二度目のChorusが広間を満たす。
弦と金管の下へ、ツーバスを太い一本のように通す。
ドドドドン。
「続けなさい」
「続けてる」
「そうではなくて――」
レミリアが言葉を止める。
Bridge。
歌声の間に、心臓一つぶんの空白ができた。
手すりを握っていた指が開く。
「残れという命令は取り下げる」
「聞いた」
「一度しか言わないわよ」
「もう聞いた」
「……それでも、続ける?」
「この一曲は最後までやる」
赤い靴が動く。
コツ。
コツ。
残り二段を降り、レミリアは石床へ立った。
玉座を振り返らず、ドラムの正面から少し外れた場所へ来る。
同じ床で見ると、階段の上にいたときより翼の影が大きい。小さな身体の後ろから伸び、二台のバスドラムの手前まで届いた。
「今の問いは命令じゃないな」
「二度も確認しないで」
「必要なことだ」
「咲夜の真似?」
「便利だからな」
レミリアが小さく鼻を鳴らす。
Instrumental。
Hammond organが広間の中央へ太い線を引く。フルオーケストラがその周囲へ立ち、ネオクラシカルなギターが高く走った。ツインリードが左右から重なり、合唱が奥行きを開く。
俺はテクニカルなツーバスを、すべての声部の足元へ並べる。
ドドドド、ドドン。
紅い光がギターを追う。
次の旋律では半拍先へ出た。
俺は追わない。
光だけが、まだ音のない場所へ弧を描く。
「合わせないの?」
「先に出たのはお前だ」
「追いつけばいいでしょう」
「待ってもいい」
Guitar Soloが始まる。
速い主旋律へ、Hammondが逆向きの線を返す。オーケストラと合唱が下から厚みを増した。
紅い光は、一拍遅れてキックの直後へ戻る。
ドン。
赤い輪。
次は俺が半拍先へ出る。
レミリアは追わず、別の高さへ光を置いた。
スネアを二拍目。キックを四拍目の裏。
タン。
ドン。
位置は重ならない。それでも大拍は同じまま進む。
オーケストラが沈み、弦の隙間からHammondが前へ出る。
レミリアは光を床近くへ下げた。
フロアタムを一つ。
ドン。
低い余韻と赤い線が並んで伸びる。
消える直前、俺は次を打たない。
レミリアも光を足さない。
高いギターだけが二人の上を通り過ぎた。
次の旋律へタムを三つ落とす。
ドン、ドン、ドン。
紅い線がその下を横切る。
「今のは、私への返事?」
「聞こえた場所へ置いた」
「私の光は鳴らないわ」
「自分の音だと言っただろ」
「言っていない」
「なら今、言えばいい」
「勝手ね」
「お互い様だ」
レミリアが笑う。
次の光は正解を取りに来ず、Hammondが引いた場所へ残った。
ハイハットを閉じ、キックを細くする。
チッ。
ドド、ドド。
ツインギターが左右から同じ旋律を上げる。
紅い光は二本に分かれ、中央を空けた。
左右のクラッシュを一枚ずつ。
ジャァン。
ジャァン。
合唱が中央へ入る。
光が空振りすれば、次の旋律へ回る。俺の一打が遅れれば、空いた低音を支える。
高いギターが短く切れた。
俺はクラッシュを上げる。
レミリアも同じ場所へ紅い弧を作りかける。
予想より低いHammondが入った。
右手を止め、スネアの縁へ変える。
カッ。
レミリアも弧を閉じ、床へ光を走らせた。
Hammondの低音が二つの間を抜ける。
次の高いギターへ、俺がクラッシュを開く。
レミリアは追わず、低い光を残した。
上下に分かれた二つが、戻る合唱の場所を空ける。
歌声へ、二人ともすぐには足さない。
一拍後、キックと光が左右の端から入る。
金管が正面へ柱を立てる。
レミリアは中央を避け、窓際へ細い光を送った。俺は中央のキックを崩さず、左のタムだけを外へ返す。
ドン。
トン。
光はタムの余韻を拾い、高い合唱へ昇る。
俺は追わず、両足を低い位置へ戻す。
ドドドド。
レミリアは途中で一本の光を二つへ分けた。右はギター、左はHammond。
その間へスネアを置く。
タン。
三つは重ならず、次の和音で同時にほどけた。
レミリアは何も言わない。
俺も聞かない。
光が実際に走るまで待ち、鳴った一打が消えるまで次を決めない。
ソロの中盤、レミリアがドラムの正面へ近づいた。
「館に残らなくても、また来ることはできる?」
クラッシュを一枚。
ジャァン。
「外へ帰れたら分からない」
「帰れなければ」
「そのときに決める」
「先の決まらない答えばかり」
「まだ決まってないからな」
「嫌いよ。私が決められない先は」
「今の光は待てた」
レミリアの指が止まる。
「今の一曲だけよ」
「それでいい」
「よくないわ。だから、次も聞くの」
「次があればな」
「その答えを決めるのは、あなたでしょう」
「今度は命令じゃないな」
「問いよ」
「なら、答えは同じだ。次が来たときに決める」
レミリアは不満そうに眉を寄せたまま、小さな右手を下ろさず、次のギターが鳴るまで待った。
合図を先には出さない。
それから紅い線を、高い旋律の外側へ伸ばす。
タムがその下を抜けた。
ドドン、タン、ドン。
Final Chorusが近づく。
レミリアは階段を見上げる。
赤い椅子は空いたままだ。
彼女は同じ床に残る。
俺はクラッシュの縁を打ち、左足でハイハットを閉じた。
ジャァン。
チッ。
音場が一度だけ狭まり、大きな歌声を迎える中央が開く。
紅い光も左右へ退く。
Final Chorusの最初の声が、二人の間へ入った。