胎動する翼、不条理の血を超えて   作:新人ガイア

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激怒と激励

カムチャッカでの死闘から数日後。ユーコン基地の医療棟にある、特別に隔離された一室。

全身に包帯を巻き、ベッドに横たわる恭夜を待っていたのは、BETA以上の強敵――激怒した義姉、崇宰恭子の襲来だった。

 

「この、大馬鹿者が……ッ!」

 

入室するなり、恭子の怒号が狭い病室に響き渡った。

五摂家当主としての威厳をかなぐり捨て、恭子は恭夜の枕元に詰め寄ると、その端正な顔を怒りで真っ赤に染めていた。

 

「計画の為、唯依の為とはいえ自ら死地に残るなど……! 私は、あなたをそんな捨て石にするために、あの家から守ったわけではありません!」

 

「恭子姉さん……すまねえ、だけど唯依が――」

 

「言い訳など聞きません!」

 

烈火のごとく怒っていた恭子だったが、次第にその肩が小刻みに震え始める。美しく凛としたその瞳から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ち、恭夜の胸元を濡らした。

 

「……怖かったのです。また、私の手が届かないところで、大切な家族を失うのではないかと……」

 

恭子は耐えかねたように、ベッドの上の恭夜をきつく、壊れ物を労るように抱きしめた。

武家社会の歪みに抗い、陰ながら弟を愛し続けてくれた唯一の肉親の涙。恭夜は無事な方の腕をそっと姉の背中に回し、静かに目を閉じた。

 

「……心配かけて、本当にすまなかった」

 

 

そんな身内の修羅場が落ち着いた後、今度は別の意味で緊迫した「看病バトル」が幕を開けた。

 

「恭夜、お粥を持ってきました。熱いですから、私が冷ましますね。ほら、あーん、してください」

 

「いや、唯依……自分で食えるって。腕は動くから」

 

「駄目です! あなたは私のために、あんな無茶をしたのですから! 今は私の言うことを聞きなさい!」

 

いつもは凛々しい開発総官の篁唯依が、エプロン姿でかいがいしく恭夜の口元へスプーンを運んでいる。その頬はほんのり赤く、付きっきりで看病する姿は完全に恋する乙女のそれだった。

 

そんな光景を、病室の入り口に寄りかかりながら、苦虫を噛み潰したような、最高に面白くなさそうな顔で見つめている男がいた。ユウヤ・ブリッジスだ。

 

「……チッ。命懸けの囮をやると、そんなご褒美がついてくるわけか。割に合わないな」

 

ユウヤの小さく尖った呟きを聞き逃さず、何も言わずユウヤを見るのであった

 

その日の夜中。消灯時間を過ぎ、静まり返った病室。

見舞いと称して、なぜかパイプ椅子に座って残っていたユウヤに、ベッドの恭夜が静かに声をかけた。

 

「……おい、ユウヤ」

 

「なんだ。起こしたか?」

 

「いや、起きてる」

 

恭夜は天井を見つめたまま、少しだけ真面目な声を出した。

 

「昼間、お前、妙な顔してたろ。……まさか、俺があそこまでやったからって、唯依から身を引くなんて思ってないよな?」

 

ユウヤは一瞬、ハッとして言葉を詰まらせた。

確かにユウヤの胸中には、唯依を護るために単機でBETAの群れに突っ込み、ボロボロになって帰還した恭夜の「覚悟の重さ」に、一歩引いてしまうような、複雑な感情が芽生えていたのは事実だった。

 

そんなユウヤの迷いを見抜いたように、恭夜はフッと不器用な笑みを浮かべ、ユウヤを睨みつけた。

 

「これくらいで揺らぐような恋なら、唯依は俺がさっさととっちまうぞ、アメリカ野郎」

 

その言葉は、恭夜なりの、最高に不器用な激励だった。

お前はそんな柔な男じゃないだろ。俺を命の恩人みたいに扱って遠慮するな。対等なライバルとして、これからも正面からかかってこい――。

血筋に苦しんできた二人にしか分からない、男の信頼がそこにはあった。

 

ユウヤは少し呆然とした後、フッと肩の力を抜き、いつもの生意気で不敵な笑みを取り戻した。

 

「……ハッ、言うね。誰が身を引くかよ。言っておくが、次は俺がアイツを護る。お前の出る幕なんて残さないからな、スペア補佐官」

 

「へっ、その意気だ。楽しみに待っててやるよ」

 

闇夜の病室で、二人の男は拳を軽く突き合わせ、再び同じスタートラインに立つ。

恋も、戦術機開発も、ここからが本当の真剣勝負。彼らの戦いは、極寒のアラスカの夜を熱く焦がしていくのだった。

 

 

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