明けて演習本番。
昨夜の甘い空気は一転、アルゴス小隊のコックピットの中は、獰猛な戦意に満ちていた。
対戦相手は、米軍の誇る最強のステルス戦術機F-22A ラプターを駆る『インフィニティーズ』。
強力なジャミングでセンサーを潰し、こちらの視界の外から一方的に暗殺してくるラプターに対し、恭夜が提案した対インフィニティーズ戦法は、あまりにも「ぶっ飛んだ」ものだった。
「――作戦開始だ、ユウヤ! 上空は俺が貰う!」
恭夜の不知火が、限界以上の跳躍(ジャンプ)で戦場の上空高くへと飛び上がった。
ラプターのジャミング機能がどれだけ電子の目を欺こうとも、遮るもののない上空から放たれる、恭夜の「目視(肉眼)」までは誤魔化せない。徹底的な崇宰の戦闘教育で、動体視力を極限まで鍛え上げられた恭夜にとって、肉眼こそが最大のレーダーだった。
「いたぞ! 座標を送る、そこだッ!!」
上空からラプターの位置を次々と目視でマーキングしていくという、文字通りのアホみたいな超原始的戦法。
当然、上空でただ一機浮かび上がる恭夜は、ラプター側の絶好の標的(マト)となる。だが、恭夜には絶対の自信があった。京都の地獄を潜り抜け、崇宰のスペアとして培った熟練の操縦技術。飛んでくる弾道を予測し、紙一重の機動ですべてを回避してみせる。
「な、何なんだアイツの動きは……!? 攻撃が当たらないだと!?」
狙撃を躱され、逆に電子の煙幕を剥ぎ取られて丸見えになったラプターに、地上で牙を研いでいたユウヤの不知火・弐型が襲いかかる。
「身ぐるみ剥がされたラプターなんて、ただのデカいカラスだ! 落ちろッ!!」
ユウヤの神速の突撃と、上空からの恭夜の強襲。
強みであるステルスを完全に無効化されたインフィニティーズは、なす術もなく、あっけなく全機撃破判定を喰らうのだった。
◇
対戦終了後、駐機場のハンガー。
コックピットから降りてきたレオン・クゼは、プライドをズタズタに引き裂かれ、幽霊のような顔で立ち尽くしていた。
そこへ、ニヤニヤと小憎らしい笑顔で恭夜が、ユウヤの肩に腕を回しながら近づいていく。
「よお、レオンさんよ」
恭夜はわざとらしいほど意地の悪い、最高に不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「こんな阿呆みたいな戦法で負けるとは、噂のエリート様もたいしたことないな、おいw」
「貴様……っ!!」
顔を真っ赤にするレオンに、恭夜はバーでの一件への仕返しとばかりに、容赦なく致命的な追い打ちをかける。
「お前らが自慢そうに乗ってるそのラプターもさ、――ユウヤの方が、絶対にお前より上手く乗りこなせたぜ!」
その言葉に、レオンは言い返す言葉を失い、屈辱に唇を噛み締めて去っていくしかなかった。
横で聞いていたユウヤは、驚いたように目を見張った後、フッと嬉しそうに顔を背けた。かつてアメリカで「お前にはラプターに乗る資格はない」と引き剥がされた過去を、恭夜のその一言が完全に救い上げてくれたのだ。
「……本当、お前って奴は、最高に性格の悪い最高の相棒だよ」
「へっ、褒め言葉として受け取っとくわ」
遠くから走ってくる唯依が、「見事な勝利でした!」と満面の笑みで二人を迎える。
過去の因縁を跳ね除け、世界のエリートをどん底に叩き落とした二人の衛士。彼らの絆は、いまやアラスカの地で誰も無視できない伝説へと変わりつつあった。