前回のラスト、廃病院へ突入したプリティアーナのその後から始まります。
戦闘決着からマオと原作メンバーとの関係性が少しづつ出てくる話となります。
「魔法少女! プリティアーナ!! 見参☆往生せいやーーー!!!」
魔法少女を名乗るには雄々しい決めのポーズと共に放たれた大音声が、廃病院のコンクリート壁に激しく反響する。凄まじい風圧が部屋を吹き抜ける中、マオは特に表情を変えることもなく、目の前で仁王立ちする魔法少女?を自称する筋肉の塊を見上げていた。
砂埃がゆっくりと落ち着いていく。しかし、静まり返った室内には、肝心の標的の姿がどこにも見当たらなかった。
人と獣の中間のような歪な形をしていたそれは、つい先ほどまで確かにこの空間を這い回っていたはずだった。
プリティアーナは、上品に頬に手を当ててキョロキョロと周囲を見回す。
「あら? 怪異はどこかしら?」
「お前が今踏みつけているがれきの下で消えかかってんぞ?」
マオは視線を足元へと落とし、普段と変わらない飾らないトーンでそう返した。
プリティアーナが突入の勢いのままブチ抜いた壁の残骸。そのコンクリート片のさらに下で、容赦なく踏み潰されている影があった。
逃げ足だけは早かったが、認識外の死角からの衝撃に巻き込まれて重篤なダメージを負い、トドメと言わんばかりにその巨体で乗っかられては、ひとたまりもない。
瓦礫の隙間から漏れ出すように、それはすでに自らの形を保てなくなり、サラサラとした黒い粒子となって空気中へ霧散し始めていた。
静まり返った廊下の向こうから、激しく息を切らせた小走りの足音が近づいてきた。
「プリティアーナさん……っ! お、遅れてしまって、すいません……っ!」
部屋に飛び込んできたのは、煌びやかな魔法少女の衣装に身を包んだ、可憐な少女だった。
膝に手をつき、肩を大きく上下させて今にも倒れそうなほどに酷く息を乱している。
プリティアーナは小さく息を吐くと、その大きな手のひらで少女の背中を優しくさすった。
「キューティちゃん、まずは落ち着いて呼吸をなさい。……怪異を逃がしたことは反省点だけど、完璧にカバーしきれなかった私にも責任はあるわ。怪異の動きを読みきれなかったこちらの落ち度ね。でも、次からは同じ失敗をしないように、今日のことをしっかり教訓にするのよ?」
「うぅ……はい、ごめんなさい、プリティアーナさん……」
キューティと呼ばれた少女が情けなく眉を下げて縮こまる。しかしプリティアーナとそれを見ていたマオは、それ以上の無駄な会話を続けることはしなかった。
現場の安全確認が最優先であることは、二人の間で共通の認識だった。
マオが怪異の襲撃から守るために展開していた、目に見えない障壁。その内側では、呆然とした様子の4人の男女が、まだ恐怖と混乱の冷めやらぬ表情で立ち尽くしていた。
マオの対応のおかげで、彼女たちの着ているコスプレ衣装や、手元にあったカメラは奇跡的に無傷だった。しかし、体から離して置かれていた一部の他機材や、スタジオの備え付けの機材は無残に破壊されている。
プリティアーナは巨大な身体を屈めるようにして彼らに近づくと、上品な仕草で声をかけた。
「あなた達、怪我はないかしら? 気分が悪くなったりしていない?」
4人が小さく頷くのを確認すると、プリティアーナは周囲の惨状に目を向け、それから誠実な眼差しを彼らへ向けた。
「ごめんなさいね?あなた達を巻き込む形になってしまったから、しっかりとした事情の説明をしたいの。……本来なら、一般の方にここまでお話しすることは絶対にないのだけれどね。今回はこちらの不手際で起こったことだから。もちろん、壊れてしまった機材の補償や、借りたスタジオで撮影ができなくなってしまったことへの機会損失に伴う弁済は、すべて私たちの組織が持つわ。だから安心してちょうだい」
真摯な態度でそう告げられると、4人は顔を見合わせ、戸惑いながらもその提案を受け入れた。
「ありがとう。それじゃあ、ここではなんだから、落ち着ける場所で話をさせてもらっていいかしら?移動するから、あなたたち先に着替えてもらえる? その格好のままだと、お外で少し目立っちゃうからね」
プリティアーナの気遣いに促され、衣装を着ていた少女たちは、一度廃病院の奥の控室へと戻り、手早く私服へと着替えを済ませた。
やがて、私服に戻った彼女たちが再び廊下へと合流してくる。
それを見届けたプリティアーナが、隣の魔法少女に対して振り返った。
「よし、それじゃあ私たちも目立つから、変身解除しなきゃね」
「わかりました!」
プリティアーナの隣の魔法少女が元気よく頷き返すと、二人は胸元に嵌め込まれた小さな宝石へと指先で触れ、その身体が眩い純白の光に包み込まれた。
光の粒子が生き物のように躍り、そのシルエットを瞬く間に変えていく。
――シュウゥゥン
光が完全に収まったとき、そこにいたのは、ガタイのいいムキムキマッチョのオネエと、中学生くらいの中性的な男の子の姿があった。
本物の変身解除を間近で目撃した少女たちの目が、一瞬で色めき立つ。
オタクとしての本能が恐怖を上回ったかのように、その奇跡の光景へと釘付けになっていた。
少女が少年になっているのだが、造形的に髪型と服装以外は変化がなかったためそのままスルーされていた。
そんな中、ただ一人、黒い戦闘服を纏ったままのマオにプリティアーナだったモノが視線を向けた。
「マオちゃん、あなたも早く解きなさいな」
「……そうだな」
マオは特に何かをするでもなくそのままの状態で、小さく呟いた。
「リリース」
――All right.
どこからともなく、無機質な機械音声が空間に響く。
次の瞬間、何の動作を挟むこともなく、纏っていた黒い戦闘服が、一瞬発行したと思ったら。黒を基調としたオーバーサイズのシャツとカーゴパンツの私服へと、一瞬で切り替わった。
それだけではない。白髪だった長い髪は目にかかる程度の無造作な黒髪へと染まり、琥珀色だった瞳もまた、ありふれた地味な黒目へと塗り潰されていく。
眼鏡をかけ直した普段の姿になった彼を見た瞬間、男女のうちの二人が大きく口を開けた。
「え、えええええっ!? マオ君!?」
「眞緒……っ!?」
二人の驚愕の声に、眞緒は不思議そうに眼鏡の奥の目を瞬かせた。
「プリティアーナが、マオって呼んでいただろ。気付いているモノだと思ってたが…。気が付いてなかったのか?」
髪や目の色はともかく、顔の造形自体は一切変えていない。当然すぐにバレると思っていた眞緒のツッコミに、隣で様子を見ていた小柄な少女が眉をひそめて疑問を口にした。
「なに?……あなたたち、知り合いなの?」
「クラスメイトだな。新菜とは友人関係だ」
眞緒が至極当然のように淡々と答えると、その言葉の線引きを聞き逃さなかった金髪の少女が、ガタッと身を乗り出して不満の声を上げた。
「えーっ!? マオ君、私とはトモダチじゃないのぉっ!?」
「喜多川とは普段あんまり話さんクラスメイトだから、知人レベルじゃね?」
「えーっ!!」
あまりにも容赦のない眞緒の線引きに、少女は納得がいかない様子で、頬を膨らませて大きく抗議の声を上げる。
そんな若者たちのやり取りを、お姉は楽しそうに見つめていた。
「あらあらにぎやかね~」
ぱちんと上品に手を叩くと、お姉はウインクを決めて廊下の先を指差した。
「そろそろ移動するわよ~☆」
その言葉を合図に、一行は廃病院を後にすることになった。
移動中、納得のいかない金髪の少女は、眞緒が「友達」と認めるまで、隣を並んで歩きながらずっとあーだこーだと騒ぎ続けていた。眞緒はそれを適当にあしらっている。
そんな中、眞緒は新菜の格好に目を留めた。
「新菜、おまえ外でもその作務衣なの? ほかの服は?」
「えっ? あ、いや……俺、作務衣以外持ってなくて……」
申し訳なさそうに頭を掻く新菜に、眞緒は前を向いたまま淡々と言葉を続ける。
「じゃあ、今度服買いに行くぞ」
「え?」
「作務衣が悪いって言ってるわけじゃねーよ。TPOに合わせて2、3パターンくらいカジュアルな服持っておけよ、街中だと逆に目立つぞその格好。目立つの好きか?」
「いや……できれば、目立ちたくないかな?」
「な?」
「あ、あはは……」
二人のそんなやり取りに、それまで友達認定を求めて騒いでいた喜多川海夢が、文字通り目を輝かせて全力で食いついてくる。
「え!? なにそれ私も行きたーい!?」
「えー?」
「何!? その反応!!私もついてっちゃダメなの?」
あからさまに嫌そうな顔をした眞緒に、海夢は頬を膨らませて不満を露わにする。
しかし、眞緒は淡々と現実を並べていく。
「行くとこっつってもユニクロとかGUとかのロープライスブランドだぞ? 読モ様には用がねーのよ?」
「そんなことないし! 私だって普通に行くし!」
「それに、喜多川のセンスって派手目だから、お前のチョイスで新菜の服選べるん?」
「うぐっ……! それは……っ」
「目に浮かぶわー、派手な柄モノコーデを着せられて、引きぎみな新菜の姿が!」
「ぐぬぬっ…」
痛いところを突かれた海夢が言葉に詰まり、新菜が隣で苦笑いを浮かべる。
賑やかな声を響かせながら、一行は目的の場所へと歩みを進めるのだった。
その喧騒から一歩引いた後ろで、小柄な少女だけは何も言葉を発さず、前を歩く黒髪の少年を、ただじっと見つめ続けていた。
第2話をお読みいただきありがとうございました!
無事に(?)怪異を霧散させたものの、変身解除からクラスメイト正体バレへと繋がりました。
眞緒と新菜はクラスメイトで席が前後でその流れで話すようになって…といった一般的な流れを妄想した上で友人関係としております。
喜多川については、基本黒髪黒メガネの個性を消しているマオが進んで近づきたい人種でないので、当たり障りのない会話しかしてない妄想設定の結果です。
友人の少ない眞緒は、精神の細い新菜に対するちょっと過保護な小姑ムーブを取ることになると思います。
【蛇足っぽいもの】
本名:真咲眞緒(マサキマオ)
身長:157㎝
年齢:15歳(高校1年生。1年5組、五条、喜多川のクラスメイト)
コードネーム:マオ
備考:五条新菜の前の席、前後の席で入学当初から話すようになっている。
黒髪黒目の黒縁眼鏡装備のチビでスクールカーストでは下位に居そうな見た目。
コミュ障とかでなく、誰とでも普通に話すし、拒否できるタイプの人間なので特にいじめやパシリ被害はない。