少女は魔法使いのキセキを見るのか?   作:わたぬき※

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お読みいただき、本当にありがとうございます!

第3話では、戦いを終えた一行が場所を移し、現代社会の影に隠された「世界の裏側」の真実に迫ります。

組織の驚くべき隠蔽工作、そしてマオがなぜ今の立ち位置にいるのかという過去の経緯が明かされていきます。


第3話:その日彼女は世界の裏側を知る

通されたのは、個室を完備した居酒屋の大部屋だった。

移動中に簡単な自己紹介を済ませていた一同は、大きなテーブルを囲むように席に着いている。

室内の空気は、どこか奇妙に弛緩していた。テーブルの上には、烏龍茶やジュース、揚げ物の盛り合わせが載った大皿が乱雑に広がっている。

 

魔法少女服を脱いだプリティアーナは、黒いシャツにスラックスという、落ち着いた大人の装いに着替えていた。体格こそゴリゴリのマッチョだが、所作や言葉遣いは上品なオネエそのものだ。その隣では、変身を解いたもう一人の魔法少女――中性的で小柄な中学生ほどの男の子が、ストローをくわえてオレンジジュースを飲んでいた。

 

 

「ごめんなさいね、急にこんなところに連れ込んじゃって。海夢ちゃんは反応が良いから、普通のファミレスなんかだと目立っちゃうと思ってね。個室のあるお店にさせてもらったわ。一応、私の持ち物で、周囲に音が漏れない認識阻害の魔法道具も動かしているから安心してちょうだい」

 

 

男は、新菜たちに優しく微笑みかけた。

 

 

「は、はあ……」

 

 

新菜は緊張で肩を硬くしたまま、手元のウーロン茶を見つめている。隣の海夢も、さすがにいつものギャル特有のテンションは鳴りを潜め、少し落ち着かない様子でジュースのグラスを弄んでいた。紗寿叶は端の席に座り、膝の上で静かに手を重ねて、事の成り行きをじっと見守っている。

 

 

「まずは、あなたたちが巻き込まれちゃった件について、ちゃんと説明しておかないとね。私たちは『魔法少女協会』に所属するいわゆる『魔法少女』になるわね…少女は居ないのだけど。協会は現代社会の影から生まれた化物――ヴォイドを退治するための組織よ。……と言っても、いきなりそんなことを言われてもピンとこないわよね?」

 

 

男――プリティアーナは一度言葉を区切り、新菜たちの様子を窺うように視線を巡らせた。

 

 

「実を言うとね、私たちの活動は国から正式に認可されたものではあるけれど、一部の関係者を除いてその情報は非公開という体になっているの。じゃないと、完全に隠し通そうとしたら、私たちの組織自体がそれこそオカルト染みた秘密結社みたいな扱いになっちゃうからね? だから表向きはいろんな一般の業種に参入する形でカモフラージュしていて……たとえば、あなたたちもよく知っている、アニメの『フラワープリンセス烈』。あれ、実はうちがメインスポンサーとして出資しているのよ。番組の最後にある提供テロップにも、ちゃんと『魔法少女協会』って名前が出ているの。普通の人は、ただのアニメ制作委員会か何かの名前だと思っているみたいだけどね」

 

 

「えっ!? あの『烈』のスポンサーが……ですか?」

 

 

海夢が思わず声を上げた。大好きなアニメの名前が出たことで、少しだけ表情が動く。

 

 

「そうよ。私たちの魔法少女衣装にはね、強力な認識阻害の魔法が施されているの。もし街中で私たちが戦っているところを見られても、それを見た人は『なんだ魔法少女か……』って、そこらの道端で野良猫を見かけた程度にしか思わなくなっちゃうのよ。興味を惹かれないから、わざわざ動画を撮ってSNSに晒そうなんて気すら起きなくなる。もしネットに載ったとしても、せいぜい『コスプレイヤーの奇行かな』ってコメントが付くくらいで、誰も本気にしなくなるの。変に変人扱いされて、コスプレ界隈の風当たりが強くなったら可哀想だから、そういう工夫をしているんだけど……今回はあなたたちがガッツリ怪異に襲われちゃったからね。魔法効果を貫通して私たちをハッキリ認識されちゃったから、こうして事情を話しているってわけ」

 

 

にこやかに語るその裏事情は、あまりにも現実的で、かつ突飛なものだった。新菜たちは、ただただその説明に圧倒されながら聞き入るしかなかった。

そんな中、新菜がおずおずと手を挙げた。

 

 

「あ、あの……僕たちはこの後に、魔法で記憶を消されたりするのですか?」

 

「あら? あなた、記憶を消されたいのかしら?」

 

「いえ、そういうわけでは……ただ、往々にして秘密を知ってしまった人は、何かしらの処置を施されるのが定番と記憶しておりまして……」

 

 

新菜の生真面目な質問に、プリティアーナは声を立てて笑った。

 

 

「いやーね! しないわよ? むしろできないわよ、そんな高等魔法。」

 

「高等? ……できる人がいるんですか?」

 

 

新菜が首を傾げると、プリティアーナとキューティアーナが、そっと同時に同じ方向を指差した。二人の指が示す先には、黒ウーロン茶を静かに飲んでいる黒髪眼鏡の少年がいた。

 

 

「眞緒が!?」

 

 

新菜が目を見開く。その隣で、海夢が勢いよく身を乗り出した。

 

 

「マオ君、記憶消去魔法使えんの!?」

 

 

人の持つ技能をあっさりとばらした二人を、眞緒はジト目で睨みつけ、それから小さくため息をついた。

 

 

「まあ、ある程度は……条件とかあるけど…」

 

 

コップをテーブルに戻した眞緒のその言葉に、プリティアーナは深く頷いて、再び新菜たちへと向き直った。

 

 

「それにね、あなたたちはただの被害者なんだから、罰則なんてあるわけないじゃない。ただ、これからは現代社会の影にある『世界の裏側』を知っちゃった一般人として、普通に暮らしてもらうことになるわ。さっきも言った通り、他人に話してもどうせコスプレの妄想だって笑われるだけだけど、一応、私たちのことは秘密にしておいてちょうだいね。怖い思いをさせて本当にごめんなさい」

 

 

諭すようなその言葉に、新菜は小さく息を吐いて胸を撫でおろした。にこやかに語るその裏事情は、あまりにも突飛なものだった。

新菜たちは、ただただその説明に圧倒されながら聞き入るしかなかった。

 

 

 

 

 

ひとまずの安堵が部屋に広がったところで、新菜はずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。

 

 

「あの……もう一つお聞きしてもいいですか? プリさんたち男の人でも、その、魔法少女服を着て戦っているのに……どうして眞緒だけは、黒い服着てたんですか?」

 

 

その問いに、体を大きく震わせながら、プリティアーナは苦笑いを浮かべた。

 

 

「いいところに気づくわね。実はね、マオちゃんは私たちの組織の正式なメンバーじゃないのよ。仕事の斡旋をする『嘱託職員』っていう形で、いわば外部協力者の立場なの。」

 

「外部、協力者……」

 

「ええ。でもね、実力だけで言ったら、協会に登録されている魔法少女の誰一人としてマオちゃんには敵わないわ。それこそ、規格外の強さなのよ」

 

 

上品なオネエ口調の裏にある確かな響きに、新菜だけでなく、それまで黙って聞いていた紗寿叶の目も僅かに見開かれた。

 

 

「実際組織内で強さのランキングとかは付けたりしないんだけどね?去年の年末に、協会がもの凄く大規模な魔力反応を検知したのが始まりなの。現場に行っても異変はなくて、怪異も見当たらなかったから、その日は首を傾げながら帰ったんだけど……それから数ヶ月後、二月あたりかしら? その同じ地域だけ怪異の目撃報告数が通常ラインを大幅に下回り始めたのよ。それが、さいたま市の岩槻区。協会が調査員を派遣して張り込みをした結果、マオちゃんが見かけた怪異を鎧袖一触で討滅しているのを見つけちゃってね」

 

 

プリティアーナは楽しそうに言葉を弾ませた。

 

 

「そしたら、うちの前線で戦っている魔法少女たちが『有望な魔法少女の卵がいるぞ!』って色めき立っちゃって。我先にって感じで、何人もスカウトを兼ねた腕試しに行っちゃったのよ。そしたら、行った先から軒並みのされて帰ってきちゃってね? それで満を持して、実力トップクラスの私が出向いてスカウトしようとしたのよ」

 

「え……どうなったんですか?」

 

 

新菜が身を乗り出して尋ねると、プリティアーナは肩をすくめた。

 

 

「出会い頭にぶっ飛ばされそうになったわ」

 

「ぶっ、ふ、あはははは! マジで!? ウケるんだけど!!」

 

 

海夢がついに我慢できずに大爆笑し、テーブルを叩いて身をよじった。一方で紗寿叶と心寿の姉妹は、完全に唖然とした表情で固まっている。

 

 

「いきなり暗闇から、魔法少女姿のオッサンが襲い掛かってくるのを数週間に何十回も繰り返されるんだぞ? 別の意味でホラーかと思ったわ。そしたらトドメにコレが出てきたもんだから当然の反応だろ?しかも他の伸した連中は後で警察に引き渡して被害届も出したはずなのに、協会に入ったらそいつらが普通にそこに居たしな」

 

 

眞緒は黒ウーロン茶のグラスを持ったまま、苦虫をつぶしたような顔で不満を告げた。プリティアーナは困ったように微笑む。

 

 

「政府に認可された組織だからね。活動の一環と報告すれば、それによる罪状はほぼ軽減することはできるわよ?超法規的措置ってやつね☆」

 

 

眞緒はジト目でプリティアーナをじっと睨みつけた。

 

 

「職権乱用だろ、それ」

 

「まぁ、そんななんやかんやがあってね。協会員になると魔法少女服を着るのが原則なんだけど、マオちゃんがそれが嫌だって言ってね? 自前で戦闘服を用意するから外部協力員でいいって言うのよ。まいっちゃうわね☆だから怪異の討伐任務の度に、こうして黒い戦闘服に身を包んだマオちゃんを連れて行ってるってわけ☆」

 

 

プリティアーナは困ったように微笑んだが、その声には確かな敬意が混ざっていた。

新菜はただただ圧倒されていた。自分たちが学校で接していた小さいクラスメイトは、そんなあまりにも遠い、世界の裏側を平然と歩んでいた。

しかし、ここで海夢がついに我慢の限界を迎えたように、勢いよく身を乗り出して叫んだ。

 

 

「ちょっと待って、意味わかんないんだけど! マオ君は私よりこんなにちっさくて、男の子なのにかわいいのに、何でそんなプリティアーナさんみたく筋肉ゴリゴリの人より強いわけ!? そういうのってスゴイ才能が有ってもベテランに負けたりするし、強くなるにもスゴイ時間修行したりそういうイベントこなさないとダメなんじゃないの?ヤバくない!?」

 

怒濤の勢いで疑問をぶちまける海夢の顔は、驚きと混乱で真っ赤になっていた。

言っていることもある程度の説得力があったので部屋の全員の視線が再び眞緒へと集まる。

眞緒は黒ウーロン茶を口に含み、ごくりとのみ干してから言った。

 

 

「俺、超がんばった」

 

「雑っっ!!」

 

 

海夢が思わずツッコミを入れたその瞬間、プリティアーナがクスリと上品に笑いながら、至極あっさりと爆弾を落とした。

 

 

「あら、それは当然よ、海夢ちゃん。マオちゃん、この世界の人じゃないもの」

 

 

「「「「……はぁ?」」」」

 

 

全員の思考が、完全に停止した。

言葉を失って固まる彼らの中で、乾紗寿叶だけは、日常と非日常の境界を最初から超越していた少年の横顔を、ただ静かに、見つめ続けていた。




第3話をお読みいただき、ありがとうございました!

今回は居酒屋の個室を舞台に、魔法少女協会の裏事情やカモフラージュの現実が語られました。

独自設定としてアニメ『フラワープリンセス烈』の提供テロップの裏側や、強力な認識阻害のシステムなど、世界観のディテールを描いています。

そしてラスト、海夢のオタク全開の怒濤のツッコミとマオの雑な返しの直後に、プリティアーナから放たれた「この世界の人じゃないもの」という爆弾発言。

説明回がまだまだ続いてしまいます。さっさと紗寿叶をしゃべらせたいですが。キャラ的にじっと機会を伺っているが正解の様な気がするので頻繁にしゃべらせるのは…といった感じでまだ感情的にも抑えられている状態となります。

【蛇足っぽいもの】
人物設定
氏名:不明(マオは聞いていない)
身長:195㎝
年齢:20代後半
コードネーム:プリティアーナ
備考:筋肉ムキムキのオネエ口調の漢女(おとめ)CV,三宅健太
   魔法少女協会の実働部門の主力幹部
   現在キューティアーナ(愛称:キューティ、中学生男子)を指導している
   実践訓練として低級の怪異との戦闘をキューティアーナを主軸に展開、プリティアーナとマオはフォローに回ったが、追い詰める前に逃亡を許して。1話冒頭につながる。
イメージ画像
【挿絵表示】
※あくまでイメージです、作者が思い描くものと細部が違います。
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