村のチンチクリンがドメロイケ女になってて俺への距離が近い話する?   作:負け組カチ組

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シリアス路線


『そして今、水面を割って』

「ハァッ、ハァッ……こ、ここまで来ればもう大丈夫……か? ────あ゛ーつっかれたぁー!」

 

 

 疲労困憊のヴィトンくんだぜ……。

 いやーヤベェわ。幻影維持しながら全力疾走&全力水泳とかマジでもうやりたくない……死ぬ。息切れで死ぬ……。

 

 ちなみに俺は今、なんか礼拝堂?っぽいところの下を抜けた先の浜辺にいます。

 礼拝堂とか絶対プレイアブルキャラおるしなぁ……と思ってわざわざツラい方行ったんだけど、やっぱこっち来てよかったな。だーれもおらん。よっしゃラッキー!

 

 うえ、口の中しょっぱ……はぁ゛〜飲み物飲み物……。

 

 

「────っぷはぁー! おいピー!!」

 

 

 フゥ!体中に水分が行き渡りますねぇ!!

 砂漠に水を垂らしたようだぜ!!

 

 さぁて……こっからどうすっかなぁ。

 えっとモンテリ・ファミリーとフィサリアだっけ?ラグーナの二大マフィアに追いかけられるとか俺も運ねぇなぁ。

 まさか漂ちゃんにまで狙われるなんて……あの服の薄さなんとかしてから追いかけてきやがれってんだ、まったく。

 

 あーあ。聞きたいことも聞けなかったし、散々だったな……。

 

 

(……ん? いや、俺聞きたいことってなんだ?)

 

 

 漂ちゃんに聞きたいこと……聞きたいこと?

 そんなのあったっけ?……いや、なかったよな。

 

 っていうか俺、そもそもなんでここに来たんだっけ?

 何の目的もなく旅してたんだっけ?……いやでも────……。

 

 

「……まぁいっか。ひとまずこのまま行こう。暫くそうしてりゃ、誰かが迎えに来てくれるはずだ」

 

 

 誰が?あの人が。

 ……いや、いい。

 とりあえず向かおう。向かうべきだ。

 

 それが俺の、旅の目的────。

 

 

「────随分陰気な顔をしているではないか。ヴィトン」

 

「らしくないな。お前はいつでも堂々としていただろう」

 

「────ッ!?」

 

 

 おっ……とぉ。

 

 

「ヘイヘーイ……ようやくお出ましかい。ドメロイケ女さんのお二人ィ。待ちくたびれたぜ」

 

「ほう。待っていてくれたのか?」

 

 

 んなわけないでしょーが。

 叶うならあのままサヨナラバイバイできてりゃ最高だったよ!

 正直、今この場にこの二人が来たのは最悪のバッドニュースだ。

 

 何せ、もう俺はほぼ力を使い切ってる。

 漂ちゃんたちを留め置くために維持してる俺の幻覚が何気にキツイ。加えてさっきまで『俺っていう存在を認識できなくなる幻覚』も同時に使いながら全力クロールだからな……幻覚能力は使えてもあと一回だろう……。

 

 

(一応『エンペラーズ・ニュー・クローズ』もあるにはあるが……それを使えば、あっちで漂ちゃんたちを引き付けてる俺の幻覚は消えちまう)

 

 

 そうなりゃあっちも俺の捜索を再開するだろう。

 んでもって、万が一俺のエンクロが解けて黒潮不足になったタイミングで発見でもされたら────終わりだ。

 

 

(ここはなんとか、幻覚だけで切り抜けてェが……やれるか!? この二人相手に!!)

 

 

 この二人、どう見たって手練れ中の手練れだ。

 雰囲気だけで判断しても、あのフローヴァちゃんと並ぶかそれ以上。それが二人もいるんだ……負け戦なんてモンじゃない。

 

 だがどうにかしろ。するんだ。

 俺には何としてでも生き残らなきゃいけない理由が……────。

 

 

「ヴィトン」

 

「っ! ……何?」

 

 

 話しかけてきた……!

 さあどう動く。どう仕掛けてくる?

 対応してみせる!何が来ようと避けきって、それで────!

 

 

 

 

 

 

「余の名前は、オーガスタだ」

 

「私の名は、エンジェル」

 

 

 

 

 

 

 ────は?

 

 

 

 

 

 

「……どうだ。聞き覚えがあるだろう?」

 

 

 オーガスタ────エンジェル────?

 

 

 

 

────いや……いやぁ!! ヴィトンだめ! 死なないでぇ!!!!

 

────戻って!! 戻ってよぉ!!!! ヴィトン、やだよヴィトン!! ねえってばぁ!!!!

 

 

 

 

「────誰?」

 

「「……」」

 

 

 何だ……?急に名乗ったけど……俺の反応を見てた?

 そんで何故俺にそれを聞く?この二人も(・)誰か探してるのか??俺がその情報を持ってるはずって踏んでたのか……?

 

 

(────いや待て。『この二人も(・)』? も(・)ってなんだ、も(・)って……)

 

 

 それじゃまるで、俺も誰かを探してたみたいな────。

 

 

「……成程。やはり洗脳状態か。なら仕方がないな」

 

「ああ────実力行使といこう」

 

「ッ! やっぱそう来るワケね……!」

 

「アンタがどうしようもない鈍感だから、仕方なく……な。────おいヴィトン」

 

「な~ぁに??」

 

「鬼ごっこで勝負だ」

 

「────は!?!?」

 

 

 お……鬼ごっこぉ!?!?

 いやいやいやいや!!君らいくつよ!?

 ま、まあ?別に?確かに鬼ごっこなんて何歳になってやっても犯罪にはならないけどさ!?

 にしたって……あの……いや子どもか!?!?

 

 

「お、鬼ごっこって……イメージと全然違うんですけど」

 

「そうか? ではこう言っておくとしよう。こ(・)う(・)見(・)え(・)て(・)も(・)余は鬼ごっこが大好きだ、とな」

 

「この翼が気になるか? 安心しろ。飛ぶなんて卑怯な真似はしない。言っておくがそっちも飛ぶなよ」

 

「飛べるかァ!!!!」

 

 

 

 

────うおおおおおおおおちょい待て待て待て待て!! お前ら段々追い込み上手くなってねぇか!?!?

 

────当たり前でしょ! ここ最近、エンジェルと一緒にヴィトンをどうやったら捕まえられるか……その作戦をたっくさん練ってたんだから!!

 

────今日こそ捕まえるから覚悟しろ!? 魔王ロクデナシ!!

 

────メタクソ失礼!!

 

 

 

 

「そら行くぞ。すぐにでも捕まえてやる」

 

「こンの……いいぜ。俺ちゃんの俊足見せたらァ……!!」

 

 

 何が何だかわからねぇが、俺はあえてこれ幸いと飛びつくことにするぜ!

 どうせ普通にやりあっても敵わない。となればこっちに多少なりとも勝機がありそうな方へ、だ!!

 

 

「では行くぞ。そちらのタイミングで逃げるといい」

 

「そりゃどーも。んじゃよーい……ドンッ!!」

 

 

 

 


 

 

 

 

 砂が舞っている。

 

 そよ風のヘイヴンの崖下に位置する砂浜が踏み荒らされているのだ。

 細かな砂に足を取られるのも構わず、バタバタと足を踏み下ろしては上げ、地面を蹴る。

 

 一人の男が追いかけられ、それを二人の女が追いかけていた。

 

 

「だぁーもう、しつこいっての!!」

 

 

 男────ヴィトンは速い。

 砂浜だろうが関係なく、まるで競技場のトラックを走っているかのような軽快さだった。

 

 だが────それよりも、オーガスタはもっと速い。

 

 赤い閃光とともに、彼女は一瞬にしてヴィトンの前に回り込んだ。

 

 

「なっ────ハァ!?」

 

「ふっ────!」

 

 

 思わずのけぞったヴィトンの胴体に向け、オーガスタの腕が伸びる。そのままホールドする腹積もりだろうが────、

 

 

(ターボ歩美ならぬマッハ歩美だなこりゃ!? だが────!!)

 

 

 しかし避ける。

 その場で跳び上がり、頭から飛び込むようにしてオーガスタの背後へと逃れたのだ。

 

 

「はっ────ま(・)た(・)それか!」

 

「またってなんだよまたって!? そもそも君らと会ったのも今日が初よ!?」

 

「そうでもないかもしれんぞ? だがまあ今は────それよりも!」

 

「ッ!?」

 

 

 空を切った己の腕をよそに、彼女は楽し気に笑う。

 そんな彼女の後ろ姿から瞬間、飛び出す影。

 オーガスタの全長二人分ほどの高さまで大跳躍し、今まさにヴィトンがやったのと同じように彼へと飛び込んできたガルブレーナである。

 

 

「おま────飛ぶの禁止っつったろ!?」

 

「飛んではいない! 跳んだだけだ!!」

 

「飛んでんじゃんかよ!?!?」

 

「跳んだ────だけだぁッ!!」

 

 

 まるで飛来する隕石のように迫り来るガルブレーナ。

 しかしヴィトンは即座にうつ伏せの状態から横方向へ高速回転。ゴロゴロと転がることで彼女の落下予測地点から逃れることに成功し、彼女はそのまま砂の中へと突っ込んでしまう。

 

 もくもくとひどい砂煙があがる中、ばふ、と砂の中から飛び出すガルブレーナ。

 美しい青混じりの銀髪も、漆黒の装いも何もかもが砂まみれだったが、対照的に彼女の表情はまるで子どものように楽し気だった。

 

 

 

 

────うおおおいエンジェル!? おま、大丈夫かぁ!?

 

────けほけほっ……し、失敗しちゃった……あはは

 

────失敗しちゃったぁ☆じゃないわ! なんで彗星特攻なんてやっちゃうワケ? ってか思い付いちゃうワケ!? お前前世バルファルクか何か!?

 

 

 

 

「ははっ、ははは……っけほっけほ……避けるなヴィトン! 砂まみれになったじゃないか!」

 

「そっちが突っ込んできたんでしょーが!? ってか首とかイカレてない!?」

 

「フッ────問題ない! オーガスタ、左だっ!」

 

「任せよっ!」

 

 

 続行すんのね!?というヴィトンのツッコミもなんのその。

 即座に立ち上がったガルブレーナとオーガスタが挟撃を仕掛けるものの、ヴィトンは意趣返しと言わんばかりに跳び上がって回避する。

 

 

 

 

────!? と、跳んだ!?

 

────ええ!? ヴィトンってバッタか何か!?

 

────そこはせめて鳥とか夢のある方言ってくださいよ!! なんでそこで最初に出てくるのが虫なんだよ!? 俺が仮面ライダー知ってて良かったなオメーら!?!?

 

 

 

 

(っ……なんだ、さっきから)

 

 

 痛い。

 ズキン、ズキンと頭痛がする。

 あの二人の声を聞くたび、まるで脳みそが頭蓋を内側からノックしているかのような痛みが走る。

 もしくは────何か……何か、引っ掛かったものが取れそうになっているかのような。

 

 

「っ、いや今は集中!!」

 

「よそ見とは余裕だなヴィトン!」

 

「して────ねぇよッ! 強者の余裕ってヤツさ! 俺鬼ごっこ負けなしだもーん!!」

 

「……ああ、知ってるさ────だからこそ、今日それを越えてやる!!」

 

 

 ズキリ────。

 

 嗚呼、また痛い。

 

 どうしてこの二人は、さっきから妙に親し気なんだろうか。

 今日初めて会ったはずだし、ましてや二人は俺を────。

 

 

「────ははは────」

 

「────ふふふ────」

 

 

 ……俺、を。

 

 

 

 

────何だよオメーら……顔くっしゃくしゃだぞ?

 

────だって……だってぇ

 

────ヴィトンが……ヴィトンが死んじゃうかもって……

 

────ハンッ。可愛いお嫁さん娶るまで死ねるかってんだ!!

 

────じ、じゃあヴィトンは不死身ってこと……?

 

────オメー命の恩人になんつー暴言を……誰が一生彼女できねぇって!?

 

 

 

 

「────ッ!?!?」

 

 

 なんだ。

 なんでだ。

 なんなんだ。

 なんで、なんで────。

 

 

 

 

「そらどうしたヴィトン! あと少しで────わぷっ!?」

 

「ははーん! どうしたよオーガスタちゃん!! あと少しで、何だってぇ??」

 

「……っふ、後にも先にも、余をこんな風にできるのは────あなただけだなッ!!」

 

「どわーっ!? 復帰早!?」

 

「私のことも忘れるな────っあ!?」

 

「忘れてねぇってばよ! 俺ちゃんに不意打ちとか十年早いぜ?」

 

「十年か────六年、短いな……アンタを想った時間に比べればッ!!」

 

「いやすんごい熱い眼差しッスね……? に……逃げるんだよォーッ!!」

 

 

 

 

 なんでこんなに────楽しいのかな。

 

 懐かしくて────楽しくて────。

 泣きたくなるのは、なんでなんだろうな?

 

 

 

 

「ぐっ……これじゃマズいな。場所を移させてもらうぜッ」

 

 

 捻じれ狂う思考に耐え兼ね、ヴィトンは波打ち際へと走っていく。

 砂浜以上に足は取られ、もつれる。

 何故無駄に体力を消費するだけの場所に入ったのかは、彼自身理解できていなかった。

 

 そして当然、彼を追って二人も波打ち際へと入ってくる。

 バシャバシャと海水を掻き分けながら、一目で上等とわかる服が塩水でびしょびしょになっていくのも構わず、二人はただただ彼を追いかける。

 

 

「待てこのっ……ぐっ!?」

 

「ヴィト────ンっ!?」

 

「いや仲良しか!? 二人同時に転んでんじゃ────ウェ!?」

 

 

 海水によってぬかるんだ砂で、肌も髪も服も汚れていく。

 しかし構わない。

 ヴィトンはただただ捕まるまいと重い足を動かし、二人もただただ逃がしはしないとそれを追う。

 

 そして腰まで浸かる深さになり、もう満足に走ることさえできなくなった。

 このまま逃げても無意味と悟ったヴィトンは速攻逃げを捨て、海水を思いっきり放り始める。

 

 

「うおおおお俺ちゃん捕まえようったって無駄なんだよォーッ! 無駄無駄!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!」

 

「わぷっ……この、やったな!?」

 

「ぐあっ目にっ……よくもやったなこのバカ! ヴィトンバカ!!」

 

「ちょ待てよ。それだと俺が高級ブランドマニアみてぇじゃねぇかやめてくれ────へぶあ!?」

 

 

 まるで子どものようだ。

 小さな子どもが、海に来てはしゃいでいるかのよう。

 

 セブン・ヒルズ総督であるオーガスタも、デビルハンターであるガルブレーナも。

 英雄である二人は、今この時だけは少女に戻っていた。

 

 だってしょうがないじゃないか。

 目の前には、小さい頃たくさん遊んでくれた彼がいる。

 死んだはずの、彼がいる。

 だからちょっとくらい────楽しんだって、いいじゃないか。

 

 

(あ゛~────楽しい)

 

 

 

 

────ヴィトンってば

 

────っんだよ。俺今滅茶苦茶忙しかったの見えなかったか?

 

────見えなかったよ? すごく暇そうにニヤニヤしてたのは見えたけど

 

────バカ野郎お前それを忙しいって言うんだよそれを!!

 

 

 

 

(……ああ、そうだな)

 

 

 

────はんっ。そりゃおめーが俺の言葉に耳澄ませてたからだよ。ったくエンジェルこの野郎。なんだ? 俺のこと好きすぎか??

 

────なッ!?!?……そ────んなわけッ……こ、このォ!!!!

 

────うおいどしたいきなり活発になるじゃねぇかってかあぶねぇ!? 残像あっち! こっち違うってんだろおいやめろ止まれヤメロォォ────!!??

 

 

 

 

(俺はきっと────君らを知ってる)

 

 

 あと少しなんだ。

 あと少しで、きっと思い出せる。

 

 楽しい。

 楽しいよ。

 こんなに一緒にいて楽しい君たちは────誰だっけ。

 

 それが、あと少しで────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『  誰も信用してはいけませんよ……この、私以外は  』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────!」

 

 

 パチン────とよく響く手拍子の音が、水面の上に響き渡る。

 

 乱雑だった思考は収束し、ただ一つに統一される。

 そうだ。

 俺は行かないといけない。

 あの場所へ。あの人のもとへ。

 顔も名前も姿も知らないあの人のもとに行かなければならない。

 

 手拍子の音は確実に二人の鼓膜を揺らした。

 見せる幻は、俺がずっと沖に向けて泳ぎ続ける姿。

 

 

(サヨナラだ)

 

 

 不意打ちは成功した。

 

 

やめろ。

 

 巻き上げた水のベールで、あちらからこちらの動作は見えない。

 

 

やめろ。

 

 溺れ死ぬがいい。

 

 

やめろ!

 

 待ち侘びた俺という存在を、いつまでも追い続けた先で。

 

 

やめろ!!

 

 俺は行く────あの人のもとへ。

 

 

「────ぇ、行か、ねぇ」

 

 

 あの、人の、も、と────

 

 

 

 

「────オーガスターッ!! エンジェルーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ソレ(幻影)をしたら負けだったろ、ヴィトン」

 

「────は」

 

 

 次の瞬間、彼は宙を舞った。

 

 その胸に、二人分の重さを感じながら。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ────けたたましい水音とともに、俺の視界は青く染まった。

 

 すぐに海中に沈んだんだってわかった。

 塩水で目が染みて開けていられないから、どこまで沈んでいくのかすらわからない。

 

 だが不思議と怖さはなかった。

 海水は冷たかったが、不思議と寒くはならなかった。

 

 だって俺は、あの二人に抱き締められていたから。

 

 

(オーガスタ。エンジェル)

 

 

 プクプクと小さな泡を口から漏らしながら、先ほど叫んだ二人の名前を口の中で転がす。

 

 俺の思考が、どっかの誰かに塗りつぶされそうになったあの瞬間。

 ただふざけんなって、許せねぇって怒りだけで『俺』が藻掻いていたら、この二人の名前を叫んでいたんだ。

 

 

(オーガスタに、エンジェル)

 

 

 口に出してみて、とっても馴染みがあったことに気が付いた。

 そして同時に、それに今まで気が付かなかった俺にも驚いた。

 

 

(オーガスタ……と……エンジェル)

 

 

 

 

────ヴィトン

 

────ねぇヴィトン

 

────ヴィトンッ!?

 

────ちょっとヴィトン!?

 

────バカヴィトン

 

────ヴィトンバカ

 

────ヴィトン……っ

 

────ヴィトン────ッ!!

 

 

 

 

 あーあ……。

 なんで忘れちまってたのかな。

 なんで一目見た時にわかってやれなかったのかなぁ。

 

 どうしても二人の顔が今見たくなって、ゆっくりと目を開ける。

 最初に目に入ったのは、キラキラと水面の上から差し込む太陽の光の乱反射。

 そして俺を強く抱きしめながら、泣きそうな、それでいて心底安堵したような顔で俺を見つめる、あの小生意気な二人のチンチクリンども。

 

 

 ────……いや……────

 

 

 美しく成長した、二人の女性(ひと)がいた。

 オレンジ、銀、青────色とりどりの二人の髪が、まるで虹みたいに……水に溶けるように揺らめいている。

 

 その色彩を認識した瞬間。

 脳内にへばりついていた分厚い靄が、パリンッと音を立てて砕け散った。

 

 

 

 

────私がグラディエーターになったら、絶対試合に来てね!!

 

────ヴィトン……また、ここで一緒にアイス食べてくれる?

 

 

 

 

 ああ。

 

 思い出した。

 

 全部、全部。

 

 全部思い出した。

 

 

「  誰も信用してはいけ────

 

 

 うるせぇ。

 もううんざりだ。

 ナディアさんに謝れ。ナディアさんそんなこと言わねぇだろたぶん。

 ガワだけ真似たテメーの声聞くぐらいなら淫夢で寝落ちした方がマシだ。

 

 

「  誰も信用してはいけ

 

 

 ……。

 

 ……ごめんな、気付いてやれなくて。

 

 

(……大きくなったな)

 

 

 俺の胸にしがみついているこの二人は────俺がかつて命を懸けて守り抜いた、何よりも大切な────……。

 

 

 

 


 

 

 

 

「げほ。水のんじまった……うぇ、まず……」

 

 

「……ヴィトン?」

 

 

「────……おう」

 

 

「……正気に戻ったのか?」

 

 

「みてーだな。……心配かけたか?」

 

 

「当たり前だ。どれだけ必死だったと思う。……見ろ。全身びしょ濡れだ」

 

 

「……砂は全部落ちたんだからいいだろ?」

 

 

「余など酷い有様だぞ? 見よ。共鳴能力の影響で砂が未だ体に張り付いている」

 

 

「……あー、まぁなんとかなる。だよネ?」

 

 

「……はぁ。あなたは何故いつも────……」

 

 

「……?」

 

 

「……ヴィトン」

 

 

「なんだオーガスタ?」

 

 

「余は、英雄王になったんだ。セブン・ヒルズの現総督でもある」

 

 

「マジ? あのチンチクリンがねぇ……俺ちゃんびっくらポンだぜ……」

 

 

「ずっと頑張ってきたんだ」

 

 

「……」

 

 

「ずっと────ずっと────ヴィトンがいなくなってから、ずっと」

 

 

「……そうか……オメーはすげぇよ。よく頑張ったんだなぁ……オーガスタ……」

 

 

「ヴィトン」

 

 

「どしたよエンジェル?」

 

 

「……私は、随分と様変わりしただろう」

 

 

「確かにな。髪色とかイメージカラーまるごと変わってるし……あと右腕。随分とまぁカッコよくなっちゃって……」

 

 

「……怖くはないか?」

 

 

「いいや? むしろ、俺の厨二心に火が点いちゃいそうで大変」

 

 

「……フッ、そうか」

 

 

「……なぁ、オーガスタ、エンジェル」

 

 

「「……?」」

 

 

「────……俺、黒潮人間になっちゃったよ。人じゃないんだぜ、俺」

 

 

「だからどうしたというのだ? ヴィトンはヴィトンだろう」

 

 

「さっき私の腕を褒めちぎったくせに何を言うのやら」

 

 

「────……それでも、オメーらに会いたくって、ここまで頑張って来たんだぜ?」

 

 

「……ああ。よく来てくれた……会いに来てくれて、ありがとう。ヴィトン」

 

 

「私たちも────ヴィトンに会いたくてたまらなかった」

 

 

「────……っ!」

 

 

「? ヴィト────!? な!?」

 

 

「ちょ、おい!? 急に抱き付くなバカ!!」

 

 

「────とう」

 

 

「おい……?」

 

 

 

 

「────生きていてくれて、ありがとう……っ!!!!」

 

 

 

 

「「……」」

 

 

「……何を言う。余は、ヴィトンが助けてくれたから今日まで生きてこられたのだぞ? 感謝はこちらが言いたい」

 

 

「私だって、ヴィトンがいなければ今頃私は骨も残っていなかった。……ありがとうを言うのは、こちらの方だ」

 

 

「……そっか……っ、……ん。わかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま。オーガスタ。エンジェル」

 

 

「「おかえり。ヴィトン」」

 




水をそそいだような有様の三人
どこまでも嬉しそうにただ笑い、どこまでも幸せそうにただ泣いた




To be Continued……
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