少女は魔法使いのキセキを見るのか?   作:わたぬき※

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本作を開いていただき、誠にありがとうございます。

本作は『その着せ替え人形は恋をする』の二次創作小説となります。

本作は、原典のストーリーラインや魅力をできるだけ崩すことなく、そこに「魔法使い」という一つの異物を差し込んだ場合に生まれる、新たな関係性や変化を描く物語です。
それに伴い、独自設定や独自解釈、他作品の要素をリスペクトした設定が多く含まれますので、あらかじめご了承いただけますと幸いです。


※本作の主人公は「オリジナル主人公」であり、非常に高い身体能力や技術を持つ「強キャラ・万能キャラ」の側面があります。これらが苦手な方はご注意ください。


第1話:その日彼女は魔法少女と出会う

六月の湿った空気が、どんよりとした曇天から這い出すように街を包んでいた。 

今にも雨が降り出しそうな気配の中、一人の少年が一般人の視界を完全に避けるルートを選び、住宅街の屋根伝いを駆け抜けていた。 

白髪のロングポニーテールが、鋭い琥珀色の瞳の後ろで激しく揺れる。

身に纏っているのは、どこか近未来的な意匠を凝らした黒い戦闘服だ。 

 

少年はただ、与えられた依頼の範疇を全うすべく、最短の足取りで標的を追い詰めていた。

 

 

『マオちゃん、そっちに追い込んだわ。先にあるのは完全に無人の廃病院よ。うちの可愛いキューティちゃんのためにも、周囲を気にせずハデにやっちゃってちょうだい。……あの子、あなたに憧れてるんだからね?』 

 

 

耳元のインカムから流れてきたのは、ノイズ混じりの、どこか上品な口調の無線通信だった。だが、マオと呼ばれた少年が返す声に抑揚はなかった。静かなトーンのまま、淡々と反論する。

 

 

「断る。今回の依頼は新人の討伐任務のサポートだっただろ。なら俺のやることは、討伐対象の誘導が精々のはずじゃないのか?」 

 

 

危なげない足取りで屋根の縁を蹴り、影の退路を断つように回り込みながら、少年は告げた。

 

 

「怪異を建物に追い込む。新人の不始末はあんたでやってくれ。俺の仕事はここまでだ」 

 

 

相手の返答を待たず、マオは通信を切った。 

視線の先、鬱蒼とした木々に囲まれた『廃病院』と思われる建造物へ、人外の歪な影が滑り込んでいく。 

追い詰められた怪異は、逃げ場を失って二階の窓ガラスを激しく叩き割り、そのまま建物内へと乱入した。 

 

マオは一瞬の躊躇もなく、その直後を追って宙を舞う。 

突入の瞬間、マオは鋭く足を突き出し、残された窓ガラスを蹴り破った。

 

 

――ガシャアアアンッ!!

 

 

激しい音を立ててガラスの雨が粉々に舞い散る。

そのきらめく破片の渦中に滑り込むようにして、少年は重力を感じさせない無音の着地を決めた。 

 

 

着地と同時に、少年の琥珀色の瞳はすでに前方の標的をロックしている。

いつでも地を蹴り出せる半身の構えのまま、しかし、マオは視界の端に映る光景から室内の異常を瞬時に察知した。 

 

廃病院と聞いていたはずだった。しかし、そこには荒らされた形跡のない、整然とした撮影スタジオの空間が広がっていた。

 

 

(チッ……何が完全に無人の廃病院だ!?) 

 

 

同僚から流しされた誤情報に心中で毒づきながらも、マオの視線は敵から逸れない。 

部屋の隅には見慣れない撮影用の機材が並び、その奥では恐怖に腰を抜かしている三人の少女がへたり込んでいる。 

そして、少し離れた場所にぽつんと佇み、驚愕のあまり完全にフリーズしている背の高い一人の青年――同じ高校に通う同級生の姿が、少年の視界にハッキリと入っていた。

 

 

 

 

 

 

侵入した怪異は、自身の存在を誇示するように歪な咆哮をあげる。

人と獣の中間の様なその異形の輪郭は、一目で常軌を逸した存在だと理解できた。

 

興奮状態にあるソレは、目の前でへたり込んでいる三人の少女へと狙いを定め、猛然と牙を剥く。 

 

 

――ドォン!! 

 

 

生物同士が激突したとは思えない硬質な重低音が、突如として室内に響き渡った。 

 

少女たちに影が触れるよりも早く、その突進軌道上へと割り込んだマオの拳が、怪異の顔面を正面から完璧に捉えていた。

目にも留まらぬ速度で放たれた一撃により、怪異は凄まじい衝撃に抗うこともできず、今しがた侵入してきた窓側の方向へと真っ直ぐに殴り戻された。 

 

歪な形状の身体が床を激しく滑り、破られた窓の下の壁へと激突してようやく止まる。

少女たちの前に立ちはだかる少年の背中と、窓側に吹き飛ばされた怪異。その位置関係は一瞬で反転していた。 

 

マオは追撃の手を緩めることなく、倒れた影から一切視線を外さなかった。

いつでも次の挙動に対応できるよう半身の構えを維持したまま、左手で耳元のインカムを乱暴に叩く。

 

 

「――おい、プリさん」 

 

 

口を開いた少年の声は、底冷えするような凄みを帯びていた。

 

 

「廃病院が撮影スタジオとして利用されてる。利用者の客もいる状態だ。何をどう確認して廃病院と報告しやがった? 俺への嫌がらせか? なかなか悪辣な手を使うな。」 

 

 

低く、地を這うような少年声が、静まり返ったスタジオの空気を容赦なく切り裂いていく。

 

 

『な、なによそれ、失礼しちゃうわねぇ!? こっちだってちゃんと事前に協会のデータベースを……え? うそ、更新日時が半年前ですって!? ご、ごめんなさいマオちゃんこっちのミスだわ! 今もうすぐ近くまで来てるから! お願いだから私が行くまでちょっとだけ場を繋いどいてちょうだいッ!!』

 

 

インカムの向こうでギャーギャーと憤慨し、最後は必死に懇願する声を、マオは完全に無視して通信を遮断した。 

起き上がった怪異は、正面の少年に敵わないと本能で察したのか、即座に身を翻して背後の割れた窓から外へ逃亡を図ろうと跳躍した。 

しかし、怪異の身体が窓枠を越える直前、何もない空間に激突したかのように「ガンッ!」と鈍い衝撃音が響く。目に見えない強固な壁に遮られ、怪異はスタジオの床へと無様に叩き落とされた。 

逃走経路を断たれたことを悟った怪異は、今度はマオの横をすり抜け、再び奥にいる少女たちを人質に取ろうと猛然と突進する。 

 

マオは一歩も動かない。

 

ただ、突進してくる怪異に向けて、無造作に右手をすっと翳した。 

 

 

 

――ドガァンッ!! 

 

 

怪異が少女たちに届く手前、やはり何もない空間に凄まじい質量で激突し、その突進を完全に止められた。

手を翳し続けるマオと、激しく悶えながらも目に見えない壁に押し留められている怪異。

少年の「不可思議な力」により、敵は一歩も動くことができない。 

 

あまりに突発的で非現実的な光景の連続に、その場にいる一般人たちは恐怖と驚愕のあまり完全に硬直していた。 

 

しかし、その中で唯一、金髪の少女だけは感情の動きが明らかに違っていた。

恐怖など一瞬で忘れたかのように大きな瞳をギラギラと輝かせ、目の前に佇む白髪の少年の服、および今の一歩も動かぬまま敵を押し留めた圧倒的な超常現象に、大はしゃぎしそうな勢いで息を呑んでいる。 

張り詰めた数分間の緊迫。スタジオ内の空気が爆発寸前まで高まった、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

少女の細い身体は、恐怖のあまり指先まで完全にすくみ上がっていた。 

楽しいはずのコスプレ撮影中、突然窓を突き破って現れた、人と獣の中間のような醜悪な異形。

それが自分たちに襲いかかってきた死の瞬間と、その突進を信じられない速度で割り込み、一撃で殴り倒した白髪の黒い服の少年。 

 

あまりに非現実的な暴力の連続に、少女の脳の処理はとうに限界を迎えていた。 

 

現在進行形で目の前で起きている状況は、さらに意味がわからない。 

怪異が窓から逃げようとしても、自分たちを再び襲おうとしても、少年がただ無造作に右手を翳すだけで、何もない空間に激突して一歩も動けなくなっているのだ。

 

 

(な、なんなのよ、これ……何が起きてるの……!?) 

 

 

目の前の怪異も、それを不可思議な力で完璧に縫い留めている少年も、どちらも自分の常識では測れない本物の恐怖でしかなかった。

隣にいる金髪の少女が「すごすぎる!」と目をギラギラと輝かせているが、今の彼女にはその異常な反応に突っ込む余裕すら一ミリもない。 

 

少年は怪異を固定したまま、身じろぎ一つせず立ち塞がっている。 

戦って倒すつもりなのだろうか。それにしては、少年はこれ以上の攻撃を仕掛ける様子もなく、標的を押し留め続けている。 このままどうなるのか。

これから先ほどの様な衝突が始まるのか。あまりの緊迫感に、少女が胸の中でただワタワタと混乱を極めていた、その時だった。

 

 

――ドゴォォォンッ!! 

 

 

鼓膜を震わせる凄まじい爆発音と共に、少年と怪異の向こう側――スタジオのコンクリートの外壁が、内側へ向かって派手に吹き飛んだ。 

白煙と強烈な砂埃が室内に激しく立ち込める。

 

あまりの衝撃に怪異は瓦礫と共に廊下の向こうへ転がり果て、少女は悲鳴をあげることすら忘れてその爆心地を凝視した。 

もう一匹のバケモノか。それともさらなる絶望か。 視界を遮る煙の奥から、ずしり、ずしり、と床を揺らす重々しい足音と共に、巨大な人影が姿を現す。 

 

砂煙が完全に晴れた瞬間、少女の視界に飛び込んできたのは――。 

 

 

ゴリゴリにビルドアップされた、岩石のような筋肉の塊。 

 

その頭部の上には、あまりにもミスマッチな、クオリティの高いツインテールのカツラと煌びやかなティアラ。 

 

巨体を包んでいるのは、どう見ても破裂寸前の、ピンク色の魔法少女服(特大サイズ)だった。 

 

本来ならば可憐な少女がするはずのポーズを、その百八十センチメートルを優に超えるゴリマッチョの大男がピシッと決めて大見えを切る。

 

 

「魔法少女! プリティアーナ!! 見参☆往生せいやーーー!!!」 

 

 

 

空間を激しく揺るがす、ドスの利いた野太いオネエ声の雄叫び。

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

少女の口から、乾いた掠れ声が漏れる。 

 

押し寄せていた本物の死の恐怖も、超常現象への戦慄も、そのあまりにも強烈すぎる視覚暴力の前に一瞬で消し飛び、彼女の思考は完全に停止した。

 




第一話をお読みいただき、誠にありがとうございました!

美しくて可憐な魔法少女との運命の出会い……を期待していた読者の皆様、そして何より作中の彼女たち、本当に申し訳ありません。

外壁をぶち抜いて現れたのは、ピンクの特大衣装を着た、あまりにも規格外な筋肉オネエ魔法少女・プリティアーナでした。
※外見や方向性に関しては『BLEACH』のシャルロッテ・クールホーンを想像頂けるとわかりやすいかもしれません。

このあまりにも強烈すぎる出会いが、今後の彼女たちの運命をどう変えていくのか、楽しみに見守っていただければ幸いです。

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