何故、ラキアに闇派閥がいないのか。
理由はいたってシンプルだ。
戦神を信仰するガチ勢「マルス教団」による、手段を選ばない執拗な勧誘活動があるからである。一度ターゲットに選ばれたら最後、逃げ切ることはほぼ不可能。言葉が通じるようで通じていない、善意と熱意に満ち溢れた狂人集団による奉仕活動の賜物であった。
「君、素質あるよ。わかる、俺にはわかるぞ。さぁ、一緒に上腕二頭筋を鍛えようではないか」
「お金がない…?筋肉が足りないせいだ。貧乏だった僕は体を鍛えることで、精神的に強くなった。そして、マルス教団に入会すると、無料で衣食住が手に入るぞ。そんな神を信仰するのではなく、我が偉大なる戦神を信じるのだ。今じゃ、僕は安定した生活を送り、可愛い娘もいるぞ!」
「痩せすぎです。健康に悪い。私たちと一緒に鍛えましょう!…ふふ、良い人材がゲットできたわ」
「どうぞ、これは無料配布している
言葉では表せないほど恐ろしい執拗な勧誘が行われているため、闇派閥の間で「近づくな、危険」と囁かれ、ラキア王国は闇派閥のブラックリストに殿堂入りを果たしていた。そのおかげで、治安も比較的安全に保たれている。仮に悪者が出たとしても、マルス教団が率いる警備隊に捕まって、強制ブートキャンプにぶち込まれる。そして、「おめでとう、君は今からマルス教団の一員だ」と無理やり入会させるのがオチである。
厄介なところは、その能力の高さにある。戦神による指導やある者たちとの修行を経た彼らは、神の恩恵も相まって非常に強い。さらに、独自の社会復帰プログラムにより、信者たちは労働と安定した収入、規則正しい衣食住が約束される。かつて闇派閥の一員だったものも、いつの間にか「君もマルスの一員にならないか?」と立派に信者をしている。しかも、元闇派閥である彼らのおかげで、なんと闇派閥の行動予測は完璧だ。
なお、強引に入会させた後には、筋トレと戦神の布教を行われるが、最終的にラキアに残るか、国外に出るかは本人の意志に委ねられる。「ま、これも多様性だな」と、一応個人の意思を尊重しているのだ。
メンバーたちは教団の仕事以外では普通であり、TPOはわきまえているため、王国の上層部や一般市民には、見逃されている。親から見ちゃダメ!と言われつつも、マルス教団は子供の教育に関して頼もしい対応をするため、ちびっ子たちにはカッコいい!と人気。しかし、彼らが大人になると「なるほど。親が大人になったら意味が分かると言ったのは、これのせいか」と子供のころの憧れは一瞬にして消えていることが多い。それでも一部の者は、憧れを抱いたまま信者となっていくのだ。
また、彼らは治安維持に貢献する一方、戦争に参加をしたがる。戦争と言う名の
◇ー◇ー◇
ラキア王国の第一王子。爽やかな金髪の思春期真っ只中の青年。彼の名は、マリウス・ウィクトリウス・ラキア。幼い頃から常にラキア王国の主神アレスと、その娘ピュラーが隣にいた。公務の忙しい父は、合間を縫って会いに来る。
特に、幼馴染のピュラーとは、赤ん坊の頃にお互い玩具を取り合った仲である。何年か前の小さい動物が可愛らしい壁の部屋。その真ん中で、二人の赤ん坊が無邪気に遊んでいる。
「あうあう」「うー?」「あう」「あうー!」
「見ろ、マルティヌス。俺たちの子供が玩具を取り合っているぞ」
にまにまと笑顔を見せる男神と、端正な顔立ちをした男がいた。彼らは己の子供の成長に安堵を覚えている。
「……子供の成長は早いですね、見ないうちにあんなに大きくなって」
少し疲れ気味の男。彼はラキアの王にして、マリウスの父。父親としての役割を全うするために、日々奮闘中。王としての責務を果たしつつ、安心できるアレスにマリウスを任せている。彼は、ふとその言葉を口にする。
「ピュラーちゃんはやっと成長し始めましたね、安心します」
「……そうだな。やっとだ。やっと、人としてピュラーは生きられる」
うぅ、と感涙極まってアレスが涙を浮かべたのと同時に、マルティヌスも昔から変わらない姿が漸く変わり始めたことに関して、ガチ泣きし始めた。それに気が付いた赤ん坊たちは玩具の取り合いをやめて、彼らに近づく。そして、「「うー?」」とうずくまった父親たちを慰め始めた。
◇ー◇ー◇
物心がついた時から、マリウスはどこか浮世離れした彼女の面倒を見ながら共に育ってきた。ピュラーは彼にとって、双子の片割れのようなもの。血が繋がっていなくても、大切な家族であり、世話の焼ける幼馴染、軽口を叩き合える友でもあった。
赤い髪に、黄金色をした瞳。凛々しい顔立ちをしているが、可憐という言葉が似合う小柄な女の子。あの戦神から、直々に鍛えられる前は花が似合う愛らしい人だった。だがしかし、今はどうだ。父親譲りの脳筋さとポンコツさを受け継いだ。確かに中身を知らない人からしたら、先ほど述べたとおりの、争いを知らない無垢な人間。そのポンコツさはちょっと気になる程度で、素直だ。しかし、その小柄な見た目を過信してしまった、筋骨隆々の男が簡単に吹っ飛ばされて地面に倒れたあの光景。マリウスは幼馴染を、それを見た日から、戦神と同じように扱うことにした。——実際のところ、本人は雑に扱っていると思っているが、周りからしたら大変過保護である。しかし、それに気づいていないマリウス。
そして、急に城を飛び出て極東に行った時は、ものすごーく焦った。変なことに巻き込まれそうだから、すごーく心配。予想が的中し、極東で変な事件に沢山巻き込まれ、あの大蛇討伐を成し遂げてしまった。筋肉バカと同類っぽい、武神を自称する師と出会い、更に戦闘力がアップしてしまったようだ。数年間で凄く濃すぎる経験をして帰ってきた彼女は、雰囲気が全く違う戦士に成った。しかし、中身は全く変わっておらず、なんだか安心した。
小さい頃から一緒にいた、家族同然である彼女は城下町に遊びに行く際も、同年代の子供たちをひっかけていた。理想の王子様のような行動をするせいで、女の子の初恋を奪う。異性より、同性に惚れられやすい。ただの初恋キラーである。
だから、変な輩が寄り付かないように、仮面をプライベート以外は常につけたほうがいいと、主神と一緒に説得した。素直に何も疑わず、変な仮面を付けるようになったから大丈夫だろう。後は、カリオンに任せる。彼女が漸く帰ってきたと思えば、カリオンが馬にも猫にもなれる精霊であるという爆弾を投下された。ラキアは主神と先祖のおかげで精霊と大変仲が良く、気軽に扱っていい存在ではない。寝ているカリオンに猫吸いしたことがあるマリウスは暫く放心した。
幼馴染が帰ってきて半年。突如、オラリオで和食屋を開きたいと夢を語った幼馴染。どうしても行きたいらしく、うるうると上目遣いをすることで、上層部を攻略。「お願い」と真っ直ぐな黄金色の瞳で見つめられたマリウスは少し悩んだ後に了承した。最終的には了承するだろうが、色々と面倒な父親を無視して、マリウスの父である王にちゃっかり許可を貰っていたのだ。マリウスは上層部と話し合った結果、ピュラーがオラリオに居れば、戦争を仕掛けない。内政にもっと力を入れる機会ができると思いついた。こうして、少々寂しいものがあったが、マリウスは筋肉バカを縛りつけてピュラーを見送った。
「ピュラー、元気で」
夕日が沈んでいく。颯爽と遠ざかっていく、黒い馬に跨る彼女。幼馴染の存在は、この世界で異質である。明言しよう。昔は何とも思わなかったが、彼女と同じように飛躍的に成長した彼にはわかる。神の恩恵がなければ、人は化け物に抗うことはできない。この世界の人に、希望を与え、救うこともできない。しかし、彼女は神の恩恵を持たずに、それを成し遂げている。
化け物に抗い、人々の希望となっている。彼女は英雄になりたいと一言も言っていない。どうして赤の他人を助けるのかを聞いたことがある。「目の前の人が死ぬのを見たくないだけ。人が死ぬのをただ見るだけで何もしないのって、気分が悪いでしょ?」と、彼女は答えた。恐らく極東の件も「いつもお世話になっている人が困っている。ならば、それを私が何とかしよう」と、師も困っていた、だから倒した。きっとそこに富も名誉も感謝もいらなかったのだろう。
そうしたいと思った。ただそれだけだ。
彼女が異質である理由は、真実をしていそうな主神から何も聞かされていない。まだその時ではないのだろう。彼女もそれについて知らなさそうだった。全く知らなさそうだった。だから、今は聞かない。その時が来るまで、待とう。
ピュラーは、英雄になる。
断言しよう。
彼女が望まずとも、人々はそう呼ぶ。
この化け物が溢れる、人に厳しい世界。ラキア王国はその中でも他国から羨ましがられるほどに平和であった。それを羨んだ他国から戦争を仕掛けられるが、主神と戦闘狂たちが生き生きとそれを退ける。この平和は、今までに築いてきた先祖と主神おかげだ。ならば、彼女が夢を追うなら、ラキアの王子として生まれた我が身もこの
「この命に代えても、民と、精霊と、同胞と」
「そして、幼馴染と、我が神と、父と一緒にラキアを守ると、ここに誓おう」
風が吹き、彼の髪が揺れる。それと同時に幼馴染の姿が視界から消えていく。
「んー?んー!んー(笑)」
「少しは空気を読んでください、我が神よ」
筋肉バカは空気を読まずに「意訳:なんだ、マリウス。急に俺をそんなに崇めて。いつものツンはどうした?急にデレるなよぉ」と縛り付けられたままニヤニヤしていた。そんな主神に呆れながらも、彼はその誓いを心に刻んだ。
それから、数年。場面は変わって、ダイダロス通りのある闇派閥の拠点の一室。まるで取調室のような場所であった。そこには、仮面の女と胡散臭い顔の整った男神がいた。彼らが向かい合って座っている机にはかつ丼。その中身がピュラーのお腹の中に入っていく。男神はまさか警戒心の強いこいつが、本当についてくるとは思わなくて内心驚いていた。もぐもぐと、器用に仮面を外さず食べているその姿。毒が入っているとは全く疑っていない。しかも、何故かお腹周りが物凄く膨らんでいて、変な音が聞こえる。人の体からこんな音が出るのか?と首を傾げる彼から見ると分からないが、マントの下にはぐかーと豪快に眠る猫がいた。
「カツ丼ないんですか?こういう場所では必須ですよ」と図太くカツ丼を要求してきた。夜食が食べたくなったのである。呆れた目をした男神は、「雰囲気を重視するタイプか?」と言いながら、しっかり自身の眷属にそれを用意させた。初めて会ったはずの2人は仲良く談笑しながら、腹を満たしてようやく真剣な話をし始めた。
※この物語に登場する「マルス教団」および各種団体・名称等は、すべてフィクション(架空の世界観・設定)です。実在するいかなる宗教、団体、組織、人物、思想とも一切関係ありません。創作設定としてお楽しみください。
ピュラーはどのファミリアに所属するか
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ヘスティアファミリア
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フレイヤファミリア