追放されても、リーダーぶん殴ってスッキリするぜえええ!!!! 作:匿名の筆者
「お前、ちょっとこのパーティから脱退してくれ。理由は今から話すんだが……結論から言えばお前はフリーランスになるとかして、あとは自由に過ごしてくれ」
ここは冒険者ギルドが持っている物件。井戸からほど近く、なんと部屋も五つある。
円卓を挟んだ向かい側で、我がパーティのリーダーである男が、さも当然かのようにそう言い放った。
(ははぁ、なるほど。)
内心でぼんやりとそんなことを思いながらも、俺の頭は恐ろしく冷えていた。いや、正確には沸点を超えて逆に冷静になっていたと言うべきか。
間合いはじゅうぶんだ。俺はいつでも踏み込めるよう、密かに半身の構えをとっていた。
対するリーダーは、腕を組んでいて、正中線上の弱点をこれでもかと全てさらけ出している。日頃から溜まりに溜まったイライラを爆発させる、この絶好のチャンスを見逃すほど、俺は愚鈍な男じゃない。
理由? そんなもの、最後まで聞いてやる義理はない。
俺は迷わず、床を蹴った。
「キエエエエエエアアアアアア!!!!!!」
肺活量の限界まで振り絞った、鼓膜を劈くような凄まじい猿叫を放つ。
「えっ……!?」
完全に油断していたリーダーが目を剥き、無防備な顔面を硬直させる。
怯んだその一瞬の隙に、俺は渾身の右ストレートを、その形の良い鼻っ柱へ容赦なくぶち込んだ。
ゴキッ、という鈍い音とともに仰け反るリーダー。だが、俺の追撃はただの物理攻撃では終わらない。
「『カースド・ポイズン』」
拳を叩き込んだ瞬間に、俺はスキルを発動させた。
俺は『正義の毒使い』。自称だが、これから他称にさせる予定だ。
自分の体液から即座に濃縮された麻痺毒を生成し、対象に撃ち込むことができるスキルだ。
拳を通じて流し込まれた毒は、瞬く間にリーダーの全身を駆け巡る。
「うっごあ、が……っ!?」
ビターン! と無様な音を立てて、リーダーは床に倒れ伏した。
この毒は、心臓を停止させるような毒ではない。そもそも絶対量も足りないから効果も微弱、死ぬほどのダメージ自体は一切入らないものの、神経を完全に遮断して全く動けなくさせる凶悪な代物だ。
おまけに、俺の持つスキルの特性上、毒を与えた相手から活力を奪い、自分の体力がどんどん回復していく。
自己回復の恩恵か、それとも単なるストレス発散のおかげかは分からないが。
今の俺は最高にスッキリした気分だった。
俺は倒れたリーダーを一瞥もせず、背を向けて部屋のドアノブに手をかけた。
そしてドアを開け放ち、廊下に出る直前で足を止め、くるっと振り返って言い放つ。
「理由? お前は今、指先くらいしか動かせないだろうし、これは特製の麻痺毒だ。顎の筋肉だって拘縮して話せないし、舌だって動かせないだろう? ああ、せっかくの言い訳が喋れなくて残念だったなあ!」
ピクピクと痙攣するリーダーに向けて、俺はこれ以上ないほどのドヤ顔を作った。
「頭部を中心にして発動させたから……ギリギリ呼吸は大丈夫なはずだ。が、たぶん俺の言葉なんて、もう聞こえちゃいないだろうな」
ドアの前で、自分でも惚れ惚れするようなカッコつけたセリフを言い終えた、まさにその時だった。
「……おーい、その」
不意に背後から声をかけられ、ビクッと肩が跳ねる。
振り返ると、そこには見知った顔があった。パーティの仲間である重戦士のアイツだ。アイツは開いた扉の隙間から、床で白目を剥いているリーダーの姿をチラリと見て、一つ深いため息をついた。
「……リーダーは私のことも追放しようとしていた。が、どうやら、君は私よりも早く『成し遂げた』ようだな」
「えぇ? お前も追放されそうになってたのか?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「ああ。私の場合、まず『理由』から話されたよ。具体的に言えば、新しくリーダーは魔法使いをパーティーに入れたかったらしい。だが、今の稼ぎで給料を支払うためには、今度は私たちに渡るお金を四分割から五分割にしなくてはいけなくなる」
「うわぁ……」
「それで、いざこざがあっても困るから、お金で解決しないか、って言われてな。今のところ、私はその手切れ金を受け取りに来たんだが……少し遅かったようだな」
呆れたように肩をすくめるアイツに、俺は感心したように頷いた。
「へー。ところで、その金があったら何をするつもりだったんだ?」
俺が尋ねると、アイツは急に深刻な顔になり、指折り数え始めた。
「そりゃもちろん、魔物をぶちのめして日銭を稼ぎつつ、冒険者ギルドに滞納してた保険料を支払って……あ、あと、資金難で追い出された宿にも信用復帰手続き、あと保険未払いの違約金やらもろもろを払って、なんとか復帰する」
「……お前、相変わらず金欠だなあ」
「どうしても私は装備の修繕費などで資金難になりがちだからな。仕方がないが、金の切れ目が縁の切れ目。リーダーには既に脱退の意志を伝えてある。あとは、私がやるべきことは金を受け取ることだけだ」
そう言って、アイツは再び部屋の中を見た。床に顔面からうつ伏せになるリーダーを見据えると、セリフを吐く。
「……なぁ。あいつが動けないってことは、俺たち、自分で財布から手切れ金を回収するしかないんじゃないか?」
「……奇遇だな。私も今、全く同じことを考えていたところだ」
俺たちは顔を見合わせ、ニヤリと悪い笑みを浮かべると、再び部屋の中へと足を踏み入れた。
「「レッツゴー!」」
─主人公の習得スキル─
【体液麻痺毒化】涎、汗、消化液など、ありとあらゆる体液を能動的に麻痺毒へと変える。
【自己活性】攻撃を与えている間、自分のHPが定量的に一回回復し、HP上限の二倍まで余剰の自己回復をすることが可能。が、常に防御力が低下する。