中央トレセン学園。
そのトラックを、今日も一人のウマ娘が駆け抜けていた。
オグリキャップ。
笠松から中央へ移籍してきた、灰色の怪物。
中央移籍の手続きが遅れたことで、クラシック三冠には挑戦することすらできなかった。
だが――
「オグリキャップ、また勝ったぞ!」
「これで重賞何勝目だ!?」
「笠松から来たばかりだっていうのに、なんて奴だ……!」
出走するレース、出走するレース。
オグリは勝ち続けた。
まるで、走ることでクラシック三冠に出られなかった鬱憤を晴らしているかのように。
勝って。
勝って。
さらに勝つ。
中央の強豪たちを次々と退け、いつしか誰もが彼女を世代を代表するウマ娘だと認めるようになっていた。
そんなある日のこと。
「オグリ」
聞き覚えのある声がした。
「……?」
オグリが振り返る。
そこにいたのは――
「久しぶりだな」
「……マーチ?」
フジマサマーチ。
そして、その隣には。
「こんにちは、オグリさん」
「フラワー……!」
ローカルフラワー。
「どうして二人がここに?」
オグリの顔に、ぱっと笑顔が浮かぶ。
「久しぶりだな!」
笠松時代を共に過ごした仲間の顔が見れて嬉しかった。
「2人とも、どうしてここに?」
オグリが嬉しそうに二人へ歩み寄る。
「そう言えば、東海ダービーはどうなった…」
そこまで言って。
オグリの足が止まった。
「…………」
マーチが黙ってオグリを見ている。
フラワーもまた、笑ってはいる。
だが、その目は笑っていなかった。
二人から伝わってくるもの。
それは、懐かしさでも。
喜びでもない。
闘志。
敵意ではない。
けれど、決して友人として再会しただけではないと分かるほどの強烈な闘志だった。
「…………」
オグリが黙り込む。
マーチが一歩前へ出た。
「東海ダービーは、私たち二人が同着だった」
「ああ、そうなのか」
その言葉でオグリも察した。
だから、2人で来たのだと。
オグリの目が鋭くなる。
「そうだ」
マーチはオグリを真っ直ぐに見据えた。
「私たちが中央に来たのは、馴れ合うためじゃない」
「…………」
「お前に勝つためだ」
マーチの言葉がオグリの心に火を焚べる。
笠松にいた頃と同じ。
いや。
それ以上だった。
以前よりも強い。
以前よりも鋭い。
そして――何よりも迷いがない。
フラワーも続く。
「私も、オグリさんに勝つために来ました」
「フラワー……」
フラワーは静かに拳を握る。
「ゴールデントロフィーで負けてから、ずっと考えていました」
あの日。
届かなかった背中。
目の前にあったのに、掴めなかった勝利。
「どうすれば、オグリさんに勝てるのか」
その答えを求めて。
マーチと共に走った。
そして、東海ダービーを勝ち抜いた。
「だから――」
フラワーは微笑む。
「次は勝ちますよ、オグリさん」
「……ああ」
オグリの口元にも笑みが浮かぶ。
嬉しかった。
中央に来てから、ずっと一人で走ってきた。
笠松に残してきた二人。
その二人が、自分を追いかけて来てくれた。
ならば。
答えは一つだ。
「そうだな」
オグリが二人を見る。
「でも――」
一瞬だけ、穏やかな笑顔を浮かべ。
そして。
「勝つのは私だ」
その瞳に、闘志が宿った。
マーチが笑う。
「望むところだ」
フラワーも笑う。
「はい!」
三人の間に、言葉はもう必要なかった。
笠松で何度も競い合った三人。
その道は、一度は別れた。
けれど。
オグリが中央で積み上げた勝利。
マーチとフラワーが笠松で積み上げた努力。
その全てが、今ここで交わった。
中央の舞台で。
三人の新しい戦いが、始まろうとしていた。