オラリオの門。そこには数多くの商人がいた。この荒れている時期に来るのは大抵商人か金に困っている者である。その中には命知らずな馬鹿が時々現れる。そして、オラリオの入国審査はガネーシャファミリアが担っているが、人手不足のため冒険者ではない者が担当することもあった。
入国審査のために長い列を並ぶピュラーとカリオン(猫)は心の中で意思疎通を取り、雑談をしながら並んでいた。
「次の方〜」
「はーい」「ニャーン」
「オラリオには何をしにきたんだ」
「新たな職を探すためです」
「そうか。ちなみにそのお面は一体?」
「あ、これは魔除けです」
「……ま、魔除け」
「魔除けです」
「そ、そうか(変なやつきちゃったよ。まあいっか害はなさそうだし。今のオラリオにくる奴は馬鹿か金に困っている奴だしな)」
「あと、その猫はペットか?時々魔獣の幼体を猫だと言い張る奴がいるんだ。そいつを見てもいいか」
「いいですよ。ほら、カリオン。この門番に可愛いさをアピールして(カリオンは普通の猫じゃないけど、多分バレないはず。幼馴染も見事に騙せるほどの猫らしさだし、大丈夫でしょ)」
「ニャーン?ニャー」
「……(かっわ。猫たん、最高。昨日見た猫の魔獣ではなさそうだな。ああ猫たん、吸いたいよぉぉ)」
「……(この門番、なんかガンギまってない?もしや普通の猫じゃないとバレた!?)」
「ゴホンッ、よし通っていいぞ」
「はーい(よかったー、バレなかった)」「ニャーン」
と門番から許可をもらい、無事オラリオに入れた。何というか、入国検査がザルすぎる。目立たないためにフードとひょっとこのお面をしていたのに、少しも怪しまれなかった。他にも、物凄く怪しい人がいたが、彼らも簡単に入国できていた。
そして、私は拠点を探した。一度宿を取ろうとしたら「アンタみたいな外から来た奴にやる宿はないよ」と追い返された。
うーん、コレは困った。という事で、歓楽街で小遣い稼ぎと拠点ゲットのために働くことにした。商店街のお店で働けるかどうか全力で面接に行ったが全て「今は募集してない」と断られた。歓楽街の女性の方々たちは情報通が多いのでオラリオの常識を知るためにも、歓楽街で働くのが最適解か。
極東の何でも屋時代。ピュラーは遊郭のお姉ちゃんたちのサポート「芸子さん」として働いたことがあった。その時の経験を活かせると思い、彼女は「
「女将さん!ここで働かせてください!」
「変な仮面女がここで働けるわけないだろう」
「三味線できます!」
と執念深く衣食住ゲットのためにアピールをするひょっとこ。
「……いいよ、一度三味線引いてみな。上手くなかったら追い出してやる」と対応が面倒になった女将さん。
その後、三味線スキルを披露した仮面の女。「ふんっ、一応合格だ。今からアンタの部屋を用意させる」とギリギリ合格し、明日から働くことになったのであった。彼女は、「収入が安定するまで、和食屋を開くのは延期だな」としっかり将来設計を立てるのであった。
「ところでアンタ、名前はなんだい?」
「ピュラーです。出稼ぎに来ました」
「こんな時期によく来るね。まあ、ここはそこまで変わっていないから大丈夫だ。早くこの歓楽街でのルールを覚えるべきだよ、頑張りな(芸子が人手不足なのは事実だし、丁度いい。あの腕前ならここも繁盛するだろう、我ながら運がいい)」
「女将さん!」
「ピュラー、その仮面は脱がないのか?」
「あー、できるだけ外したくないです。この仮面だとお店に合わなさそうなので狐のお面に変えますね」
「そうかい。とりあえず今から同僚の遊女と芸子たちを紹介するからこっちに来な(こいつにも事情があるのか。一体その顔にどれだけ酷い傷があるんだ、可哀そうに。まあ良い、芸子は悪目立ちしてはいけないから、狐の面をつけてくれるなら幸いか)」
ピュラーは女将さんに同僚を紹介してもらい、翌朝着物と狐のお面をつけて働いた。そして、数週間後、彼女は同僚たちに馴染んでいった。最初はピュラーの扱いに迷っていたが、三味線の腕前を認め、その人柄に絆されて行った。ポンコツである部分が見え隠れする本人も、「お姉さんたち、凄く優しい」と先輩たちと仲良くなるのであった。しかし、生活が充実し始めていた彼女は忘れていた、オラリオの常識を教えてもらうことを。一方、カリオンは雛菊のアイドルキャットになっていた。その人懐っこい黒猫を目的に客もいたそうな。
私が「雛菊」の芸子となって数週間が経った。貯金が少しずつ増えていくので、ニヤニヤが止まらない日々である。衣食住を提供してもらえる職場なので最高だ。歓楽街での仕事は基本夜なので、昼は開店準備に追われている。
しかし、問題もある。それは「雛花」に不審者が来ることだ。同僚たちが危ないので、「先輩たちを怖がらせないでくださいませんか?」と追い払ったら、用心棒の役にも付くことになった。夜食を作っている場面をおかみさんに発見されてから、料理担当にもなったので、給料がアップした。お金大好き。
カリオンを凄く可愛がる同僚達とも仲良くなれたので嬉しい。昼夜逆転生活であるが、暇を見つけてカリオンと一緒にオラリオの中心に遊びに行った。そこで実感したのは、やはり治安の悪さ。出歩いたらすぐチンピラに遭うし、ぼったくりの店をよく見かけた。荒れてるから仕方がないかもしれないが、ただの偽物の薬草、つまり雑草が1万ヴァリス。1ヴァリスが日本円で大体10円くらいの価値があるので、高い。
ふらふらとオラリオを散歩していたら、道中「ヘファイストスの武器屋」を発見した。
「父さんが言っていた『女運が悪い凄腕』鍛冶神だよね?」「ニャン」
今は自室の押し入れの中にある、父から授かった「戦神の弓」の調整をぜひしてもらいたい。「戦神の軍帯」は現在身に着けているが、それも一度見てもらうのもありか。
「ニャン」「カリオンの鎧も直すべきだよね、やっぱり」
体躯が大きくなったカリオンも己が馬の時の鎧を調整したいらしい。確か「カリオンの鎧はゴブニュに(こっそり)依頼したものだ。少々気難しい所はあるが良い奴だぞ」とニコニコと父が話していたような、、、?それなら、カリオンの鎧はそのお方に調整をお願いした方がよさそうだ。
……お金はどれぐらいかかるのだろう。鍛冶神たちに直接してもらいたいので、凄くお金がかかりそうだ。カリオンと相談して、「借金生活は嫌だから、しっかり貯金できてからにしよう」ということになった。
その後、私たちはオラリオ観光の名所「バベル」の塔に向かった。
彼らは昨日「オラリオで衣食住が完璧な職場を見つけたから大丈夫。皆は今何してるの?」とラキアにいる父親たちに手紙を送ったが、オラリオ生活を満喫しすぎて、重要なことを忘れている。幼馴染に頼まれた「オラリオ情報収集」を。