村のチンチクリンがドメロイケ女になってて俺への距離が近い話する? 作:負け組カチ組
────さて。
斯くして旅は、ラグーナの密かな浜辺にて終わりを告げた。
泥から蘇った旅人と、英雄になったかつての子供たちは再会を果たし、幸せを噛み締める。
……しかしその光景を、崖上より見下ろす影がひとつ。
「……」
女だ。
薄緑色の髪に、劇団員の服装をした一人の女。
その女はヴィトンが身を挺して庇い守った者と
女は、まるで足元で這いまわるアリを見るかのような目で眼下の光景を見下ろしている。
到底人のするような目の温度ではない。
────戻ろうヴィトン。漂泊者たちが待っている。
────ユーノの奴も待っていたぞ。早く戻ってやらねば。
────わぉマジ? 俺ちゃん無意識的に女の子惚れさせる天才か……?
そして”彼女”は、楽し気な表情で三人が去ろうとするや否や右手を翳し、おぞましい光を段々とその手へと集中させていき────……。
「────組織長」
────背後からの声によって、その光は一瞬にして霧散した。
女は目を細め、ゆっくりと振り返る。
そうして背後に立っていた人影────フローヴァへと怪しい笑みを浮かべながら、言った。
「……何の用だ? フローヴァ」
笑みを貼り付け、その裏に隠しきれない苛立ちを燻らせる組織長。
それを見て、フローヴァは何よりもまず「珍しいものを見た」と思った。
組織長という者をいくらかは知っている彼女にとって、この者が苛立ちを感じていること自体見た事がなかったからである。
「あなたがそこまで苛立つとはね。辛酸を舐めさせられた────というわけでもなさそうだけれど」
「辛酸……?」
はっ、と鼻で笑う女。
「私があの程度の男によって、苦難に身を置くようなことはない。これはただの────自戒だ」
「自戒? あなたが?」
お笑い草ね、と今度はフローヴァが鼻で笑う。
見た目以上に、今の彼女は相当頭に来ている様子であった。
彼女は一瞬で顔に浮かべていた嘲笑を引っ込めると、目を怒りで細めながら言葉を続けた。
「知っていたはずよね? あの男は私の理想実現のためには必要不可欠……だというのに、あなたはそれを掠め取ろうとした」
「勘違いも甚だしい。お前にしては読み違いが過ぎるのではないか?」
「誤魔化さないで。あなたの狙いは彼の黒潮────『進化した新たな黒潮』……でしょう?」
ざあ、と海風が崖の岩肌を撫でる。
暫しの沈黙の後、女は不気味なその笑みを深めた。
「……流石と言っておこう。フローヴァ……だが、少しだけ間違えているぞ。私が求めているものは
「今は謎かけの気分ではないのだけれど」
「なに……いずれ生まれ堕ちる存在を御するために、あの男が必要だというだけの話だ」
『御する』。
女の言ったその一言に、フローヴァは「やはり」と内心で舌を打った。
────この得体の知れない人物は未だ、リナシータで何かを企んでいるのだと。
今すぐにでも伽藍洞のような眼窩を繰り抜き、その内心を曝け出してやりたくなる。
フローヴァにとっての至上命題は変わらず、そのためにヴィトンは必要なのだ。訳の分からない組織長の企みなどに邪魔されてはかなわない。
「私は私であの男が必要なの。……それでも邪魔するというなら────」
「私を殺すか? フローヴァ」
ニコリと、何ともわざとらしい笑顔。
フローヴァとてわかっている。今この場で拳を握り固めたところで何の意味もない。
今の組織長の肉体は弱い常人でしかない。
殺せはするだろうが────それができても、今ここにいる組織長はただの分身なのだ。
「……生憎、価値も意味もないことはしない主義なの。だから
「ほぅ?」
踵を返したフローヴァへ、組織長は面白そうに首を傾げる。
フローヴァの事実上の脱退宣言ですら、まるで衝撃を受けていないようだった。
フローヴァにとって、一時的とはいえ
「────ここで、私たちの組曲に終止符を打つ」
「その判断を歓迎しよう……。我々の理念は常にひとつ。互いの進む道が異なろうと結末は同じ。一時的に道を分かれたことで、より多くの可能性を見つけられるだろう」
フローヴァから返答はない。
そのまま彼女は一度も組織長の方を振り返ることなく、リコリスの花びらとともに姿を消した。
風に乗って飛んでいく花びらを眺めてから、組織長はもう一度崖下を覗き、すでにそこにヴィトンの姿がないと見るや否や、同じように姿を消した。
────もはや彼を手に入れることはできない。ならば残された方法はひとつだけ。
まるで影に溶けるように消え去った『誰でもない者』が、次に向かった場所は────。
さく、さくと原っぱを歩く紅の美女。
つい先ほど組織長と一時的に袂を分かったフローヴァは、今になって若干その判断を後悔し始めていた。
勿論、
もともと近いうちに一旦抜けようと決めてはいたし、組織長が自分とは異なった目的であの男を欲しがっていた以上、この離反は必要なものだったからだ。
だが────それにしても、もう少しタイミングを考えた方が良かったのかもしれない、とは思い始めている。
何せ離反後の安定した活動のための準備がまだ一切できていない。
本当ならばここから何か月か使って準備を進めるはずだったのだが、思った以上に組織長の行動に腹が立ち、勢いのまま想定していた時期より早く脱退を宣言してしまったのだ。
「ハァ……どうしたものかしら」
『価値も意味もないことはしない主義』だと言った途端にこのざまだ。
恐らく組織長があの時面白そうな顔をしたのもこれを見越してのことだったのだろう。そこまで思い至り、フローヴァはますます腹が立つのを感じた。
(……とりあえず、一時的な拠点……あとは人手ね)
欲しいもの、必要なものと多々あるが、やはりどうしても確保しておきたいのは手足となる人手。
アーティファイサーたちは使い捨ての駒として大層役に立ったが、流石にあそこまで雑な扱いのできる雑兵は手に入らないだろう。
準備ができていれば、いくらか一緒に脱退させてこき使えたかもしれないが……。
(今更ね……)
何はともあれ後の祭りに変わりはない。
それにしても、感情に任せて離反を宣言するとは……本当に自分らしくもない。
少々思考が熱くなっているのだろうか?
────あの男に、妙な影響でも受けたか。
「……馬鹿馬鹿しい」
ありもしない可能性を一笑に付しながら、フローヴァは歩を進める。
あてがないからこそ、ゆっくりと一歩一歩を踏みしめるように、確実に────……。
「────アニキィ……俺らもう疲れましたッスよぉ……イイじゃないッスか別に初恋の人が寝取られたくらい……」
「てめ、本気で言ってんのか!? 俺にとってなぁ、俺にとってなぁ! あの人は今や人生のすべてなんだよ!! あの人がもしも俺に振り向いてくれたらと夢見た夜は数え切れねぇ!!」
「また始まりましたよ……」
「もう耳タコだなぁ……」
「だからこそ! いくら
「「「へぇ~い……」」」
「……なにあれ」
アーティファイサー……?
いやでも、青いわね……。
無意識に二度見をかましながら、フローヴァは困惑する。
アーティファイサーとは果たして、あそこまで呑気な会話のできるような存在だっただろうか……?
「……まあ、あてもないのだし」
どことなく興味を引かれ、フローヴァは彼らのあとを追い始める。
かなりの勢いで走っているのか、すでにその姿は遠い。呼びかけてもこの距離では聞こえないだろう。
となれば方法はひとつ。こちらも走って追いかけるしかない。
(はぁ……あまり走るのは……)
苦々しい顔をしながらも、すべては自分の浅慮が招いた結果。
致し方ないと自分を無理やり納得させて、嫌々ながらフローヴァは地を蹴って走り始める。
「ちょっと……そこのアーティファイサー」
「イチ・ニ・サン・シ♪走れ走れ~♪」
「ちょ────話を」
「全力疾走足りてねぇぞおおおおお!!!! うおおお待ってろよマイブラザー!!!!」
「────止まれって言ってるのよ!!」
「「「「アイエエエエエエエ!?!? フローヴァ様!? フローヴァ様ナンデ!?!?」」」」
……最終的に、ヘカテーに抱っこしてもらうことでなんとか追いついたのだった。
「────ところでヴィトン……体調は大丈夫か?」
「いや何回聞くのよ。さっきも俺大丈夫って答えたぜ?」
「すまぬ。だが、どうしても聞かずにいることができなくてな……」
「……大丈夫だって。この通り元気イッパイだぜ? 心臓無いけど」
「「……」」
「あ、ちょ今のナシ! だからそんな沈んだ空気になんなって俺は平気だからさぁ!!」
「……まったく……だがまぁ、そうだな。変に思い詰めすぎるのもアレか」
「うむ……ここはヴィトンがオーバークロックしてしまわなかったことを喜ぶべきだな」
「? どういうこったい」
「ユーノから聞いてはいないか? 今のヴィトンは、黒潮の影響で共鳴能力が一部変質し、恐らくオーバークロック時にそれが表れると……」
「お、おう。まぁ聞いてたけど……」
「黒潮によって浸食されたオーバークロック────一体何が起こるのかわからないからな。最悪の場合を考えて、私たちは何が何でもアンタにオーバークロックさせないようにしていたんだ」
「だが危なかった……恐らくあと少し洗脳から解放されていなければ、あなたはオーバークロックしてしまっていただろう。なんとか間に合ったから良かったが────これからもオーバークロックには細心の注意を払ってほしい。そのためのサポートは我々が最大限────」
「いやいや。俺もう一回オーバークロックしてるけど?」
「「────は????」」
「ラグーナに着く前にちょっとトラブっちまってさ。その時にこう……ノリと勢いで? 一発カマしたんよ。いやぁ俺のオーバークロックマジでカッコよくなっててよォ! オメーらも見たらビックリすんじゃねぇかな────って、おん? お、オメーら何怖え顔してんだよ。俺また何かやっちゃいました??」
「「……」」
「「────そこに直れ、魔王『ロクデナシ』」」
「懐かしの罵倒!?!?」
「……? ユーノ、あれ」
「! 戻って来たのね! 良かった……正気に戻って────って、ん?」
「────ユーノちゃああああん!!!! お助けぇぇぇぇ!!!!」
「なにごと????」
「待てヴィトン貴様止まらぬか説明せよこのヴィトンバカーッ!!」
「止まれって言われて止まるバカいねぇだろアホーッ!!」
「待てこのっ……エンジェル☆キィーック!!!!」
「ぶべらっ」