悲しいことあったからね、楽しくしようね
「そうして母は俺たち兄妹を『ザイア』からの暗殺から逃すために養子へと出した。それをホルスさんに拾われて今に至ると言うわけだ」
「...」
ヒュメナの身の上はわかった
それに、奇襲を仕掛けたアバドンがどこからきたものなのか、それもわかった
「でも、なんでそんなに執拗に狙うんだよ」
「それは、これに全ての権限が入ってるからだな」
ヒュメナは机に置かれたゼロワンドライバーを持ち出した
どうやらこのドライバーには『ヒデンインテリジェンス』のデータへのアクセス権限から何から何まですべてが入っているようで
その権限は今、ヒュメナにある
数年前に『ヒデンインテリジェンス』を買収した『ザイア』だったが、当然その内部の技術を引き出せなかった
それを引き出すためにヒュメナとその家族を狙っているのだろうとのことだ
「なるほど...あの時のライダーたちもそのためってわけか」
「そう、これからプロトタイプを捜索する過程でも邪魔をしてくるだろう」
一応状況は理解できた
今度はリョウジの番だ
コーカサスとの戦いで暴走したことも含めてリョウジは自分の過去のわかる部分だけ話した
「──って感じで...」
「いつ暴走するかはまだ分からないから、それが怖いのか?」
「えっ?」
心を読んだようにズバリと言い当てたヒュメナに、リョウジは目を見開く
自分の力がコントロールできない気持ちがわかるとでも言うのかと、本当にほんの少し苛立った
「実はな、俺の使っているフレイシステムには欠点がある。身体能力を強化する過程で、闘争心をひどく刺激するんだ。自分の手綱を手放せば、ただの殺戮マシンにもなれるわけだ」
「...それって──」
「要は、自分の手綱握り続ける覚悟さえあれば暴走は簡単にはしないはずだ。そう不安がることはないんじゃないか?」
一理はあるかもしれない
芯のあるヒュメナの声に少し気が楽になったかもしれない
「ん?待って、ゼロワンドライバーがあるならなんでそれで変身しない?」
「それは、俺にも分からない。使えないんだ」
「権限はヒュメナにあるんじゃ...」
「あるはずなんだがな...」
ヒュメナは困ったような表情で頭を抱えてしまった
今見てみると、地面のあちこちに転がっている部品は一部プログライズキーのような形をしている
そのどれも、成功はしていないようだったが
「権限はあっても、何かが足りないんだろう。技術力か、戦力か、それとも人徳か...そのどれであっても、俺には足りていない」
「...そんなことないだろ」
ゼロワンドライバーを唇をかみながら睨みつけるヒュメナを否定した
「こんなに作れるんだ、技術力がないわけないだろ!」
床に転がった焼けこげた部品を拾い上げた
「戦力だって、こんなにデカいチェーンソーを体当たりで止めた」
両手を広げてチェーンソーの大きさを表現して、タックルするようなジェスチャーをした
「人徳なんて、言うまでもないだろ?いろんなこと背負って、今だって俺をケアしてくれてる」
ヒュメナの大きな肩を掴み、目を合わせた
「だから...」
「リョウジ...」
「そんなこと言ったら、ダメだ!!」
ヒュメナは多くのものを背負いすぎている
多くを奪われてなお、妹を守る責務を背負い
会社の機密と家族の誇りを背負い
白祇重工での業務をこなし、部下のミスは自分のもの
そろそろ誰かがヒュメナの肩の荷一つでも下さなくては
「...気を使わせたな、すまない」
「違っ、そうじゃな──」
「たまには自分を信じてやらなきゃな、リョウジ、少し手伝えるか」
「はぁ?何をだよ」
「コイツを使えるようにする」
ヒュメナはゼロワンドライバーを片手に奥の部屋へと入っていく
「はっ?俺、機械音痴なんだけどー!?」
戸惑いながらリョウジも跡をついていった
「そこのパーツ」
「これ?」
「その右だ」
「はいっ」
銀色のパーツをヒュメナに手渡す
それを慎重にプログライズキーに組み込み、ドライバーに挿す
刺した箇所から火花が散り、キーが弾き出された
「クッソ、またダメか」
「まぁ、こんなもんだ。根気よくいくぞ」
「おっけ」
先の焼けこげたプログライズキーを引っ張り出し、ゴミ箱に捨てる
これで13回目
スペアのパーツも残りが少なくなってきた
「...リョウジ、そこの黄色いプログライズキーを取ってもらえるか」
「これ?」
「そう」
リョウジが手渡したのは『ライジングホッパープログライズキー』
ヒュメナは机の真ん中にそれを置いて、分解し始めた
「何やってんだ?」
「一気に権限を全部開けるんじゃなくて、キー一本ずつなら引き出せるかもしれん」
「...どゆこと?」
「深く考えなくていい」
「聞いても理解できなさそうだからか?」
「あぁ」
自分で聞いておいてなんだが、少しムッとした
ヒュメナは分解したキーの回路図と図面を書き出し、早速あるもので組み立て始めた
「リョウジ、そこに入ってる回路どれでもいいから取ってくれ」
「おけ」
雑に回路が入っている箱の中を覗くと、その中に形が違うものが見えた
(なんだこれ、形とか色とか違うな)
「リョウジ?」
「あぁ、ごめん」
思わず手に取ったそれをヒュメナに手渡した
「...これどこに入ってた?」
「あれ、なんか違ったか」
「いいや、これなら...」
机の脇に丸められた紙を手で払い、そこからキーボードが顔を出す
どこからか出てきたコードを回路に繋ぎ、リョウジには理解できないプログラム言語を打ち込み始める
一分もしないうちに、画面には回路の情報と思しきデータが表示された
「でかしたぞリョウジ...これならいける!」
「マジ!?」
「あぁ、マジだ!そこの棚に入ってるパーツ取ってくれ」
「おっけぃ!」
突破口の見えたリョウジとヒュメナのテンションは最高潮だ
そこからはみるみるうちに作業が進み、一本のブランクプログライズキーが出来上がった
あとはこれをドライバーに挿し込んで結果を待つのみだ
「いくぞ...!」
「ゴクリ...」
それを差し込んだ瞬間光が溢れ出し、出来上がったことを知らせるようにキーが少し飛び出た
恐る恐るヒュメナがそれを引き抜く
完成したそれは...
『ブレイキングマンモス』
「っしゃぁあ!!」
「よし...!」
2人は互いの片の手のひらをぶつけて握手する
部屋には爽快な破裂音が鳴り響いた
「この調子でいくぞ」
「よっしゃ、今日でプログライズキーコンプリートするぞぉ!!」
「ダメだぁぁぁぁああああ」
その勢いは良かったものの、日が完全に落ちるまでにできたキーの本数は、わずか2本
先ほどできた『ブレイキングマンモス』と、『ビカリアゼツメライズキー』だけ
「だが、2本出来ただけでもかなりの進展だ」
「それもそうか、あぁぁ...疲れた」
「ありがとう、助かったよ」
「あ、おう、それほどでも...」
外は真っ暗
月明かりがほんのりと道を照らしている
「じゃあ、夜道は気をつけて帰るんだぞ」
「わかってるって」
リョウジはトライチェイサーにまたがって、ヘルメットのバイザーを下ろした
「ゴウラムも、帰るぞ」
「うっうっ、今日はお姉さんの家に止まってもいいんだよ...」
ヒュメナに抑えられながらゴウラムに手を振るグレースに、ゴウラムはまだ警戒しているようだ
「じゃあ、また明日」
「あぁ」
軽く手を振りながらスロットを回し、バイクを走らせる
ゴウラムもその跡を飛びながらついてくる
その様子を2人は見えなくなるまで見送った
「兄さん、今日は家に帰ってこれるかい?」
「リョウジのおかげでな、一緒に帰るか」
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
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