キヴォトスにウォーハンマー40kの世界の武器がやってきた! 作:eriza7170
シャーレ。
朝。
先生は机の上に置かれた一枚の書類を眺めていた。
「……」
書類のタイトル。
『アデプトゥス・メカニカス関連物品の受領について』
その下には。
大量の注意事項。
そして最後に。
※取扱いには十分注意してください。
と書かれている。
「……昨日も見たな、この文章」
先生はため息をつく。
そして。
机の横を見る。
そこには巨大な木箱が置かれていた。
黒い金属。
赤い装飾。
奇妙な歯車。
機械部品。
そして。
どこか宗教的な雰囲気を持つ装飾。
箱そのものが。
「機械を崇拝してください」
と言っているように見える。
「先生」
ノノミが覗き込む。
「これ、何ですか?」
「アデプトゥス・メカニカス」
「……?」
「40kの技術者集団みたいなもの」
「技術者さん?」
「うん」
「それならミレニアムの人たちが好きそうですね」
「……そうなんだよね」
先生は頭を抱える。
その予想は。
わずか三十秒後に的中した。
「先生ーーー!!」
扉が勢いよく開く。
「来た!」
ウタハだった。
その後ろには。
ヒマリ。
エンジニア部。
ヴェリタス。
そして。
なぜかゲーム開発部までいる。
「……」
先生は目を閉じた。
「全員帰って」
「嫌です」
ウタハが即答した。
「まだ何も見てないのに?」
「だから帰って」
「それは無理だね」
ウタハは箱を見る。
「この箱から、すでにすごい技術反応が――」
「箱にセンサー向けないで」
「でも」
「ダメ」
ヒマリが笑う。
「相変わらず先生は慎重ですね」
「ヒマリまで来たの?」
「ええ」
「何しに?」
「観察です」
「何を?」
「未知の技術文明」
「……」
「非常に興味深いでしょう?」
「まあ」
「では開けましょう」
「僕は開けるとは言ってない」
ウタハが工具を取り出す。
「開けるよ」
「ウタハ!」
「大丈夫」
「何が?」
「今回はちゃんと許可を取る」
「誰から?」
「先生から」
「今、許可してないよね?」
「……」
「ウタハ?」
「細かいことは気にしない」
「細かくない!」
結局。
安全確認を行った上で。
箱は開けられた。
中に入っていたのは。
奇妙な装置だった。
金属製の義手。
機械式の義眼。
複雑な工具。
大量のケーブル。
そして。
一つの赤いローブ。
「……服?」
モモイが言う。
「たぶん」
ミドリが近づく。
「でも、機械がいっぱい付いてるよ?」
「……」
ウタハは。
完全に固まっていた。
「……すごい」
「ウタハ?」
「先生」
「何?」
「これは」
彼女は機械式の義手を持ち上げる。
「義手だ」
「見れば分かる」
「違う」
「?」
「これは義手でありながら」
ウタハの目が輝く。
「工具でもある」
「……?」
「この指」
カチッ。
指先が回転する。
「ドライバー」
カチッ。
別の指が変形する。
「レンチ」
カチッ。
手首が開く。
「切断工具」
「……」
ウタハは感動していた。
「素晴らしい」
「そんなに?」
「一つの装備に複数の機能を統合している」
「なるほど」
「無駄がない」
「うん」
「美しい」
「そこまで?」
ウタハは頷いた。
「ミレニアムにもこういうものはある」
「うん」
「でも思想が違う」
「思想?」
「これは」
ウタハは義手を見つめる。
「最初から『人間が機械になる』ことを前提に設計されている」
「……」
「すごく興味深い」
ヒマリが横から口を挟む。
「アデプトゥス・メカニカスは、肉体より機械を信頼する思想が強いですからね」
「詳しいね」
「もちろん」
ヒマリは微笑む。
「私は天才ですので」
「便利な言葉だな……」
その時。
エンジニア部のチナツが。
赤いローブを持ち上げた。
「これ」
「うん」
「何のための服なんでしょう?」
ウタハが答える。
「宗教的な意味があるんじゃないかな」
「宗教?」
モモイが首を傾げる。
「機械に宗教って必要なの?」
ウタハが少し考える。
「彼らにとっては必要なんだろうね」
ヒマリが説明する。
「アデプトゥス・メカニカスは機械を単なる道具として見ません」
「じゃあ?」
「機械には精神がある、と考えます」
「……」
モモイが固まる。
「え?」
「機械精神」
「パソコンにも?」
「あると考えるでしょうね」
「ゲーム機にも?」
「おそらく」
モモイは真剣な顔になる。
「じゃあゲーム機を大切にしなきゃ」
ミドリも頷く。
「壊れたら泣いちゃうもんね」
ユズが小さく言う。
「それは普通に大切にしたほうがいいと思う……」
アリスが突然立ち上がった。
「アリスも機械精神を尊重します」
「アリスちゃん?」
「はい」
アリスは自分のゲーム機を持ち上げる。
「いつもありがとうございます」
「……」
全員が黙った。
先生は思った。
――何か変な文化が伝染している。
その日の午後。
ミレニアムのエンジニア部。
「機械精神について調べよう!」
ウタハが宣言した。
「はい!」
チナツが元気に返事する。
「まずは既存の機械に挨拶をします」
「え?」
チナツが困惑する。
「具体的には?」
「機械に感謝を伝える」
「……」
チナツは目の前の工具箱を見る。
「いつもありがとうございます?」
「そう」
「……」
「どう?」
「恥ずかしいです」
「でも文化研究だから」
「……」
チナツは工具箱に向かって。
「いつも……ありがとうございます」
すると。
工具箱の中から。
カチャ。
工具が一本落ちた。
「……!」
チナツが目を見開く。
ウタハも固まる。
「今」
「はい」
「工具が動いた?」
「……そう見えました」
二人が顔を見合わせる。
そして。
ウタハが工具箱を見る。
「……」
「……」
「もう一度やってみよう」
「え?」
「ありがとう」
カチャ。
また工具が落ちた。
「……」
「……」
ウタハが笑う。
「面白い」
「先輩」
「何?」
「これ、本当に機械精神が?」
「分からない」
「じゃあ」
「偶然かもしれない」
「ですよね」
「でも」
ウタハは楽しそうに笑う。
「もし本当に機械精神があるなら?」
「……」
「私たちの機械にもあるのかもしれない」
翌日。
シャーレ。
先生が武器庫を開ける。
「……?」
何かがおかしい。
昨日まで乱雑に置かれていた工具が。
きれいに並んでいる。
ラスガン。
ボルトガン。
プラズマガン。
チェーンソード。
全部。
きちんと整列している。
先生は首を傾げた。
「誰が片付けたんだ?」
ノノミが入ってくる。
「私じゃないですよ?」
「ユウカ?」
「違います」
「ウタハ?」
「昨日は触ってないって言ってた」
「じゃあ誰?」
二人で武器庫を見る。
その時。
カチッ。
チェーンソードの安全装置が。
勝手に一段動いた。
「……」
先生が固まる。
ノノミも固まる。
「先生」
「うん」
「今の」
「見た」
「……機械精神でしょうか?」
「……たぶん違う」
先生はチェーンソードに近づく。
安全装置を戻す。
カチッ。
「ほら」
「はい」
「偶然だよ」
その瞬間。
武器庫の奥。
プラズマガンのエネルギーセルが。
ピッ。
と一度だけ光った。
「……」
「……」
先生は無言で武器庫の扉を閉めた。
「今日はここまでにしよう」
「はい」
しかし。
その日の夕方。
ミレニアムから一枚の書類が届いた。
タイトル。
『キヴォトス機械精神研究会・設立申請』
代表。
ウタハ。
副代表。
ヒマリ。
名誉会員。
アリス。
そして。
なぜか。
ユウカ。
先生はユウカに聞いた。
「なんで入ったの?」
「経理担当です」
「……」
「研究会の予算管理が必要なので」
「なるほど」
「あと」
「うん」
ユウカは少し恥ずかしそうに。
「機械を大切にするのは、悪いことじゃないと思います」
先生は笑った。
「そうだね」
その横で。
ウタハが新しい装置を持ってきた。
「先生」
「何?」
「機械精神に関する実験を一つだけ」
「また?」
「今度は安全」
「本当に?」
「うん」
「何するの?」
「ラスガンに名前を付ける」
「……」
先生は黙った。
「機械に愛着を持たせることで性能が変化するか確認する」
「……」
「どうかな?」
「科学なの、それ?」
ウタハは真剣な顔で答えた。
「分からない」
「じゃあダメ」
「残念」
そして。
その夜。
誰もいないシャーレ武器庫。
静寂の中。
棚に置かれたラスガンが。
小さく。
カチッ。
と音を立てた。
その隣のボルトガンが。
カチッ。
プラズマガンが。
ピッ。
そして。
チェーンソードが。
ウィィィン……。
一瞬だけ。
モーターが回った。
しかし。
誰も気づかなかった。
少なくとも。
その時までは。
――第四話・終。