魔法少女をぶっ壊す 作:怪人666号
『速報です! 魔法少女【シルバーゴースト】がまたまた怪人を鎮圧しました! これによる被害はありません!』
流れるニュースが耳に入る。それだけで苛立ちとやるせなさが溢れてくる。またか、またなのか。
「凄いなぁ〜魔法少女! 何でも解決しちゃうじゃん!」
「怪人が出ても全然問題無いからなぁ。災害も普通の事件も解決しちゃうし」
「24時間ずっと動き続けてるんだって。……どうやってるんだろう?」
「さぁ? もう魔法少女が発生してからもう数十年は経ってるけどイマイチ分かってないんだって。ほら、アレって会話出来ないからさ」
「え? 喋ってるじゃん。ほら、【シルバーゴースト】も今助けるからねって映像で言ってるよ?」
「喋れるけど会話が成立しないんだって。助ける〜とか安心して〜とか大丈夫〜とか。そう言うのだけ」
「あ、そうなんだ……。なんかゲームのNPCみたい」
「まぁいいんじゃない? そのお陰で世の中平和なんだし。ありがたい事でしょ」
「それもそっか! ありがとう魔法少女! ナンマンダブナンマンダブ〜」
「いや念仏唱えてどうすんねん。アホやってないで早く行くよ」
「あー待ってよ〜」
通り過ぎた女子高生の会話に口を出さなかった自分を褒め称えたい。それくらい……限界だった。
「何がありがとうだよ……何が……何が……!」
ビルに取り付けられた大型モニターの映像を見ながら歯を食いしばる。自分の幼い【姉】が縦横無尽に飛び回り、煌びやかな魔法を使っている所を。
「……お姉ちゃん……」
【魔法少女】になってしまった家族を取り戻したい。帰ってきて欲しい。そう思って早二十年。幼かった自分はとうの昔に成人してしまった。父も、母も、表面上は諦めている。でも私は見た。2人が私に隠れるように泣いている所を。姉が写った家族写真を見て悲しんでいる所を。
「はぁ……」
人生で何度めか分からない溜息を吐き、その場を後にする。いつまでもあの映像を見てたら声を荒げてしまうかもしれない。流石に人通りの多い所でそれは不味い。
「帰ろ……」
今日の仕事は終わったんだ。私にやれる事なんて何も無い。そんなのはこの20年ちょいで嫌と言うほど理解している。人生諦めが肝心と言うが……その通りなのかもしれない。
「おい」
「……え?」
突然声を掛けられた。低い声だ、恐らく男性だろう。振り向くと大柄の目付きが悪い人……言っちゃ悪いがヤクザみたいな見た目の男が居た。
「な、何ですか……?」
何か気に触る事をしてしまっただろうか。恐怖に震えながらどうやって切り抜けようかと考えていると、男の方は更に目付きを鋭くさせる。
「先程、あのモニターの映像を見ていたな?」
「は、はい」
「魔法少女【シルバーゴースト】の映像を見ながら『お姉ちゃん』と言ったな?」
「い……言いまし、た」
「つまりお前は魔法少女【シルバーゴースト】の家族という事か?」
「……そ、そう……です……」
「そうか。分かった」
何が分かったんだと思っていると、急に腕を掴まれた。怖い、怖過ぎる。もしかして……攫われる!?
「や、やめ──」
「静かにしろ」
「ひぃ!」
ドスを効かせた声に口を紡ぐしかない。されるがまま男に引っ張られる。
「悪いが来て貰おう」
「い、いや! 嫌で──」
「姉を──救いたくないのか?」
「──え?」
思考が止まる。今、なんて言った? 救う? 誰を? 姉を?
「救いたいに……決まってる!!!」
「良い答えだ。ならば来い。お前の力が必要だ」
「で、でも貴方はそもそも誰なんですか!? ……ん?」
あまりにも突然過ぎる展開にストップをかけたくて何者かを尋ねようとしたら凄く違和感を感じる。何がって自分の腕を掴んでいる男の手の感触が……なんか……ゴツい感じに……。
「へ?」
視線を腕にやるとそこには人の腕は一本……私の分だけだった。代わりに掴んでいる手は鋭い爪を持ち、硬い甲殻のような物が覆っているおよそ人の物では無い腕が……。
「〜〜〜〜〜!?!?!?」
「俺の名はオロチ。過去に自分の意思とは真逆に暴れ狂っていたのを魔法少女に救われた……怪人だ」
ヤクザ──もといオロチを名乗る男はそう言って腕を人の物に戻し、再び私を引っ張った。
◇ ◇ ◇
「何やってんのよこんのクソボケガァァァァァ!!!」
「グボォォォォォ!!!」
「えー……」
半ば強制的に連れてこられた施設。まるで研究所のようなそこでは多くの人が居て、多くの機械が鎮座している。そんな場所で私を連れてきたオロチは綺麗な金髪の女性に蹴り飛ばされていた。
「ま、待ってくれボス! 俺が何をした!?」
「理解してないとか終わってんわねアンタ! 何処の世界に一般人脅して無理矢理連れてくる奴が居るって言うのよ!」
「脅してなどいない! 了承は間違いなく取った!」
「アンタみたいなヤクザ顔が怪人バレかまして『俺に着いて来い』なんて脅し以外の何物でも無いわよ! 有り得なさ過ぎる!」
「か、顔は仕方ないだろう! 生まれつきどうしようもないのだから!」
「じゃあ筋通して連れて来いやボケカスゥゥゥ! いきなり路上で説明無しとかアホかぁぁぁ!!!」
「ブボラァァァァァ!!!」
あんな細腕の何処にそんな力があるのだろうか。女性の右フックでオロチは空中で錐揉み回転をしながら吹っ飛ばされた。魔法以外で漫画みたいな物理法則初めて見たかもしれない。
「ごめんなさいねー? 彼もねー、オロチもねー、悪い人じゃ無いのよー」
「オロチ先輩は脳筋単純強引バカなだけなんすよ! どうか許して貰えないっすか? この通り!」
「は、はぁ……」
オロチの仲間なのだろうか。のんびりした女性とチャラチャラした青年から謝罪を受ける。その背後で吹っ飛び続けるオロチ。なんかもう、あんまり怖くなくなった。
「いやまぁもう大丈夫……です。と言うか良いんですかあの人。死んじゃうんじゃ無いですか?」
「大丈夫よー。オロチはねー。頑丈だからー。沢山殴っても平気へっちゃら〜」
「ちなみにオロチ先輩のやらかしは今月で8回目なんすけど、その都度ボスにボコボコにされてます! それでも平気なんでお気になさらず!」
「それは流石に学習してほしい」
「バカだから無理よー」
「一応一度言ったことは反省するんすけど次から次へと新しいバカやらかすんで追っつかないんすよね」
「本当よ。全く」
先程までオロチをボコボコにしていた女性……ボスと言われていた人がこちらに近づいて来た。右手にはボロ雑巾になったオロチがぐったりしている。
「改めて申し訳なかったわ。怖かったでしょう? このバカ、力強いから怪我とかさせなかった?」
「だ、大丈夫です。途中から加減はしてくれてるな〜とは感じてたんで……」
「そう。不幸中の幸いね。オラ! アンタも謝れ!」
「す、すまなかった……。2度とやらない。どうか許して欲しい……」
「あ、はい……。全然良いんで……」
あまりのボロボロ具合に可哀想になって来て許す以外無かった。確かに冷静に考えると怒っても良いなとは思うが……自分より怒り狂ってる人を見ると冷静になると言うのは本当らしい。
「えっと。それで……聞きたいことがあるんですけど!」
「何かしら? 何でも答えるわよ」
「姉を……魔法少女【シルバーゴースト】を! 救えるって……本当ですか!?」
私の質問が空間に響く。静寂が訪れる場にヤキモキしながらも答えを待つ。
「……絶対とは言えない。まだ成功した事が無いからね。でも私達は彼女達を救う為に活動している。私達を救ってくれたあの優しい少女達を解放する為に」
「……貴方達は」
「名乗るのが遅れたわね。私の名前はセルラージュ。【魔法少女解放連盟】のトップよ。宜しくね」