村のチンチクリンがドメロイケ女になってて俺への距離が近い話する? 作:負け組カチ組
アンケート結果により、これからは長くなっても区切らずそのまま投稿することになりました。よろしくお願いします。
────『運命』というものは、あらかじめ決まっているものらしい。
『諭しの女』のお姉さんが持っていた本を、いつだったか読んだ時にそう書いてあった。
まるで物語みたいだ。
それが、読んで一番に私が思った感想。
だって、共通点がある。
物語も、実際に読む前から既に内容は決まっていて、私たちは何が起こるのか、その
でも、そこでふと思い立った。
────なら私の『運命』は、誰が決めたものなんだろうか?
わからない。
わかるわけもない。
親に聞いても、誰に聞いても、わからなかった。
でも……今になって、一つだけ確信したことがある。
もしも本当に、私の『運命』を誰かが
そいつはきっと、とんでもなく性格が悪いはずだ。
だって、そうでしょ?
「エンジェルという女の子は、優しい両親の下に生まれて────親友のオーガスタと出会えて────友達もたくさんできて────大好きな人にも出会えました」
夢みたいで、素敵な物語だったのに。
そいつは最後の最後に、こんな……黒い泥と血と悲鳴に塗れた、最低最悪のクライマックスを用意するような奴なのだから。
「エンジェル、しっかり付いてきて! もう少しだから!」
「……っ、……」
走る、走る。
大切な親友の手を決して離さないよう気を付けながら、痛む足を必死に動かす。
慣れ親しんだ村の、あのあたたかな色はもうどこにもない。
今あるのはもう、目を焼くような残酷な赤と、絶望を煮詰めたような黒だけだった。
ファビアヌム村は今、黒潮に吞まれかけている。
村の半分は既に黒潮の中に沈み、そこから現れる無数の残像たちによって既に多くの犠牲者が出ていた。
私の家も、既に呑まれた。
恐らくエンジェルの家も、フェロさんの鍛冶屋も。
お父さんやお母さんがどうなったのかは知らない。
だけど、この状況では恐らく────。
「……ッ」
ダメだ。
今はそんなこと考える時じゃない。
頭を振って、確定したも同然の最悪の予想を振り払う。
今はとにかく走るしかない。
走って、村の外に逃げて、生き残る。
そうじゃなきゃ────隠れていた私たちを命がけで助けてくれた、あのグラディエーターに申し訳が立たない。
「ごほ、ゴホッ……」
「大丈夫、大丈夫だから……っ」
苦しそうな咳を繰り返すエンジェルに、私はそう繰り返し励まし手を引くことしかできなかった。
この励ましの言葉も、実際は私自身に向けたものなのかもしれない。
恐怖で折れそうな心を、ヒビが入る度歪に修復していくような、そんな足掻きを助けるための。
エンジェルは傷を負っていた。
口の端から真っ赤な鮮血を垂らしていて、呼吸も浅い。
今こうして遅くとも走れているのが不思議なくらいだった。
「おねがい……オーガスタ……私はもう……」
「ダメだってばッ!! 置いてけって言うんでしょ!? そんなの絶対イヤだから!!!!」
もはやわかりきった彼女の言葉を遮って振り払う。
もはや足取りも重く、意識すら朦朧として久しいエンジェルはまさに恰好の獲物。
先ほど残像に囲まれた際も、奴らはエンジェルを狙っていた。
まるで、弱った獲物を狙う狼の狩りのように。
(私が────私が、守るんだ!!)
折れそうな心を奮い立たせる。
本当は座り込みたかった。
頭を抱えて、思いっきり泣き叫んでしまいたかった。
父と母、親しい人たちを一気に亡くした悲しみを、思う存分吐き出してしまいたかった。
だが、少なくともそれは今ではない。
私にとって、これ以上怖い目に遭うことよりもずっとずっと、大切な親友が死んでしまうことの方が嫌だった。
「しっかり掴まって。止まったらダメ!」
「……っ、うん」
虚ろな目で私を見るエンジェルの目に、薄らと雫が溢れた。
濡れて鏡面と化した瞳に映る、怯えた赤毛の少女を無理矢理に笑わせて、私は必死に前へと進んでいく。
目指す場所は、オークのうつろ。
ヴィトンとの大切な思い出の溢れる、私たちのとっておきの場所だ。
あそこには────私たちとヴィトンしか知らない、秘密の通り道がある。
そう……私たちと、ヴィトンだけが。
(……ヴィトンなら大丈夫。ヴィトンの逃げ足にはどんな残像だってきっと追いつけない)
何の根拠もなく想い人の無事を確信する私の心は、同時に彼が既に逃げおおせていることを願わずにはいられなかった。
彼の圧倒的な逃げ足で、セブン・ヒルズの総督府まで。
そんなありえない情景を、不思議にも私は鮮明に思い浮かべることができた。
助けになんてこないでいい。
だって……彼にだけは生きていてほしいから。
だから、そんな突飛な空想の情景を願ってやまない。
ここから総督府までどれだけ離れてると思ってるんだ、なんていう言葉はいらない。
ただただ、祈らせてほしい。
願わせてほしい。
私の────私たちの大好きな人が……こんな地獄を、とっくに抜け出していることを。
「……────っ、あぶないっ……!」
「へ────? わぁっ!?」
……でも、やっぱり……。
「うそ……囲まれた……!?」
「……オーガスタ……」
「っ、駄目!! 囮にして逃げろって言うんでしょ!? 絶対にダメ!!!!」
「でも……このままだと、二人とも……」
どれだけ本心から、そう願って、祈っていたとしても。
「駄目ったら駄目!! だってエンジェルはっ……っえんじぇるは……わたしの、だいじな……ともだち、だもん……っ」
「……おー、がす、た……」
「────ッ!!」
「「……っ」」
────パァンッ────
「────ッ! ────!?」
「……? 残像が……」
「あ、あれ……?」
もしあの人が今、ヒーローみたいに、私たちを助けに来てくれたら────……。
「────よお……ハァ……クソ残像ども……ゼェ……子供相手に寄ってたかってとは……ハァ────ダサいにもほどがあるってもんだろうがよ……!!!!」
きっと……泣いて喜んでしまうんだろうなぁ……。
HAHAHAHAHA!!
私 が 来 た ! ! ! !
……って自信満々に言えるくらい俺が強ければ良かったんスけどね。
あいにく俺ちゃんクソ雑魚ナメクジなんだよなぁ。
でもなぁ!!
テメェらみたいななぁ!!
子供を寄ってたかって殺そうとするようなクズ外道如きにはなぁ!!
流石に余裕で逃げられんだよオラァ!!!!
ハイ手叩いてー。
ハイ幻影見せてー。
ハイ攪乱してー。
ハイあと逃げるだけー。
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!!(ガン逃げダッシュ)
フン、ハァ……雑魚め!!ゼェ……
二度とその顔見せるなよロリリョナども!!!!おぅふ……
「……う゛ぃ、とん……っ……!!」
「よお、大丈夫かよオーガスタ? 未来の英雄王にしては良い泣きっぷりだことで」
「ヴィトン……来て、くれたんだ」
「おうよエンジェル。このとーり、速達便でちゃあんと来たぜ」
うおんオーガスタってばボロ泣きじゃねえの。
エンジェルに至ってはフツーにボロボロだし。
ひとまず抱き締めて頭撫でたりますか。よーしよしよし。ここまでよく頑張ったな。
いやホントに頑張ったな!?
子供二人だけでこの地獄絵図の中を生き延びるとか、早々できるモンじゃないからな……。
こりゃあ盛大に褒めてやらんといけんわな────良ぉお~~~~~しッ!
よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし────。
「……や、役得ってやつ、かな?」
「だねっ」
「……うっし止血完了。ひとまずこれで応急処置は大丈夫────とはいえ油断できねぇ。……まずはとにかく脱出だな。多分もう援軍呼ばれて来てる頃だろうし、そいつらに助けて貰えばいい」
「うん……ありがとうヴィトン」
「いやに素直じゃないエンジェルちゃあ〜ん。普段もそのくらい素直でいてくれよ」
「……嫌」
「嫌!?!?」
ハイ長くなったのでキンクリ。
時を消し飛ばしてエンジェルの応急処置完了させました。
「この緊急事態に何をふざけとんねんコイツは」って思ってた奴!!残念だったな俺はいつでも真面目だぁ!!!!
……まあちょいと真面目な話をすると、俺ってば今自分に共鳴能力掛けてんのよね。そうでもしないと村の惨状に耐えられんかったし……そのせいで状況に似合わないテンションなんだけど。
今も最悪な気分なのは変わらないし、変わることもねぇ。
でも、そうだな……それでも────こうして、知ってる二人を助け出せたのはよかったよ……。
「ヴィトン……? 今までに見たことない顔してるよ?」
「ん? ……おう、別になんでもねぇよ。お前ら助け出せて良かったって思っただけさ」
つーわけで、さっさと脱出だな。
俺がもし主人公なら「この災厄を放って逃げるわけにはいかない!」ってなった方が良かったんだろうが────冗談はよしこさん!僕、最弱だから。
何よりもまずチンチクリンどもを助けないといけないし。
そーいうのはセブン・ヒルズの援軍に任せりゃヨロシ。
……いや来るよな?なんか最近、セブン・ヒルズのお偉い方に関しては良い噂聞かねぇしなぁ。
────ま、大丈夫やろ!!
だってファビアヌムって対黒潮戦線の最前線だぞ?その重要性も理解できてないはずないしな!
よっしゃ後は援軍に任せりゃいい。我らは早々に脱出するのみ!!
「おっしゃいくぜチンチクリンのEverybody!! 目指すは脱出、
「韻踏まなくていいから」
「早く行こ」
のわーっテメ―らぁっ!?
せっかく俺が重苦しい雰囲気をマシにしてやろうと思って即興ラップ考えたってのにぃ!!
……まあそれどころじゃねえって言われたら頷くしかないんスけどね。
俺ちゃんちょっと反省……。
「……ありがと」
「……元気出た」
「ん? なんか言った今??」
「「なんでもなーい」」
??????
まいっか。
んじゃあまあぼちぼち出発しますか。
えーと安全そうな道は────……っ!!!!
「ッッヤベェッ!!!!」
「「!?!?」」
……ッ滑り込みセーフ……ッ……。
あっぶねえ。チンチクリンどもがスクラップになっちまうとこだったぜ……。
ってかホント黒潮産の残像ってクズしかいねえのな?
アイサツ前のアンブッシュは厳禁だって知らねぇの?古事記にも書いてあるんだぜ??*1
一体どこのどいつだツラ見せろコラ────、
「────ッッ」
────は????
「う、そ」
「は────な、んで」
……オイオイオイオイ……マジかよ。
そりゃあチンチクリンどももそんな顔になるわな。冗談キツイぜこのヤロー。
今からでもアイサツしたら動き止めてくれたりしない?古事記に基づいてさ、ネ?
……あ駄目だ。手合わせてお辞儀しても全然反応しねぇ。
スゴイシツレイ。
……いやまあ、コイツのことはよく知っている。
ケルピー……だよな?
前に鍛冶屋にあった残像図鑑で、たまたまコイツのページを読んでて助かったぜ……。
確か【怒涛級】の残像で────、って、あ。
「────ッッ」
ばつん、と。
奴の繰り出した目にも留まらない突きで、俺の体はバラバラに吹っ飛んだ。
「……────っぶね~……あらかじめ手鳴らしておいて良かったな……」
ま、無事なんですけどね。……さっきアイサツに見せかけて手ェ叩いとかなかったら危なかったんだけれども。
にしてもなんて威力の貫手だよ。
幻影の俺が霧散する前に爆発四散したんだが??あんなモン喰らって死んだらあの世にすらいけなさそうなんだが。
「……」
うわこっわい目。
そんなんでこっち見んといてくれます?悪い夢見そう。
オーガスタとエンジェルは……意外と平気そうだな。
もう腹括ってんのか。いやスゴッ……子どもの胆力じゃねぇだろ。
まあとりあえずここは────、
「逃げるんだよォーッ!!」
三十六計逃げるに如かず!!
くぅー!困った時はやっぱコレだ────、
「────ッッ」
────ねっっ!?!?
「ッッうっそだろオイっ!?!?」
はっや!?!?
何だぁコイツぁ!?
今一瞬で俺の目の前に出てこなかった!?
ケルピーってヤードラット星人なのん!?!?
「────ッッ」
「っ!?────フレーム回避ッ」
っ……ぶねぇ。
マジで危なかった……。
てか首の皮切れたんですけど?コレどーしてくれんのよ。俺の若かりしうるおい肌をよくも……!!
「ヴィトン!? 大丈夫!?!?」
「モーマンタイ! 薄皮一枚!!」
「────ッッ」
……流石に、いつにも増してヤバいな。
何やってんだ?さっさと打開策考えろよ俺!
じゃねぇと死ぬ。みんな死ぬ。
それは駄目だ。許せねぇ。
考えろ。
考え続けろ。
(クソッ……もういっそ暴走モードでもなんだっていいから────っ)
(────、……『暴走』……??)
ある。
たった一つ────最後の切り札が。
大博打だ。分が悪すぎる賭けだ。
俺のくだらない共鳴能力じゃあ、結局何も起こらない可能性だってある。
この状況をひっくり返してくれる保障もない。
でも────、
「「……っ」」
────背後で震える二人の少女を見た途端、俺の中のすべての迷いは吹っ飛んだ。
「────オォォバァーッ、クロックゥーッッ!!!!」
「────ッッ」
「「ヴィトン!?!?」」
手のひらの皮が勢いで全部捲れ上がったんじゃないかってくらい、強く両手を叩きつける。
やり方なんざ知らねぇ……だがそれでも『共鳴能力の暴走』ってんならあらかた察しは付く!!
ようは限界以上の力で共鳴能力を使えばいいんだろ!?
単三電池一本で動くラジコンに電池十本くらいブチ込んでぶっ壊すみてぇによ!!!!
顕現させる幻は────っ、あーくっそもうなんだっていい!!
俺が求めてんのは、このクソ野郎をブッ飛ばせる幻だ!!!!
オ……ッラァ出てこいやァァ!!!!
『────オ゛オ゛オ゛オ゛ォーーッッ!!!!』
はっ……ひっでぇ出来。
まるで腐った巨神兵だぜ……。
ケルピーも何だ?ってツラでコイツを見やがる。
いいぜ、舐めろよ。
思う存分舐め腐ってろ。
でもな────今の俺の幻は────、
『────オ゛オ゛オ゛オ゛ォーーッッ!!!!』
「────ッ、ッ……!?」
────テメェをブン殴れる幻だぜ??
「ま……幻影のパンチが当たった!?!?」
「でも、ヴィトンが!!!!」
ぐ────が────あ────、
痛え……っ────、
痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え痛え!!!!
やすりで出来た手袋を突っ込まれてかき回されてるみてぇだ!!!!
全身が痛い!!!!頭も腕も肺も腹も足も!!!!
なんで俺こんなことしてんだっけ!?!?
逃げろ!!!!何してんだ俺!!!!さっさと逃げねぇと!!!!
俺の命が第一だろ!?!?死ぬ!!!!また死んじまう!!!!
死ぬのは────……、
「ヴィトン!! もういいっ、もういいからッ!!」
「やめて!! 戻ってきてっ!! そのままじゃヴィトン、本当に死んじゃうよっ!!」
────……。
「────ま、だ、ま、だあ゛あ゛ァァァァ!!!!」
死ぬのは怖くない。
経験済みだ。たかが知れてる。
俺はそれ以上に────アイツらが、死ぬ方が怖い!!!!
「だからなぁ……俺の命なんざ────どうでもいいんだよォォォォッッッッ!!!!」
『────オ゛オ゛オ゛オ゛ォーーッッ!!!!』
「────ッッ!!??」
瞬間、俺が血を吐いたと同時に。
腐れ巨神兵擬きの幻に、ケルピーは空き缶のように握りつぶされた。
「……っ、げほ、ごふっ……っ」
ケルピーの目から光が消えたと同時に、俺の気が抜けたのか幻もフッと消えた。
そのまま黒潮の沼にドボンと落下したケルピーをよそに、俺は必死に息を整える。
しょーがねぇだろ。マジで死にそうなんだよ……っ。
────でも……あれだな。なんでだろうな……。
「……生きてんのか、俺……」
ほんの一瞬だけだったからか?
相変わらず死にかけ状態なのは変わんねぇけど────何とか、死ぬまでは行かなかったみたいだな……。
「は、ははっ……。俺ちゃんってばグッドラック~……」
「ヴィ、ヴィトン……っ!!」
「ヴィトン、ヴィトンーーっ!!」
物陰に隠れてたチンチクリンどもが、喜色満面って感じで飛び出してきやがる。
へへ……っなんだよ。俺が生きててそんなに嬉しいか??
でもスマン。普通にもう限界だわ。
なんで俺今まで立ってられてたんだろ。そっちのが不思議だわ。
あーダメ、ダメです。崩れ落ちますこれ。
チックショーアイツらの手前カッコよくキメたかったってのに……。
まあいいや。俺はもう疲れた!
チンチクリンども!!俺が崩れ落ちる前に早く肩を貸してくれぇい────
ずぶっ
「痛った……────? あ、っえ」
ンだ、今の音。
てか、痛ぇ。
背中と、胸が、痛ぇ。
熱、冷たっ……?
……な、何してんだ?
オーガスタ?エンジェル?
なんで、そんな、世界の終わり、みたいな、顔を、し、て────、
「ご、ぼ」
あかいろ。
あ。
これ、おれの、しんぞう
ぐしゃっ
只人に何ができるというのです