村のチンチクリンがドメロイケ女になってて俺への距離が近い話する? 作:負け組カチ組
ずぶりと、腕が引き抜かれた。
そのまま、腕の主────黒潮の中から執念と殺意のみで這い上がって来ていたケルピーは、今度こそ息絶え、黒い沼の中へと沈んでいった。
「────ァ」
声を出すことすらままならない。
当然だ。
ヴィトンという男は転生者であり、共鳴者でもあったが、それでも只人の範疇を出ることはない。
常人は、心臓を握りつぶされれば死ぬ。
それは誰でも────ヴィトン本人も、そしてこの残酷極まりない一部始終を見ていた、二人の少女も理解していたことだった。
「ヴィトンッッ!?!?」
それでも駆け寄る。駆け寄らずにはいられない。
自分たちを、まさしく命を懸けて守ってくれた、大切な想い人。
そんな人物が────よもや死ぬなど、到底納得などできようはずもなかったのだ。
(あー……また、死ぬのか。俺)
一方のヴィトンは、いやに冷めた思考で己を俯瞰していた。
心臓が破壊されたのだ。
血が体を巡るはずもなく、熱は生まれない。
となれば、頭も冷えるというものであった。
(おいおい……来るなよ……そのまま逃げりゃいいのによ)
しょうがねぇ奴らだな。
息ができないため鼻で笑うこともできないまま、それでもヴィトンはひどく緩慢な動きで、ゆっくりと柏手を打った。
「え────な、なにこれっ」
「離してっ、離してよっ!?」
メキメキ、と音を立てて現れる馬の幻影。
しかし現れた幻影は、ヴィトン自身の意識が掠れてきている影響か、まるで木の枝で無理矢理組んだ出来の悪い人形のよう。
しかしそれでも、幻影は創造主からの指令を完遂できる程度の力は有していた。
今際の際に至り、再発動したオーバークロック状態で出現させた幻影は物理的干渉力を持つ。
幻影馬は少女二人を背に乗せて、なおかつ「何としてでも二人を逃がす」という命令のため、その穴だらけの胴体を活かし、ヴィトンを助けるため逃れようとする二人の足を確りと固定してしまっていた。
それを霞む視界で確認したヴィトンは、満足そうに口を歪めて。
行け────と、口だけを動かした。
「いや……いやぁ!! ヴィトンだめ! 死なないでぇ!!!!」
「戻って!! 戻ってよぉ!!!! ヴィトン、やだよヴィトン!! ねえってばぁ!!!!」
主の命令に従い、ギシギシと嫌な音を立てながら駆けていく幻影馬。
どんどん離れていくヴィトンとの距離に、オーガスタは悲痛な声をあらん限りに張り上げ、エンジェルは自らを縛る足の拘束を外そうと藻掻いた。
だが、意味はない。
いくら声を張り上げようと、ヴィトンの覚悟を曲げることはできず。
例え拘束を脱したとしても、その頃には男の姿など黒潮の向こうに消えていることだろう。
それがどこかでわかっていたからこそ────二人はただ、子どもらしく泣き叫ぶことしかできなかった。
(……オーガスタ……それに、エンジェル)
そんな二人に、ヴィトンは少し微笑んだ。
そして彼らしい、下手くそなウインクをして。
最後に一度だけ、自分にしか聞こえない程度の弱さで手を鳴らしてから。
(……幸せになれよ……元気でな)
その身を黒き潮に沈ませながら、遂に意識を失った。
────その後。
ヴィトンが意識を失い黒潮に呑まれたことで、幻影馬は逃路を行く道半ばで力尽き、背後から迫る黒潮に追われ二人はオークのうつろへと向かった。
しかしヴィトンの幻覚で痛みをごまかされていたエンジェルは、彼が死んだことでみるみる弱っていき、とても秘密の抜け道を通れるような状態ではなく。
オーガスタは彼女をオークのうつろの中に残し、たったひとりで黒潮の前に立ち塞がった。
……ここから先は、本来の歴史と変わらない。
エンジェルは黒潮に汚染され、無二の親友は離れ離れとなり、それぞれ全く違う道を歩んでいく。
オーガスタは英雄王へと至り、セブン・ヒルズの総督として。
エンジェルはガルブレーナと名乗り、デビルハンターとして。
必ずや鳴式を討つのだと────不撓不屈の誓いを刻みながら、厳しい戦いへとその身を躍らせる。
その胸の奥に────恩人にして想い人である、彼の人をいつまでも留めながら。
そして、時は流れ────16年後。
諸悪の根源であった鳴式・レビヤタンは、この世界の主人公である漂泊者と……オーガスタやガルブレーナをはじめとする、リナシータの英傑たちによって遂に────討伐され、そして封印されたのだった。
「────……」
セブン・ヒルズに聳える、誉れ高き総督府。
その中にある私室にて、”彼女”は静かに目を閉じていた。
手を置いているテーブルの上には、一本のボトルと、二つのグラス。
どうやら鎮座しているボトルはラグーナから取り寄せられたものらしく、用意された精工な造りのグラスも相まって、座して待つ彼女────セブン・ヒルズ現総督、オーガスタが今夜の待ち人をどれほど大切に思っているのかが窺い知れた。
そんな時。
コンコンと、ノックの音が室内に響き渡る。
遠慮のないその音は、部屋の扉────ではなく、なんと窓から響き渡っている。
一方のオーガスタは、まったく気にした素振りすらなく……むしろ微笑みすら浮かべながら立ち上がり、窓へと近づいていく。
そして。
「……時間通りだな? オーガスタ」
「うむ。約束の時間ピッタリだ」
窓を開け、外にて炎の翼を広げ滞空していた女────ガルブレーナを歓迎するように、室内へと迎え入れたのだった。
「よく来てくれた、我が友よ。レビヤタンに関する研究への協力でそなたも忙しいというのに……」
「気にしないで良い。確かに暇をしているわけではなかったが、忙殺されていたわけでもない。時間はたっぷりある……今日の昼間も、そこの酒場『ソリス』でのんびりしていたことだしな」
それに……と、ガルブレーナは暫し視線を彷徨わせてから、
「……親友からの誘いだ。断る理由もない」
彼女がまるで、昔のように照れて少し恥ずかしそうにそんなことを言うものだから────オーガスタは少し目を瞬いたあと、部屋を揺らすほど大きく笑ったのであった。
この夜宴は、オーガスタからガルブレーナへ持ちかけたものだった。
────今夜、もしも
そんな彼女の誘いに、ガルブレーナが楽しそうに頷いたからこそ実現した
勿論、セブン・ヒルズ総督としての誘いではなく、あくまで個人的な……プライベートでの友との語らいであったため、料理も酒もオーガスタ個人で用意したものだ。
……一応、料理は顔見知りの料理屋の主人に依頼して作ってもらったものではあるのだが。
料理ができないというわけではない。
オーガスタ個人として、古き親友を出来得る限りもてなしてやりたいという、なんてことはない心掛けであった。
「ほう……このサルティンボッカ、悪くない……」
「気に入ってくれたようだな。酒場『ソリス』のものも悪くはないが、私としてはあの主人の作るサルティンボッカこそ素晴らしい」
「確かに……はむ。……これは良い。クセになる味わいだ。……このワインは────成程。モンテリの当主から送られたものだな?」
「よくわかったな! ……16年の間に舌が肥えたか?」
「フッ、いいや。そんなことはないが────このワインがとても上等なものだということはわかる。……っぷは……少々、値段は考えたくないが」
「ふむ。確か『値の付けられない代物』だと言っていたが────」
「言うな言うな。舌が遠慮したらせっかくの上物が味わえないだろう!」
酒と食事を共にしながら、二人は久方ぶりの語らいを楽しむ。
カンピドーノの城をじっくり見て回った感想。
16年間、鳴式関連以外では何をして過ごしていたのか。
漂泊者についてのことや、誇り高きグラディエーター、アウィディウスについてなど。
語らいは一向に尽きる様子を見せなかった。
なにせこうして二人きりでゆっくりと食事を共にできたのは、幼い頃離れ離れとなってから初めてのことだったのだ。
勿論、レビヤタンとの最終決戦を終え、セブン・ヒルズとラグーナをはじめとしたリナシータ全域の復興が始まってから、一度か二度くらいはゆっくりと話すことはできていた。
しかしやはり、古い友人ともなればもっと長くじっくりと語り合いたいと願うのが当然。
故にこそ、こうして時間を取り、お互いがお互いのこれまでを教え合う時間をとったのであった。
古き親友との語らい。
良い食事と良い酒が口を滑らかにして、夜こそ本番と言わんばかりのセブン・ヒルズの夜景すら落ち着いてきた頃。
「────エンジェルよ」
ふと、オーガスタがそう切り出した。
「ん? なんだ?」
言いながら、向き直る。
すでに皿の上は空になり、あとはちびちびと残ったワインを嗜むのみ。
既に酒が回っている二人の間には、もとからあったのかすら怪しい隔たりはとうに無い。
それこそ先ほどまでなど、音骸闘技大会の選手たちに一喜一憂する若者のようにはしゃいでいたのだから。
そんな酔いが、一瞬で吹き飛んだ。
ガルブレーナにとって、今のオーガスタの一言は、それほどまでに寂しげな響きを孕んでいた。
すぐさま聞く姿勢になってくれたガルブレーナに微笑みながら、オーガスタはグラスを煽る。
十分に口を湿らせてから、意を決したように彼女は口火を切った。
「もし、今の余を……あの人が────ヴィトンが見たら。……果たして、なんと言ってくれると思う?」
「っ────……」
息を呑む音が室内にこだました。
そのまま、暫し室内を静寂が支配する。
仕方のないことではあった。なにせ、ガルブレーナにとってその問いは、まさしく己もまた持っていたものだったのだから。
……ヴィトン。
思い出すたびに胸が熱くなる、困った人。
優しい兄代わりであり、だらしのないバカであり、頼れる大人であり、愛した人であり、命の恩人でもある。
そんな人が目の前で死んでしまったあの時のことを、ガルブレーナは今でも鮮明に思い出すことができた。
「お主にこれを聞くのは、少々意地が悪かったか」
言い淀んでしまったガルブレーナを見て、オーガスタはらしくもない申し訳なさそうな顔で苦く笑う。
なんだかそれがムカついて、少しだけ目を細める。
「どういう意味だ」
「お主も同じ思いであろう……という意味だ」
「……」
半分図星だった。
もしもヴィトンがこの場にいたら────……。
確かに、そんなことを夢想したことは多々あった。ガルブレーナ────否、エンジェルにとって、未だ彼という存在は大きすぎるものだったのだから。
しかし、少しだけ違う。
大成した己への所感を欲するオーガスタに対し、エンジェルが欲するとすればそれは、受容。
黒潮に汚染され、丸っきり変わってしまった自分を見たとして……彼は何と言うだろうか?
彼女が抱いているのは、言わばそういったことであった。
「その話をしたのは────」
何となく、すぐに答えられずに話を意図的にずらしながら言う。
「今日が、ヴィトンの命日だからか?」
「……ふ。忘れるわけはないか」
「当たり前だ。……忘れようと思っても、忘れられん」
しんみりとした様子の親友に、オーガスタは自嘲するように嘆息した。
彼女はセブン・ヒルズの現総督。
当然相手など選び放題だし、まさしく『よりどりみどり』というやつだ。
しかし、彼女の乙女は未だ16年前に囚われたまま戻っていない。
己が夢を、まるで当然のことのように肯定してくれたあの人に、オーガスタの心はいつまでも向いたままだった。
「────『あのチンチクリンが、まさかこんな立派になるなんてな。俺ちゃんびっくらポンだぜ……』」
「!」
ぱ、と顔をあげて親友を見る。
見れば、羞恥に顔を上気させながら、エンジェルは静かに笑っていた。
「そのあとは『総督様、俺に似合う可愛い子ちゃんを紹介してください!』、と続くだろうな」
「……それを言われたら許しておけんな」
「奇遇だな。私もだ。尻を蹴り飛ばしてしまうかもしれん」
瞳からハイライトを消し、どこか恐ろし気な雰囲気を放つ二人。
そして自分たちが物騒な思考に入りかけていることを察知し、至急思考を取りやめた。
「おっといかん邪念が」
「なんだ? 総督サマとは思えない重愛だな?」
「それはお主もだろうエンジェル?」
はっはっは。
ははは。
「……あの人は、姿が様変わりした程度でお主を受け入れないわけはないと思うぞ」
「! ……気が付いていたのか」
「いいや、気が付いたのは今しがただ。……ヴィトンのこととなると、お主はかなりわかりやすいからな」
ニヤニヤとそんなことを言われ、いたたまれなくなってグラスを一気に煽る。
葡萄の芳醇な香りが鼻腔を満たし、酒精が喉を熱くした。
空になったグラスを置こうとすれば、ふと差し出されるボトル。
大人しくグラスを傾け、増していく赤紫色の水位をぼぅっと眺めた。
お返しと言わんばかりに、オーガスタのグラスにもワインを注いでやりながら、エンジェルは静かに────とても静かに、口を開き、言った。
「今夜はとことん付き合おう。同じ想いを、アイツに抱いた親友として」
「……ありがとう、エンジェル。ならまずは────我らの大切なあの人のために、偲ぶとしよう」
献杯、と静かな声が、静かな部屋にこだました。
今ここにいるのは────セブン・ヒルズの英雄王にして総督ではなく、残像を狩り尽くす恐ろしきデビルハンターでもなく。
かつて小さな村で、なんだかんだ面倒見の良い男へ恋していた、二人の女の子の姿だけがあった。
────一方その頃、うわごとの町にて。
「────……な、なにがどーなってんの~……??」
目の前に跪く残像の群れを前に、右往左往する塩顔の男の姿があった。
「オーガスタ? え窓開いてる……? ちょ、入るわよ────ってう゛わ゛ぁ!? な、なによこの惨状は!? オーガスタ!? それにガルブレーナ!?!? 何酔いつぶれてるのよらしくないわね!! ほら二人とも水! 水飲みなさい水!!」
展開に迷ったので、ちょっと急遽アンケートを取ります。なんやかんやして復活したヴィトンですが、さて皆さんは復活したヴィトンが少し戦闘能力的に強化されていてほしいですか?それとも、前のままクソ雑魚ナメクジなヴィトンがいいですか?※なお、強化されても無双することはないと明言しておきます。
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弱いままのキミが好き♡
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力を……もっと力を……!