...」
これほどの価値があるものだ、そこらのアイデアでは売ってはもらえないだろう
自分だけがした経験は何かないだろうか...
旧都陥落の日の出来事
そんな言葉が頭をよぎった
そんなこと言えるわけないと頭をブンブンと振って考え直す
『どうかされましたか?もし言えないことがあるなら、抽象的で構いません。話していただけませんか?』
「うーん...」
『お願いです!実は、店内にいらっしゃった時に、リョウジ様からただならぬひらめきの気配がしたんです!』
「何すか、ひらめきの気配って...」
その後も何かないかと唸るリョウジに、渋っていると思った『乙』さんが次々に讃える言葉を並べていく
それを見かねたニコがいくつかストリートの話をしていたが、『乙』さんはそれでは満足いかないようだ
「あ、そうだ」
『何でしょう!!』
「えっと、創作の手助けになるかはわかんないんすけど...」
『何でも構いません!!!』
すごい勢いで食いついてくる『乙』さんに気圧されながらも、リョウジが口を開いた
それは旧都陥落直後まで遡る
まだ小学生くらいの年齢だったリョウジに、アキラとリンが学校に通うお金を用意してくれた時の話
たとえ災害保険や今までの貯金があっても、学校へ行くお金は足りなかった
たとえお金があっても、学校に行かせているうちにお金はそこをつき、ご飯さえ満足に食べられなくなってしまう
そのことを知ったリョウジは子供心ながらに気を使い、2人に
行けなくてもいい。2人と居れればそれでいい
と伝えた
それでも兄姉2人は学校に行くお金を作るために『ビデオ屋』を始めてくれた
初めてすぐには人はこなかったが、あたりの温かい手助けによってビデオ屋は徐々に繁盛していった
その後は中学に行けなかった代わりに兄姉2人に中学分の勉強を教えてもらい、近くの高校に受験
合格したリョウジよりも喜んでいた2人の姿を今も鮮明に覚えている
『それは、何とも心温まる...──!!!』
その話を聞いた『乙』さんは頭のモニターにノイズのようなものが走った後、店の奥へと走っていった
「え、ジャケットは──」
「──差し上げます!!ただ今はこのアイデアを逃さないようにしなくてはぁああああああ!!!」
「で、出ましょうか...」
「そうだな...」
奥から凄まじい速度で鉛筆で紙に何かを描く音が聞こえてくる
火がついたクリエイターとは恐ろしいものである
2人は鉛筆と紙の摩擦で火が出ないか心配しながら店を出た
その日の夜、ビデオ屋にて
友達のとの勉強会が終わったリョウジの元にノックノックでメッセージが届いた
送ってきたのは『ニコ』ニコにしては珍しく、真面目そうな雰囲気で書かれたその文にリョウジは目を通す
『あなたって苦労人なのね』
『アタシ、これからはツケないようにするわ、あなた達兄妹のためにもね』
リョウジはそれを見た後、溜まっていた疲れなどをため息にして吐き出した
それからスマホを両手で持ち上げ、メッセージを送信と書かれたところをタップし、キーボードを開いた
『別に』
『好きなときに返しなよ』
『いつまでも待つから』
加法定理の応用の勉強を経て限界が来たリョウジは返事を待つことなく布団に潜り込み、まぶたを閉じた
スマホにはこう表示されている
『じゃあ、ずっとそばに居なさいよ』
最近はサカナクションにハマってます
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