現代日本に転生したけど、何かおかしくない? 作:匿名のななし
ガランとした部屋の真ん中で、朝日だけが四角く床を切り取っていた。
すり減った革のソファも、ローテーブルも、テレビも、もうここにはない。
つい数日前まで床一面に並べられていた雨受けの雪平鍋やバケツもすべて片付けられ、天井の隅にある大きな黒いシミだけが、相変わらず間抜けな形で残っている。
「……こうして荷物を全部出しちゃうと、意外と広く見えるもんだな」
ポケットに両手を突っ込んで見回すと、靴音が木の床にコツンと乾いた音を立てて反響した。
すぐ隣で、二乃が少しだけ目を細めて部屋の奥を見つめている。
「そうね。あんなにモノが溢れてて狭苦しいと思ってたのに」
コツコツとスニーカーの音をさせて歩き、壁際の小さなキッチン跡の前で足を止める二乃。
油ハネ一つ残らないように昨日彼女が磨き上げた、古びた二口コンロと狭いシンク。
そのステンレスの縁を、白い指先がそっとなぞった。
「火力が弱くて、お湯を沸かすだけでも時間がかかって、換気扇を回すと変な音がして……。本当に使いにくいキッチンだったわ」
「毎日ここで文句言いながら、お玉を振り回してたもんな」
「ええ。でも、ここで何百回もあんたのご飯を作ったのよね」
ポニーテールが、ふわりと小さく揺れる。
横顔に落ちるまつげの影が、ほんの少しだけしんみりとしていた。
三年前のあの日。
チンピラに追われてこの部屋の薄っぺらいドアを壊す勢いで叩いた女子高生が、今や俺の胃袋と財布の紐を完全に握る相棒になっているのだから、時間の流れというのは分からないものだ。
「……なあ、二乃。もしかして、この鍾乳洞と別れるのが寂しくなったのか? なんだったら今からでも契約をキャンセルして、もう三年ここでバケツを並べて暮らすか?」
「はあ!? 誰がそんなこと言ったのよ、バカ!」
バシッ!
弾かれたように振り返った二乃に、二の腕を思い切り引っ叩かれた。
しんみりした空気が一秒で吹き飛ぶ。
(よし、いつもの二乃だ)
「ちょっと感傷に浸ってただけじゃない、デリカシーのない男ね! あんなに素敵なアイランドキッチンが手に入ったのに、こんなボロ部屋に未練なんかあるわけないでしょ!」
「はは、そりゃよかった。ほら、下でトラックの兄ちゃんたちが待ってるぞ。大家のばあちゃんに鍵を返して、俺たちの新しい城へ行こうぜ」
「言われなくても分かってるわよ。ほら、忘れ物がないか最後にもう一回確認して!」
先頭に立ってドアを開け、外階段を軽やかに駆け下りていく二乃。
最後にもう一度だけ天井のシミに手を振ってから、その背中を追ってパタンと古い木のドアを閉めた。
*
電車で二駅離れた閑静な通り沿い──俺たちが現金一括で買い上げた三階建てのレンガ調ビルの前には、大型の引っ越しトラックが二台、どっしりと横付けされていた。
「うわあ……! 晴れた日に見ると、レンガの色がもっと綺麗に見えるわね!」
トラックの脇からビルを見上げて、うっとりと声を弾ませる二乃。
一階のガラス張りオフィス、二階の広々としたリビングダイニング、そして三階の居室とルーフバルコニー。
この間までたむろしていた占有屋の連中は、三秒で掃除して警察に引き取ってもらった。
今では専門のクリーニング業者に隅々まで磨き上げてもらったから、文字通りチリ一つないピカピカの状態だ。
「おーい、そっち持って! せーのっ……うおっ、重っ! なんだこの冷蔵庫、中に鉛でも詰まってんのか!?」
「ちょっと待って、階段の角を曲がれないって! 一旦下ろそう、腰が砕ける!」
トラックの荷台の前で、青い作業着を着た屈強な引っ越し業者の兄ちゃん二人が、顔を真っ赤にして唸り声を上げていた。
彼らが抱えているのは、二乃が「新しいキッチンには絶対にこれ!」と指名買いした、観音開きで六百リットル超えの最新型超大型冷蔵庫だ。
さらに荷台の奥には、三階のトレーニングルーム用に通販で買った、片方五十キロある可変式ダンベルのセットや、頑丈なパワーラックの鉄骨が詰まった段ボールが山積みになっている。
「あーあ、兄ちゃんたち、早くもグロッキーになってるな。二階まで階段で上げるの、かなり時間がかかりそうだぞ」
「ちょっと八雲、突っ立ってないで手伝ってあげなさいよ。あんたのために頼んだ鉄の塊もいっぱいあるんでしょ!」
「へいへい。じゃあ、ちょっとショートカットさせてもらうか」
パーカーの袖を肘までまくり上げ、トラックの荷台へと歩み寄る。
「すいません兄ちゃんたち。そこ、俺が持ちますよ」
「えっ? い、いや旦那さん、これはプロでも二人じゃないと無理な重さで……って、うわあああっ!?」
作業員の兄ちゃんが止めるより早く、体内のスイッチを軽く入れた。
全身に熱いオーラを巡らせ、皮膚の表面に薄い『纏』の膜を張る。
俺の念能力は、肉体と物質を単純に強くする強化系だ。百キロや二百キロの家電なんて、オーラを纏った腕からすれば発泡スチロールの箱と大差ない。
冷蔵庫の底に右手を差し込み、左手で側面を軽く支えて、ひょいっと持ち上げた。
「おっと、バランス崩すと壁にぶつかるな。よし、このまま二階まで行ってきまーす」
「「えっ……!? か、片手でぇぇっ!?」」
目をひん剥いて顎が外れそうになっている作業員の二人を置き去りにして、巨大冷蔵庫を抱えたまま、鼻歌交じりに階段をトントンと駆け上がる。
二階のアイランドキッチンの奥、あらかじめ測っておいたスペースに、床を傷つけないようミリ単位のコントロールで音もなくストンと設置した。
そのまま一階へとんぼ返りし、今度は荷台で一番場所を取っていた合計百二十キロのダンベルとプレートが入った木箱を二つ重ねて小脇に抱える。
「あ、旦那さん! それ、台車が壊れそうなくらい重かったやつで……!」
「大丈夫ですよ、うちの床は補強してあるんで。ついでにそっちの洗濯機も上に運んどきますね」
反対側の手でドラム式洗濯乾燥機をひょいっと持ち上げ、再び三階へと階段を登っていく。
ものの十分も経たないうちに、トラック一台分の大物家電とトレーニング器具がすべてビルの中へと吸い込まれていった。
荷台の前では、作業員の兄ちゃんたちが完全に魂を抜かれた顔で立ち尽くしている。
「……お、おい。今の見たか? あの細身のお兄さん、冷蔵庫を段ボールみたいに運んでったぞ……」
「あ、ああ……。俺たちが毎日ジムで鍛えてる筋肉って、一体なんなんだろうな……」
遠い目で自分の上腕二頭筋を見つめる作業員たちの横で、二乃がクリップボードを片手に一階から二階へと忙しなく指示を飛ばし始めた。
「はいそこ、観葉植物の鉢は窓際の日の当たる場所にお願いします! 八雲、あんたは私の服が入った段ボールを三階のウォークインクローゼットに運びなさい! 箱の上に『取扱注意・最優先』って赤ペンで書いてある三十箱よ!」
「三十箱!? おい二乃、ちょっと待て! 前のボロ部屋のどこにそんな量の服が隠されてたんだよ! 四次元ポケットでも繋がってたのか!?」
「失礼ね、季節ごとに圧縮袋に入れてベッドの下にしまってたのよ! せっかく広いクローゼットになったんだから、全部ハンガーにかけて並べるに決まってるでしょ!」
段ボールを五箱ずつ縦に積み上げて抱え、三階の主寝室へと往復する。
奥にあるウォークインクローゼットに入ると、すでに二乃が脚立に乗って、ワンピースやブラウスを色合いのグラデーション順にハンガーへ吊るしている真っ最中だった。
「よし、これで三十箱全部だぞ。……って、おい二乃。ちょっと待て」
最後の箱を床に下ろし、クローゼットの惨状を見て目を細める。
「左の壁から奥の棚、さらに右側のハンガーラックの真ん中まで、全部お前のパステルカラーの服とバッグで埋まってないか? 登坂不動産で図面を見た時は、八対二にするって約束したよな?」
「え? ちゃんと空けてあるじゃない、ほら、一番手前のそこの端っこ」
脚立の上から、悪びれる様子もなく親指で入り口のすぐ横を指さす二乃。
そこには、幅三十センチにも満たない、申し訳程度のパイプスペースがちょこんと残されているだけだった。
「これ、九・五対〇・五だろ! 俺のパーカーを三枚吊るしたら満員電車になるわ!」
「だって、並べてみたら思ったよりスカートが多くて入りきらなかったんだもの。あんたの夏物のTシャツは、トレーニングルームの隅っこに置くチェストにしまえばいいじゃない」
(うわぁ……俺の主寝室での領土が、ついに面積すら失って『線』になったんだけど……!)
「文句言わないの! その代わり、あんたの服にシワがつかないように、私が毎日ちゃんとアイロンとスチームをかけてあげるんだから、感謝しなさいよね」
脚立から降りてきた二乃に、胸元へ新しい黒のジャケットをポンと押し付けられた。
まあ、自分で洗濯物を畳んだりアイロンをかけたりする手間がゼロになると思えば、領土の割譲くらい安い取引かもしれない。
*
時計の針が午後二時を回る頃には、引っ越し業者のトラックも引き上げ、大方の荷解きと家具の配置が完了していた。
二階のリビングダイニングに降り、窓際に設置されたばかりの新品の大型L字ソファに、背中からバフッと倒れ込む。
「うおぉ……ふっかふかだ。バネが尻に刺さらないし、足を全部伸ばしてもまだ余るぞ」
極上の弾力に顔を埋めて頬をすり寄せていると、アイランドキッチンの収納扉をパタパタと開け閉めしていた二乃が、ぴたりと動きを止めて振り返った。
「……ねえ、八雲。大変なことに気づいたわ」
「ん? なんだよ、ガスが通ってないとか?」
「違うわよ。古い欠けたお皿や使い古しのコップは引っ越しの時に全部処分したから、このピカピカの食器棚、今すっからかんなの!」
観音開きの食器棚を大きく開けてみせる二乃。
確かに、中には棚板が綺麗に並んでいるだけで、皿の一枚も入っていない。
「しかも、さっき電源を入れたばかりの六百リットルの冷蔵庫の中も、作業用に買っておいた水とお茶のペットボトルだけよ! これじゃあ、約束の特大ハンバーグと濃厚ビーフシチューが作れないじゃない!」
パタパタとソファまで駆け寄ってきて、寝転がったばかりの俺の腕を両手でグイッと引っ張る。
「ほら、起きなさい! 約束通り、今から新しいお皿とマグカップ、それに今夜のディナーの特上食材を買いに行くわよ!」
「えぇー、今ソファと友達になったばっかりなのに……」
「四の五の言わない! じっくり牛バラ肉を煮込むんだから、早く買いに行かないと夕飯が夜中になるわよ! それでもいいの!?」
「……行きます。荷物持ちでも何でもさせていただきます!」
ハンバーグとビーフシチューのダブルメインを人質に取られては、一秒たりとも逆らえない。
跳ね起きるようにソファから立ち上がり、二乃と一緒に外へ出る。
引っ越し作業で少し汗ばんだ肌に、乾いた風が心地よく吹き抜けた。
作業用のパーカーから、淡いミントグリーンのプリーツスカートと白のニット、その上にショート丈のデニムジャケットを羽織ったお出かけ仕様に着替えた二乃が、隣で軽やかにステップを踏むように歩いている。
「やっぱりこの街、大正解だわ! 道幅も広いし、並木道も綺麗だし、何より空から人が落ちてきたり爆発音が聞こえたりしないもの!」
「ハードルが極端に低い気もするけど、ここじゃそれが一番の贅沢だからな」
並んで歩きながら、駅前のオシャレな商業エリアにある大型のライフスタイル雑貨店へと入った。
木の温もりを活かした明るい店内には、アロマディフューザーの爽やかな柑橘系の香りが漂い、世界中から集められた食器やカトラリー、キッチン雑貨がずらりと並んでいる。
「わあ……! 見てよ八雲、この白いオーバル皿! 縁に少しだけ金のラインが入ってて、お料理がすごく映えそうじゃない?」
目をキラキラと輝かせながら買い物カゴを俺の腕に押し付け、白い大皿や深めのシチューボウル、木製のサラダボウルを次々と選んでいく二乃。
「ハンバーグとシチューを盛り付けるなら、こっちの少し大きめのプレートがいいわね。あ、ナイフとフォークも、持ち手が黒とシルバーのスタイリッシュなやつで揃えましょう」
「どんどんカゴが重くなっていくんだけど。これ、俺たち二人分の食器だよな? レストランでも開業する気か?」
「お料理によってお皿を変えるのは基本でしょ! あんたの美味しい顔を見るために選んであげてるんだから、文句言わずにしっかり持ちなさい」
鼻歌交じりにコーナーを移動していた二乃が、壁一面に様々なデザインのカップが並ぶ棚の前で、ふと足を止めた。
「……あ。ねえ八雲、ちょっとこっち来て」
「ん? 今度はなんだ?」
重たいカゴを片手で軽々と持ち直して隣に並ぶと、二乃が棚の中段から二つのマグカップを取り出し、目の前に並べて掲げた。
ぽってりとした丸みのある、手触りの良さそうな陶器のマグカップだ。
一つは落ち着いた深いネイビーで、もう一つは優しいスモーキーピンク。
並べて置くと、持ち手の曲線と底の白いラインがぴったりと対になる、誰がどう見ても『ペアマグカップ』として作られたデザインだった。
「……これ、食後のコーヒー用にどうかしら。大きさもちょうどいいし、保温性も高そうよ」
カップを見つめたまま、少しだけ上目遣いにこちらを窺ってくる。
ただの陶器なのに、二つの持ち手が寄り添うみたいに並んでいるのを見ると、急に店内の空気がむず痒くなった。
「あー……いいんじゃないか? シンプルで使いやすそうだし」
首の後ろを掻きながら視線を少し逸らすと、二乃がカップを持った手をグイッと前に突き出してきた。
「いいんじゃないかって、どっちの色をあんたが使うか聞いてるのよ!」
「どっちって、どう見ても俺がネイビーで、二乃がそのピンクだろ。俺がピンクのカップでコーヒー飲んでたら、事務所に来た依頼人が微妙な顔するぞ」
「そ、そうよね。当たり前じゃない、ちょっと確認しただけよ」
耳の先をほんのりと赤く染めながら、二つのマグカップがぶつからないように丁寧に紙で包み、カゴの一番上にそっと乗せる二乃。
「……割らないように、気をつけて持ちなさいよね」
「わかってるよ。銃弾が飛んできても、このカップだけは『堅』で死守してやるさ」
「大げさなこと言わないの。さあ、お会計を済ませたら、次は商店街のお肉屋さんとパン屋さんに行くわよ!」
会計を終えて大きな紙袋を提げ、駅の反対側に広がる活気ある商店街へと足を延ばした。
夕方の買い物時とあって、通りには威勢のいい掛け声と、焼き鳥や揚げ物の香ばしい匂いが充満している。
こういう下町っぽい賑やかさと、さっきのオシャレなエリアがすぐ隣り合っているあたり、本当に住みやすそうな街だ。
「あった、ここよ! ネットの口コミで、すごく質のいい黒毛和牛を扱ってるって評判だったの」
足を止めたのは、ショーケースの中に美しいサシの入った塊肉がずらりと並ぶ、老舗の精肉店だった。
「いらっしゃい! お嬢ちゃん、今日は何にするかね!」
白衣を着た恰幅のいい店主のおっちゃんが、笑顔で声をかけてくる。
二乃はショーケースの前に身を乗り出し、プロの料理人みたいな真剣な目つきで肉を吟味し始めた。
「えっと、ビーフシチュー用に、そこの黒毛和牛のバラ肉をブロックで六百グラムください。あと、ハンバーグにするから、牛の粗挽きと豚の挽き肉を七対三の割合で、合計五百グラムお願いします!」
「おっ、バラ肉六百に挽き肉五百かい! ずいぶん景気がいいじゃないか。今日はお家でパーティーかい?」
「ええ、今日この近くに引っ越してきたばかりなんです。だから、お祝いのディナーにしようと思って」
誇らしげに微笑む二乃を見て、肉を計量していたおっちゃんが、後ろで紙袋を提げて立っている俺の顔を見てニカッと笑った。
「へえーっ、そりゃあめでたい! こんな別嬪の奥さんに、引っ越し早々手作りのビーフシチューとハンバーグをご馳走してもらえるなんて、そこの若旦那は世界一の果報者だなあ!」
「えっ、あ、いや大将、俺たちはまだそういうんじゃなくて──」
「あら、ありがとうございます! この人、放っておくとすぐにコンビニ弁当で済ませようとするから、私がしっかり胃袋を管理してあげないとダメなんです」
否定しようとした言葉を、二乃が華麗な笑顔で上書きした。
(……もう完全に訂正する気がゼロになってないか、うちの相棒は)
「ガハハハ! しっかり者の奥さんだ! よし、引っ越し祝いに、今揚がったばかりの特製メンチカツを二個おまけしてやろう! 帰ったら仲良く食べな!」
「わあ、本当ですか!? ありがとうございます!」
ホクホクと湯気を立てるメンチカツの紙袋まで手に入れ、上機嫌の二乃はそのまま数軒隣にある赤茶色の屋根のベーカリーへと吸い込まれていった。
店内に入った途端、発酵バターと焼きたての小麦の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「ビーフシチューには、やっぱりパリパリのバゲットが欠かせないわよね。あ、見て八雲! 明日の朝ご飯用に、この大きなクロワッサンとクルミパンも買っていきましょうよ」
「賛成。明日の朝、あの新しいダイニングテーブルでコーヒーと一緒に食ったら最高だろうな」
「ふふん、目玉焼きとカリカリのベーコンも焼いてあげるわ」
ベーカリーを出る頃には、西の空が燃えるような茜色に染まり、商店街の街灯がポツポツと温かな光を灯し始めていた。
左手には食器の入った紙袋、右手にはずっしりとした肉の包みを提げ、二乃はバゲットが飛び出したパン屋の袋を大事そうに胸に抱えている。
「なんか、本当に全部揃っちゃったな」
「ええ。あとは帰って、私の腕を振るうだけよ。お腹、ちゃんと空いてるでしょうね?」
「引っ越し作業で朝から何も食ってないからな。今なら牛一頭でも丸呑みできるぞ」
「牛一頭は無理でも、ほっぺたが落ちるくらいお腹いっぱいにしてあげるわ」
茜色の夕暮れの道を並んで歩き、自分たちの三階建てビルへと帰還した。
一階のエントランスの鍵を開け、二階のLDKへと上がる。
俺がアイランドキッチンの広い大理石カウンターに紙袋を下ろすと、二乃は買ってきたばかりの食材と新しい食器をさっそくずらりと並べ始めた。
壁のフックにかけてあったお気に入りの白のエプロンを手に取り、背中の紐をキュッと結ぶ。
ポニーテールの毛先を一度だけ大きく揺らして、彼女が真っ白なアイランドキッチンの前へと向き直った。
「よしっ……! それじゃあ、記念すべき新居の初ディナー、始めるわよ!」
カチリ、とコンロの点火つまみが回る。
青い炎が美しく立ち上り、買ってきたばかりの真新しい圧力鍋とフライパンが同時に火にかけられた。
少し離れた窓際のL字ソファに深く腰を下ろし、背もたれに腕を乗せてその光景を眺める。
前のボロ事務所では、壁に向かって背中を丸めて料理をする後ろ姿しか見えなかった。
だが、このアイランドキッチンは違う。
リビングのどこに座っていても、調理台に立つ二乃の真剣な眼差しや、楽しそうに動く手元が、まるで料理番組のスタジオみたいに正面から丸見えなのだ。
トントン、トントントンッ!
リズミカルで小気味よい包丁の音が、二十畳の広いリビングに心地よく響く。
二乃の手の中で、玉ねぎと人参、セロリがあっという間に均一なみじん切りに変わっていく。
大きめにカットされた特上黒毛和牛のバラ肉に塩コショウが振られ、熱された圧力鍋の中でジュウウウッ! と豪快な音を立てて焼き色をつけられた。
そこへ、赤ワインが惜しげもなくドボドボと注ぎ込まれる。
フランベされたアルコールがフワッと立ち上り、直後、牛肉の濃厚な脂の匂いと赤ワインの芳醇な香りが混ざり合って、リビング全体へと一気に広がった。
「うおぉ……なんだこの匂い。匂いだけで白飯が三杯いけるぞ」
「まだ煮込み始めたばかりよ。ここからフォンドボーと香味野菜を入れて、一気にトロトロになるまで煮込むんだから」
圧力鍋の蓋を閉めて火力を調整すると、二乃は休む間もなく大きなステンレスボウルを引き寄せた。
合い挽き肉に炒めた飴色玉ねぎ、パン粉、卵、そしてナツメグなどのスパイスを加え、白い手で力強く、かつ素早く捏ね上げていく。
パンッ、パンッ! と両手の間でキャッチボールをするように空気を抜く音が響くたび、胃袋がギュルルッと情けない音を立てて収縮した。
あまりのいい匂いに我慢できなくなって、ソファから音もなく立ち上がる。
気配を完全に消す『絶』を使って、アイランドキッチンのカウンターへと忍び寄った。
狙うは、まな板の横に置かれた小皿──さっき商店街の肉屋のおっちゃんがおまけしてくれた、揚げたてのメンチカツの切れ端だ。
スッ、と右手を伸ばす。
指先がメンチカツの衣に触れる寸前。
ペシッ!
「痛っ!?」
どこからともなく飛んできた木べらが、手の甲を正確に叩き落とした。
「こら、つまみ食い禁止! 気配を消しても、あんたの食い意地のオーラがダダ漏れなのよ!」
「食い意地のオーラって何だよ! 念能力にそんな系統はないぞ!」
「私の前では全部お見通しってことよ。ほら、もうすぐハンバーグが焼き上がるから、大人しくテーブルの席について待ってなさい!」
お玉と木べらを二刀流みたいに構えた料理長に追い返され、ダイニングテーブルの椅子に座り、新しく揃えた黒とシルバーのナイフとフォークを両手に握りしめた。
キッチンでは、フライパンで蒸し焼きにしていた特大ハンバーグを大型オーブンの中へと移し、最後の仕上げにかかっている。
庫内灯に照らされて、ハンバーグがぷっくりと丸く膨らみ、表面から透明な脂がプチプチと弾けているのが見えた。
隣では、圧力鍋のピンが下がり、蓋が開けられた瞬間に、深い焦茶色に輝くビーフシチューの湯気がもくもくと立ち上る。
「お待たせ! 引っ越し記念、二乃特製ダブルメインディナーの完成よ!」
ミトンを着けた両手で、今日買ったばかりの金のラインが入った白いオーバル皿を二つ運んできて、テーブルの上にトンと置く二乃。
目の前に置かれた皿を見て、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
皿の左半分には、大人の握り拳二つ分はありそうな、ふっくらと分厚い特大ハンバーグ。
右半分には、ゴロゴロとした巨大な牛バラ肉の塊がいくつも沈んだ、艶やかな濃厚ビーフシチューがたっぷりと盛られ、そのデミグラスソースがハンバーグの裾野まで贅沢に絡み合っている。
脇には、彩り鮮やかなブロッコリーとキャロットグラッセ、そして湯気を立てるマッシュポテト。
別皿には、表面がカリッと黄金色に焼けたバゲットと、山盛りの白飯まで用意されていた。
「……すげえ。これ、ホテルのディナーコースで出たら一皿一万円は取られるやつじゃん」
「ふふん、原価を惜しまず最高の食材を使ったからね。さあ、冷めないうちに召し上がれ!」
向かいの席に座ってエプロンを外し、ワイングラスに注いだルビー色のブドウジュースを掲げる二乃。
明日の朝も細かい荷解きが残っているからと、今夜はノンアルコールでの祝杯だ。
「新しいお家と、私たちのこれからの生活に──乾杯!」
「おう、乾杯!」
カチン、と軽やかなガラスの音が響く。
一口ジュースで喉を潤すなり、迷わずナイフとフォークを手に取った。
まずは、圧倒的な存在感を放つ特大ハンバーグの真ん中に、スッとナイフの刃を入れる。
その瞬間だった。
じゅわあああっ!!
切り開かれた断面から、せき止められていたダムが決壊したみたいに、キラキラと輝く透明な肉汁が滝のように溢れ出してきた。
濃厚なデミグラスソースの海へと流れ込む肉汁を、一口大に切った肉にたっぷりと絡め、熱々のまま口の中へと放り込む。
「……ッ、んんんっ!!」
思わず目を閉じて、天井を仰いだ。
外側はオーブンで香ばしくカリッと焼き固められているのに、中は信じられないくらいふっくらとしてジューシーだ。
噛みしめた瞬間、粗挽きの牛肉の力強い旨味と、豚肉の甘い脂、そしてじっくり炒められた玉ねぎのコクが口の中で大爆発を起こす。
「どう? 新しいオーブンの火力で焼き上げた感想は?」
向かいの席で、両手で頬杖をつきながら、いたずらっぽく目を細めて顔を覗き込んでくる二乃。
「……反則だわ、これ。今までのフライパンだけで焼いてたハンバーグも世界一だと思ってたけど、今日のは宇宙一を更新してる。肉汁の量が暴力だよ」
「ふふっ、大げさね。でも、まだまだこれからよ。そっちのビーフシチューのお肉も食べてみなさい」
促されるまま、今度はゴロリと大きな牛バラ肉の塊にフォークを伸ばす。
ナイフを使おうとしたが、その必要すらなかった。
フォークの先を軽く当てただけで、分厚い肉の繊維がほろり、と音もなく崩れたのだ。
赤ワインと香味野菜の旨味を極限まで吸い込んだ、黒褐色に輝くソースと一緒に口へ運ぶ。
「……溶けた。お前、これ本当に肉か? 歯がいらないんだけど」
舌の上に乗せただけで、ゼラチン質になった脂身と赤身がとろりと溶け、後からほろ苦くも深いデミグラスの余韻が鼻へと抜けていく。
すかさず白飯をかき込み、さらに焼きたてのバゲットをちぎって、皿に残った濃厚なソースをぬぐって頬張る。
パリッと香ばしく焼けた表面の皮と、デミグラスソースをたっぷり吸った中の白い生地のモチモチ感が合わさって、もはや言葉が出ない。
「うまい……マジでうまい。俺、あの時カップ麺の汁をこぼさせずに占有屋どもを三秒で片付けた自分を、心の底から褒めてやりたい」
「ほんと、あんたの食い意地だけは誰にも負けないわね」
クスクスと笑いながら、自分の分のハンバーグを上品に口へと運ぶ二乃。
俺が「うまい、うまい」と夢中でフォークを動かすたび、向かいに座る彼女の目元が柔らかくほころんでいく。
結局、皿の上のソースを一滴残らずバゲットで拭き取って完食し、おまけのメンチカツまで半分こして綺麗に平らげた。
「ふうぅ……食った食った。お腹が苦しくて一歩も動けない」
「何言ってんの、食後のお皿洗いはあんたの当番でしょ! ほら、今日からこの最新兵器を使うところを見せてあげるから、お皿を持ってきなさい」
重い腹を抱えて立ち上がり、空になった大皿やグラスをキッチンのシンクへと運ぶ。
二乃がアイランドキッチンの下にある引き出しをスッと引き出した。
ビルトイン型の最新式大型食洗機だ。
「軽く水でソースを流したら、このカゴの隙間に順番に並べていくの。あとは洗剤を入れて、ここのスタートボタンをピッと押すだけ」
言われた通りに皿をセットしてボタンを押すと、ウィーン……と静かなモーター音がして、庫内で温水洗浄が始まった。
「……終わった。毎晩の皿洗い労働が、たったの三十秒で終わったぞ」
「でしょ? これで手が荒れることもないし、食後の時間もたっぷり使えるわ」
文明の利器の威力に思わず手を合わせて拝みそうになっていると、二乃はケトルでお湯を沸かし、昼間に雑貨店で買ったばかりの二つのペアマグカップをカウンターに並べた。
ドリッパーから、挽きたてのコーヒーの香ばしく深い香りが立ち上る。
「はい、八雲のネイビーのカップ。……ねえ、せっかくお皿洗いも一瞬で終わったんだし、このコーヒーを持って三階のルーフバルコニーに行ってみない? 雨もすっかり上がったし、夜風が気持ちいいわよ」
「おっ、いいな。食後のコーヒーを屋上で飲むなんて、なんかドラマの金持ちみたいじゃん」
湯気を立てる温かいネイビーのマグカップを両手で受け取り、スモーキーピンクのカップを持った二乃と並んで、三階へと続く階段をゆっくりと登り始めた。
*
三階へ上がると、そこはオフィスやLDKとはまた違った、静かで落ち着いたプライベートのフロアになっていた。
トレーニングルームと主寝室の前を通り過ぎ、突き当たりのルーフバルコニーへ続くガラス扉へ向かおうとした時、ふと廊下の横にある洗面所のドアが開いているのに気づいて足を止めた。
「……おっ。二乃、ここってもう片付けたのか?」
「ええ、さっき荷解きのついでにね。ほら、電気をつけてみて」
壁のスイッチを押すと、温かみのあるダウンライトが点灯し、ホテルみたいに広々とした洗面スペースが浮かび上がった。
壁一面の大きな一枚鏡の下に、真っ白な陶器の洗面ボウルが二つ、綺麗に並んで据え付けられている。
登坂不動産で二乃が「これだけは絶対条件!」と力説していた、ダブルボウルの洗面台だ。
それぞれのボウルの奥には、すでに同じデザインの白い歯ブラシスタンドとコップが置かれ、青い歯ブラシとピンクの歯ブラシが仲良く一本ずつ立てられていた。
左側の鏡の横には、化粧水やヘアオイルのボトルが綺麗に整列している。
「ねえ、ちょっとそこに並んで立ってみてよ」
マグカップを洗面台の端のスペースにそっと置き、左側のボウルの前に立って手招きする二乃。
「並んでって、今から歯を磨くわけじゃないだろ」
「いいから! 朝のシミュレーションよ!」
急かされるままに、コーヒーを置いて右側のボウルの前に立った。
正面の大きな鏡の中に、俺と二乃の姿が並んで映り込む。
ボウルが二つあるおかげで、肩と肩がぶつかることもなく、それでいて少し横を向けばすぐにお互いの顔が見える、絶妙な距離感だった。
「ほら、見て。これなら、明日の朝からあんたがここで寝癖と格闘してる横で、私がゆっくりドライヤーをかけたり、コテで髪を巻いたりしても全然邪魔にならないでしょ?」
鏡の中の二乃が、自分のポニーテールの毛先を指でくるくると弄びながら、満足そうに笑いかけてくる。
鏡越しにその笑顔を見つめながら、明日の朝の光景を頭の中で想像してみた。
同じ屋根の下で目を覚まし、まだ少し眠い目をこすりながらこの洗面所にやってきて、当たり前のように二つのボウルの前に並んで立つ俺と二乃。
同じ鏡を見ながら顔を洗い、歯を磨き、「今日の朝ご飯はクロワッサンよ」なんて言葉を交わす毎日。
なんだか、胸の奥がじんわりと温かくなると同時に、猛烈な気恥ずかしさが込み上げてきた。
永瀬さんや月下さん、それに商店街の肉屋のおっちゃんに「新婚さん」「若夫婦」と言われた言葉が、今さらになって耳の奥でリフレインする。
「……どうしたのよ、鏡を見たまま黙り込んで」
「いや……なんか、本当にこういうところで二人で暮らすんだなって思ったら、ちょっと落ち着かなくなっただけだ」
正直にボヤいて首の後ろを掻くと、鏡の中の二乃もハッとしたように目を瞬かせ、みるみるうちに頬を桜色に染めた。
「な、なによ今さら! 三年も一緒にいたくせに、変なこと言って意識させないでよね!」
照れ隠しみたいに俺の脇腹を肘でツンと小突き、慌ててスモーキーピンクのマグカップを手に取る二乃。
「ほら、コーヒーが冷めちゃうじゃない! 早くバルコニーに出るわよ!」
逃げるように廊下へ出てガラス扉を開ける後ろ姿を、ネイビーのマグカップを持って追いかけた。
一歩外へ踏み出すと、澄み切った夜空が頭上一面に広がっていた。
三階のルーフバルコニーにはウッドデッキが敷き詰められ、周囲には程よい目隠しになるオリーブやハーブの鉢植えが並んでいる。
手すりに並んで寄りかかり、眼下に広がる街並みを見下ろした。
ここからは、高層ビル群のネオンが遠くにキラキラと瞬いているのが見え、足元の住宅街には穏やかなオレンジ色の街灯と、家々の窓明かりが静かに並んでいる。
米花町のようなサイレンの音も、池袋のような怒号も、湾岸線のような爆音も、ここには一切届かない。
ただ、夜風がオリーブの葉をサラサラと揺らす音だけが聞こえていた。
「……静かね。空もこんなに広く見えるわ」
両手でマグカップを包み込み、湯気の向こうでふうっと白い息を吐く二乃。
俺もネイビーのカップに口をつけ、まだ温かいコーヒーを一口すする。
苦味の中にほんのりとした甘みがある、二乃が淹れてくれたいつもの味だ。
「ああ。ここなら、どれだけ雨が降っても天井から雫は落ちてこないし、変な連中にドアを蹴り破られる心配もない。……二乃がここを見つけてくれて、本当に大正解だったよ」
横顔を見つめて言うと、二乃はカップから目を上げ、夜景の光が映る大きな瞳でこちらを見た。
「あたりまえでしょ。私が誰のために、あんなに分厚い情報誌を徹夜で読み込んだと思ってるの」
「二乃がアイランドキッチンで料理したかったからだろ?」
「それもあるけど……それだけじゃないわよ」
少しだけ視線を落とし、手すりの上でマグカップをトントンと揺らす二乃。
「あんた、いつも『痛いのは嫌だ』『面倒くさい』って文句ばっかり言ってるくせに、いざ仕事になると、私や依頼人を守るために一人で危ない場所へ飛び込んでいくじゃない。だから……外でどれだけ大変なことがあっても、帰ってきたら一番ホッとできる、ちゃんとした『帰る場所』を作りたかったの」
夜風に吹かれて、ポニーテールのリボンが小さく揺れる。
いつも強気で口うるさい相棒が、そこまで俺のことを考えてこの家を選んでくれていたなんて。
胸の奥がギュッと熱くなって、どんな軽口を返せばいいのか分からなくなる。
言葉の代わりにマグカップを傾け、コーヒーを一口飲んで熱い溜息を飲み込んだ。
ふと見ると、夜風に当たっていたせいか、カップを握る二乃の指先が少しだけ白くなっているのに気づいた。
「……二乃。手、冷えてきたんじゃねえか」
自分のネイビーのマグカップを手すりの上に置き、スモーキーピンクのカップを握る彼女の小さな両手を、外側からそっと両手で包み込んだ。
「えっ……?」
二乃の肩が、ビクッと小さく跳ねる。
でも、その手を引っ込めようとはしなかった。
そのまま皮膚の表面に極薄のオーラを巡らせ、カイロみたいにじんわりと温かい熱を手のひらから彼女の指先へと伝えていく。
「……あんたのその力、本当に便利ね。荷物運びから、指先の暖房までできるなんて」
「だろ? 俺のオーラは、基本的には二乃の生活を快適にするためにあるようなもんだからな」
「ふふっ、なにそれ。……すごく、温かいわ」
ふわりと微笑み、右隣へさらに半歩、身を寄せてくる二乃。
そして、コツン、と。
彼女の頭が、俺の左肩に優しく預けられた。
二乃の甘い香りと、微かに残るビーフシチューの温かい匂いが混ざり合って鼻をくすぐる。
肩を動かさないようにして、そのまま彼女の指先を包み続けた。
「ねえ、八雲」
肩に頭を乗せたまま、二乃がくすぐったそうに小さな声で囁く。
「お風呂、もうお湯が張れてる頃よ。あの足を伸ばしても余るくらい広いお風呂、記念すべき一番風呂は私がもらうからね」
「おう、どうぞどうぞ。料理長の一番の特権だ」
「でね、明日の朝は、さっきのダブルボウルの洗面台で並んで顔を洗ったら、買ってきたクロワッサンをオーブンでサクサクに温めて、バルコニーで朝ご飯にしましょう」
「最高だな、それ。昼過ぎまで寝てるのがもったいなくなるくらいだ」
「寝坊なんかさせないわよ。明日からも、明後日からも、ずーっと私が一番近くで起こしてあげるんだから」
肩に頬をすり寄せ、幸せそうに目を閉じる二乃。
爆弾も、銃声も、雨漏りのバケツもない。
ただ、隣にいてくれるかけがえのない相棒の体温と、お揃いのマグカップから立ち上るコーヒーの香りだけが、静かな夜空へと溶けていった。