ブルーフラッグ演習での、あの「上空肉眼マーキング」という型破りな戦法での大勝利は、ユーコン基地だけでなく世界中の軍上層部を震撼させた。
特に、ステルスの盾を剥ぎ取られたラプターを神速の剣技で一刀両断したユウヤの評価はうなぎ登りとなり、各国の開発部隊から引き抜きの打診が相次ぐ事態となった。
「恭夜……どうしましょう。このままではユウヤが他国へ行ってしまうかもしれません……!」
ある夜、開発総官室で唯依から真剣な顔で「ユウヤを引き留める方法」を相談され、恭夜は「お前、本当に無自覚なのか……?」と、別の意味でちょっと慌てるなんていう微笑ましい日常もあった。
だが、そんな甘やかな日常は、突如として飛来したテロ組織によるユーコン基地急襲によって、一瞬で吹き飛ばされた。
◇
鳴り響く警報、立ち上る黒煙。
混乱する基地内で、ユウヤたちアルゴス小隊は、ソ連軍のテスト部隊であるクリスカやイーニァたち「イーダル小隊」と連携し、死に物狂いでテロリストの鎮圧にあたった。
しかし、事態は最悪の結末へと向かう。テロリストのリーダーが使用した装置により、クリスカとイーニァが乗るチェルミナートルが制御を失い暴走、テロリストのリーダー機ビェールクトの制御を奪いテロリストのリーダーを握り潰し、機体を乗り替え味方であるはずのユーコン基地を破壊し始めたのだ。
「クリスカ! イーニァ! 目を覚ませ!!」
「チッ、まともに話が通じる状態じゃねえ! ユウヤ、二人がかりで力ずくで止めるぞ!」
ユウヤの不知火・弐型と、恭夜の不知火。かつて互いを拒絶し、今や固い絆で結ばれた二人の相棒が、暴走するソ連の怪物に立ち向かった。
凄惨な近接格闘戦の末、二機は息の合ったコンビネーションでビェールクトの駆動系を破壊。しかし、その代償としてユウヤと恭夜の機体も大破し、実質的な「相討ち」という形で、辛うじて最悪の事態を食い止めるに留まった。
◇
テロは鎮圧され、少女たちも救われた。
だが、この命懸けの「相討ち」という結果が、日本本国でくすぶっていたXFJ計画反対派の政治家や守旧派の武家どもを狂喜乱舞させてしまう。
『ソ連の戦術機一機に、帝国の不知火が二人がかりで挑んで相討ちとは話にならない』
『やはり、平民崩れ(恭夜)やアメリカの混血(ユウヤ)を重用するからこのような無様な結果になるのだ。篁の娘の計画など、即刻打ち切るべきだ』
本国から届く、理不尽で冷徹な批判の嵐。唯依は再び、家柄と政治の重圧に押しつぶされそうになり、悔しさに唇を噛み締めていた。
「……あの、現場も見ちゃいねえクソ政治家どもが……!」
病室で速報の書類を叩きつけた恭夜の目は、激しい怒りに燃えていた。
隣に立つユウヤもまた、冷ややかな、しかし闘志を秘めた目で拳を握りしめている。
そこへ、重苦しい空気を破るように、崇宰恭子が静かに部屋に入ってきた。その背後には、上総も控えている。
「唯依、恭夜、ユウヤ。……外野の雑音に耳を貸す必要はありません。あの者たちを黙らせる方法は、ただ一つしかありませんね」
恭子の凛とした声に、唯依がハッと顔を上げる。
「ええ。文句のつけようのない、圧倒的な結果を叩きつけるだけです。……私たちは、ここで立ち止まるわけにはいきません!」
唯依の瞳に、再び強い光が宿った。
政治の道具にされ、計画の存亡が危ぶまれる今だからこそ、彼らは決意した。誰もが平伏する、世界最強の戦術機をここで造り上げるのだと。
「始めましょう、唯依。……不知火・弐型の最終形態、『フェイズⅢ』への強化を!」
恭夜の言葉に応えるように、ユウヤが不敵に笑う。
「今度こそ、文句の付けようがないバケモノに仕上げてやる。あのラプターも、ソ連の最新鋭機も、すべて置き去りにするような最高の一機にな」
平民と武家、日本とアメリカの血に抗い続けた二人の衛士と、彼らを信じる少女たちの執念が、ついにXFJ計画の最終段階――不知火・弐型 フェイズⅢへの扉を開く。この機体こそが、彼らのすべての答えとなるはずだった。