ひょっとこ仮面の変人と愛くるしい猫はバベルの前を歩いていた。その付近には何故か誰も近寄らない。まるで、近づけない壁があるようだ。周辺の人たちは、目立つであろう変人と猫の姿に何も違和感を抱いていない。
「ニャン」
「そうだね。私も久々に体を動かさないといけない。ダンジョンに行ってみる?」
「ニャン!」
「庭で訓練するのは流石に思いっきりはできないから、物足りないよね」
「ニャン」
「ダンジョンならカリオンが戦っても多分問題ないでしょ」
私たちは倒し甲斐のあるモンスターが居そうなダンジョンの入り口「バベル」にいた。カリオンは入るや否や近くにいた受付のお姉さんたちに黄色い歓声を浴びせられていた。面倒になった相棒は私の腕の中で寝始めた。
「え、ダンジョンってそのファミリア?に所属しないと入れないんですか?」
「そうですよ。もしかして最近ここに来たのですか?」
「はい、あのファミリアって何ですか?」
「ファミリアというのは……」
とダンジョンの入り口付近で黒服の親切なお姉さんに冒険者になるための基本情報を教えてもらった。どうやらファミリアという神が作った集団に所属しないとダンジョン冒険できないらしい。
「今のオラリオは荒れてますから、人手不足のファミリアで募集がかかってます。こちらが現在募集をかけているファミリアのチラシです。丁度ロキファミリアの募集がかかっているので行ってみてはどうですか」
「色々親切にしていただいてありがとうございます」
「いえいえ、頑張ってくださいね」
性転換に失敗したロキ神か。癖が強そうだし、面白そうな神様だ。だけど、「(可愛いピュラーに絶対執着しそうな変態、)ロキは危険な部分があるから、近づいちゃだめだぞ!」と父が教えてくれたので、ロキファミリアはなしだ。「どこのファミリアに入ったら父さんたちは安心するだろうか」と悩んでいたら近くでドォォン!と爆発が起きた。
「近くで闇派閥の襲撃が起きたようです。今すぐ避難しましょう」
「闇派閥、、ですか」
犯罪集団の闇派閥は結構強いのでは?と考えた運動不足な私は、お姉さんを安全な場所に送ってから爆発が起きた中心に行った。「いいか、ピュラー。戦闘経験を積んでおくことには損はない。騒ぎの中心に行けば必ず丁度いい経験値がいる」と父の格言を思い出す。父さんの教え通り、私は身バレ防止と目立たないために、仮面をオカメに変え、カリオンはこっそり馬に変身して運動不足解消に向かった。
ピュラーは「ひょっとこ」から「おかめ」の仮面に変えた。しかし、美的センスがずれている彼女はその仮面が目立つということに気づいていない。カリオンはピュラーが「この仮面、凄く素敵」と喜んでいたのを知っているので、何も指摘しない。
ちなみに、彼女が仮面を付けている理由は、以下の3つである。
①密偵していることがバレた時に、顔は知られない方が逃げやすい
②父や幼馴染、師匠たちに「仮面は絶対付けておきなさい。変な輩に絡まれずに済むからな」と言われたので、習慣的に付けている。彼女自身も変な輩に絡まれるのは面倒なので素直に従っている
③単に極東で購入した仮面が好き
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私はここで死んでしまうのか。と諦めかけたその瞬間。その人は現れた。黒い馬に乗ったフードを被った誰か。
「お前達は闇派閥であっているか」
「はっ、そうだと言ったら?」
「ただ貴方たちを捕まえるだけだ」
「ば、馬鹿にするのも大概にしろ!おまえなんて——」
気づいたら闇派閥の奴らが空中に浮き、地面に伏していた。その人は彼らを縄で縛りあげていた。……え?
「ヒヒン」
「今から一走りして他の闇派閥を踏んでくるって?わかった。気をつけてね」と黒い馬はどこかに消えてしまった。
「少しは運動し甲斐のある相手いないかな、、って女の人?お嬢さん、大丈夫ですか?」
「ええ、」
「すぐ近くの避難所まで送っていきますよ」
私は変な仮面をつけた人にお姫様抱っこをされ避難所まで送られた。途中で闇派閥に襲われる他の人たちを助けながら私たちは無事避難所に着いた。「ありがとう」という言葉を伝えようとしたら、その人は、風に攫われたかのようにいなくなっていた。
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初めてガチの闇派閥っぽい人たちと遭遇した。思いの外、戦い甲斐がない相手だったのでびっくりした。一般人たちを避難所に送り届けてから、気絶させた闇派閥の人たちを、オラリオの治安維持員っぽい人に預けた。その後、ささっと元の姿に戻って雛菊に帰った。数時間後、雛菊で夕食の仕込みをしていたらカリオン(猫)が帰ってきた。どうやら思いっきり走れて楽しかったらしい。帰宅後すぐに、ぐっすり座布団の上で寝ていた。
団員募集中のファミリアのチラシを貰ったその日から、私が仕えても大丈夫そうな神様を探すことにした。
父さんが「(引きニートの)ヘスティアという女神がいてな。(あのグータラなところは似てほしくないが)ピュラーはアイツのように心優しくあれ」と言ったのを思い出す。父さんが言うほどの素敵な女神「ヘスティア」様なら、父さんも安心できそうだと思い、ヘスティア様を探した。しかし、まだ彼女はこの下界にいないようだ。
「ピュラー、絶対ヘルメスみたいな気持ちの悪い変態男神に近寄るなよ」と言ったことも思い出し、長い時間をかけてカリオンと相談した結果、父の知り合いかつ、安心できる神様のファミリアに所属することにした。
しかし、父にはヘスティア様以外に碌な知り合いがいないようだったので、一旦ダンジョンに行くのは諦め、庭での訓練をさらに厳しいものにした。父から手紙で助言をもらい、訓練の計画を立てた。人がほぼいない庭全体に、カリオンに「人除け」と「そこには誰もいないように見える」という魔法をかけてもらっている。騒音が出ないように神経を尖らせて、毎日腕が鈍らないように頑張っている。
休憩がてらに父からの手紙の続きを読んだ。そして、私はふと「オラリオの情報収集しないといけない」ことを思い出した。毎日しっかりと働いていたため、密偵の仕事をすっかり忘れていた。明日からカリオンと一緒に頑張るか。
こうして、昼は密偵、夜は芸子の姿を持つピュラーの生活は日々忙しいものに変化していった。