村のチンチクリンがドメロイケ女になってて俺への距離が近い話する? 作:負け組カチ組
それと読者の皆様……この場を借りて、拙作を愛してくれている皆様方へ心からの感謝を……。
────なかなか目覚めないな……────
────ねぇ……大丈夫なの? あんたの話だと、この人は────
────大丈夫です! この人は悪い人じゃありません!────
────俺も同感だ。まだ一言話しただけだが、俺はナディアの言葉を信じたい!────
────なら早く起こしてあげよう。……うん、じゃあこの『悪夢覚醒装置』で……────
う、うーん?
なんだか騒がしいな……?
うおっ……体重っ!?ダルさ最高潮って感じだぜ……。
……と、とりま目。
目を開けないと始まらな────、
「────よっ……こら、せ────」
「……? ……!?!? ちょちょちょ待て待て待て待て!?!?!? 何!? 誰!? てか何そのバカデカいペロペロキャンディーみたいなのは!?!? そして何故それを俺に向けて振り被ってる!?!? 助かったと思ったら死ぬ直前ってかヤメロマジでェェェ!?!?!?!?!?」
「あ。起きた」
「自己紹介が遅れたな。俺はブラント。巡回劇団『愚者の劇団』を率いるキャプテンだ!」
「……わたしはロココ。副キャプテン。……よろしくね」
「な~るほど。キャプテン・ブラントにロココちゃんね。覚えた!」
へへーん。俺ちゃんってば、人の名前覚えるのは苦手だが、流石に命の恩人の名前を覚えられないほど薄情じゃあないんだぜ?
現在、俺は無人島の石灰洞の中────劇団の人たちの拠点らしい『愚者の楽園』にいる。
なんでも、フローヴァちゃんとの戦いの最中に助けたお姉さんが救援を呼んで、気絶した俺をここまで運び込んでくれたらしい。
いやぁ、感謝感激雨あられ!勿論、お姉さん────ナディアさんっていうらしい────にはもうお礼言ったぜ?逆に感謝されちゃったけどネ!!
『いやぁ~っ美人に感謝されると嬉しいッスねー!!』
『び、美人だなんて……』
ちょっと頬を赤らめてたのもバッチグー!!
激戦で傷ついた俺のハートもすっかり癒えたね!!
ナディアさんカワイイヤッター!!
「ははは!! 元気そうで何よりだ、友よ!!」
「……ブラントは割りと誰でも『友』って呼ぶ。気にしないで」
「いやいや! 俺はフレンドリーな方が嬉しいぜ?」
劇団の皆さんも全員良い人ばっかりだ。
見ず知らずの俺を、拠点まで運んで介抱してくれるとは……。
ま、勿論ナディアさん助けたからってのはあるんだろうけどね?っぱ『情けは人の為ならず』だなぁ……これ誰が言ったんだろ。真面目に気になってきたな? ……まあ今じゃもう調べようがないけれども!
一通りの挨拶が済んで、俺は恩人の皆さんに誠意を見せることにした。*1
命の恩人に隠し事はナシ、ってワケだ。
だから当然────俺がクロクロの黒潮人間になった経緯と、今まで何をしてきたのか、そして旅の最終目標────ついさっき掲げた『チンチクリンどもに会う』ってゴールのために、今は漂ちゃんに会いに行こうとしてることをしっかりお話させて頂いた。
どうやら俺が黒潮人間だっていうのは、ナディアさんからのお話で大体察しはついてたみたい。だから勿論俺を助けることに懐疑的な人も中にはいたみたいだが────ナディアさんの説得と、キャプテン・ブラントの鶴の一声で、結果的に俺を助ける方向でまとまってくれたらしい。
いやもうこの劇団に足向けて寝れないなこりゃ……。
次の公演はいつですか?絶対見に行きます!!
「心臓が無いのに生きてる? ……ゾンビ?」
「
「……言ってることはよくわからないけど……ごめん。確かにヴィトンはゾンビっぽくはない。ちゃんと人間」
「ロココちゃん最高」
「ところで友よ。
「オォウイェスキャプテン! ノープロブレム!! むしろ元気になったぜ?」
俺がそう言って無い力こぶを見せれば、キャプテン・ブラントは興味深そうに顎をさすった。
ん?
ああ、実は俺ちゃん、さっき黒潮取り込んだのよ。この無人島に湧き出てた小さいヤツだけどな。
っていうのも、あのフローヴァちゃんとの戦いの中で、どうやら俺は黒潮を取り込むことができるらしいことに気が付いた。
言わばオーバークロックのための燃料みたいなモンだな。さっきはほぼ取り込んでなかったから殴る蹴るしかできなかったが、黒潮を取り込めばもっとエンクロで色々なことができるようになるはずだ。
んで俺は思ったのよ。「次またフローヴァちゃんが来た時のために、力を溜めといた方がいいんじゃないか」ってな。
だからキャプテン・ブラントに頼んで「どっかに黒潮とかない?」って聞いたわけよ。こんなノリで聞くことじゃなかったかもしれんが、キャプテンは最終的に俺をそこに案内してくれて、早速俺は黒潮全部吸収して虚脱感から完全回復!
そんな気になってるだけかもだが、俺の中の『エンペラーズ・ニュー・クローズ』も力を増したような気がした。こりゃ成長性Aだな絶対。
「黒潮を吸収した時には驚いた。……すごいね、ヴィトン」
「いやぁ~もっと褒めていいよ??」
ロココちゃんてば、純粋で話してると心がポカポカしてくるんよ……。
はぁ~癒し。
「それにしてもありがとねキャプテン。こんな怪しい奴の怪しい頼み聞いてくれちゃって……」
「気にすることはない! 君は俺の団員を命を賭して助けた。それにサングイス狩猟台地から遥々ここまでやってきたんだ。そんな勇気ある旅人を助けずにいるなど、キャプテンとしてあってはならないことだからな!!」
「ひゅー! キャプテンカッコイイー!! ひゅー!!」
あ゛~……フローヴァちゃんの塩対応で抉れた心が復活していくよぉ~……。
やっぱり劇団やってる人たちってリアクションとか濃いよね。関わってるだけで楽しいもん。っぱ人に笑顔届ける仕事ってスゲェよなぁ……。
「それに、こちらとしても黒潮を片付けてくれたのはありがたい。本来なら、あの黒潮はガルブレーナさんでなければ浄化できなかったからな」
「ガルブレーナ? デビルハンターの?」
結構良く聞くなぁ……ダンテというよりバージル寄りらしいデビルハンターさん。
ここらへんにいるのかね?
何の気なしに聞いてみれば、どうやら今はセブン・ヒルズの方に行っているらしい。なんでも、現総督に誘われたんだとか。
はへー仲良いんだね君ら。
「さて友よ。君のここまでの旅路に敬意を表し、俺に旅の総仕上げを手伝わせてはくれないだろうか? ラグーナ城まで、我ら『愚者の劇団』が連れて行こう!!」
「マジ!?!? それは最高すぎるぜキャプテン!!!!」
突然の申し出にビビり散らかしたが流石に喜びが勝る!!
これはもうナメた感じで「パーレイ(笑)」とか言えねぇぞ!?!?
「……ヴィトンが黒潮溜まりを掃除してくれたおかげ。監視の必要がなくなったし、私たちもどちらにせよラグーナ城に用があったから」
「いやぁありがてぇありがてぇ……ぶっちゃけまたここから船自作して行かなきゃならないのかって不安だったんだよ〜! マジでありがと。感謝してもしきれないたぁこのことだぜ!!」
「……アドバイス。船を自作して海に出るのは二度とやめておいた方がいい」
「そうと決まれば善は急げ! ラグーナ城へ早速出港だ!!」
「アイアイ、キャプテン!!!!」
「ヴィトンとブラント、結構相性良い……?」
やっぱあれだね!
人に親切にすると巡り巡って良いことが返ってくるもんだね!!
もうこれから一秒ごとに良いことしちゃおうかしら!?!?
────と、その前に。
「……? ヴィトン、それってデバイス? 見たことないデザインだね」
「んー? ああこれね、
「……すごくツッコみたいけど、今はいいや。……それで、誰に連絡するの?」
「おう、これくれたアーティファイサーの
「……またツッコみたいことが増えた」
「────皆さん良いニュースです。現在、なんと十連続で人々から感謝の言葉を頂いてますよ。これは明確な進歩です」
「最初の頃なんて依頼すら受けさせて貰えなかったもんなぁ。ご飯食べれて幸せだよぉ」
「一応ボランティアってことで、報酬は断ってるんスけどね。最近は『それでも』って何か渡してくれることが多くなってきて、こっちも夕飯に困らなくて助かるッスよね」
「……それにしても、やはり『青い
「こういう時こそ、ヴィトンがいれば良さげな案を出してくれるのにね~」
「確かに! あーあ、あの人今何してるんスかね~? ……そういやアニキ。さっきから黙ってますけど……どうしたんです?」
「────だ」
「? 何を言って────って、コレヴィトンさんじゃないですか! 写真送ってくれたんですね……って、おや? この隣にいる方は……」
「……も、もしかしてこの人────監察のフローヴァさまじゃあないッスか!?」
「わあホントだ。どおりで見た事あると思ったよぉ」
「呑気ですねぇ……って、アニキ? 何ブルブル震えてるんですか怖いんですけど」
「ねっ────NTRだああぁぁぁぁァァァ!?!?!?!?」
「寝てから言ってください」
「……ユーノ。我らは一応追跡している最中なのだぞ? だというのに、お主ときたら先ほどから……」
「何よ、教えるって言ったのはそっちでしょ? どうせまだ時間かかるんだし、教えてくれちゃってもいいじゃない────あなたたちの、初恋のひ・と♡」
そう言ってバチコーン☆とウインクを飛ばすユーノに、オーガスタはグリフェックスの上で嘆息した。
数時間前にクリフポートから出発した三人は、現在に至るまで悠々とラグーナ城へと向かっていた。その姿に焦りがないのは、やはりユーノの言葉があるからだろう。
漂泊者に会いたいという黒潮人間────『ワムウ』。
ついこの間レビヤタンの脅威を打ち払ったばかりというのもあって、オーガスタとガルブレーナはその報告にすぐさま警戒した。
『うわごとの町』の残像たちが自分から首を差し出してきたことにも関係していると見て間違いないその人物を追うため、最初こそ二人はラグーナ城へ急ごうとしていたのだが。
『私が話した感じだけど……彼、悪い奴ではないわよ。しかも黒潮をしっかり制御できてた。一応途中まで尾行してたけど、造物を生み出す様子も無かったし……私はそこまで警戒しなくても良いと思うけど?』
────ユーノという女の観察眼が決して節穴でないことは、オーガスタとガルブレーナもよく知っている。
故にこそひとまずの納得の上で、こうしてゆったり向かっているのである。
……しかし、それに際して問題が一つ。
「……エンジェルよ」
「すまん、私のせいだ。一昨日ぐらいに約束をしてしまってな……おいそんな目で見るな。あんまりにもしつこかったからもう仕方なかったんだ……」
それは他ならぬユーノを発端としており────現在の二人にとって、何よりも困る事柄であった。
言ってしまえば、ユーノは恋バナを聞きたがっているのである。
発端は数日前。
珍しく酔いつぶれたオーガスタとガルブレーナを介抱したユーノは、後日二人から謝罪と感謝を受け取った際、冗談交じりに潰れた理由を指摘。するとびっくりするぐらいわかりやすく二人が動揺したので、ユーノはすっかり大興奮。
挙句の果てにはどうにかセブン・ヒルズ総督とデビルハンターの恋バナが聞けないかと、彼女はそれから何かとその話題を引っ張り出してくる始末であった。
────あなたたちそんなの興味ないと思い込んでたけど、なぁ~んだちゃんと女の子じゃな〜い!
そんな言葉が今にも聞こえてくるような、とてもムカつくニマニマとした表情に、オーガスタは天を仰ぎ、ガルブレーナはドデカい舌打ちを一つ。
なんなら一人だけグリフェックスに乗らずに飛んでいる都合上、彼女だけはユーノを引っぱたきに行けたものの、流石に理性が勝って額に青筋を浮かべるだけに留まった。優しい。
「ね〜ね〜? オーガスタ〜? ガルブレーナ~?」
「「……」」
そしてそんな葛藤など知ったことかと、一切攻勢を崩さないのがユーノという女であった。
とはいえ、いくら頼まれたところで無理なものは無理だ。
彼女たちにとって、ヴィトンとの思い出とは不可侵なもの。心の奥底にしまいこんだ大切な宝物であり、おいそれと人に教えるようなものではない。
……などと、それらしい理屈で意固地になっているが、要は二人ともこっぱずかしいだけである。
「教えて?」
「……」
「おねがい☆」
「……」
「聞かせてくれたら黙ってあげてもいいわよぉ~????」
「「────ッだぁーもう!!」」
遂に二人の堪忍袋の緒が切れた。
我慢強い二人をこうまで追い込むとは、ユーノ恐るべし。
「よかろう! もはやヤケだ! こうなれば徹底的に話してやろうではないか!!」
「おお!? その意気よオーガスタ!」
「ただし一回だけだ!! いいな、一回だぞ!? 後でもう一回聞かせてなんて言ったらはっ倒すからな!!」
「え、ええ勿論! ……ガルブレーナの口からはったおすなんて言葉が出るなんて……」
「何か言ったか!?」
「ううん何も!? ほ、ほら! そうと決まれば早く聞かせて?」
楽しみだなー聞きたいなーと鼻歌まじりに呟く彼女に、今度は二人同時に大きな溜息を吐く。
大いに気は進まないが、言ってしまった以上仕方がない。
腹を括って、代表してオーガスタが口火を切ることにした。
「……ヴィトン。それが、余とエンジェルが共に想いを寄せていた人の名だ」
ヴィトン、とユーノはその名を口だけで転がす。
この名の男が、目の前の二人────一瞥すれば恋という概念そのものが尻尾を巻いて逃げていくような二人を熱い恋の病に陥らせたのだから、それだけで特別感があった。
そして何より、その名前が出たことによって明らかに雰囲気が変わったこともその理由のひとつ。
口に出したオーガスタは勿論、隣にいるガルブレーナまでもが、表情をやわらかくしていたのだから。
これは本気だ、とユーノの聞く姿勢にも力が入る。
熱烈な視線を受けながら、オーガスタはぽつぽつと続けていく。
初めて会ったときのこと。
彼と会えば、いつも楽しいことが待っていたこと。
誕生日に手作りのプレゼントを作ってくれたこと。
夢を肯定してくれた夜のこと。
コロサウルスから命がけで守ってくれたこと。
そして────黒潮から自分たちを守り、命を落としたこと。
「……いかんな。あの人のことを思い出すと、いつもつい熱が入ってしまう。……こうなるから、あまり語りたくなかったのだ」
「でも、話してる時のオーガスタ……とっても幸せそうだったわよ」
「……そうか?」
「ええ。勿論、良い思い出ばかりではないのだろうけれど────それでもあなたにとって、その人の在りし日がどれだけ大切なのかは……すぐにわかったわ」
時には明るく、時には暗く。
そのすべてを語るオーガスタの表情は、長くオーガスタと関わっていたユーノでさえ見たことのない顔だった。
嗚呼、きっと────セブン・ヒルズの総督にして英雄王である彼女は……ヴィトンのことを思い出している時だけは、純真無垢で平和な少女へと戻れるのだ。
ユーノはふと、そんなことを思った。
そしてそれは────ガルブレーナもまた同じだった。
手作りの工芸品を貰ったこともそうだし、オークのうつろで貰ったミルクセーキのアイスなど、今や一番の大好物。
鳴式を討つため、過去をすべて灰燼に帰そうとしたこともあったが────唯一、彼との思い出だけはどうしても消すことができなかった。
当時追い詰められていた彼女はそれを弱さだとして、己に憎悪の炎を燃やしたものだが……今となって考えてみると、むしろ捨てなかったからこそ今があるのでは────?
……ガルブレーナは、今になってそんな風に思えるようになっていた。
「思い出すな……。当時、オーガスタと互いにアイツへの想いを打ち明けあって『どちらが先に彼の心を手に入れるか』で勝負していたことがある。……まぁ、私はいつも素直になれなくて、アイツと無意味な追いかけっこをしてばかりだった」
「へぇ。ツンデレってこと? まぁガルブレーナは今もだいたいそんな感じよね」
「あのなぁ……」
「ふむ。そういえばあの頃からだったな? あの人がお主以外の者を『天使』と呼ぶと、お主がそれこそ悪魔のような形相で炎を噴き出していたのは」
「お、おいオーガスタ! 言うな恥ずかしい!! ……ッチ、それはライバルのお前だけが知ってれば良い話だ」
「ふぅーん? 独占欲強めなのねぇ??」
ニマニマとユーノが生暖かい顔を向ければ、ガルブレーナは額に一際大きな青筋を浮かべる。
しかし感情に任せて実力行使に出ればその時点で『負け』が確定するとわかっていたのか、プルプルと震え、耳まで真っ赤にしながらも感情を無理矢理飲み込んだ。
ユーノの指摘がすべて的中していることを、彼女はそうまでして知られたくなかったのであった。
……もう手遅れな気はするが。
「……にしても、こうして聞くと結構意外ね」
ふと、ユーノの足がグリフェックスの上で組み直される。
彼女の手櫛に好意的な鳴き声を漏らすグリフェックスを撫でながら、ユーノは首を傾げた。
「こうして聞くと、ヴィトンって人って……その、あんまりスマートな感じじゃないっていうか? なんていうかその、あんまりあなたたちの相手のイメージに合わないのよね。……勝手だけど」
「……ふむ」
「まぁ……」
「「それはそうだな」」
てっきり「そんなことはない」という訂正の嵐が飛んでくるものだと考えていたユーノは、肩透かしを喰らった気分のまま、むしろ微笑んでさえいる二人を見やる。
そんな彼女に、器用にも空中で飛びながら寝転がるような姿勢になったガルブレーナが、指折り数えながら想い人の間抜けなところを思い出していく。
ファビアヌムの『諭しの女』へしょっちゅうアタックをかけては断られ、めげずにカッコつけても化けの皮はいつもあっけなく剥がれ落ちる。
村の子供たちに好かれながらもナメられていて、グラディエーターごっこではいつも残像役としてボコられていたし、例外ではなかった自分たちからはよく二人掛かりでプロレス技を掛けたこともあった。
彼は便利屋稼業を営んでいたが、『サボりは正当な権利』と意味の分からないことを主張していつも隙さえ見つければサボっていたし、何回怒られてもやめることはなかった。
またよくわからないことを言ったりすると、それらは『ヴィトン語録』としてNGワード扱いされたりしていたらしい。
「────まあざっとこんなところだな。一応仕事は最終的にきちんと仕上げてはいたが……うん。今思い返しても普通にバカだな」
「同感だ。……だがそこもまた、あの人の魅力だった」
「……そうだな。いつもはそんな調子なクセに、いざとなると自分の身を顧みずに────……」
そこで、ふとガルブレーナの言葉が途切れる。見れば、オーガスタも沈んだ表情で押し黙ってしまっていた。
そんな二人を見るユーノは、一人静かにその理由を理解していた。
何故なら、ヴィトンという男は話によると、まさに自分の身を顧みずに二人を黒潮から逃がし、そして命を落としたのだ。
きっと、その光景は今も二人の傷になっているのかもしれない。
ユーノには掛ける言葉が見つからなかった。
「……ユーノよ」
「なぁに、オーガスタ」
ふと、再び口を開いたオーガスタに名を呼ばれたユーノは、穏やかで優しげな声で返答する。
まるで子どもに向けるような優しい口調に苦笑しながら、オーガスタは静かに友へと問いを投げる。
「16年も前の想い人を────死した人を、今もなお想い続ける我らは……愚かなのだろうか?」
「そんなわけないじゃない」
即答する。
ユーノは、本心からそう思っていた。
確かにただそれだけを聞かされていたならば、微妙な表情の一つもしていたかもしれない。
しかし、こうして話を聞き、二人の抱く熱い愛情を垣間見た彼女にとって────二人の
「あなたたち、こう思ってるんでしょ? 『いつまでも死んだ男に恋し続けて、過去に囚われている』って」
沈黙。
しかしその静寂は、何よりの肯定であった。
ユーノは続ける。
「言っておくけど、それは違うわよ。特にあなたたちの話を聞いた後なら、私はそう確信できる」
「何故だ?」
「だって、本当にあなたたちが過去に囚われたままなら、きっと今ここにはいないもの。捨てられない過去に囚われたままだなんて、きっとレビヤタンの良いエサになっていたはずだわ」
鳴式レビヤタン。
リナシータを脅かした天災にして、ついこの間打破した存在。漂泊者とリナシータの英雄たち、そして何より人々の祈りを結集しなくては勝てなかったほどの相手。
レビヤタンは精神攻撃を常套手段として得意にしており、事実、数多くの人間が鳴式の『ささやき』に堕ち、その身を捧げてしまった。
村が滅ぼされて以来、鳴式に立ち向かうため生きてきたオーガスタとガルブレーナもまた、『ささやき』を幾度も聞いたことがある。
時にはヴィトンの記憶を掘り返し、甘美な夢に誘ったり、逆に責め立てて精神的に殺そうとしてきたこともある。
────だが、彼女たちは負けなかった。
負けなかったからこそ、二人は今ここにいるのだ。
「あなたたちは未来に生きてる。過去に囚われてるんじゃない……過去を忘れず、背負いながらも前へ前へと進んできた────だから『今』があるのよ」
「……そうか────ふ、そうだな」
ガルブレーナの顔に、穏やかな笑みが浮かんだ。
そうだ。
私たちは戦った。
もうこの世界で、あんな────眼前で大切な人が、黒い泥に飲み込まれていくような……そんな想いを誰にもさせたくなかったから。
今確かにここにある、素晴らしい『明日』のために……私たちは戦ったのだ。
「────危機が去り、かけがえのない友であるお主たちしか聞いておらぬ、今この場だからこそ言えることではあるが────……」
ユーノとガルブレーナ、それぞれの顔を見回して、オーガスタは静かに言う。
その表情は……穏やかで、どこか寂しげで────それでいて誇らしげな、そんな顔。
「欲を言えば。……今の余を、あの人にも見てもらいたかったと────そう思わずにはいられぬ」
「……ああ。そうだな……」
微笑み合うオーガスタとエンジェル。
その二人の横で、ユーノもまた二人を慈愛の表情で見ていたのだった。
(ふふ……素敵な話を聞けちゃったわね。これっきりっていうのが残念なくらい)
そう思って、くすり、と笑みを零す。
……それにしても、ヴィトンという男はまったく呆れた男である。
ユーノはこっそりと、今しがた聞いた彼の特徴を思い出して嘆息した。
彼女を何より欲しがって、毎度彼女募集中。
『まあ……うん。人外になっちゃったわけだし、彼女とかもうできんかもなぁって』
『ふふふ……ユーノちゃんみたいな美人と一緒にご飯食べれてテンション上がってるのさ』
よくわからないことを言って、時たま暴走する謎な部分があって。
『HEEEEYYYY!!!! 生足魅惑の激マブレディィィィーーッッ!!!!』
『ありがたやありがたや……ユーノちゃん様マジ
カッコつけたがりな────……。
『ありがとう、素敵なレディ。俺は────ワムウと言います』
(……ん?)
そういえば……最近、まさにそういう感じの相手と会って、話したような。
それに────確か彼は16年前に……二人の子供を助けて死んだ、とも。
「……ねぇ、あの、これはただの予想なんだけど……もしかしてヴィトンって、ワム────」
────おい、いつまで話しているつもりだ。
瞬間、ガルブレーナの背中から、青い炎に包まれた獅子頭のような残像が顔を出した。
彼女の体に住まう残像の代表格である『キメラ』だ。
一方のガルブレーナはといえば、久方ぶりに想い人のことに思いを馳せていたところに水を差されたからか、不機嫌そのものな表情と声色でキメラを見る。
「……なんだキメラ。水を差すな」
────フンッ、わざわざ知らせてやろうと思ったというのにとんだ言い草ではないか。……いい加減周囲を見ろ。既にラグーナ城に着いているぞ
「……」
言われた通りに下を見れば、そこにはラグーナ城の美しい街並みが広がっている。
どうやら既に到着していたらしく、何なら通り過ぎかけているほどだった。
「む……どうやら昔話に夢中になり過ぎたようだな。降りるとしよう」
「そうだな……」
「え、えぇ」
苦笑しながら降りていく二人に、ユーノもまた続く。
言いたいことは言えなかったものの、元よりただの予想。これといった確たる証拠があるわけでもないし、何より言及しようとしているのはあまりにも現実的でない上に、二人の想いに泥を塗りかねないようなこと。
むしろ、ユーノはあのまま勢いに任せ言わなかったことにほっとしていた。
(……ま、気のせいよね)
まったく、馬鹿馬鹿しいことだ。
よもや生き返ったのが、偶然にも二人の大切な想い人だなどと────。
嘆息とともに、ユーノはラグーナ城へと降りていく。
三頭のグリフェックスが着陸した、その反対側に位置する波止場では……ちょうど『愚者の劇団』を乗せた船が錨を下ろしたところであった。
ステンバーイ……ステンバーイ……Standing by……
評価、並びに感想・質問など盛大に歓迎致します。