ベンさんの武器はタンピングランマーっていうらしい
なにそれ
翌日 朝5時
眠い目を擦りながら六分街の交差点へと向かう
リンとは念の為に通話を繋いでおいた。もしものことがあればリンがどうにかしてくれることだろう
そろそろCOFFCAFEの前を通り過ぎ、交差点に着く頃だ
そこには、あのテレビに映っていたアンドーと思わしき人物が交差点の真ん中で1人ぶつぶつ言いながらスクワットをしている姿があった
「兄ちゃん...あれはヤバい」
「そうだね...近づかない方がいいかもしれない」
『なんて言ってるか、近づいて聞いてみたら?』
「えぇ、絶対やめた方がいいって...危ないよ、アッパー系とかやってるよアレは」
「リョウジやめなさい...」
失礼なことを言ったリョウジをアキラが嗜める
その後しばらく近くで様子を伺うも、その場でスクワットを続けるアンドーに痺れを切らし、アキラが近づいた
「え、行くのぉ...!?危ないって...」
恐る恐るリョウジが後ろをついていく
電話ボックスの後ろあたりに位置取ってアンドーの小さな声に耳を傾ける
「...チクショウ。兄弟、オレは本当にお前抜きでやれんだろうか...?──いやいや、漢の辞書には『勇往邁進』の四文字しかねぇんだ!」
「ヤバいってぇ!!」
「確かに、ちょっと怪しいね...」
「だああ!グダグタ考えたって始まんねぇ!こんなもん、正々堂々とぶつかってナンボだろうが!兄弟、お前がここにいたら、きっとそう言ったはずだ!」
突然の大声に驚いた2人は足元に転がっていた間に気付かず蹴飛ばしてしまった
朝5時の静かな六分街にカランカランと缶が転がる音が響く
「よお、見つけたぜ」
「うおぉぉおお!」
「うおぉっ!そんな大声出したら近所迷惑になるだろうが!」
思わず大声を出したリョウジはそのまともそうな言葉の中身に困惑する
「悪い悪い、通話が終わるまで待ちゃよかったな。けどよ、お前があの『パエトーン』なんだろ?──えっと、どっちがパエトーンだ?」
「ええと、パエトーンは僕だ。こっちはサポートを頼んでいる僕の弟で...」
「うっす、リョウジって言います。...アンドーさん、ですよね?昨日テレビで見たんで」
「ああ、白祇重工のアンドーだ。ツラが割れてんなら話は早え」
アンドーの所属する白祇重工は今、崖っぷちの状態らしい
事情が事情なようで、部外者には正体を知られるわけにはいかず、お互いの秘密を握ることが安全であると判断し、面会という手段を選んだんだそうだ
「確かにそれも一理あるな...」
「じゃあ、スクワットしてたのは?」
「あぁ、あれは緊張で落ち着かない時はああして体を動かすんだ」
「1人で喋ってたのは?」
「オレには兄弟って呼べる仲の──って今はそんな話してる場合じゃねぇんだ!」
「リョウジの疑問にはまた今度答えるとして、今は本題に集中しよう。アンドーさん、白祇重工はいったい僕たちになにをして欲しいんだ?」
「引き受けてくれんのか?そいつぁよかった!──こいよ、今すぐ現場まで案内してやる!依頼の件はうちの社長が直々に説明したやっからよ!」
アンドーが親指で駅の方を指す
「今から行くのか...こっちはまだ眠いんだけど」
「そもそも、今回の待ち合わせ時間もやけに早いけれど」
「あん?これで早えって?工事現場ならとっくに仕事を始めてる時間だろうが」
「いや別に俺ら工事しないし」
『アンドーさん、こっちも仕事で出かけるんだよ?準備くらいさせて欲しいな。お兄ちゃんと一緒に駐車場の近くで待ってて。準備ができたらお兄ちゃんが運転してくから!』
「おう、まぁいいだろ。それじゃ、お言葉に甘えるとすっか!」
数時間後、アンドーの案内の元、リョウジとアキラは黒雁街跡地へ向かった
大きな柱がいくつか見え始め、もうすぐつくというところでアンドーが口を開いた
「もう着くぜ、社長はすぐそこだ─まだ若えが、百獣の王って感じだかんな。存分に緊張しな!」
「それを言うなら『しなくていい』だろ?」
すると道の先にあった大きな扉が勢いよく開き、奥から巨大な4本足の黄色い機械が姿を現した
上には女性を乗せており、制御を失ったようにあちこちに体をぶつけながらこちらに向かってくる
「どいてーー!!」
「走れ!」
アンドーさんは黄色い機械に向かって走り出し、その巨体を2本の腕で止めた
勢い余った重機の大きな後ろ足が浮き、もう一度地面に叩きつけられ、砂埃が舞った
「おい、何だこりゃ!?」
「君かアンドー!絶賛点検中だよ!──そのまま待ってて!」
黒い髪の女性は余裕そうな口ぶりでタブレットを操作している
逃げ出そうと体を右み左に揺らす重機の体をアンドーが必死に抑え込んでいる
「怖がらないで、ただのファイアウォールだよ〜──ぜーんぜん痛くない...」
そう言って赤色のボタンに手を伸ばすと、突然重機の正面に付けられたモニターが光り、大きく体を跳ねさせた
「うあぁああああ!」
「ヤベェ!」
その勢いで女性が上に投げ飛ばされ、それを受け止めようとしたアンドーが手を離してしまった
自由になった重機はもう一度きた道を体をぶつけながら引き返していく
必死に逃げる重機は止まることなく走り回り、その巨体が大きな鉄骨に当たるその瞬間
リョウジが両腕をクウガに変身させ、片手で地面を、もう片手で重機の体を掴みその動きを止めた
地面に爪をたて、コンクリートを削りながらブレーキをかける
「おお、やるねぇ!」
「ぶつかるって!危ないから──ちょっ!」
クウガマイティフォームの力では止めること叶わず、逆に重機の体が勢いで大きく前に出た
今度こそ事故が起きるその瞬間
空から大きなタンピングランマーが投げられ、それを空中で熊のシリオンがキャッチ
勢いそのまま落下攻撃をお見舞いした
砂塵が辺りを舞い、重機は動きを止めた
「ふぅ、終わったか」
「そこの君、大丈夫かい?」
「...まぁ、平気っす」
攻撃の勢いで軽く吹き飛んだリョウジを女性が起こす
アキラは今起きた状況を整理できていないのか、周りをキョロキョロと見渡していた
「悪い悪い、遅くなった」
大柄な熊のシリオンが止まった重機の上から降りながら、低い声で声をかける
その威厳ある姿に、2人はこの人が社長なのだろうと確信し、アキラは手を差し出した
「は...初めまして」
「ああああ...これはこれはプロキシさん!ついて早々申し訳ない...」
その威厳ある姿からは想像できないほど柔らかな態度に、2人は困惑する
「社長と待っていたところだ」
「え?じゃ、じゃああなたは...?」
その上、社長でもないときた
これにはリョウジも目を丸くしている
その奥からなにやら揉めているような少女の声が聞こえてくる
「なにすんだグレース!降ろせ!」
「こちらが──」
熊のシリオンの男が退き、手で後ろを指した
そこには赤い髪の少女がグレースと呼ばれていた女性に抱えられ、文句を言っていた
「降ろせっつってんだろ!」
「──我が社の社長だ」
こちらに気づいた少女は、頬を赤らめ咳払いをした後腕を組み直し、名を名乗る
「白祇重工社長のクレタ・ベロボーグだ!」
黒雁街跡地って「くろがんがいあとち」って読むらしい
読めるか
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