村のチンチクリンがドメロイケ女になってて俺への距離が近い話する?   作:負け組カチ組

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ぐぐっと評価が増えてガチビビりしております
麗しの読者様方に極大の感謝を……。


『リコリスへ捧ぐ、束の間のトロイメライ』

 ────ヘカテー。

 フローヴァによって、衰退した周波数の漂う空間『冥府』より召喚された【津波級】残像。

 等級に違わぬその戦闘能力は、かつての漂泊者をも苦しめた。

 

 そして、この残像について最も特筆すべき点。

 それはいわゆる『第二形態』を持つということ。

 

 その名を────『クリムゾンの終幕』。

 

 

 

 


 

 

 

 

 クソッ……マジでヤバい。

 攻撃の重さも、スピードも……さっきまでとは段違いだ!

 エンクロを通して響いてくる衝撃で、俺の腕が折れるんじゃないかってぐらいに────!

 

 

「その程度? 『納得』を説いたのなら、もう少し踊りなさい」

 

「言うじゃねぇの! 心配しなくても、まだまだ余裕のよっちゃんですよ!!」

 

 

 嘘だ。

 もう余裕なんて欠片もない。

 伸縮自在の蛇腹剣で、相手は中・遠距離から近距離級の威力を繰り出してくる。こっちから攻めようにも、ヘカテーの子分みたいな小さい残像*1が邪魔をしてきて上手くいかない。

 無理矢理突破して近づいても、瞬間移動ですぐに逃げられてしまう。

 

 

(黒潮は……撃ててあと一回か)

 

 

 多分この一回分を消費したらもう撃てねぇ。それ以上撃とうとしたら、撃った瞬間にエンクロが解けちまう……。

 畜生、あともうちょっと俺の中に黒潮がありゃあ……!何だ?黒潮でもがぶ飲みしときゃ良かったのか!?潮蝕地の黒潮の湖全部飲み干しとけば良かったってか?

 無茶言うなよ!?

 

 

「よそ見」

 

「がっ────」

 

 

 嫌な音を立てて俺の脇腹が抉られた。

 丸ノコで斬られたにしちゃあまぁまぁ傷が小さいのが救いだろうか。痛みは酷いが、そんなことを気にしている場合じゃない。

 とにかく今は、何としてでもこの場を切り抜けなくっちゃダメだ。

 ここからはノーダメ縛りだぞ、俺……!!

 

 

「ってんならよ……攻めて攻めて攻めまくるのが常套ってモンだろォが!!」

 

「安直」

 

 

 廃墟全体を切り刻めるんじゃないかってレベルの攻撃をギリギリで避け続ける。

 勿論完全に避けられるわけじゃねぇ。さっきから身体のあっちこっちに傷が増え続けて痛いの何の。

 

 だが────やっぱり気にしてなんかいられねぇ!

 

 

「フローヴァちゃんと話してて、俺やっと気付けたんだ! ────俺はやっぱり────ア(・)イ(・)ツ(・)ら(・)に会いに行く!!」

 

 

 過去の遺物が、なんて考えはやめだ!

 俺は俺で、今どんな形だろうとこうして生きてる!生きて、『納得』したいから今必死なんだ!!

 だから────16年前の俺が命がけで守ったはずのチンチクリンどもが今どうしているのか……俺は、それが知りたい!!!!

 今を生きる、アイツらを見てみたいっ!!!!

 

 

「だから────勝つぜ、フローヴァちゃん!!」

 

「やってみなさい。で(・)き(・)る(・)も(・)の(・)な(・)ら(・)」

 

 

 やってやろうじゃねぇの!!!!

 

 

「極ノ番・翅王(しおう)!!!!」

 

 

 脹相お兄様……弟君の御業、お借りします!

 ただやってることはただの猿真似!自分の背中に蝶模様を描く暇も余裕もありはしないのでそこはカット!

 エンクロの背中から直接────黒潮追尾弾十発をプレゼントだ!!

 

 

「……成程。速度と威力を捨てて、逆に攻撃範囲を広げようって魂胆ね」

 

「正っ解っ!!」

 

 

 フローヴァちゃんとヘカテーを分断!

 そのまま渦巻きみてーな軌道を描いて追い詰める!!即ち『ヴァニラ・アイス作戦』!!

 回避は不可能!!そのまま蜂の巣にしてやるぜ!!

 

 

「勝(・)っ(・)た(・)ッ、トドメだァ────ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪(・)く(・)は(・)な(・)い(・)。で(・)も(・)良(・)く(・)も(・)な(・)い(・)────速度を捨てたのは下策よ」

 

 

 嘘だろ。

 フローヴァちゃんも、ヘカテーも……あの弾幕には、ほんの小さな隙間しかないはずなのに。

 人っ子一人通れるかすら怪しい程度の隙間しかねぇはずなのに!!

 ────全部、完璧に避けきってやがる……まるで、舞い踊るかのように!!

 

 渦巻き状の軌道を崩して、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜてみても同じ。

 ほんの小さな隙間を潜り抜けて、どうしても避けきれないようなら、被弾するだろう部分だけを花弁に変換して無理矢理避けきる!!

 ヘカテーに至ってはもっと簡単だ。なにせ瞬間移動し続けていればいいだけなんだからな……!

 

 ……ッくそ、これ以上は……!

 

 

「どうやら今ので────黒潮が底を尽いたようね」

 

「……はは、正解」

 

 

 絶体絶命。

 もう黒潮を使った遠距離攻撃はできない。できはするが、やれば俺のエンクロは形を保てず消滅────俺は盾と矛を一気に失うことになる。

 

 そして今現在、フローヴァちゃんに俺が与えたダメージは……ゼロ。

 

 

(……万事休すか?)

 

 

 ふざけんな。まだ諦められねぇ。これからだ。これからなんだ、俺の未来は。

 アイツらに────アイツらに、会いに行く。会いに行って、チンチクリンどもが今どれだけ立派にやってるかを一目見れればそれでいい。

 

 だけどそれを見るまでは────絶対死なねぇ。

 三度もごめんだ……死ぬなんてな。

 

 

「へ……へへへ。俺の戦意を圧し折ったつもりかよフローヴァちゃん? まだまだ、俺ちゃんとっておきの策があるんだぜ~?」

 

「……いいわ。なら仕掛けてきなさい。その悉くを一蹴して、このつまらない演奏会に終止符を打ってあげる」

 

 

 ブラフなんて今更意味がねぇ。

 だが使えるモンは全部使って、何が何でも生き残ってやる。この場を切り抜けてやる!

 

 ぜってぇ、この場を────、

 

 

 

 

「────っひ……!?」

 

 

 

 


 

 

 

 

 その女性が廃墟の近くを通りがかったのは、偶(・)然(・)に(・)し(・)て(・)必(・)然(・)で(・)も(・)あ(・)っ(・)た(・)。

 

 何故なら彼女は、ペニテントの吹き溜まりを拠点とする集団、愚者の劇団の劇団員の一人。

 危険な残像と不気味な霧で覆われるこの無人島を、彼女はしかし、かつて教団に『愚者』として巡礼船送りにされた果てに辿り着いた思い出の場所として、大切に思っていた。

 

 そんな彼女の趣味は、島の散歩。

 今日も今日とて残像から身を隠しながら歩き慣れた道を歩き、いつものように道中に立つ廃墟にて一人の時間を過ごそうとしていた。

 

 それ故に、彼女は思いもよらない光景を目撃してしまった。

 

 目に入ったのは、まさにこの世の絶望を煮詰めたかのような光景。

 片や、カルネヴァーレでの記憶に新しい、残星組織(フラクトシデス)監察である女の姿。

 片や、リナシータを襲った災厄の象徴、黒潮を垂れ流すヒトガタ。

 

 そんな光景を目にして、悲鳴を漏らさないでいられるほど……彼女は強くなかった。

 

 

「────!」

 

「────ッ!?」

 

 

 瞬間、対峙していた両者が動いた。

 フローヴァはすぐさまヘカテーを操作し、蛇腹剣を用いて哀れな子羊を捕え人質にしようとする。

 当然劇団員の女性は動けず、蛇に睨まれた蛙のように、迫りくる刃先を震えながら見るしかなかった。

 

 そして、遂に剣先が彼女に到達する────、

 

 

 

 

 ────その直前に、誰よりも早く動いていたヴィトンが剣先へと躍り出た。

 

 

「ぐ────がぁ」

 

 

 紅色の剣先が、女性の目前で止まる。

 元より赤かった剣は、盾となった人物を貫いた影響か、薄く黒ずんでいる。

 

 ヴィトンが女性を庇ったのは、ただ単に一番近くにいたからだ。

 『エンペラーズ・ニュー・クローズ』より、位置的にヴィトンが近かった。

 だからヴィトンは躍り出た。エンクロにはヘカテーの攻撃を少しでも逸らさせるため、蛇腹剣に渾身の力で斬りかからせる。

 咄嗟だったためか、片手でのみ斬りかかる形となっていたものの────結果的に、ヴィトンが庇うだけの時間が生まれたのだった。

 

 

「あ────そんな、わたしをかばって」

 

 

 劇団員の女性の、悲痛な声に空気が震えた。

 彼女は馬鹿ではない。

 今自分を庇った男が、あの黒潮を垂れ流す残像と協力関係にあることは間違いなかったし、何より目の前で止まった剣に付着した、彼の体内にあったであろう黒潮を見れば、男が人間でないかもしれない可能性に至ることは簡単だった。

 

 だが、彼女は涙を流した。

 悲鳴を上げ、ただその場から逃げ去るのではなく、男を心配することを選んだ。

 その行動は、かつて自身もまた教団により異端として排除された経験からだったのか────ともかく彼女にとって、男が何者かよりも、自身を助けてくれたというその事実のみが大切だった。

 

 そんな彼女に、男はできるだけ気丈に、ニヒルに笑ってみせた。

 

 

「やあ、綺麗なレディ……怪我はありませんか」

 

「な────ない、で……す」

 

「それは良かった……ほら、逃げな」

 

 

 もつれる足を必死に動かし、女性が逃げていくのを見送りながら、ヴィトンは凪いだ表情で前へと向き直る。

 

 眼前には────恐ろしくも美しい、リコリスの女。

 

 

「……愚かね。今(・)の(・)私(・)の(・)行(・)動(・)は(・)下(・)策(・)だ(・)っ(・)た(・)わ。人質を取ろうとしたあの瞬間、攻撃を仕掛けていればあなたにチャンスがあったかもしれないのに」

 

「はは……いや、そうかもなとは思ったんだけどよ……俺的に、綺麗な女の子は見捨てておけない主義でね……俺の、我儘さ」

 

 

 げほげほと黒潮を咽せて吐き出し、口の周りを黒く染めながらも────ヴィトンは最大限にカッコつけながら、そう言った。

 

 フローヴァがそれに応えることはない。

 彼女はただ、何も映さない無機質な瞳で彼を見下ろし、傍らに佇んでいたヘカテーで完全に気を失わせようとする。

 既に状況は詰みだ。

 『エンペラーズ・ニュー・クローズ』は、力を使い果たしたのか既に消え去っている。ヴィトンは動けず、微動だにしない。

 

 斯くて蛇腹剣が振り被られ、その光景はまるで処刑台に立つ罪人と執行者のよう。

 

 

「……別に、殺すわけではないけれど────何か、言い残すことは?」

 

 

 何ということのない、ただの気まぐれだった。

 先ほどの彼との会話に何かを見出したというわけではない。ただ単純に、珍しく面白い会話ができた。ただそれだけの話だ。

 

 そんな彼女の言葉に、ヴィトンは相変わらずのニヒルな笑みを浮かべると────、

 

 

「────次の君のセリフは……『センスのない遺言ね』だッ」

 

「……はぁ。センスのない遺言ね……────っ!?」

 

 

 何だ。何か────!?

 

 言いようのない戦慄を覚えたフローヴァの肉体は、数百年に及ぶ修羅場を潜り抜けてきた経験から、彼女の脳が判断を下すよりも早く、ヴィトンを気絶させようと動いていた。

 

 ────しかし。

 この期に及んで、フローヴァがヘカテーによる攻撃を選んだこと。

 どうしても『指示』という段階を踏まなければいけない以上、ヘカテーによる動作には一秒にも満たない間隙が生じること。

 それらを考慮し忘れてしまったことで────、

 

 

「────『超新星』」

 

 

 ────一歩、ヴィトンに出遅れる形となった。

 

 

「────ッヘカテー!!」

 

 

 炸裂音が響き、黒潮の散弾がフローヴァを襲う。

 しかし間一髪でヘカテーによる身を挺した防御が間に合い、フローヴァは直撃を免れた。

 

 

(……っく、やっぱり黒潮の浸食が────!)

 

 

 しかし、ヘカテーをヴィトンの黒潮が蝕み、これ以上の行動を封じる。

 一度『冥府』に戻して時間が経てば浸食も解除できるだろうが、少なくとも今この場において、ヘカテーのこれ以上の使役は不可能となった。

 

 崩れ落ちていくヘカテーの背後で、フローヴァの脳は高速で回転している。

 

 

今のは何?

 黒潮の散弾?

 黒潮のレーザーと同じ、圧縮を用いた技!

 傷口から黒潮玉を────!

 体内に忍ばせていた!?

 圧縮はもう使えないはず!

 いつ圧縮を?

 そもそも彼の神王はとうに────!?

 

 瞬間、フローヴァは見た。

 ヘカテーにより遮られた視界が開けた時、眼(・)前(・)に(・)て(・)両(・)掌(・)を(・)合(・)わ(・)せ(・)て(・)指(・)先(・)を(・)こ(・)ち(・)ら(・)に(・)向(・)け(・)る(・)、腕が神王と重なったような風貌と化した、ヴィトンの姿を。

 

 

(────神王は消えていなかった────人型を捨て、両腕のみ実体化させて後は発射用の弾に回す。さっきヘカテーの攻撃を妨害した時に神王が片手だったのは、空いた手で黒潮を圧縮していたから────!!)

 

「もう遅い! 脱出不可能よッ────『穿血』ゥゥッ!!!!」

 

 

 ────たとえ態勢が崩れ油断してしまっていたとしても、フローヴァであれば対応できただろう。彼女はそれだけの強さを持っていたのだから。

 

 そう、それが────音速で放たれるレーザーでさえなければ。

 

 

「────ッぐぅ……!?」

 

 

 フローヴァの腹を、穿血────ならぬ『穿黒』が貫く。

 

 死にはしない。それだけの威力を弱った今のヴィトンが出すことは叶わないし、彼としてもフローヴァを殺すつもりなど毛頭なかった。

 

 だが、体内に入った黒潮は────致命的に、彼女の身体を侵し始める。

 

 

「が……はっ……!?」

 

 

 体中の血管が隆起したような拒絶反応に、フローヴァは思わず肺の中の空気をすべて吐き出した。

 激痛が身体を震わせ、周波数がゆっくりと浸食されていく。

 

 

(いえ────この程度なら!)

 

 

 己の身体そのもの、そして体内の黒潮に全身全霊で『調律』を行う。

 もはやなりふり構っている余裕はない。

 もしこのまま黒潮の浸食が進んでしまえば────体内に保管した、皆の周波数までもが────!

 

 

「……もう、俺に余力はねェみたいだ……オ(・)ー(・)バ(・)ー(・)ク(・)ロ(・)ッ(・)ク(・)状(・)態(・)が(・)解(・)除(・)さ(・)れ(・)ち(・)ま(・)っ(・)た(・)……」

 

 

 ヴィトンが呟く。

 しかし今のフローヴァにそれを聞いている暇はない。

 

 

「これ以上は無理だな……だからよ」

 

 

 故にこそ。

 

 

「悪いね……フローヴァちゃん」

 

「────ッ、えっ……!?」

 

 

 彼女はいつの間にか近くまで来ていたヴィトンに驚愕し────、

 

 

「────束の間の夢を、君に」

 

「っ、しまッ────」

 

 

 ────高らかな喝采が、完全な意識外から彼女の鼓膜を打った。

 

 

 

 


 

 

 

 

────ちゃん────

 

────おねえちゃん────

 

────フローヴァお姉ちゃん────

 

 

「────フローヴァお姉ちゃんってば!」

 

「っ!」

 

 

 ……ここ、は?

 

 ……いえ、わかってる。ここは私の……

 

 

「もーっ! やっと起きた! 演奏会のお約束忘れちゃったの?」

 

「テリス……えんそう、かい」

 

 

 ああ……そうだった。

 

 

「勿論覚えているわ。みんなに、私のヴァイオリンの音色を届ける日……だったわよね」

 

「そうそう! ほら、急いで! お(・)姉(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)が(・)外(・)か(・)ら(・)招(・)待(・)し(・)た(・)人(・)も、もう来てるんだからね!」

 

「……招待?」

 

 

 招待……外から?

 外からってことは、村の人ではないわよね……?

 ……一体、誰だったかしら。

 

 とりあえず、私の家の前まで行かないと。

 そこが今日のコンサート会場なんだから。

 

 ……ふふ、凄い人。

 皆、楽しみに待っていてくれたのね。

 

 

「────あ、フローヴァちゃん!」

 

「ごめんなさい、皆。ちょっと居眠りしてしまっていたみたい」

 

 

 心配させちゃったみたいね。

 私、いつもは遅刻どころかギリギリになることだって無いのに、今日は本当にどうしちゃったのかしら?

 まぁいいわ。

 とりあえず、演奏を────、

 

 

 

 

「────フローヴァ」

 

 

 

 

 ────。

 

 ────……そう。

 そうだったわね。

 あなたに、招待状を出したのだったわね。

 

 

「招待ありがとう。……どうか、素敵な演奏を聞かせてほしい」

 

「……ええ、勿論。さぁ────座って。最高の演奏会にするわ────」

 

 

 嗚呼……なんて優しい風。

 

 今ならきっと────最高の演奏ができそうだわ────。

 

 

 

 


 

 

 

 

「あ────あっぶねぇぇ……!!!!」

 

 

 ぎ……ギリギリなんとかなった……よな!?

 あ゛ー……焦ったァ!!

 つか痛ってぇ!?フローヴァちゃんってばもうちょい手加減してよぉ!?

 

 

「────すぅ────すぅ────」

 

「……いやなんつー良い寝顔だよオイ……」

 

 

 ま、俺がこうしたんですけどね。

 

 俺がフローヴァちゃんにやったのは、いわゆる『共鳴解放』ってヤツだ。

 当然破壊力なんてこれっぽっちも無いが、これを使えばあら不思議。手拍子を聞いた途端に夢の世界にドボンだぜ。

 ちなみにコイツは、ファビアヌムのいじめっ子を撃退するために編み出した対人用の奥義だ。なので残像には効かない。

 まぁ平たく言うと魘夢の『強制昏倒催眠の囁き』みたいなモンだわな。自決しなくても時間経てば勝手に覚めるし、二回目以降は効きが悪くなっちゃいますけどね?

 

 にしてもまぁ可愛い寝顔しちゃって……。

 ……そーいや確かアイツの好きな子って……うし、ダズにツーショット送ってやろ。ぱしゃり。

 

 

「……なんつーか、こう見ると『女の子』だなぁ、フローヴァちゃん……」

 

 

 一体どんな夢を見てるんだろうか?

 俺が見せる夢は、大体の方向性だけしか決められない。

 悪夢を見せるか見せないか。見せない場合、決まってその人の願望が形になって夢になる。

 俺のポリシーとして、男相手ならトラウマ見せるし、女の子相手は可哀想だから良い夢見せるって決めてるんだけど……。

 

 

────ええ────遠い過去の約束を果たすためよ────。

 

「……逆に、悪いことしちまったかな」

 

 

 今、この子が見ているのは追い求める光景そのものだ。

 死んだ村の皆と一緒に、約束を果たす……そんな夢だろう。

 

 

「────ふ、ふふ……みん、な……」

 

「……」

 

 

 彼女に可能性を見せたのは、残星組織(フラクトシデス)だった。それは間違いないんだろう。

 

 だが────考えずにはいられない。

 もしも彼女が、彼女の想いを理解してくれるような人と出会って────そしてそれが、あの漂ちゃんだったなら……。

 

 

「……なんてな。『たられば』なんて言ってもしょうがねぇや」

 

 

 手をかざして、彼女の体内の黒潮を吸収する。

 フローヴァちゃんは一時的に再起不能(リタイア)。ならもう不必要に黒潮で周波数を歪ませる必要はない。

 

 

「……」

 

 

 時計の針は巻き戻らない。

 なら────俺たちは、前に進むしかない。

 過去を抱えたまま、それでも未来に生きる。

 ……きっとそれが、人ってものなんだろう。

 

 

「……おやすみ。じゃあな、フローヴァちゃん。元気でな」

 

 

 ────ならせめて。

 

 せめて────彼女の道行きに、あたたかな未来が待っていますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なーんてカッコつけてみたはいいものの。

 

 

「や、ヤバい……身体がだんだん言うこと聞かなくなってきた……ッ!」

 

 

 恐らく、オーバークロックの影響だ。

 スタンド手に入れたぜやっほーいなんて喜んでる場合じゃなかったんだ……いやまず最初に体から黒潮がほとんど出て行ったところで気付くべきだった……ッ!

 

 多分、『エンペラーズ・ニュー・クローズ』を顕現させるには、俺の体の中の黒潮をかなり消費する必要がある!

 ただでさえエンクロくんを実体化させるだけでも使うってのに……今回滅茶苦茶使ってたしなぁ……。

 

 穿血:2回

 翅王:1回

 超新星:1回

 総評……アカーン!!(宮川大輔)

 

 使い過ぎやボケェ!!

 必要になれば当然その分エンクロくんは黒潮を消費するわけで、足りなくなった分は俺から補給されることになる。んで今回なんかはほぼ黒潮を取り込まないまま来てるわけだから、最悪俺の心臓を担ってた黒潮まで持ってかれた可能性が高い。

 

 

「────ッンいやこんな悠長に考察してる暇ないんだってばよ!?!?」

 

 

 やべぇぞコレマジで!?

 オーバークロック解除後にフローヴァちゃんに撃ち込んだ黒潮を回収してなかったら、俺マジで死んでたんじゃないか!?!?

 いやぁ〜回収してよかった〜。

 『情けは人の為ならず』って言葉考えた人マジで凄いな。俺今メッチャ感動してる。

 まあそれはそれとして、復活用に今度から黒潮瓶でも作っとくかね。うん。

 

 ってかマズい。

 俺這々(ほうほう)の体(てい)で廃墟から逃げて来たけど、そういやここ無人島だってフローヴァちゃん言ってたわ。

 つまり最初から逃げ道など無かった……ってコト!?

 

 

「OH MY GOOOOOOD!?!?!? 『詰み(チェック・メイト)』にはまったのだァァァ!?!?!?」

 

「────ッ」

 

「アバーッ!?!? 残像も寄ってきた────ッ!?!?」

 

 

 ええ嘘でしょ。

 こんなつまらない終わり方すんの俺の旅。

 

 い、嫌だ────ッこんなつまらない終わり方したくない────ッ!!

 誰か、誰かお助けぇぇ────ッ!!!!

 

 

 

 

「────霧に紛れた残像どもよ! 闇にありながらも命を賭して人を助けた『ヒーロー』に、そのような終幕は断じて似合わない!!」

 

「────ッ!?」

 

「炎よ、燃え盛れ!」

 

「────~~ッ!!!!」

 

 

 

 

 わ、わぁ……。

 なんか滅茶苦茶声のデカい人が空から降ってきて、一瞬で残像吹っ飛ばしちゃった……。

 

 あ、さっき助けたお姉さん……そっか、助け呼んできてくれたのか……。

 でもなんかその助っ人、メッチャ『キャプテン』って感じの人だな……?

 

 

「友よ、安心するといい! 君を覆おうとしていた夜闇は、この俺が打ち払った!!」

 

「キャ……キャプテ、ン……?」

 

「まさしく。俺こそ『愚者の劇団』を率いる船長────つまりキャプテンだ!!」

 

 

 あ、やっぱり?

 ……じゃあ、アレ言った方がいいのかしら?

 

 

「────パ」

 

「?」

 

 

 

 

「……パーレイ……」*2

 

 

 パイレーツオブカリビアン知識だけど……伝わってください……お願ぁい……。

 

 あもうだめ落ちる。

 ガクッ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「…………」

 

「────夢……そう、してやられたようね」

 

「彼は────……はぁ。『愚者の劇団』に保護されてる……。もうダメね。大人しく帰りましょ……?」

 

「……これは……彼の上着?」

 

「……何のつもりかしら。つくづく、嫌な奴」

 

「────でも、捨てるのも違うわね……っはぁ。まったく……」

 

 

 

 

「────今日は退いてあげる。でも近いうちに────必ずあなたの『蘇生の秘密』を貰うわ」

 

「……その時にでも、上着は返すとしましょうか」

 

*1:
冥月の侍女

*2:
海賊用語で『交渉』という意味があり、海賊の掟により『パーレイ』を申し出た者には、船長と交渉する権利が与えられる




フローヴァ遭遇戦、完。
ほぼ負けたようなもんですが、これが唯一のヴィトン生存ルートでした。

後書きついでに、フローヴァ戦で考えてたヴィトンのIFをちょびっと。
①しょっぱな逃げてた場合
 ……彼が考察していた通り、共鳴能力で幻覚を無効化され捕まる。逃げ腰で戦えるような相手ではないので、エンクロがあっても無理。
②潮蝕地の黒潮をすべて取り込んでいた場合
 ……エンクロくんがオリジナルの『偽りの神王』レベルに強化される────が、フローヴァもそうなると最初から四肢を切り落とす勢いで襲ってくるので、勝利条件のひとつだった『彼女との語り合い』が起こらずそのまま押し負ける。
③劇団員の女性を助けずフローヴァを攻撃していた場合
 ……例えここで攻撃できたとしても、フローヴァの言っていた通りチャンスには成り得ず、普通に対応されて終わる。しかも不意打ちしたことでフローヴァからの好感度が多少下がるため、遺言も聞かれず、詰む。
④劇団員の女性が乱入しなかった場合
 ……もっと単純。その前から既に詰んでたので普通にそのまま押されてゲームオーバー。

エトセトラエトセトラ────。
まぁつまるところ、今回の勝利条件としては
『フローヴァに最初から本腰を入れさせずなんなら慢心させ、なおかつ真正面からぶつかって戦い、語り合いで彼女から少し好感度を得て、劇団員の女性を助ける』必要がありました。
これなんて無理ゲー????

次回、『愚者の劇団』にラグーナ城まで送ってもらうまでのあれやこれや。
ぜってぇみてくれよな!


9月5日18時時点にて
☆一般総合ランキング:
日間61位、週間19位、月間50位、四半期159位、日間加点13位
☆一般二次ランキング:
日間37位、週間15位、月間33位、四半期112位、日間加点:7位
今度は一般総合の方にも入っておりました。
これも応援してくださる皆様のおかげ。感謝の極みでございます!!


次の相手のセリフを言い当ててやりたいジョセフな方は、評価、並びに感想・質問など盛大に歓迎致します。
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