「ってことはつまり? そのホロアースってやつのせいで世界がおかしくなってて、それをやった犯人がかなた先輩だって事になってるわけですか?」
『そうだね……かなたんがさかまたに何も言わずに居なくなったのも、この事件に関わっててかつ、あずきやさかまたには教えたくない。関わらせないようにしてる……ってとこかな?』
「ま〜そんな感じっぽいですよねー。あの気づいて欲しいけど気づいて欲しくないみたいなー? ほんっと普段のキャラ何処に忘れてきたんだって話ですよ!」
クロヱが歩きながら通話先のAZKiと情報を共有し、愚痴るようにさっきのかなたの態度や表情を思い出す。何かを隠してるのは間違いない。けれど、教える事はできない。
そんな構ってちゃんみたいな態度じゃなくて、いつものようにかなたが思いついた提案や突拍子もない計画をいきなり話して、クロヱが文句を言いながら問題を指摘し、AZKiが修正して改善案をまとめた後みんなであーだこーだ言いながらも笑顔で仕事に取り掛かる。
それが今までかな建の3人でやってきたやり方だった。
「それなのにまた1人で僕のせいだ……! みたいな!? あー! 思い出しただけでもやもやする……!」
『本当にね! だからあずきもホロアースについて調べてみようと思う』
「かなた先輩の妹のこなた……ちゃん? でしたっけ? もう居ないんですか?」
クロヱが先程AZKiに聞いた情報の出所であるこなたの事を思い浮かべ、かなたからツッコミや体力を抜いたお淑やかな甘えん坊……でも絶壁なんだろうなぁとイメージしながら尋ねると
『それが聞き出した後すぐにかなたそちゃんの群れ? 集団? が出てきてこなたちゃんを連れて行っちゃったんだよね……ころさんが追いかけてくれてはいるんだけど』
「了解でーす。なら、沙花叉も大空警察に行った後また探しに行ってみようと思います」
そう言いながら通話を切り、通話の前に送ったメッセージを確認するも既読はついておらず。かなた本人からはもちろん、突然変わってしまったホロアースと書かれたアプリの位置に置いていたホロキャス。そのホロキャス界の妖精アエルやラグからも返信はない。
ため息をつきクロヱがスマホから顔を上げ、隠れるように門の向こう大空警察署の入り口を確認し、マスコミや野次馬といった人々で溢れる中、署長であるスバルが説明をしているのを盗み聞く。
「だーかーら!! かなたがあんな事するわけないってぇーの!!?」
「ですが実際に声明が出ていますが?」
「それについても現在捜査中ですのでお答えできません! はい解散!」
「かなたと呼ばれていたり容疑者と仲が良いように聞こえますが署長と交友関係にあるのでは?」
「同じホロライブの仲間なんだから当たり前だろぉ!?」
「ホロライブのメンバーにかなたという名前の方は居ないと思いますが……?」
「はぁ───!? んなわけ……!? な、何でかなたの名前がないんだ!?」
スバルがスマホを取り出し驚くのを見てクロヱもスマホを取り出し、検索するもかなたのチャンネルやアカウント、ホロライブのサイトにすら名前が見つからない。
「なんで……!? かなた先輩の名前や居たはずの思い出がないの!?」
「それは彼女が自分の過去を消し、天使であった存在からこの世に混沌を招く悪魔へと完全に堕天してしまったからでしょう」
「……誰??」
クロヱの呟きに答えた人物は白髪に水色の三角の形をしたカチューシャをつけており、ノースリーブの先白い手袋を付けた手がタブレットを操作すると、クロヱのスマホにメッセージが届く。
「ホロアース管理局局長ミスラ……さん? それが貴方の名前ってわけ?」
目線をスマホからミスラへ戻すと、そこに彼女はおらず声だけがクロヱの脳内に直接話すかのように聞こえた。
『彼女、天音かなたは我々の開発したホロアースの力を悪用し世界を別の物に変えてしまった』
クロヱが振り返るもそこに姿はなく、声だけが聞こえ続ける。
『別世界となってしまったこの世界を正すため、秘密結社ホロックスの掃除屋であるあなたに依頼したいのです』
「沙花叉に依頼したいってんなら姿を見せるのが筋だと思うんですけどー? 第一そんな怪しいのを」
クロヱの肩に手が置かれ囁くようにその言葉は告げられた。
「ホロアースの力を操る反逆者……天音かなたを始末して下さい」
「ッ!!」
肩に置かれた手を振り払い、睨みつけるもミスラは意に介す事なく大空警察署の中に入り、スバルへ挨拶を交わすと署内へ入り込んでしまう。
「あー今からホロアースの局長さんから会見がありますので詳しくはそちらをご覧くださーい!!」
スバルが入り口を閉めながらそう伝えると、集まっていた人達が散らばり人の波に紛れてクロヱもその場を離れる。
大空警察署から離れ、かなたの事を調べ続けるも爆破事件の事しか出てこずAZKiに伝える為チャットに内容を打ち込む際、ホロアースの事を知る人物と知らない人物の違いに気づく。
「スバル先輩はかなた先輩の事分かってるみたいだったけどホロアースについては特に気にしてなさそうだった……でも、あずき先輩は知らないみたいだし……どうなってるの?」
「やっほー沙花叉。なんか変なことになってるみたいだね?」
「シオン先輩っ!」
歩きながら思案するクロヱの横に降り立つように箒に乗ったシオンが現れ、先程の警察署内のやりとりを見ていたかのように言葉を続ける。
「スバルも多少違和感はあったんだろうけど、ホロキャスの事は忘れて初めからホロアースだったって認識にすり替えられたんだろうね」
「シオン先輩はホロキャスの事が分かるんですか!?」
「合ったり前じゃん! だって、ホロウィッチっていうあんな良い思い出作ってもらったんだしさ? 寧ろ朝から飛び回ってようやく話が通じそうなのが沙花叉かぁーって感じ?」
「え〜!? もうそんなの運命じゃないっすかー! いつからウチに住みます!? 部屋空いてますよ!?」
「いや、こんな状況でもいつも通りなのはいいんだけどさ……」
少し引いたようなシオンの顔を見てクロヱが咳払いをし、一歩シオンに近寄るも距離が縮まらず。
「ま、まぁ、それは一旦置いといて……沙花叉、かなたちゃんと会ってたりしない?」
「会ったどころか沙花叉だけには言えない! ってホロウィッチに変身してまで逃げられましたよ……」
「ホロウィッチに変身できたの!? どうやって?」
クロヱがホロウィッチボトルを取り出し、ホロを込め魔法少女クロヱの姿になり一瞬で元に戻る。一瞬だったはずなのに顎に両手を寄せて下から上目遣いのあざとさ全開のポーズを取るクロヱに唖然としつつ
「本当に沙花叉だけで変身しちゃってるし……」
「沙花叉にも分からないんですけど、ホロキャスからホロアースに変わった影響とかですかね? でも、ホロウィッチってアエルとラグの魔法で変身できてたような……?」
クロヱが思い出しながらホロウィッチボトルを眺めるも答えはでず。何やら思案する真剣な表情のシオンを目に焼き付けていると、シオンがかなたの行動を元に一つの推測をたてる。
「……かなたちゃん、たぶん予知夢を見てるね」
「予知夢? って何ですかそれ?」
聞き慣れない言葉に思わず足を止めシオンに尋ねる。
何処からともなく本を取り出し、そこに書かれているであろう単語をシオンが一つずつ羅列し並べていく。
「天啓。おらくる。神の奇跡。どれか一つくらいは沙花叉も聞いた事あるんじゃない? 神様からのお告げや神託を夢の中で見てこれから起こるかもしれない未来の可能性を見ちゃったとしたら?」
「そりゃ聞いた事はありますけどそれが? かなた先輩とどう関係あるんで……あっ!? そういえばかなた先輩天使だった!」
「そう。かなたちゃんの行動は先の何かを見据えた動きに見えるんだよね。事件の容疑者になったのも、犯人として逃げ続けてるのも。予知夢としてこの先の出来事を知っちゃってるからって思えばしっくりこない?」
シオンの言葉をしっかりと噛み締めかなたの言葉を思い出す。
『
『
何処か違和感を感じたかなたの行動を思い出す。逃げるのが目的だったなら屋上でクロヱを待たずにすぐに飛び去ってしまえばいい。なのにそうしなかった。いや、できなかったんだとしたら……。
「沙花叉? 大丈夫……?」
「………………かなた先輩はいつも誰かを助ける為に手を伸ばしてる。つまり、守られてるのは……ッ!」
クロヱが道を引き返し、離れようとしていた大空警察へ戻ろうと駆け出す。
シオンが箒の速度を上げクロヱに並走するように追いかけると、クロヱが走りながらスマホのチャットを打ち込み送信する。
「沙花叉!? 戻ってどうするの!? 戻っても何も」
「あいつです! ホロアース管理局局長のミスラ! あいつだけがかなた先輩を消そうとしてた!」
「かなたちゃんを消す!? どうして!?」
「沙花叉に依頼してきたんですよ! ホロックスの掃除屋としてって! ……いや、だったら逆に利用してやれば……!」
「ちょっと待ちなって沙花叉! かなたちゃんは何かを見たから沙花叉を関わらせないようにしてるかもなんだよっ!?」
シオンがクロヱの肩を掴み、その必死な表情に冷静さを取り戻そうとするも考えがまとまらない。
「だったらどうしろって言うんですか……このまま何もせずかなた先輩だけが苦しみ続けるのを黙って見てろっていうんですか!?」
「そんなわけないでしょ! ……そのミスラってやつが何企んでるか分かんないけど、こんな大掛かりな事を仕組んだやつがこのまま何もしないとは思えないでしょ……だから」
そう言いつつシオンが取り出したスマホの画面に書かれていたのは生配信による会見の映像だった。
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『皆様大変長らくお待たせしました。これよりCOVER事務所爆破事件に関するホロアースについて管理局局長ミスラさんから説明があります。では、ミスラさんお願いします』
システム音声に促され立ち上がった少女のような外見の姿、ミスラがタブレットを操作すると懐からドローンが2台現れ彼女の声を拡声器のように拾う。
『今回の事件について……ですが、事の発端は9年前に遡ります』
ドローンから光が伸び、ミスラの言葉に連動するように映像が流れ始める。
『COVER株式会社が設立し、ホロライブは様々な分野に幅広く活動しており、その中でも『新しい日常はすぐそばに』を信条として今もなお皆様に愛されているアプリがホロアースです』
『現実世界のあらゆる所でメンバーのライブや活動を、仮想空間で共に同じ時、同じ体験を過ごす事ができるアプリ。それが開発当初からの夢でようやく叶った所でした』
映像が切り替わり爆炎の中でホロウィッチの変身を解き、佇むかなたの姿が写りミスラが言葉を続ける。
『ですが、そんなホロアースの力を悪用し、現実と仮想のバランスを破壊し世界を自分の思うままに操ろうとする悪魔が現れてしまいました……ええ、彼女のことです』
ミスラが微笑み手を拡げドローンがミスラを照らし
『皆様の夢を必ず取り戻してみせます。皆様が安全にホロアースを楽しめるよう尽力してみせますので今しばらくホロアースの復旧をお待ちください』
「ッ!!」
「沙花叉! ああ〜もう! だったら……」
クロヱが駆け出すのを止める事ができず、シオンがクロヱとは別の方向へ飛び、箒に跨り加速する。輝きを守り抜く為に。
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会見が街中のモニターや人々のスマホから流れ、会見を見ていた人々の拍手や喝采の声にAZKiところねが顔を顰める。
「街の人達はこの異変に気づいてないみたい……」
「こぉねとあずちゃんが散々大声出したのに誰も見向きもせずあの映像しか見てなかったもんね……」
モニターに流れ続けるミスラの会見を睨みスマホの中にあるホロアースを見つめるころね。
「……ねぇ、あずちゃん。あずちゃんはホロキャスの事覚えてるんだよね? こぉねもだけど」
「さかまたも覚えてたしホロメンだけがこの異変に気づいてる……って事? じゃあ、やっぱりこのホロアースが……?」
その時スマホの画面を見ていたAZKiにクロヱからのメッセージが届く。内容を読み進め、思わずスマホから手が離れ落としそうになるのをころねがギリギリで拾う。
「も〜あずちゃんそんなに驚いて何が書いてあったってのさ?」
「…………あのミスラって人がかなたんを消そうとしてて、さかまたがその依頼を受けたって」
「はぁ〜!? クロヱのやつ何やってんのよ!?」
「わかんない……でも、このままじゃ2人が戦うことになっちゃう! 止めないと……!」
その時、動き出そうとする2人の前にドローンが囲むように現れ、システム音声が流れ始める。
『ホロライブ0期生AZKiさんとホロライブゲーマーズ戌神ころねさんですね? お2人の安全を確保する為避難していただきます』
「いや、今それどころじゃないんだって!」
「あずき達行かなきゃいけない所があるの! だから!?」
『『『『避難していただきます。避難していただきます。避難していただきます。避難していただきます』』』』
じわじわと迫るドローンが音を立てるとパーツが外れ、銃器が出てきた事でAZKiところねが顔を合わせ
「ねぇ、ころさん。これって……」
「おらぁぁぁぁあよぉ!!! どうみても敵でしょ!」
「きゃ!」
ころねのハイキックがドローンの側面を蹴り飛ばし、他の機体にぶつけて爆発させAZKiの膝裏に片手を差し入れ肩を抱く。所謂お姫様抱っこの状態で大地を踏み締め走り出す。
次々と迫るドローンをタックルや頭突きで破壊する様子を見てAZKiが思わず心配になるもその身体や顔に傷はなく寧ろ元気100倍といった顔だった。
「あ、間違えた。こぉねはかなたのパパだぞ! 邪魔するやつはどいてなぁ!」
「ころさん……いやでも助かったし良いのかな?」
顔を漢に戻しながら2人がかなたとクロヱの元に向かうのを見て、小さな影がうなづきその場を離れる。
「きゅ!」
────────────────────
暗い部屋の中に明かりが灯る。
どこか応接間のような雰囲気で革張りのソファーやテーブルがあり、しばらく使われていなかったのかこなたがソファーに座り込むと大きな音をたてる。
「ひゃ!? びっくりした〜……おねぇちゃんここって」
「うん、そうだよ。全く! ちっとも帰ってきやしないくせに鍵だけ置いてってさー!? 掃除する方の身にもなれっつうの!」
「おねぇちゃん自分のお部屋の掃除はなかなかやらないな〜と思ってたら! ふふ、そういうとこがおねぇちゃんらしいね」
「らしいって何さ? らしいって! ……だってココは僕たち4期生みんなの約束の場所だからいつ帰って来てもいいようにしとかなきゃ」
壁に大きく書かれた『桐生』の額縁に触れかなたがそっと噛み締めるように呟く。
「ホロアースに変わっちゃっても残っててくれて助かったよー。マンションやかなけんの事務所は抑えられちゃったから困っててさー。さんきゅーココ!」
「そうだねぇ〜……おねぇちゃんに言われたとおり、あずきさんやころねさんに会って羽を付けといたよ」
「ありがとうこなた。ヌシ子ちゃんにお願いした魔法の力があればホロキャスの事を覚えていられるはず……無事に成功してよかったー」
COVER事務所が爆破する前、ホロキャス界に行きホロウィッチであるかなたの羽にホロキャス界その物であるヌシ子の魔法を付与してもらい、ホロアースにホロキャス界の楔を撃ち込む。
そうすればホロキャス界が完全に消える事はなく、ホロアースの改変から逃れられる……かも知れないのが予知夢を見た上でのかなたの思いつきだった。
「それでここからはクロヱさんを助けなきゃ……なんだよね?」
「どっちかというと僕が助けられるから……なんだよなぁ」
予知夢の中で何度も繰り返し、クロヱを救う方法を考え試した。
それでも、最後にはクロヱがかなたを助けに現れ消えてしまう未来が変えられない。
こなたにも伝えていない試したくもない事が一つだけある事を考え、首を振り、気づかなかった事にして鳴ってしまった通知音を聞き立ち上がる。
「こなたはココで少し休んでて。また頼む事になるかもしれないから」
「おねぇちゃん大丈夫なの……?」
「大丈夫だよ。少し、推しに会いに行くだけ!」
こなたに見せた画面に書かれていたのは緊急配信と書かれた投稿だった。
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走り回った後の汗が髪に付くのを手櫛で直し、外れてしまったパーカーのフードを被りカメラで確認した後配信の開始ボタンを押す。
「み、みなさんどうもこんあくあー! 湊あくあです!」
配信が開始され、
それを見て、今から伝える言葉を間違えるわけにはいかないプレッシャーと人見知りが合わさり言葉が詰まりそうになるが飲み込み目を閉じ心のままに話し出す。
「今! COVER事務所が爆発しちゃった事件を起こしちゃったのが、かな、かなたちゃんだって言われてますけど違います! かなたちゃんはそんな事しない! っです!」
あくあが力強く宣言し目を開けると画面に配信終了と表示されており、配信が止まってしまっていた。
「え……! な、なんで!?」
『ホロライブのメンバーの方に配信されては困ります……なので止めさせてもらいました』
『きゃ!? あ、あてぃしのスマホ! どうなってんのー!?」
スマホから手が現れ、停止ボタンから手が離れると画面から出てくるようにミスラが現れあくあに向かって柔かに微笑み
「ホロライブ2期生湊あくあ。あなた程の人物に伝えられてしまえばそれがホロアースを歪めてしまう真実となりかねない……なのでこちらで拘束させていただきます」
「え!? ちょ! まっ!? いや……! かなたちゃんがあんな事するわけない! だってホロライブはみんなとの大切な思い出が詰まった居場所なんだから! く、くるならこーぃ!!」
「あくた──────ん!!!」
「か、かなたちゃん! そ、その格好なにぃ!?」
あくあに迫るドローンを空から両手で地面に叩きつけ、ホロウィッチに変身したかなたがミスラから庇うように現れる。
「かなたそちゃん!」
「「「「「「きゅ!」」」」」
「え、何? ってきゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!? は、早いってぇー!?」
かなたの呼び声と同時にかなたそちゃん達が現れ、あくあを担ぎ上げるとみるみるスピードを上げ連れていく。あくあが連れて行かれるのを止めもせず、柔かに微笑んだままのミスラにかなたが警戒し、ガーディアンアームを構える。
「困りました……ですがここで貴方と会えたのは寧ろよかったのかも知れません。そうでしょう……爆破事件の犯人さん?」
「よく言ってくれるよ。人の大事な居場所を壊した挙句、犯人にまで仕立て上げちゃってくれて……ホロアースの管理者さん?」
「何故あなたがそれを……いえ、まぁいいでしょう。ここであなたを止めてしまえば世界を救う事ができる……任せましたよ。掃除屋さん?」
やや驚いた表情を見せるもすぐ無表情に戻ったミスラが下がり、影から現れたクロヱはホロウィッチに変身し不貞腐れた表情でかなたの瞳を見る。
「沙花叉…………ココにいるって事は気づいちゃったんだね」
「かなた先輩が何考えてるかなんて知らない……でも!」
クロヱがかなたの肩を押し込み抵抗なく壁に激突し、ビルの内部を突き抜け反対側に抜け出た時クロヱがかなたを押し倒すように倒れ込む。
辺りを舞う粉塵や逆光でクロヱの顔が見えず、かなたが困惑していると頬に落ちる水滴に気づく。
「……なんで! いつもいつもいつも! 1人で抱え込もうとするんですか!? 沙花叉じゃ頼りないって言うならあずき先輩やラミィ先輩、ころね先輩だって! かなた先輩を助ける為に頑張ってくれる人はいくらでもいるのにっ! どうして!?」
「…………僕が見た予知夢の中でたっくさん辛いことがあったんだ。みんなが僕のことを忘れちゃったり、逆に僕がみんなの事を傷つけたりしちゃうひどい悪夢もあったりしてね? ……そんな中でも沙花叉だけは僕の味方になってくれて助けようとして消されちゃうんだ……」
身体を起こしクロヱを抱きしめ、震えていたのがかなたかクロヱか? 失う恐怖か頼ってもらえなかった悲しみか……どちらにも分からなかった。
「だからどんな事になっても沙花叉を守りたい、守らなきゃって思っちゃったんだ……ごめん」
クロヱがかなたの身体を引き剥がし、紅い瞳が夜空の瞳を射抜く。
「やっぱり分かってない! そんなのかなた先輩の独りよがりの厨二病ですよ!」
「は……? はぁっ!? 厨二病って僕は本気で」
「ホロウィッチになるって決めたあの日から! 先輩達の輝きを守る為ならって覚悟はしてました! 今こうしてホロウィッチになれるのが奇跡でも誰かの思惑でもいい! ……かなた先輩が1人ぼっちにならないなら、これはきっとそうなる運命だったんですよ」
「沙花叉……っ!? 危な、がぁッ!!!」
「かなた先輩っ!?」
かなたがクロヱを肩を押し、飛ぶ斬撃をガーディアンアームで受け止めるも弾き飛ばされホロウィッチの変身が解けてしまう。
クロヱが斬撃が飛んできた方角、破壊し抜け出たビルの中ミスラが刀、ムラサメマルを携え歩いてくる。
その姿はクロヱやかなたホロウィッチの姿に似ており全てを塗りつぶす黒と何度でも創り変えられる白が半分ずつ混ざり反発し、溶け合うような歪な姿へと変わっていた。
「沙花叉クロヱ……やはり貴方には任せておけません、私、自らの手で貴方達の夢を終わらせてあげます。もう誰も見る事がない夢を」
クロヱがオルカスロットエッジを構え、上から振ろし、右に回転しながらの2連撃、左足の蹴り、踏み込みからの神速の突きを瞬きの合間に繰り出すも全て躱し、いなされ、受け止められた。
逆刃で返された振り抜きをオルカスロットエッジで迎え撃つも僅かに拮抗するだけで、クロヱの身体がかなたの前まで飛ばされ変身が解け、
ムラサメマルを携え一歩ずつゆっくりと近づくミスラ。
クロヱがかなたの前で痛みに耐えながら立ち上がり、優しく微笑む。その手に握るホロウィッチボトルは割れてはいないがホロが溢れ、今にも壊れてしまいそうだった。
かなたが力を込め立ち上がろうとするも、身体が言うことを聞いてくれない。
いやだ。だめだ。やめて。どうして。このままじゃ。かなたの視界が涙で滲み予知夢と現実の景色が重なるように見え、変えられなかった後悔が溢れ出し止まらない。
ホロウィッチボトルを握り締め、変身しようとホロを、想いを、願いを込め続け右手にだけガーディアンアームを纒う事ができた。
「かなた先輩……この予知夢は変えられなかったとしても、この先の未来は! ……変えてみせて下さいよ」
クロヱが構えホロを輝かせ変身しようとする。その姿は、奇しくもマレフィクスとの戦いの時のように見守る事しかできなかったあの時と同じに思えた。
でも、あの時と違うのはかなたの拳に現れたたった一つの希望。
「僕は…………ッ! 何があっても沙花叉のことを絶対に救う……ッ!」
繰り返された予知夢の中でかなたが思いついてしまった、見たくなかった、やりたくなかった、最後の可能性。
全てはこの一瞬の為だったのかもしれない。
息を止め、心を鎮めろ。思わず呼吸が浅くなり早鐘を鳴らすようになり続ける心臓。
標準を標的に向けろ。目を背け今すぐこの場から逃げ出したくなる足を必死に止める。
覚悟しろ最期の時だ。いやだ! 諦めたくない!! だから……!!!
「挨拶は済みましたか? では、さよならです。夢見る時間は終わりで」
「うわぁァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
ミスラが刀を振り上げるよりも早く、かなたが、ガーディアンアームを振り抜いた。
甲高い音を奏で割れてしまったクロヱのホロウィッチボトル。纒おうとしていたホロがクロヱの身体から霧散し、消えてしまう。ゆっくりと倒れ込むクロヱの身体を受け止めかなたが俯く。
「は……?」
刀を上段に構え何が起こったのか理解できないミスラ。割れてしまったクロヱのホロウィッチボトルを見て少しずつ理解しようとするも言語化できず。ミスラの思うままに言葉が紡がれる。
「ふふ、はははっ! あなたは、本当に愚かだ! 天音かなた! 守るべき者を、守ろうとしてくれた友を! まさか自らの手で壊すなんて! 面白いものを見せていただいたのでここで貴方達を消すのはやめておきましょう……精々、最後の夢のような時間を楽しみなさい! あははは!」
「…………ごめん、ね? 救うって、言ったのに……! 僕にはこうする事しか……」
かなたがクロヱを抱き、ゆっくりと歩きだす。
どこで間違えたんだ……問うことも疲れた。
悔やんでも悔やんでも結局足りなかった。
クロヱを守ることができたなら、未来を変えられてたなら。救われた気がしたんだ……過ちも罪も、後悔も傷も、絶望さえも抱え歩く。
このままじゃ終わらせない。